正直、野分が羽黒と那智に接触したことは計算外だった。だが嬉しい誤算でもある。
「さすがにまだ早いか……」
足柄の自宅の玄関が見えるところに車を停め、中のようすを探る。きっとまだ寝ているだろうし、那智は何も無ければ昼過ぎまで起きないだろう。しばらく、様子を観察していると、眠気が襲ってきた。眠いなか一人でただ目の前の様子を観察していると注意力が散漫になるうえ、脳が処理できる視野がどんどん狭くなる。だから私は窓をノックされるまで横にいた人物に気が付かなかった。
「こんなところで何してるの?」
窓を開け、こちらを不思議そうに覗きこんでいた妙高と顔をあわせる。
「足柄から迎えに来たんだが……早く着きすぎてな」
自分でも下手な嘘をついたと思う。妙高は明らかにこちらを怪しんでいる。それもそのはずだろう。今まで私が足柄を迎えに来たことなど一度もないのだから。
「そう……呼んできましょうか?」
「いや、出てくるまで待たせてもらうさ」
「そう……じゃあ上がって待つ?大したおもてなしは出来ないけど……」
「そこまで気を使わせるわけにはいかないさ。妙高はこんな朝早くにどうしたんだ?」
とりあえず現状はとても不味い。妙高に私がここにいることを羽黒に伝えられては困る。考える時間が欲しかった。
「私は出張帰りよ。一週間、海外にいてね」
「そうか。ご苦労様。仕事がうまくいってそうで何よりだ」
何をどうやっても、今の妙高をここに留めておくにたる理由が思い浮かばない。妙高の顔はどんどん暗いものになっていった。
「どうした?」
「那智が何かしたのね?」
「私は足柄を迎えに来ただけだ」
妙高は何も言わずに後部座席に乗り込んできた。バックミラー越しに目が合う。
「追い込まれたり、嘘ついたりすると人ってまばたきの回数が減るのよ。日向、私の顔を見たまま一度もまばたきしてないわよ」
「妙高みたいな美人が目の前にいたんだ。まばたきなんか出来なくなるさ」
「何を言っているんだか……」
自分でも何を言っているのかと思う。別に妙高が美人じゃないという意味ではない。
「足柄から日向は有能な捜査官だって聞いてるわ。その有能な日向さんを相手に言い逃れ出来るとも思っていないし、もう取り返しがつかないのもわかっているつもりだわ。だけど、姉として、何があったのか知りたいの。邪魔は絶対にしないから教えてちょうだい」
ミラー越しに見える妙高の目付きは確固たるものだった。私は溜め息をもらすと、後ろを振り返った。
「民間で秘書をしているだけのことはあるな。だが間違いがある。私の監視対象は羽黒だ」
「羽黒ですって……あの子はあなたに目をつけられる事をやるような子じゃないわ……」
「わからんだろう?美人なお前の妹だ。私が目をつけたって不思議じゃない」
「茶化さないで!」
「私が……というのは嘘になるが、私の上司が目をつけてな。だが彼は妻子のある身だ。何か弱味でも見つけられないかと思ってな」
「羽黒に問い詰めてくるわ」
「待て……」
怒気を含んだ目をしている妙高の腕を取り、出ないように目で促す。妙高は大人しく座ったが、それは怖い顔をしていた。
「羽黒は悪くないかもしれん。いや、その美貌を持って生まれたことが罪なのかもしれんな」
「茶化さないでと言っているでしょう?それに足柄だって私の自慢の妹だわ」
「足柄は性格ががさつだからな……」
「あぁ見えて、実は繊細なの。それより羽黒よ。あの子が何したの?」
それは知っている。どこまで話そうか考えていると玄関が開き羽黒が出てきた。妙高が咄嗟に私のシートの影に隠れた。
「スモークが入っている。近くから見られない限りバレないさ」
「そうなの……羽黒は何を?」
「新聞を取って戻っていった」
「そう……」
