海軍特別犯罪捜査局   作:草浪

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NSCI #63 風と龍(4)

 

食事を終え、一度龍驤さんのデスク(と言ってもお店の中にある事務所のようなところ)に戻ると、緒方さんはパソコンを操作し、龍驤さんはパイプ椅子に座りぼんやりと書類を眺めていました。

 

「適当に寛いでええけど、従業員の邪魔にならんようにな」

 

倉庫も兼ねている事務所には品物を取りに来る従業員で常に人が出入りしています。

 

「龍驤。ここに留まるのは危険じゃないか?」

 

事務所の入り口に陣取った日向さんが扉についた窓から外を見ながら言いました。

 

「心配あらへん。店舗数は多いんや。向こうもどの店にいるかまではわからんやろ。下手に厳重な警備の場所に留まるよりも、こっちの方が動きは読まれにくいと思うで」

 

「でも、従業員が情報を漏らすとも考えられないかしら?」

 

足柄さんがそう言うと、龍驤さんはケラケラと笑い出しました。

 

「みんな敏腕美人経営者なうちに惚れとんのや。そんなことあらへん」

 

「じゅうぎょういんはわたしたちのことをほんぶのにんげんとしかおもっていません。わたしたちがじゅうやくであることはしらないはずです」

 

緒方さんが補足すると、龍驤さんはつまらなそうに書類を投げ出しました。

 

「マジレスはいかんで。うちが寒いみたいやんか」

 

「ならいいが……それで、お前たちはこれからどうするんだ?」

 

「うちはしばらく大人しくしとる。そういうお告げがあるからな。えりちゃんは自由に使ってもらって構へんで」

 

「……またなにかたくらんでるんですか?」

 

緒方さんが手を止め、ジトッとした目で龍驤さんを見ていました。龍驤さんは手を横に振ると、溜息をもらしました。

 

「そうやない。うちが出来るのはここまでみたいや」

 

「どういうこと?」

 

「これ以上はわからんのや。うちの第六感が働かん」

 

龍驤さんはお手上げのポーズをすると、日向さんを見ました。

 

「うちはインチキしてここまでやってきた。そのインチキが使えん今、ここは賢い航空戦艦に任せるわ」

 

「お前が大人しくしているのならありがたいが……私には風水だの占いだのはわからん」

 

「頭の中で風が吹いてるんや。そよ風なんてもんやない。まるで突風や。うちの考えをゴチャゴチャにしよる」

 

「まるで二日酔いね」

 

足柄さんが納得したように頷くと、龍驤さんが噛みつきました。

 

「そんなんやないわ! だいたい、うちは紹興酒でも酔わへんのや! なんなら今晩、飲みに行くか?」

 

「いいわね! 是非お供……」

 

足柄さんが目を輝かせると、ゴンッと鈍い音が響きました。

 

「お前は私と一緒に夜まで捜査だ」

 

「何も殴ることないでしょうに……」

 

「龍驤の護衛は野分に任せる。ヲ級より、悪いが私たちと一緒に来てくれるか?」

 

「おがたです。わかりました……あっちゃん。わたしがおいしいごはんのおみせおしえてあげるからきをおとさないで」

 

「ほな、このカード使い。のわっち。うちらも夜は美味しいもん食いにいこか」

 

「お前ら……観光しにきたんじゃないぞ」

 

日向さん。仏頂面が少し崩れているのは気のせいでしょうか?

 

ーーーー

 

日向さん達が支度を整え事務所から出て行くと、龍驤は深い溜息をつきました。

 

「大丈夫ですか」

 

「んぁ……大丈夫や……」

 

顔をあげ、額に手の甲を当てた龍驤さんは、疲れた様子で深呼吸をしました。

 

「お疲れなら少し休まれますか?」

 

「疲れてはおらんのや。さっきも言った通り、わからんのや。こんなん初めてや」

 

「大丈夫ですよ。日向さん達がなんとかしてくれるはずです」

 

野分の言葉に、龍驤さんは首を横に振るとゆっくりと体を起こし、前のめりに座りました。

 

