海軍特別犯罪捜査局   作:草浪

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NSCI #33 騒宴

 

「騒音被害ぃ?」

 

陸奥に呼び出された私は、陸奥の頼み事を聞いて思わず呆れた声を漏らしてしまった。

 

「そう。要は夜中に暴れ回ってる若者達をあなた達にお願いしたいってこと」

 

陸奥はアイスコーヒーのストローに口をつけながらそう言った。

 

「そんなの地元の警察のお仕事でしょう?そんな仕事まで本庁が取ったら所轄がまた拗ねるわよ?」

 

今時女子がガールズトークに花を咲かせる駅前の喫茶店で、その雰囲気に似つかわしくない話題に天井を見上げると、陸奥が疲れた顔をした。

 

「だって艦娘が絡むことはあなた達の仕事でしょう?」

 

「艦娘が夜な夜なパレードしてるわけ?川内じゃあるまいし」

 

陸奥の話を聞いて、新しく……というより、今は彼女の方が先輩だけど、そんな夜戦馬鹿の顔が頭に浮かんだ。

 

「そうよ。あなたと同じ艦種だった子がね」

 

「誰よ、それ」

 

「摩耶」

 

「あぁ〜……わからなくはないわ」

 

陸奥の口から出た名前を聞いて、思わず納得する。喧嘩っ早くて、腕っ節も強かった彼女ならあり得ない話ではない。

 

「それで……何、世の非行少女みたく、夜な夜なバイクで走り回って喧嘩でもしてるって言うの?」

 

よくテレビとかで見る暴走族のイメージをそのまま言うと、陸奥は首を横に振った。

 

「いえ、そういう類じゃないわ。ただ喧しいバイクで夜な夜な住宅街を走り回っているうちに、仲間が増えてパレードしてるっていう感じだわ」

 

「パレードねぇ……」

 

私は薄い珈琲を一気に飲み干すと、陸奥に空の容器を差し出した。

 

「おかわり」

 

「あなたそろそろカフェイン中毒の域に達してないかしら?」

 

陸奥は呆れた様にそう言うと、財布を持ってレジの方へ向かった。

 

――――

 

オフィスに戻り、日向とのわっちに先程の陸奥からのお願いの話をすると、日向の眉間にシワが寄った。あぁ、これは相当機嫌が悪くなった……

 

「……そんな捜査の申請を上が通すとは思えない。却下」

 

「野分はこの書類仕事から解放されるなら行きたいですけど、それでまた書類が増えそうなので反対です」

 

二人の反応は実にドライだった。私も陸奥に世話になったから話を聞きに行ったが、そうでなければお断りしたいわよ……

 

「という訳だ。足柄、頑張れ」

 

日向はそう言うと、デスクに積まれた書類を読み始めた。

 

「ねぇ……のわっち……?」

 

救いを求めてのわっちの方を見ると、のわっちも書類仕事を始めてしまった。

 

「手が空いたら手伝います」

 

「そう?!本当に?!」

 

私が期待を込めた眼差しでのわっちを見ると、のわっちは残念そうな顔で日向の方を見ていた。

 

「手が空けば……ですけどね……」

 

日向の事務仕事の半分以上を担うのわっちが、日向の許可無く私を手伝えるとは思えない。要するに期待しないでくださいという意味だ。

 

「わかったわよ!私一人でなんとかするわ!」

 

「川内を連れて行っていいぞ。夜なら元気だと思うから」

 

日向は書類から目を離さずそう言った。そうか、今この場にはいない彼女がいたか。

 

「わかったわ」

 

私はそう言って、明石の作業場へと向かった。今回は捜査局は関係ない。なら好きにやらせてもらうわ。

 

ーーーー

 

 

その日の夜、私と川内は陸奥に言われた住宅街から少し外れたコンビニの駐車場に来ていた。

 

「くぅ〜……久々の外出だぁ……」

 

川内は大きく伸びをすると、久々の外出なのか嬉しそうにそう言った。

 