羽黒が室内に戻り、経緯の一部を話していると、後方から水平対抗の野太い音が近付いてきた。ミラーを見やると、つり上がった目付きをした車が近付いてくる。向こうのフロントガラスにもスモークが貼られている。民間車なら整備不良で捕まるはずだ。
「応援かしら?」
「いや、パパラッチだ」
運転席から降りてきた青葉はそそくさと私の車まで近づき、音もたてずに後部座席に乗り込んだ。
「どもども!青葉です!妙高さん!お久しぶりです、もうちょっとそっち行ってくれると助かります!」
「青葉がどうしてここに?」
渋々、と言った様子で妙高は席を譲った。助手席側はぴったりと壁に寄せているからドアは開けられない。妙高は青葉をどかさないと降りれなくなった。
「青葉は取材です!立場がある人の不倫は特ダネですからね!」
青葉の一言に妙高の表情がみるみる変わっていく。鬼の形相とはこのことか。妙高は青葉の頭を鷲掴みする。
「痛い!痛いです!妙高さん!痛い!」
ミラー越しには妙高が青葉を撫でているようにしか見えない。強いていうなら妙高の手が青葉の髪の中に食い込んでいるように見える。
「記事にしてみなさい。大破じゃ済まさないわよ」
「痛いです!離して!」
「暴れるなら青葉の車でやってくれないか?」
逃げ出そうともがき始めた青葉を見て溜め息をもらす。まだ朝だというのに、何度めかわからない。妙高は素直に手を離した。青葉は頭を抱えながらこちらを見ていた。
「あの煩い排気音はなんとかならないのか?」
「寝坊してサイレンサーを付ける暇が無かったんですよ」
「着脱式なんて使っているからだろうに。こんな朝早くから騒音撒き散らして……」
「いやぁ、この前段差で下を派手にガリッとやりまして……経年劣化もあって穴が開きまして。とりあえず安いの着けたら抜けるんですよ」
「それでやたら吹かしていたのね」
「サイレンサーは持ってきたのか?」
「忘れました!」
「お前の車を使おうと思っていたのだが……」
こいつはいったい何をしに来たんだ。そう思いたくなる。別に青葉は悪くないが、本当にそう思う。
「だったら私の使う?長いこと乗ってないから、そろそろエンジンかけなきゃいけないし」
「自分とこの車が追いかけて来たら流石に気がつくだろう……」
「大丈夫。あの子、タイヤが四つ付いてて上に箱が乗ってれば全部同じに見えてるから。この前なんて足柄のヴェルファイアを色の違うハイエースと間違えて乗り込もうとしたんだから」
「それは別の事件になりそうですね」
「連れ込まれたんじゃなくて、乗り込んで行った方だな」
「……よくわからないけど、そういうことよ」
正直不安があった。けれど、足柄が魔改造を施した車と青葉の整備不良車よりはましだろう。私は妙高の提案を受け入れることにした。
ーーーー
「妙高さんもいい趣味してますね!」
運転席に座る青葉が楽しそうに言う。私は妙高がいたからあの足柄がいるのだろう。そう思った。
「私にはこの良さはわからん」
妙高から借りたSC430はそれなりの拘りを持って弄られたものだった。外装も大人し目の社外品に変えられており、より気品の高い雰囲気を醸し出している。妙高曰く、車は3ナンバーの上品な2ドアクーペ、だそうだ。
「意外とミーハーな趣味ですよね」
「ソーラーだろ」
「そぉーらぁ?何ですか、それ」
「ミーハーよりも気品のある人のことだ」
「へぇ……じゃあ日向さんもソーラー何ですか?」
「私は古いものが好きなだけだ」
青葉と無駄話をしていると携帯が着信を知らせた。画面には足柄と表示されている。
「日向だ」
『足柄よ。先程本部長殿が先程おみえになられたわ。何をしているのか聞かれたから、これまでの捜査について調べてる、とだけ言っておいたわ。』
「ご苦労。他には?」
