女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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アタランテは3章、エリちゃんは5章のサーヴァントと一緒に書きます。……反英雄って意外と扱いが難しい。
それにしても、エミヤオルタってどういう存在なんだろう。


エミヤと血の伯爵夫人

 血を求めた末に畏怖の対象となったカーミラと、成長して怪物となることを拒んだエリザベート・バートリー、同じ存在から分岐した二人の英霊はフランスの特異点において激突した。

 互いが互いを憎み、決して相容れることのない二人の戦いは熾烈を極めた。しかし、決着はついた────過去が未来を凌駕する形で。

 敗者は消えゆくのみだが、狂化から解放されたカーミラは、悪態をつきながら述懐する──自分は生きていても死んでいても孤独だったと。

 

 夕食の片付けを終え、マルタと別れた後自室に入ったエミヤは、一歩踏み出したところで目の前の光景が理解できず、入り口で立ち尽くしていた。

 基本的にエミヤは部屋に物を置くことがないため、部屋は最初に与えられた時と変わらない殺風景な内装を保っている。、

 だが現在の状況は、部屋の真ん中に鉄の処女(アイアン・メイデン)が鎮座している。決してエミヤの物ではない、ある人物の私物──。

「エミヤ、いつまで待たせるつもり?」

 鉄の処女の影になって見えなかったが、エミヤが二、三歩進んでみれば、椅子に腰掛けたカーミラの姿を確認できる。

 こんな物騒なものを置いていかれれば、エミヤにあらぬ疑いがかかってしまう。

「すまない、いつもこの時間に部屋に戻るものでね」

「自覚なさい、貴方は私が求めた時には必ず部屋にいるものよ」

 仮面をつけているため、エミヤはカーミラの表情を窺い知ることはできない。

 言い方は些か傲慢であるが、言葉に込められた感情から察するに、どうやら拗ねているらしい。

カルデア(ここ)に呼ばれたとき、私は孤独じゃないといったのは、一体誰だったかしら」

 先程からカーミラは素直な態度ではないが、要は構ってほしいからエミヤの部屋まで来たのだろう。

 カーミラの部屋までエミヤを呼び出せばいいのに自分から出向いてくるあたり、過去の彼女の影響が大きいようだ。

 そもそも特異点では冷酷は性格だったカーミラがこうなったのは、エミヤの迂闊な発言にある。

 

 召喚された当初、救われる存在ではないと自虐していたカーミラは、自室に一人でいることが多く心を開かなかった。

 立香から彼女と仲良くなりたいと相談されたが、カーミラはマスターは裏切り、裏切られる関係にある、と考えているため、悩んだ末にエミヤがとった行動は、彼女の部屋の前で扉越しに──

『君を孤独にはさせない……一度だけでいい、マスターを信じてくれ。もし君の期待に沿えなければ、私の命を差し出そう』

 セイバー(アルトリア)達が聞いたら激怒する内容の説得をした。

 善良を体現する立香なら、カーミラの心を開かせることができる、そう信じているからこそ命を懸けることができるが、エミヤが命を懸ける理由はほかにもある。

 エミヤとカーミラは過去の自分に敗れている。

 その果てにエミヤは『答え』を得て、カルデアに召喚されて立香達に出会い救われたが、まだカーミラは救われていない。

 カーミラは間違いなく反英霊であるが、今のカーミラつまり、過去の自分の記憶に触れ、自分の罪を理解している彼女に限れば、救われる権利がある。

 それに成長した姿とはいえ、エミヤの知っている人物が苦しむ姿は、あまり見たいものではない。

 

 命を懸けた説得の甲斐あってか、次の日からカーミラは立香の前に姿を見せるようになり、次第に心を開いて立香を信頼するようになり、進んで協力するまでになった。

 いつかは分からないが、カーミラの心の中で踏ん切りがついたのだろう。

 ここまでで終わればよかったが、カーミラが信頼したのは立香だけではなく、エミヤのこともだった。

 ある日、エミヤが食堂から自室に帰ってみれば、部屋にはカーミラがおり、立香がレイシフトでいない間は話し相手になれ、とエミヤに命令してきた。

 命を差し出すといったから、てっきり拷問でも加えてくるのかとエミヤは思っていたが、実際の所、特異点で残忍な性格を見せていた彼女らしくもないお願いだった。

 お願い通りに話をしてみれば、聖杯にかける願いはあったが、今は血で汚したくなった程度でどうでもよくなったらしく、その言葉を聞いてエミヤは安心した。彼女の願いは、犠牲の上に成り立つ『永遠の若さ』だからだ。

 本当のことを言えば、初めの頃と変わらずにその願いを実現させようとしているのであれば、マスターを説得して討伐することを想定していた。

 尤も、マスターと関わっていればそうなることはないと思っていたため、全くの杞憂に終わったが。

 

 そしてカーミラは現在に至る──

「さあ、早く私を楽しませなさい……エミヤ」

「ああ、心得た」

 今のカーミラは孤独な存在ではない。誤った道を行こうとすれば、止めてくれる存在がいるのだから。

「ところで、今日は髪に触らないの?」

「回りくどいな君は、手入れしてほしいならそう言えばいい」

 月の裏側で会った、エリザベートの面影を残す仕草に、エミヤは苦笑した。




 他人のために自分の命を懸けるなんて、最初は頭がおかしいのかと思ったわ。
 損はなかったからエミヤの言葉に乗ったけど、彼の言う通りだった。自分を呼び出したマスターは、信頼できるマスターであると。
 そして、エミヤは死ぬほどお人好しだった。忘れているでしょうけど、心象風景である監獄城チェイテにはなぜか彼も一緒に居て、私が残る選択をしたときマスター達を先に行かせると彼は残ってこう言った。
『君を孤独にさせないと約束したからな』
 律儀というかやっぱりただの馬鹿ね、血の伯爵夫人にそんな言葉を言い切るなんて。もしもの話は無粋だけど、生前の私がマスターとエミヤに出会っていたら……。
 いずれは貴方のことも枯れるまで愛してあげるわ、エミヤ。

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