「あなた、普段は何してるの?昼間はオフィスにいないようだけど」

 

私がそう尋ねると、川内は困った顔で私に文句を言い出した。

 

「昼間は寝てるよ。それで、夜は日向の書類仕事を手伝ってる。日向、酷いんだよ。お前を外に出したら帰ってこないからってコンビニにも行かせてくれないんだ」

 

「えっ?日向って夜も仕事してるの?」

 

「そうみたい。私がオフィスに行くと大体仮眠室で寝てるから、起こすのが私のその日の最初の仕事」

 

あの人、そんなに忙しいのかしら。まぁ、私も何もない日……ここ最近ずっとだけど、日向の書類仕事の手伝いばかりしているけど……

 

「それにしても、こんなの買ったこと知ったら、日向すっごい怒りそうだけど……」

 

川内はそう言うと、私が乗ってきたバイクを見た。

 

「明石に頼んで、夕張から安く譲って貰ったのよ。普通に手に入れるよりはだいぶ安上がりだわ」

 

そう言って乗ってきたバイクのタンクを撫でる。そして川内が乗ってきたバイクを見る。彼女のバイクもそれなりに手を入れてある様だった。

 

「あなた、バイク好きなの?私は二輪より四輪派なんだけど」

 

私がそう尋ねると、川内は嬉しそうに話し始めた。

 

「うん。渋滞もないし、何より風を切って自分で操る感覚は車じゃ得られない快感だよ。いいでしょ、私のニンジャ」

 

川内はそう言って緑色の車体に頬擦りをした。側から見てると少し気色悪い……私の顔に気がついた川内は不服そうな顔をした。

 

「何さ。足柄だって明石に無理言って変な捜査車両作ったらしいじゃないか」

 

「あれはみんなのものよ。私の私物の車はミニバンよ」

 

「でも本当に乗りたい車は?」

 

「欲を言えば33。でも今乗りたいのは35」

 

「あぁ……あの紫は確かに足柄っぽいわ」

 

「………私はあなたが来てくれた事を心から歓迎するわ」

 

私と川内に友情が芽生えたその時、住宅街の方からけたたましい排気音が聞こえて来た。

 

「来たみたいだね」

 

「そうみたいね」

 

私はバイクのエンジンに火を入れた。

 

「600でついてこれる?私のリッターだけど?」

 

川内が挑発的な目で私を見た。

 

「このCBRは向こう仕様よ。余裕だわ」

 

私も自信満々に返すと、川内はケラケラと笑った。

 

「足柄は二輪の実用性をわかってないね!それを教えてあげる!」

 

川内はオレンジのメットを被ると、勢いよく駐車場を飛び出した。私は慌ててメットを被り、緑の車体を追いかけた。

 

ーーーー

 

 

しばらく川内を追いかけていると、騒音が本格的にうるさくなってきた。どうやら騒音の中心に近付いただけではなく、パレードをしている台数が多くなって様だ。

川内が急にバイクを路肩に止めた。私もその後ろにつけると、メットを外した川内は申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「ごめん、バイクのことで頭がいっぱいでこれ渡すの忘れてた」

 

川内はそう言うとインカムを渡して来た。どうやら、私に何かを伝えようしたら、伝達手段が無いことに気がついたらしい。

 

「これ、どうすれば話せるの?両手は塞がってるからスイッチ押せないけど……」

 

「話せば声を拾って勝手に送信されるよ。それで、これからどうする?」

 

「赤色灯も無いから、摩耶を止めるにはどうすればいいかしらねぇ……」

 

私がそう言うと、川内は住宅街に見える、小高い山を指差した。

 

「あそこに行けばいると思う。私達が想像してた暴走族じゃないみたい」

 

「どういうこと?」

 

「音……かな……私も確信はないけど、あそこに集まる気がする」

 

川内は自信たっぷりの表情でそう言った。言っていることと、表情が一致していない。

 

「そう……じゃあ行ってみましょうか」

 

私がそう言うと、川内は真面目な顔で私の両肩を掴んだ。

 