『これといって特にないけど、のわっちがずっと頭を抱えているわ。字が読めないとまで言って……』
「なら野分に真面目にやらなくてもいい、と伝えてくれ。こちらに動きがあった。追って連絡する。すぐ出られるようにしておけ」
電話を切り、青葉に目配せをする。羽黒が出てきた。もし仕事に行くとすれば時間が早すぎる。足柄からの連絡のタイミングを考えれば、羽黒に接触を図ったと考えていい。青葉に車を任せ、私は羽黒の後をつけた。
「青葉、大通りに車を止めておけ。捜査局のオフィスに向かう方だ」
『了解しました!』
「電話を切るなよ。警官に停められたら私の身分証を出せ。鞄のなかに入っている」
携帯をインカムに繋げ、羽黒に近づき過ぎない距離を保つ。だが心配する必用も無さそうだ。羽黒は足早に大通りへと向かっている。職場のスーパーとは方向が違う。
「電車じゃないとすれば、タクシーだろう。よほど急いでいるようだ」
『タクシーならこの車で余裕ですね』
「そう言って油断するなよ。渋滞を避けて狭い道を抜けるかもしれん。擦らない様に今のうちに慣れておけ」
『この短い距離でですか?!』
青葉の声色に緊張が混じっている。青葉の抗議を無視し、後をつけると、やはり羽黒はタクシーを捕まえた。偶然なのか記者としての勘なのか、青葉は止まったタクシーの20m後ろに車を止めていた。通行人に紛れて羽黒を追い抜き、羽黒がタクシーに乗り込むタイミングで私も車に乗った。
「目の前の白いタクシーだ。逃がすなよ」
「はい……」
青葉は緊張していた。いきなり普段乗っている車より大きな人の車に乗り換えたのだ無理もない。
「変わろうか?」
「もう遅いです……」
青葉がぎくしゃくとした動きでハンドルを操作する。
「この時間じゃ、こっちの車線はまだ渋滞しない。そんな気を張るな」
「それならさっきの発言は何だったんですか?」
青葉は緊張を解いた。ある程度運転に慣れていれば急に車線変更をしない限りは大通りで車をぶつけることはないだろう。割りと早い流れに乗っているが、車は滑らかに走っていく。なるほど、デートカーなわけだ。
「何か雰囲気のいい曲でもかけますか?」
「青葉とか?」
「青葉じゃ不満ですか?」
「どちらかと言えばな」
青葉がブーたれた顔をする。私は足を組み換えた。
「何が狙いだ?」
「んー……強いていうなら、日向さん達のご機嫌取りですかね?」
「どういうことだ?」
「もし、これが内部の不祥事だったらカバーストーリーが必要になりますよね?青葉なら真実っぽくデマカセを書けますし、読者も真実かデマかわからなくなります」
「それで、私達の機嫌を取ってどうする気だ?」
「青葉は見返りじゃなくて特ダネが欲しいんです。つまりは……」
「なるほどな。お前は私達を『有力な情報筋、内部関係者』と書きたいわけだ」
「そういうことです」
青葉は嬉しそうに頷いた。あの時、足柄を呼ばなかったのも、羽黒を記事にすることに反対するからだろう。だからと言って、私や野分が反対するとは限らない。だから青葉は私達を動かして土壇場で割り込んできたわけだ。だとすれば不可解なことがある。
「どうして今日だとわかった?」
「ジャーナリストの勘ですね。日向さんは読めませんでしたけど、野分さんならすぐ行動を起こすと思っていました。なので、今日は野分さんに接触する予定だったんですけど、日向さんが居たわけです」
「よくお調べのようで……」
下手な捜査員より情報戦が得意だと思う。だが捜査権を与えたら暴走するタイプだろう。ジャーナリストでちょうどいい。
「停まりましたね」
「そのまま通りすぎて、次の角を曲がれ。車を適当な駐車場に停めたら連絡しろ」
「了解しました!」
ーーーー
