海軍特別犯罪捜査局   作:草浪

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NSCI #51 これからもありがとう

それからはあっという間だった。しかし、二年という月日が経っていた。

 

解体の施術を終え、目を開ける。何時間眠らされていたのかはわからないが、光が眩しい。目が慣れやっと見えてきた視界の中に見覚えのある顔が一つ。

 

「あら?やっとお目覚め?」

 

「あぁ、待たせたか?」

 

体を起こし、大きく身体を伸ばす。以前より体が重い。艦娘の力を失ったからだろう。

 

「ここに来てからは一時間以上。あなたに会うために二年も待ったわ」

 

「それはすまないことをした」

 

私は陸奥の向こうに誰もいないベッドを見つけた。私の視線に陸奥も気がついたようだ。

 

「伊勢はどうした?」

 

「足柄が連れていったわ」

 

「なに?」

 

背中に嫌な汗をかく。出来ることだったら伊勢の処遇については自分が関わりたい。妹としてのケジメだ。しかし、私の預かり知らないところで捜査局が動いた。そして目の前にいるのは陸奥。今はわからないが、恐らく何かしらの法執行機関に所属しているだろう。もしかしたら、私の替わりをしているかもしれない。

 

「解体明けすぐで申し訳ないけど、私はあなたを連れていかなくちゃいけない場所があるの」

 

陸奥は少し考える素振りをみせると、私の膝の上に紙袋をおいた。中を覗くと着替えが入っている。

 

「電話してくるから、着替えて待ってて」

 

陸奥はそう言い、部屋を出ていった。

 

 

ーーーー

 

陸奥が用意したものに着替え、陸奥に表玄関まで案内された。一台のシルバーのセダンが止まっている。私の見たことのない車だ。恐らく新しいものだろう。運転席から人が降りてくる。

 

「お疲れ様です、陸奥さん…………お久しぶりです、日向さん」

 

「待たせたわね、野分」

 

陸奥がそう言うと、野分は後部座席と扉を空けた。陸奥は私の手を引いたまま私と一緒に後部座席に乗り込んだ。野分は何も言わずに扉を閉め、運転席に乗り込んだ。

 

「水を貰えないか?」

 

私がそう言うと、無言で運転していた野分とバックミラー越しに目があった。野分は助手席に手を伸ばすし振り向いて私がいつも飲んでいたお茶のペットボトルを私に差し出した。その顔がどことなく申し訳なさそうな顔をしている。その時、陸奥が咳払いをした。野分はハッとした顔をすると、すぐに前をむいてハンドルを握りなおした。

 

「あれは…………」

 

窓から見えた懐かしい建物。海軍特別捜査局のオフィスビル。私の記憶がただしければ、この道を曲がれば……曲がった。このままいけば、正面玄関に着く。

 

「どう?懐かしいでしょ?」

 

「そうだな。まさかまたここに来れるとはな……」

 

「戻ってこないつもりだったの?そんなこと私達がさせるわけないでしょう?」

 

「それもそうだな」

 

野分は車をゆっくりと車を走らせる。窓から正面玄関が見えてくる。降りる用意をすると、陸奥がしっかりと腕をつかんだ。私が陸奥を見ると、陸奥は首を横に振った。バックミラーを見ると野分と目があったが、すぐに逸らされた。車は止まらなかった。そのまま車回しを二周すると、勢いよく走り出した。

 

「どういうつもりだ?」

 

私が陸奥に訊ねると、陸奥ではなく野分が替わりに答えた。

 

「すいません……私はやめようって言ったんですけど、陸奥さんがどうしてもって……」

 

「長いこと待たされたのよ?少しは日向にも嫌な思いしてもらわないと私の気が収まらないわ。それに野分も乗り気だったじゃない」

 

「日向さんの顔見てたら申し訳なくなってきました」

 

「でもいい時間潰しになったでしょ?」

 

「どういうことか説明しろ」

 

私そっちのけで話を進める二人を睨むと、陸奥が私の肩に手をかけた。

 

「もう艦娘じゃないんだから、そんなに怒ると体によくないわ。大丈夫、すぐにわかるから」

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「ここは……」

 