「いい?車と違って下手にアクセル開けたら後ろが流れてバランス崩すからね?ちゃんと荷重を意識して運転して。多分大丈夫だと思うけど……無理はしないで」

 

私は川内の真面目な表情に冗談を言う気になれなかった……というより、少し自信がなくなった。

 

「わかったわ。あなたについていくことだけを考えるわ」

 

「どんな時でも冷静にね。バイクは自分の体の動きでどうにでもなる気がするけど、そんなの出来るのトップライダーだけだから。バイクとタイヤの話をよく聞いて、ちゃんと応えてあげればその子もあなたの言うこと聞いてくれるから」

 

川内はそう言って自分のバイクに跨った。私もメットをかぶり、エンジンをスタートさせる。シートから心地よい振動が伝わってくる。

 

「行くよ!」

 

耳元のインカムから川内の声が聞こえると、川内のバイクはゆっくりと動きだした。

 

ーーーー

 

 

川内が指差した小高い山に向かう途中、私達は何台ものバイクを追い抜いた。住宅街の中を法定速度外で走るバイクを川内は躊躇う追い抜いていく。私も後ろめたい気持ちはあったが、今は川内について行くことに集中した。前を走る川内が私の前から逸れると、やけに早いペースで走る集団がいた。

 

「多分、あれが先頭集団だと思う。あの中に摩耶はいるかもね」

 

インカムが川内の声を伝えると、私は左前を走る川内の方を見た。

 

「あともう少しで山道に入るみたいよ。どうするの?」

 

私がそう言うと、は再び私の前に出た。

 

「山道に入る前にあの集団を抜く。それで、少し車体を揺らしてやるわ。あの喧嘩っ早い摩耶のことだから、それで意味は伝わるでしょ」

 

「了解……無理しないでね」

 

「足柄もね。足柄は私についてくることだけ考えて。無理ならペースを落として……けど、重巡の力には敵わないから出来るだけ早く助けに来てほしいかな」

 

川内の声をインカムが伝えると、前を走る緑のバイクは吠えるような排気音を上げながら私から遠ざかって行った。私もそれに続く様にアクセルを捻る。私が集団の横を少しずつ追い抜こうとすると、緑のバイクは集団の前に出ていて、車体を左右に揺らした。

 

「足柄!そのまま全開で私について来て!」

 

川内の声に合わせて、スロットルを全開まで捻る。私が集団を追い抜くと同時に、集団の中から水色のバイクが飛び出した。とんでもない爆音が横から聞こえてくると、

 

「摩耶!」

 

私が思わずそう叫ぶと、川内がそれに答えた。

 

「うるさい!あの音じゃ叫んでも聞こえないよ!集中して私について来て!お説教はその後!」

 

川内の叫び声が聞こえると、私の体が後ろに引っ張られる様に感じた。登り坂に入っていた。緑色の車体がゆっくりと右にバンクする。私もそれに合わせてバイクを傾けると、少しずつ外に膨らんで行った。緑のバイクがどんどん視界の右側に消えて行く。

 

「登りは前輪に荷重が乗りにくいのに加えて、体が後ろに引っ張られるからしっかりライディング姿勢をキープして!」

 

川内の声が聞こえると同時に私の右側を水色のバイクが駆け抜けていく。初っ端から抜かれた……私はその焦りからスロットルを捻ってしまった。タコメーターの針がグンっと跳ね上がると、後輪がギュッと音を鳴らした。その音を聞き、先ほど川内が言っていた言葉を思い出す。私はゆっくりとスロットルを戻すと、内側に巻き込みそうになりながらもなんとか姿勢を立て直すことができた。私の前に緑と水色のバイクがけたたましい音を立てながら走っている。私がもたついていたのに追いつけるってことは、まだ二人とも本気じゃない。

 

「その子の戦闘力はそんなものじゃないよ!足柄!」

 

川内の声が聞こえる。どことなく楽しそうな声だった。私は太ももに力を入れ、頭を下げた。この子の声をちゃんと聞きたい。いつの間にか、川内や摩耶のことを忘れ、私は前の二台を追いかけることに集中し始めていた。