羽黒は捜査局から割りと近い場所にあるチェーンの喫茶店に入り、奥の方へ席をとった。青葉は羽黒が席を離れるのを見て用意していた盗聴機を羽黒の対面の座席の下につけた。
「バレないか?」
「机の下は見ても、椅子の下はまでは見ないでしょう」
「だといいが……」
入り口が見える席を取る。足柄と野分には適当に理由をつけてここに来るように伝えてある。もっとも入ってくることはないだろうが。しばらく待っていると、見覚えのある男、局長が血相を変えて入ってきた。こちらに見向きもしない。
「相当焦ってますね。何もチェックせずに座りましたよ」
私は背を向けているから見えないが、青葉の席から羽黒たちの様子が見える。イヤホンをし、受信機の電源をいれる。
『足柄達が不穏な動きを見せ始めた。お前、あいつらに何か言ったのか?』
局長の高圧的な物言いが聞こえる。開口一番がそれだと言うことは焦っているようだ。
『私は何も言ってません!それに那智姉さんも足柄姉さんも何もしてません!』
羽黒の力強い声が聞こえる。
『だとすれば、お前がやりすぎたんだ。あいつらに悟られない様に動けと言ったはずだが?』
「それは無理でしょう……相手は軍人と捜査員ですよ……」
青葉がぼやく。だが実際、足柄には悟られていない。
『私は私なりに頑張ったつもりです!あの二人は無実です!癒着なんてしていません!』
『だとすれば不自然だ。どうしてあいつらはあれだけ早くから動ける。まるで全てを知っているかのように』
『私は知りません!けど、那智姉さんと足柄姉さんは仕事の話はしてません!足柄姉さんは酔うと日向さんが凄い人でああなりたいって言うだけです!』
「ですって」
青葉がニヤケながら私を見る。今私はどんな顔をしているのだろうか。
『じゃあお前は、日向が有能だから感嘆に解決すると言うのか?他の者が無能だと言うのか?』
『他の人は知りませんけど、足柄姉さんがそこまで言うってことはそういうことなんじゃないですか!』
『それに、報告書は全部そっちにあげてるし、私達がやったことに対して誉めてくれるの日向しかいないんだけど?』
聞き慣れた声が聞こえ、思わず振り返ってしまった。足柄が羽黒たちの机のわきで仁王立ちしている。はっきりとは見えないが額に青筋が浮いている様にも見える。
『足柄姉さん!どうしてここに……?』
『私達のボスが、私の妹をタブらかす輩がいると聞きつけてね。羽黒の恋愛だから優しく見守ろうかと思っていたのだけど、それが自分のミスを女性に押し付ける酷い男だと知ったら姉として黙ってはいられないわ』
『日向がだと……私はお前たちが考えているような関係を彼女に求めているわけじゃない!何を勘違いして……』
『じゃあどうして羽黒と会っているの?あなたの部下としてではなく、羽黒の姉として納得のいく説明を求めるわ』
局長が押し黙った。羽黒の方は顔を真っ赤にすると、慌てて席を飛び出した。足柄はそれを追わず、羽黒の座っていた席に座り局長を睨み付けた。私は青葉にここを任せ、羽黒を追った。表に出ると、羽黒の向こうに野分が見えた。羽黒は野分に気が付くと、振り返りこちらに駆け出した。直前で私に気が付き、また逃げようと振り返るが野分がしっかり距離を詰めていた。私は羽黒の肩を抱く。
「さて話を聞かせて貰おうか。男の方は足柄に任せておこう。心配しなくても、妹思いな姉があんな駄目な男は振ってくれるさ」
「……はぃ」
羽黒は小さな声で答えた。
ーーーー
野分と羽黒と席に戻ると、足柄達の話は全然違う方向に進んでいた。
『だから私なの?那智なの?それとも妙高姉さん?誰なのよ?!』
離れたことで電波が途切れたがそれも数分の間だ。その間に何があったのだろうか。
『だから、私はそういう関係を求めていたわけではない!お前たちが上手くやれているかどうかを……』