「うちはな。今までなんとなく少し先の未来が見えてたんよ。自分でインチキ言うのも納得やろ?」

 

「なるほど……それは確かにインチキですね」

 

龍驤さんの言っていることはとても胡散臭くて、野分にはよくわかりません。ですが、龍驤さんの前提条件を否定しては話が先に進みません。野分はなるべく理解しようと頭を切り替えました。

 

「君らを読んだのも、うちが危険に晒されるのがわかったからや。今までも何度か危ない目にはおうたけど、えりちゃんとうちで余裕を持って対処できたんや。でも次は違うでって神様が言いおったからにな」

 

「それで、野分達は役に立ってますか?」

 

「さっきの横転も、筋肉ダルマの足柄がいなかったらどうなってたかわからん」

 

龍驤さんは野分のことをまるで品定めするように見ました。あまりにもじっくり見られているので、恥ずかしいです。

 

「野分が何か?」

 

「変な意味ちゃうけど、変なこと言ってもいいか?」

 

「なんでしょう?」

 

「うちには君が必要らしんや」

 

なるほど。突然の告白ですね。敏腕美人経営者に必要とされてしまいました。これはよろこんでいいのでしょうか。

 

「きみ、すっごく複雑な顔しとるで……」

 

「すいません……それで、何をすればいいのでしょう?」

 

「わからん。ただ一つだけわかっとることは……」

 

龍驤さんは野分を人差し指で刺すと不思議そうな顔をしました。

 

「きみがうちの頭の中に風を吹かしとる。まるで警告やな。これまでの考えを捨てろと言われてるみたいや」

 

龍驤さんの頭の中に野分がいて風を吹かしている?

それは野分がお祭りで使われるような大きな団扇を持って暴れているということでしょうか。

 

「龍驤さんの頭の中にいる野分は知りませんが、野分はこうして大人しくしています」

 

「うちの頭の中のきみもすごく大人しいで。こっちに背中向けて黙っとる。けど、その背中からすごい風を吹かすんや。まるで少年漫画の格闘物の主人公が戦う時みたいなオーラを放ってな。スーパーのわっちって言えばわかるか?」

 

「すいません。野分は幽霊探偵物語の方が好きなんです」

 

「またえらい古いな……それなら、うちは新宿狩人の方が好きやな」

 

「漫画の話はこれぐらいにしましょう。それで、これからの予定は?」

 

「自分が振ってきたんやないか……せやな。しばらくはすることあらへん。いや、やることはあるんやけど、全部うちの中で出来ることばかりや」

 

「わかりました……その間、野分は大人しくしてますね」

 

「お茶汲みぐらいしてぇや。そっちにえりちゃん貸したんやから、きみらもうちの手伝いしぃや」

 

結局、パソコンでお仕事をする龍驤さんのお茶汲みだけでは無く、書類整理までさせられた野分が龍驤さんのお仕事から解放されたのは夜の十時を回っていました。これまでご飯をご馳走になり鞄まで買って貰った手前、何もせずにいるのも申し訳なかったですが、内部の情報を野分が見ていいものだろうか。ものすごくモヤモヤしていました。

 

ーーーー

 

美味しいものを食べに行こう。

そう言って連れてこられたのは現地の方が通う露店のご飯屋さんで、朝とお昼、豪華なところで食事をした野分は少しがっかりしました。

確かにすごく美味しかったです。料金も日本とは比べものにならない程安いです。けど、野分はお腹が空いています。自分で注文できない今、龍驤さんに任せるしかありませんが量が足りません。食べ終わったのに、満足していません。

 

「ほな、行こか」

 

席を立ち、会計を済ませた龍驤さんがそう言うと同時に、野分の携帯が鳴りました。画面には日向さんからの着信であることを告げています。

 

「すいません……もしもし。野分です」

 

『日向だ。龍驤に変わってくれ』

 

そう言われ、携帯を龍驤さんに渡すと、少し会話をした後、龍驤さんの顔が不機嫌そうなものに変わりました。龍驤さんから携帯を返され、電話に出ると日向さんでは無く、足柄さんに変わっていました。

