女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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箸休め回です。
改行しましたが後書きにネタバレを含んでいるので、未プレイなどの方は自己責任で読むかブラウザバックをお願いします。


不在のエミヤと第二次乙女協定(後書きに重大なネタバレ有)

 再びこの時がやってきた。我らが卓袱台(えんたく)は既に用意されている。

 一方で、マスター──藤丸立香は瞑想している。

 前回で協定を結んだのも束の間、戦力増強のためサーヴァントを召喚しなければならないマスターの責務からは逃れられない。それだけにこの交渉は必然でもあった。

 先程までエミヤ式マッサージを習ったらしいマシュの厚意で、全身をマッサージしてもらったが、そのマシュはエミヤに勉強を教わりに行ってしまった。どうにも勉強が楽しいらしく、教師役のエミヤも、教え子に恵まれたものだ、と満更でもない顔だった。……頭にフォウ君を乗せていなければ、いい話だけで終わったものだが。

 ────考えが脇道に逸れてしまった。

 協定について話していなかったおかげで、ブーディカの積極的な甘やかしについて異論を申し立てるサーヴァントが続出したため、第四回対策会議で前回の協定に参加したサーヴァントから委任を受け、協定に参加してもらえるよう説得することが今回の目的だ。

 

 一息で呼吸を整えると、閉じられていた双眸を開き参加者を見渡す。開催の言葉は決まり切っている。

「みんな、今日は集まってくれてありがとう」

「うむ、苦しゅうないぞ」

「いや、ネロ公が言ってどうすんのさ」

 意外なことに、誰よりも早くネロに突っ込みを入れたのはブーディカだった。特異点で共闘した縁はあるが、未だに苦手意識を持っていたブーディカの方から関わりに行くことは非常に珍しい。

 特異点の頃から突っ込み担当だったと思わせるほどの自然さだった、と立香は感心してしまったが、気を取り直して進行する。

「実はね────」

 前回で締結した第一次協定の概要と経緯を、時間を惜しまず使い事細かに説明する。

 聞き終えた後の参加者の反応は、似た内容であっても多種多様だった。

「別に余は構わんぞ。余の右腕は、元よりマスターに力を貸しているのだからな」

「あたしもかな、独占しなければいいだけだよね。まあ、甘やかす回数減っちゃうけど、仕方ないか」

 再び息の合った回答を返す、ネロとブーディカ。その反面、皇帝としての威厳を見せるネロと穏やかな笑顔のブーディカの表情の対比は、未だに交わることのない両者の性格の違いを如実に表している。

 もしもの話になってしまうが、違う出会いをしていればいい友人になっていただろう、と立香は改めて思う。

「私も賛同しよう。…………そろそろ友人から一歩進むのも、また一興だな」

 小さく呟かれたため後半の言葉は聞こえなかったが、暗殺者の荊軻からも承認を得られた。

 彼女が開設した講座には、立香を含め多くの受講者(サーヴァント)が集っている。協力を得られるに越したことはない。

「アタシはマスターとエミヤの両方選べるのだな? ならば反対する理由はないぞ」

 タマモキャットは賛成派に回ってくれたが、本当に狂化しているのか疑わしいほどしっかりとした受け答えだ。

 実は演技しているのでは、と勘繰りたくなるが好奇心猫を殺すともいう。彼女は曲がりなりにもバーサーカー、深淵を覗くと深淵もこちらを見ているのだ。深入りはしない方がいい。

 ここまでは順調だった。問題は──

「エミヤは私の虜。それを邪魔する協定は…………悪い文明……破壊する」

 初見では機械のようだと形容できるほど、空虚さを纏っていたアルテラ。その雰囲気は鳴りを潜め立香にも心を開いていたが、エミヤが何をやらかしたのか立香には知る由もないがえらく気に入っているらしい。

 このままでは卓袱台(えんたく)が決裂してしまう。最初の難敵に対し、人類最後のマスターの名に懸けてカルデアを守り切って見せる。

「アルテラ、この協定は悪い文明なんかじゃないよ」

「どういうことだ……マスター?」

「この協定は邪魔するためのものじゃない、皆の時間を確保するためのものなんだ。……それに……皆の仲が良いとエミヤも嬉しいみたいだし」

 明日を無事に生きるために我武者羅どころかもはや破れかぶれだが、このまま勢いで乗り切る。

「最後のだけでよかったのではないか?」

「あはは、マスターも大変だね」

「……微力ながらこれからも力を貸そう」

「キャットのように自由気ままな心を身に着けるべきだぞ」

 外野の評価は芳しくないように聞こえるが、こちらに向けているその表情を見れば、力を貸すことに惜しみはないということが窺える。

「なるほど……結束は良い文明。アントワネットの言っていた通りだ。ならば……破壊しない」

 その様子を見ていたアルテラは、気を悪くして怒ることなく良い文明だと認めてくれた。無感情に見えるその顔が柔らかく見えたのは、立香の気のせいではないはずだ。

 

 解散した後、立香は閑散とした自室で前回と同じように卓袱台を寄せる。

「ふう……」

 途中冷や汗を掻きながらも無事に第二次協定を締結することができ、張り詰めていた緊張を吐息に込めて吐き出す。

 これまででも思っていたが、英霊も人間と変わらない心を持っている。争点が恋愛なところが親近感を覚えることとなっているが。

 ────人理修復の旅が終わっても、こんな時間が続けばいいな。

 そう思うからこそ、マスターを嫌になって投げ出すことはない。自分は一人ではない────力を貸してくれる仲間が居るのだから。

 ベッドに体を預けたいところだが、汗ばんだままでは気分が晴れない。

 シャワー室に向かう立香の顔は晴れ晴れとしたものだった。

 

















 マギ☆マリの閲覧も終わり、デスクに置かれたコーヒーを啜ると資料を纏める。
 カルデアの所長代理となったロマニ・アーキマンは、睡眠時間を削って翌日の職務を減らす。
 ────マシュにばれたら不摂生だと怒られてしまうかな。
 自分の身を案じてくれる娘のような存在。立派に育ってくれて嬉しい、とそんなことを自分が思う資格などないがそう思ってしまう。
 そんなことを考えていたが、次の話題に切り替える。
 所属するサーヴァントの戦闘効率の上昇の謎はいまだにわかっていない、しかし原理不明でも今のところ確率は百パーセントだ。あまり運に頼るのもよくないと思うが、藁にでも縋りたい一心だ。
 そういえば先日、食堂で詰め寄られるエミヤ君を見ていたが、彼は鈍感すぎやしないかな。あんなことになっているなんて僕の千里眼でも見えていなかった。
 しっかりしてくれよ、万が一僕が居なくなったら、立香ちゃんやマシュが頼れるのは君だけだから……エミヤ君。

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