 

ーーーー

 

 

しばらくとんでもないスピードで走る二台を追いかけていた。いや、それについて行ってるのだから自分もとんでもないスピードで走っているのだろう。そんな事を考えていると、少しずつ周りが見え始めていた。よく前の二台を観察してみると、川内はバイクにべったり張り付いているのに対して、水色のバイク……恐らく摩耶の方は少し状態が浮いていた。

 

「……もしかして、胸の差?」

 

私が思わずそうこぼすと、抗議の声が聞こえて来た。

 

「聞こえてるよ!随分余裕じゃないか?!」

 

「忘れてたわ……ごめんなさいね」

 

自分の呟きが川内にも聞こえる事を忘れていた私は素直に謝った。しかし、川内はそんな事は御構い無しだった。

 

「足柄、左側が見える?」

 

川内の声が聞こえ、言われた通り左側を見ると、落ちたら命の保証は無いと言わんばかりの二重になったガードレールが見えた。その奥は視界がひらけていた。

 

「私にプレッシャーをかけたいの?」

 

私がそう言うと、川内の真面目な声が聞こえて来た。

 

「違う、その奥!次の左を曲がったら長いまっすぐがある。その途中から下に入る、そこが勝負のポイントになるよ!」

 

「どういうこと?」

 

私がそう答えると、川内は恨めしそうな声で答えた。

 

「そのご自慢の胸をしっかりタンクに押し付けてろってこと!」

 

そう聞こえてくると、緑色のバイクが少しずつ離れていった。それに合わせて水色のバイクも離れていく。絞っていたスロットルを開け、二人に追いつこうとすると、目の前に左へ曲がれと言わんばかりの壁が迫ってくる。前の二台は反対車線に飛び出し、目一杯右側へと寄った。私もそれに続く。ほぼ直角の左が見えてくる。前の二台のブレーキランプが同時に光った。私はそれに釣られて後輪のブレーキをかけた。少しずつだが、水色のバイクが迫ってくる。後ろに張り付くと、今度は前輪のブレーキをかけ、体重を左にかける。前を走る水色のバイクと同じタイミングで車体がバンクした。外側に引っ張られるのを、川内に言われた通り、体を車体に密着させ、踏ん張る様に耐える。少しずつ水色のバイクが視界の右側に流され、前方の視界が開けてきた。緑色のバイクが少しずつ姿勢を立て直し加速して行くのが見えた。私はそのままガードレールに張り付く様に曲がると、私の目の前に緑色のバイクが視界を遮った。

 

「逆車特有の高回転の伸びの違いを見せてやれ!」

 

川内の声が聞こえてきた。それと同時に私の横に聞こえてきた爆音が少しずつ後ろへと流れていく。しかし、それが自分の後ろになる事はなかった。しっかりと体をバイクにくっつける。もうそろそろ下りに変わるポイントが来そうな気がしたからだ。すると、いきなり、緑のバイクが視界から消えた。

 

「足柄!あと宜しく!」

 

川内の声が聞こえると同時に私の体が宙に浮いた様な感覚を覚えた。実際、バイクが浮いたわけでは無いのだが、私は咄嗟に前輪を押し込もうとしたが、前輪を支えるサスがそれを拒んだ。

 

「姿勢はそのままでケツに体重を乗せろ!」

 

そう言われた様な気がした。私は言われるがままにお尻に体重かけると、ミラー越しに二台を抜いたのがわかった。川内はこちらに手を振っていて、後ろを走るバイクのライダーは上体を起こしていた。非現実的な空間の末端までたどり着いた事を私はこの時感じた。

 

ーーーー

 

 

「いやぁ……負けた負けた。まさかあそこまで突っ込むとは……」

 

山を下ったところにあるコンビニの駐車場に辿り着くと、水色のバイクのライダー……摩耶がメットを外してそう言った。

 

「疲れた……」

 