『今更そんな言い訳をしたって遅いわよ!それに女として、自分が候補に選ばれているしたら気になるじゃない?』
青葉の方を見ると、既に私達の事など眼中にはない。手帳をひろげ、注意は完全にイヤホンに向いている。
『お前たちなどいなくてももう間に合っている!』
「聞いちゃいました……」
『もう間に合ってるって……あなた』
足柄が引いている。対照的に青葉は好機の眼差しでそちらを見ている。
『もういいわ……二人目ならまだしも、三人目、四人目にはなりたくないわ』
『お前らを相手にすることなどない』
『こっちも願い下げよ』
足柄は席を立つと、こちらに合図を送った。イヤホンを外し、青葉と野分、羽黒を席に残し、足柄の方へと向かった。
「もし私達の相手をしたかったら正面から向かってきなさい。そうしたら相手をしてあげないこともないわ」
私が現れたことで、足柄の言った意味を理解したのだろう。局長は悔しそうな顔で私を見た。
「まぁ……その、なんだ。ご愁傷さま、とだけ言っておこう」
「お前ら上司に向かって……」
「公共の場でそんな大きな声で話したんだ……記者でもいたら今頃特ダネを掴めたとはしゃいでいるだろうな」
「はめられたということか?」
「下手な捜査するからだ。それに……これは自業自得だろう。私もこれは予想していなかった」
あと何日かの局長は、椅子を蹴飛ばすと足早に店を後にした。
ーーーー
「耳が痛い……」
青葉はイヤホンをしていた耳を抑えていた。椅子を蹴飛ばした音を拾い、それが青葉の耳を襲ったのだ。
「私達はこれから暫くたらしの部下として世間から叩かれるんだ。片耳ぐらいでなんだ」
「あの……その……ごめんなさい!」
羽黒が泣きそうな顔で謝る。野分がまとめた話だと、羽黒は偶然職場であの男と会い、姉三人と比べられ煽られたことがきっかけらしい。
「その時ビシッと言ってやれば良かったのに!」
まだ怒りの収まらない足柄がもんくを言う。羽黒も姉三人と負けず劣らずの負けず嫌いだが、それを口に出すのが苦手だ。そこに目をつけられ、那智と妙高の職務上の癒着の証拠を見つけようとした。だが当たり前のようにそんなものはなく、何かしらの成果を得ようと欲張った結果、適当な事実をねじ曲げて証拠としてでっちあげようとした。
「しかし、よくあそこまで詰問されても余計なことを言いませんでしたね」
青葉がそう言うと、羽黒はあの青葉をジトッとした目で見た。
「はい。余計なことを言うと有ること無いこと書かれるって昔学びましたから……」
「あぁ~……じゃあ青葉のおかげってことですね」
「どうしてそうなるんですか……」
野分が呆れ顔で青葉を見ていた。
「しかし……これからやりにくくなるわね。常に監視されてそうで好き勝手出来そうにないわね」
足柄がぼやく。羽黒は申し訳ない顔をやめない。
「そうでもない。逆に好き勝手やればいいさ」
「また裏で何されるかわかりませんよ?」
野分も不安そうに私を見ている。
「野分。これまでの捜査資料を読んでみてどうだった?私達は間違ったことをしてきたか?」
「いえ……」
「これまで好き勝手やってきたんだ。これからも好きにやればいい。あと、好き勝手やっているのは足柄だけだ。今回も勝手に行動してな……」
「それは悪かったわよ……」
「別に悪いことをしたわけじゃない。お前は羽黒の姉として悪い男から妹を守っただけのことだ」
私は羽黒を見た。
「羽黒もいつだって足柄を頼っていい。足柄は私の信頼のおける部下だ。もちろん、野分もな」
羽黒は声には出さなかった。だが大きく頷いた。
「そしたら、私達は信頼できる上司を頼ることになるわね」
足柄が余計なことを言う。まぁ……
「まぁ、そうなるな」