 

「もしもし、のわっち?」

 

「はい。野分です」

 

「これはあくまでも可能性の話なんだけど、龍驤のお店の従業員の中に事情を知っている者がいる可能性が出てきたわ。それに加えて、他のお店……別の薬局と言えばいいかしらね? そっちにも手が回っている可能性もあるわ。あまり、街をぶらつかないほうがいいわね」

 

「わかりました。これからどうしましょうか?」

 

「いま日向とヲっきゅんが安全な場所に避難する手筈を整えているから……明日の朝まで龍驤を守ってちょうだい。その後、私達はこのまま引き続き捜査することになるわ」

 

「了解しました。どこで落ち合いましょうか?」

 

「……えぇ……えぇ、わかったわ。のわっち。計画変更よ。深夜0時、元空港跡地に龍驤を連れてきて頂戴」

 

「空港跡地ですね……わかりました」

 

「よろしくね」

 

電話越しでしたからわかりませんが、足柄さんの声が弾んでいるように聞こえました。

野分が龍驤さんに電話の内容を伝えると、片眉を吊り上げ野分を不審そうに見ました。

 

「なんや……そげなとこで何しよういうんや?」

 

「それは野分にもわかりません」

 

「さよか……ほな、まだ時間もあるし飯の続きと行こうや」

 

「続き……?」

 

「せや。こっちはハシゴは当たり前や。早よ行くで。時間あらへん」

 

龍驤さんはそう言うと駆け足で次のお店に向かいました。

 

ーーーー

 

着いたのはまたも露店で、龍驤さんが適当に注文し、すぐに運ばれてきたラーメンの様なもの(具もあまり入っていない、香草がキツイので野分は苦手でした)をかきこむ様に食べ、外に出ると、スーツを着た男性達に囲まれました。

 

「ナンパならもうちと洒落た格好してこんかい」

 

龍驤さんがケラケラと笑いながら茶化すと、中でもガタイのいい男性が一歩前に出てきました。

 

「りゅーじょうさん。お迎えにあがりました。こちらへ」

 

訛りが強い片言日本語で男性はそう言うと、龍驤さんは手をヒラヒラとあげて答えました。

 

「何を考えているのですかッ?!」

 

野分がそう叫び、ジャンバーの下に忍ばせているシグに手をかけました。すると、男性達も一様に背広の下に手を入れています。

 

「落ち着き。うちの第六感が安全やと言うとる。ここはこれに運んでもらおうやないか」

 

龍驤さんはそう言うと、道に止めてあった高級外車の後部座席に乗り込みました。

 

「お前は……」

 

ガタイのいい男性が野分に何かを言いかけた時、龍驤さんが英語で何かを言いました。すると、男性は急に態度を改め、野分を丁重に扱いはじめました。ドアも開けてくれて、とても真摯な対応に少し面をくらいましたが、野分は警戒を緩めませんでした。

 

「どちらへ?」

 

ガタイのいい男性が助手席に乗り込みそうたずねました。

 

「九龍の空港跡地や。0時ぴったりに着くようにしてくれや」

 

「かしこまりました」

 

男性は野分の方に一礼すると、運転席に座る若い男性に何かを言い、車を走らせました。よく見ると、車には全ての窓に濃いスモークが貼られており、外から中の様子を伺うことは出来ないでしょう。そして不思議なことに、少しばかりしか走っていないのですが、回りにも似たような車が走っています。

 

「……どういうことですか?」

 

思わず野分がそう口に出すと、ガタイのいい男性が答えてくれました。

 

「色に車種、そしてナンバーも同じ車を20台用意しました。向こうもどれがこの車かはわからないと……」

 

「さよか……ならうちが何しようとわからへん、いうことやな」

 

龍驤さんがそう言うと、左隣に座る野分を押したし、急にジャンバーの内側に手を入れてきました。

 

「ちょッ!……ちょっと!」

 

「貴様! 何をしている!」

 

野分とガタイの男性が声を荒げると、龍驤さんは睨むように男性を見ました。

 

