女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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この二人は同日に投稿したかったので。




エミヤと上姉様

 エミヤは意識を取り戻す。

 視界には天井が映されており、体の感覚からいつの間にかベッドに寝かされていることを、エミヤは瞬時に理解する。

 なぜ自分がそうなっているのか経緯ははっきりと覚えていないが、確か最後に話していたのは……メドゥーサだったはず──

「目が覚めたみたいね。勇者さま?」

 寝起きのエミヤに呼びかけるような声。顔を少しだけ持ち上げ、声の聞こえる方向に視線を向ければ、エミヤの顔を見つめているステンノが、ベッド脇に座っていた。

 先日、初の二回連続召喚を試みたところ、ステンノとエウリュアレが顕現し、立香含むカルデア職員一同が腰を抜かしたことは、鮮烈な記憶として残っている。余談ではあるが、メドゥーサは卒倒していた。

 そして、神霊の連続召喚で負荷がかかりすぎたため、今後の連続召喚が難しくなったことは言うまでもない。

「アサシンの気配遮断は、便利なものね。声をかけるまで、全く気付かれないんだもの」

「……なぜ、私はここにいる?」

 何が面白いのか、薄く笑みを浮かべているステンノに状況を伺う。エミヤが察する限り、目の前の女神は無関係ではないはずだ。

駄妹(メドゥーサ)をけしかけて、私の部屋まで運ばせたのよ。私の力じゃ運べないもの……ああ、メドゥーサなら飲み物を取りに行かせたわ」

「誘った理由は?」

「レイシフトで(エウリュアレ)がいないから、退屈で仕方ないわ。相手になって頂戴」

 あっけらかんと言い切るステンノの姿は、ある意味清々しい。むしろ、メドゥーサに相手をしてもらえば、とエミヤは思いかけたが、メドゥーサばかりに苦労を背負わせることは(はばか)られる。

 しかしただの退屈しのぎのために、大掛かりなエミヤの誘い方である。気絶させられて運ばれるのは、正直堪ったものではない。

「……誘うなら声をかければ良いのではないかな?」

「いやよ、面倒くさい。それに面白くないでしょう?」

 エミヤは失念していたがこの女神……いや女神達にとって、人間は玩具の様なものだ。最初に会った特異点でも、なぜかエミヤは一人で洞窟探検(キメラ退治)をさせられた。

 対応に頭を悩ませていたエミヤだが、一つの結論を出す。

「サーヴァントは人間じゃないから、勇者とは呼ばないのではないのか?」

 ローマの特異点では、人間の勇者を待ちわびていた、とステンノ自身が語っていた。それなのに、エミヤを勇者と呼ぶ意図がつかめない。

「あら……そんなこと? 簡単な話よ。力なきものを守る存在を勇者と呼ばず、何と呼ぶのかしら? それに、"あなたは人間であろうとした"……違うかしら?」

 ステンノはすっと目を細め、エミヤを射貫く。全て遠き理想郷(アヴァロン)のお蔭で即死はしないが、金縛りのように体が動かない。

「誰よりも人間であろうとしたから、全てを救おうとした。そして、誰よりも人間であろうとしたから、心が摩耗した。こうみえても神よ? 英霊化の記憶統合で大体は知っているわ」

「……なら、私が勇者に相応しくない愚か者だということも、君は理解しているはずだが」

 矢継ぎ早に言葉を並べるステンノに対し、天井を仰ぎ見ている、諦観したエミヤの言葉は少ない。

「清廉潔白な勇者なんて、おとぎ話の中だけよ。最期まで足掻くのは、人間だけですもの。あなたも十分に人間だわ」

 近づいて顔を寄せると、エミヤの視界に収まったステンノは、甘い毒を孕んだ言葉で囁く。

 絶世の美少女に見つめられているエミヤは、恥じることなく目を合わせて言葉を返す。

「────いい加減に、本当の目的を話したらどうだ?」

「……もう気付いたの? 無粋な人ね」

 真相に辿り着かれたにもかかわらず、動じることなく笑みを浮かべるステンノ。

 彼女の手の内を知るエミヤには、最初から分かっていた。核心について話されてないことが。

「メドゥーサが生意気にも男を手玉に取ろうとしていたから、私が代わりにやっているのよ」

「……生憎、手札が分かっていれば騙されんよ。それに、君の伝家の宝刀も意味を成さない」

 先程から、もっと詳しく言えば、ステンノが話しかけてきた時から、『女神の微笑(スマイル・オブ・ザ・ステンノ)』が発動している。

 蠱惑的な一挙一動は死を予感させる。対抗策である全て遠き理想郷(アヴァロン)が無ければ、エミヤはもう何回も死んでいるだろう。

 尤も、防がれることをわかった上で、ステンノは発動させているのだが。 

「肩までどっぷりと嵌まっているのに、虜にならないなんて……もしかして女の子が嫌いなのかしら?」

「さてね、可愛い子は誰でも好きだよ、オレは」

 珍しく不満げな表情でエミヤを糾弾するステンノ。ようやく体を起こしたエミヤは、あらぬ噂が立つ前に否定すると、足早にベッドから降り立つ。

「では、私はお暇しよう。女性の部屋に長居するのは、よろしくないからな」

「────一つ聞いてもいいかしら?」

 部屋を出ようとしたエミヤを、ステンノは呼び止める。

 足を止めたエミヤが振り返れば、背を向けたステンノの姿が映る。

「なぜあの時、私を助けたの?」

 倒したと思った招かれざる客人(カリギュラ)に不意を突かれ、命を落としかけたステンノを、洞窟帰りのエミヤが現れて守り抜いた時のことである。

 難題を押し付けた提案者を、迷うことなく守りに来たエミヤの行動理念が、ステンノには理解できないらしい。

「誰かに守られなければ、生きていけないのだろう? 理由なぞ、それだけだ」

 即答すると、歩みを再開するエミヤ。

 部屋を出てくエミヤの背中を、振り返ったステンノはじっと見続けていた。

 

 そして、飲み物を持ってきたメドゥーサに鉢合わせ、結局ステンノの部屋に舞い戻るエミヤであった。

 

 




 困惑する様が見たいのに、全く動じない勇者さま。それでも、反応してくれるだけで楽しめる。
 それに、守ることに特化しているなんて、まるでメドゥーサのようね。
 今思い出したけど、アルテラが少女になったのは、エミヤが原因で間違いないわね。
 なぜこんなにも気に入っているのか、(エウリュアレ)も分かっていないようですけれど、あの子(メドゥーサ)も懐いているようですし、私たち三人に混ぜてあげましょうか? ………勇者さま(エミヤ)

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