車を降ろされ、二人に案内されたのは、伊勢の事件のきっかけにもなった場所、そして私が足柄や野分とよく来ていた所。居酒屋、鳳翔。

 

「少し小綺麗になったか?」

 

荒れた店内を最後に来ていなかった店の佇まいは以前よりも立派に見えた。

 

「あの騒動があった改装したそうです。中も少し広くなっていて……昼間は間宮食堂って暖簾がかかっています。お昼は間宮さんが……」

 

「それは中で話しましょうよ」

 

それまで陸奥に黙っているように言われたか、野分がすごく嬉しそうに話しかけてきたが、長くなりそうだったのか、陸奥が半ば強引に切った。野分は不満そうな顔をしていた。

 

「そうだな。久しぶりに美味しいものが食べたい。早く中に入ろう」

 

野分の肩を抱き、私は暖簾をくぐった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「あれま。私の野分を侍らせて…………」

 

足柄に連れていかれたという伊勢が大皿にのった料理を手に持ちながら立っていた。

 

「伊勢!サボってないで運べ!」

 

その後ろに同じように大皿を運ぶ長門もいる。

 

「さっき青葉から聞いたよぉ。野分を盗られて悔しいんでしょ」

 

「いいから足を動かせ」

 

長門が伊勢の足を蹴った。伊勢は軽口を叩きながらそれを奥のあがりへと運んでいく。

 

「日向、もう大丈夫なの?」

 

厨房からヒョコっと顔を出した大和が私を見ている。しかし、その目はどこか厳しいものが混じっている。

 

「大和もいたのか」

 

「えぇ、私も今回関わったから……」

 

大和はそう言うと、伊勢の方を睨んだ。その目には確かに恨みがある。料理を運び終え、戻ってきた伊勢を呼び止めた。

 

「おい……大和に何かしたのか?」

 

「お前ら二人が原因だ」

 

伊勢の後ろにいた長門が小声で答えた。

 

「伊勢に秘書艦の座を一時でもとられたのをまだ根に持ってるんだ。その時に伊勢と日向、どっちにするかで…………」

 

「伊勢の言っていた一番はそういうことか……ちょっと待て、それなら私は関係ないだろう?」

 

「負ける方に賭けようとしたんだ。お前だって馬の一人だった」

 

「結果的には伊勢が選ばれたんだから、私を避難されてもな」

 

「アハハ……」

 

伊勢は乾いた笑いを漏らした。どうやら、大和に小言を言われたらしい。秘書艦は沈まない。その摩訶不思議なシステムのお陰で伊勢は助かったようだ。

 

「ちょっと!そんなところで立ってないで早く始めましょうよ!」

 

あがりから顔を覗かせた足柄は待ちきれないといった様子だった。

 

「すまない、今行く」

 

 

 

ーーーー

 

 

 

真っ先に話題に上がったのは、事件がそのごどうなったのかだった。

 

「流石の青葉も悩みましたよ」

 

野分と足柄は今回の事の報告書を捜査局ではなく、青葉に渡した。当然、何かしらの動きがあったことは捜査局にはバレており、軍、警察に呼び掛けをしたようだが、それを長門と陸奥が揉み消した。本人達曰く、握りつぶしたと言った方が正しい。その替わりに、大和が提督を守る為に集めていた情報を流したことで事なきを得た。とういう流れらしい。

 

「しかし……この記事のインパクトはすごいな……」

 

青葉が雑誌に載せた記事はとても小さなものだったが、元艦娘、いや、提督と大和を知る者ならただ事ではないことがわかる。

 

「もし仮にあの男に不倫する度胸があっても、それを大和に知られて土下座一つで済むわけないのにな……今ごろ伊勢も提督も五体満足でいるわけがない」

 

私は青葉が作った記事を読んで素直な感想を観相を漏らした。それを聞いた大和が私を睨む。

 

「私を何だと思っているの?」

 

「伊勢を見た途端に包丁片手に無表情で挨拶しにいくサイコパス」

 

伊勢の横にいた摩耶が大和を見ながらそう言った。伊勢が慌てて摩耶の口をふさいだが、大和はしっかりと二人を見据えている。

 