「ボォ〜っとしとらんと! はよ獲物とりや! 次の交差点! 左から来るで!」

 

龍驤さんはそう言い、野分から銃を奪うと野分を右側に投げました。

その直後、車が交差点に差し掛かるとオープントップの二階建てのバスが信号を無視し突っ込んできました。バスが左を走っていた車にぶつかりゴンッと鈍い音を立て野分達の乗る車にもぶつかりました。野分達の車はそのまま直進すると、バスは強引に左折し、野分達の車を追いかけてきます。

 

「うちの店の従業員よりも、おたくらの人間を配下に納める方が簡単や」

 

「ツァオッ!!」

 

ガタイのいい男性がそう叫ぶと、窓から身を乗り出しました。

 

「上や! やつら街中でドンパチ起こすつもりや!」

 

後ろの窓からバスを見ると、二階に小銃を持った男が見えました。

 

「ここは……」

 

「うちに任しときーな!」

 

龍驤さんはそう言うと、いつの間取っていたのか、野分の携帯をこちらに放り投げました。

 

「はよ日向達に連絡し! 兄ちゃん! バス狙えば他の住民に迷惑がかかるさかい、男だけを狙うんや!」

 

「わかっている」

 

龍驤さんにそう言われた男性は何発か発砲しましたが、当たる気配がありません。

 

「こんの下手くそ! 変わり!」

 

龍驤さんが窓から身を乗り出し、数発撃ちましたが、こちらも当たる気配がありません。

 

「せやった……うち空母やった。こんなん振り回したことあらへん……」

 

「貸してください!」

 

窓から身を乗り出している龍驤さんを車内に引き戻し、野分の銃を奪うようにとると、野分は窓から身を乗り出し、銃を構えました。

 

「なんや。様になっとるやないか」

 

龍驤さんが茶化すとようにそう言いましたが、野分は気にせず、絞るように引き金を引きました。結果は命中。小銃を持った男性の肩に当てることが出来ました。

 

「経営が出来るうえに、銃の腕も確かとは……恐れいったで」

 

「経営……?」

 

ケラケラと笑う龍驤さんに対し、野分はきっと片眉を吊り上げていることでしょう。

 

「さすがは龍驤さんやで!」

 

「何言って……」

 

野分がそう言いかけた時、龍驤さんが野分にウィンクをしました。話を合わせろ。ということでしょう。

 

「……そうですね」

 

野分にはそれだけしか言えませんでした。

 

「りゅーじょうさん! まだ終わってません。ここは自分たちに任せて頭を低くしていてください!」

 

男性がそう叫ぶと、龍驤さんは野分を足元のスペースに押し込みました。

 

「安心せぇ。車列が整っとる。しばらくは安心や……どないした?」

 

足元の狭いスペースに押し込まれた上に背中に龍驤さんの足が乗っているのでしょうか。すごく窮屈で腹立たしいです。しかし、確かに車が動くのとは別の音……ピッピッという電子音のようなものが聞こえます。野分が床に耳をつけているのが不思議だったのか、龍驤さんの声は少し驚いたようでした。

 

「なんでしょか……単身音?」

 

「音のなる場所は?」

 

「この真下です」

 

「さよか……兄ちゃん! 足元に穴開けるで! ええな!」

 

龍驤さんは野分の背中から足を退けると、そう怒鳴りました。

 

「何をする気……」

 

「え! え! な!」

 

男性は龍驤さんに気負けし渋々頷きました。龍驤さんはこちらを見て、黙って頷きました。野分はシグでその音がする場所に狙いをつけ、引き金を引きました。車内に甲高い発砲音が響き、思わず手で耳を塞ぎたくなりました。耳鳴りが収まり、再び音がした場所に耳を近づけるともう音はやんでいました。

 

「もう音はしませんね」

 

「うちなら気づかへんわ……よう気がついたな」

 

「元駆逐艦ですからね。下から聞こえる音には敏感なんですよ」

 

「なんや……イヤらしい……」

 

「そういう意味じゃないです」

 