「しかし、薬物使用者を更生しようとお付き合いしたなんて書き方したら、この男も薬物使用者と間違われるんじゃないか?」

 

「本当に火消しに苦労しました……パパラッチがずっと追いかけ回してましたからね。けど、事実は大分異なる上に、伊勢と二人で写っている写真が出回らなかったことが幸いしてすぐに沈静化しましたけど……」

 

「そんなもの出回るわけないのにね」

 

「もし、持ってたら頂けますか?」

 

青葉が飛んでもない事を口にした。やっと笑顔が戻りかけた大和の表情が消えていく。それと同時に青葉を除く全員の顔が青ざめた。

 

「なんですか、皆さん。その反応は。私の知らない事実があるのですか?」

 

「す……少なくとも私は知らないわね」

 

陸奥が墓穴を掘った。こういう時は何も言わずに存在感を消した方がいい。私の隣にいる野分が私の陰に隠れている様にだ。

 

「あらそう……火遊びはしてないのね?」

 

言葉だけで大和が詰め寄る。陸奥の顔に焦り見える。仕方あるまい……

 

「そうだな。陸奥、この二年の間に何か浮いた話はないのか?」

 

私の言葉に横にいた野分が安堵した表情を見せる。徐に立ち上がった野分に大和が声をかけた。

 

「野分ちゃん。もし何か知ってたりわかったりしたら教えてね?」

 

「りょ、了解しました!」

 

大和の笑顔に野分は緊張した表情を見せ、そそくさと出ていった。どうやら存在感を消すという事が逆効果になる事もあるようだ。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

宴も酣にさしかかり、この二年、何もなかった陸奥が悪酔いをしだした。私は伊勢に目配せをし、店の外に出た。

 

「どうしたの?」

 

伊勢は少し遅れて外に出た。

 

「……大丈夫か?居づらさなんて感じてないか?」

 

「そんなことか……全然大丈夫。長門には謝られちゃったし」

 

「そうか……それと、ポケットに入れている物を出せ」

 

「……あらら、バレてましたか」

 

伊勢はそう言い、ポケットから煙草を取り出す。私はその中の一本を咥えると、伊勢は驚いた表情を見せたが、私は目で訴えた。

 

「姉に火をつけさせますか……」

 

煙を目一杯吸い込む。なんてことはない。普通の煙草だ。

 

「なんか臭いと思ったら……日向、煙草なんて吸うの?」

 

「なんか、日向さん、はっちゃけましたね」

 

足柄と野分が扉の隙間からこちらを見ていた。

 

「あげる」

 

伊勢は私に煙草とライターを渡すと、店内へと戻っていった。入れ替わりで足柄と野分が出てくる。

 

「それで、これからどうするの?」

 

先程まで中で酔って騒いでいた足柄が真面目な目付きをしていた。

 

「公式の書類では日向さんはまだ七係の長です。野分は日向さんの指示に従います」

 

「二年もいなかったんだ、今更戻れんだろう……」

 

煙草が目に染みる。煙が彼女達にかからないよう、風下に移動し、煙を吐き出した。

 

「私も野分もあなたの復帰を待っていたわ。いつでも帰ってこれる様に用意もしてる」

 

「復帰するかどうかは日向さんの意思に任せます」

 

この煙草はやけに目に染みる。

 

「足柄は素直だが……野分、その言い方に対しての答えは一つしかないじゃないか……」

 

私は煙を大きく吸い込み、吐き出した。振り返り、二人を見やると、二人とも心配そうな顔をしている。外に備え付けられている灰皿に煙草をいれ、二人の肩を抱いた。

 

「なら命令だ。今日は全てを忘れて楽しめ。明日からしっかりやってもらう」

 

今の私にこんなことは言えないだろう。だがそんなことは関係ない。また私のわがままに付き合って貰おうじゃないか。

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます。

一応これにて終わりになりますが、まだ使っていないネタがあるのでちょくちょくあげるかと思います。

私事になりますが、NCISをやっと最近の部分まで見ることが出来ました。私の大好きなトニーがいません。

なので、CIS マイアミを見始めたした。
こっちもこっちで面白いです。マイアミと舞鶴って似てますね。

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