野分はこんな状況でも余裕そうな龍驤さんに呆れています。

 

 

ーーーー

 

なんとか0時丁度に空港跡地に着くと、野分達を乗せていた車はそのままどこかへ走り去っていきました。

 

「野分! こっちだ!」

 

日向さんに呼ばれ、そちらを見ると、日向さんの後ろに黒い何かが見えました。

 

「お待たせしました……これは?」

 

近くまで駆け寄ると、その大きさに圧倒されました。飛行機のようですが、野分の知っている艦載機とは比べ物になりません。

 

「えりちゃんの私物やんけ」

 

「りゅうじょうさん。これ」

 

操縦席から、パイロットスーツを着て、それ用のヘルメットを被った緒方さんが龍驤さんに大きな袋を投げました。

 

「はやくきがえてください」

 

龍驤さんが袋を開けると中には野分でも着れそうなパイロットスーツが入っていました。

 

「なるほど……これで上から援護しよう言うんやな!」

 

「それよりもむずかしいにんむです」

 

緒方さんはそう言うとヘルメットバイザーを閉め操縦席の中で何かを操作しているようでした。

 

「なんや……なにしようと……」

 

「先程、加賀に連絡して向こうの滑走路を一本使わせて貰えることになった」

 

「向こうて日本のことかいな。なに馬鹿を言って……」

 

「いくらりゅうじょうさんでもこのこをばかにするのはゆるしません。まんたんのこのこならきゅうゆなしでいちじかんちょっとでいけます。いいからはやくきがえてください」

 

よく見てみると、緒方さんのヘルメットに英語で何か書いてあります。

 

「まーぶ……りっく?」

 

「マーベリック。あの子あの映画のファンみたい」

 

蛍光色の緑色をしたポンチョと、それっぽいヘルメットを被っている足柄さんが興奮気味に答えました。手には誘導灯を持っています。

 

「映画……? なんの?」

 

「知らないのッ?!」

 

「これがジェネレーションギャップか……」

 

足柄さんと日向さんが何か諦めにも似たようなそんなため息をつきました。

 

「先生と生徒の禁断の愛を描いた映画や。さしずめ、うちは美人な先生といったところか?」

 

「ぐーす! むだぐちたたいてないではやくのってください!」

 

「途中で死ぬやんけ!」

 

着替え終わり、緒方さんが後ろの席に龍驤さんが座ったのを確認すると、風防が下がってきました。

 

「野分。これをつけて離れろ。ぶっ飛ばされるぞ」

 

日向さんにヘッドセットを渡され、それをつけると外の音がまったく聞こえなくなりました。無音の世界で日向さんに手招きをされて飛行機から離れるとキーンという甲高い音がかすかに聞こえてきました。

 

「足柄さんは大丈夫なんですか?」

 

飛行機の近くで誘導灯を振っている足柄さんを指差しました。日向さんも野分と同じヘッドセットをしているので野分の声は聞こえないでしょうが、野分の動きを見て、日向さんは頷きました。

 

緒方さんが足柄さんにサムズアップをし、すぐに敬礼をすると、足柄さんは上に掲げていた誘導灯を勢いよく振り下ろしました。すると、ヘッドセットをしているのにも関わらずものすごい轟音が聞こえると、飛行機は急加速し、すぐに飛び立ってしまいました。あたりには燃料を燃やした臭いとタイヤの焦げた臭いが充満しています。

どんどん小さくなっていく飛行機を見ていると、コツンと野分のヘッドセットを日向さんが小突きました。外してもいい。ということでしょう。

 

「すっごいわ! 大迫力だったわ!」

 

足柄さんが興奮しながら戻ってきました。

 

「私はやっぱり……」

 

「瑞雲ですか?」

 

日向さんの言葉に野分が被せると、日向さんはなんとも言えない顔で野分のことを見ていました。

 

「野分もああいう新しい方がいいのか?」

 

「野分は足を伸ばして座れる座席がついた飛行機がいいです」

 

「残念ながら、帰りも三人並んだ席だ」

 

知ってます。だって野分が航空券取ったんですもの。


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