私はスタンドを立て、メットも外さずにバイクにうなだれていた。そんな事は御構い無しに、摩耶は話を続けた。

 

「ニンジャに乗ってるのが小柄だったから、あのポイントで刺そうと思っていたら……まさか私をブロックして、ペーペーのCBRに行かせるとは……それに応えるペーペーもペーペーで恐れ入ったぜ」

 

「ほら、足柄!お説教は?」

 

メットを外しながら川内がそう言った。その声に、摩耶は驚いた様子だった。

 

「足柄?!それに、お前は川内じゃないか!」

 

体を動かす気力がない私のメットを川内が外すと、私はバイクにへばりついたままやる気のない声をあげた。

 

「あんた何、夜な夜なカーニバルしてんの?」

 

私がそう言うと、摩耶は顔を真っ赤にした。

 

「そのネタはやめろ!私じゃねぇし!てかカーニバルって言うなよ!」

 

「それで、摩耶はなんでこんなことを?」

 

川内がやる気のない私に変わって聞いてくれた。

 

「なんでって、バイクは楽しいだろ?」

 

「それで人様に迷惑かけてんじゃないわよ」

 

私がそう言うと、摩耶は困った様な顔をおしていた。

 

「いや、なんか知らねぇけど、走ってると他のバイクが絡んで来やがるんだ」

 

「そんなうるさいバイク乗ってれば当たり前よ」

 

「仕方ねぇだろ!金ないんだから!」

 

摩耶は自分は悪くないと言わんばかりの態度だった。

 

「お金ないって……それなりの生活はしてるでしょう?」

 

川内が不思議そうに尋ねると、摩耶は首を横に振った。

 

「金は全部姉さん達が管理してるんだよ。いい加減定職につけってうるさいしよ」

 

「今何してんの?」

 

少し体力が帰って来た私は状態を起こして彼女に聞いた。

 

「ガソリンスタンドでバイト。そこでバイク知ったんだよ」

 

「ふぅん……お仕事してないんだ……」

 

私の頭の中にはいつでも冷静で余裕をかますある人物の顔が浮かんでいた。摩耶は私の言葉に、イライラを隠そうとはしなかった。

 

「なんだよ。バイトだって立派な仕事だ!」

 

「わかっているわよ。ねぇ、好きにバイクで仕事してみる気ない?いいところを知っているのだけど」

 

私は摩耶に近寄ると、顔をお覗き込む様に見た。摩耶は動揺を隠せていなかった。

 

「な……なんだよ……」

 

「いえね、私をこんなに疲れさせた人に八つ当たりしたいのと、あなたにぴったりの仕事を紹介したい……って思っただけよ」

 

ーーーー

 

 

それから数ヶ月後、私は再び陸奥に呼び出された。陸奥の嫌味ったらしい顔が見れると上機嫌な私は再び駅前の喫茶店に足を運んだ。

 

「足柄、久しぶりね」

 

喫茶店には陸奥の他に高雄が来ていた。陸奥も予想していた様な顔ではなく、普通の表情をしていた。

 

「この前は摩耶が迷惑かけて……それに仕事まで紹介してくれてありがとね」

 

高雄はそう言うと、頭を下げた。

 

「気にしないで。私も楽しかったわ」

 

私がそう返すと、陸奥が話し始めた。

 

「摩耶、すっごい嬉しそうに白バイ乗り回してるわよ。それにちゃんと検挙もあげてるわ。この前、白バイ隊の隊長にお礼言われちゃったわ。強引に入隊させて文句言われるかと思ったら、摩耶が意外としっかりしてて受けがいいみたい」

 

おかしい。私の予想とは反している。摩耶が暴れて、陸奥がペコペコ頭を下げているものだと予想していたのに……

 

「それはよかったわねぇ……」

 

私が無理に笑うと、高雄がジトッとした目で私を見て来た。

 

「なによ……?」

 

「いえね、摩耶がね、R1000を買ったの。今度は足柄にも川内にも負けないって言って……夜な夜な川内と遊んでるらしいし……それに関しては私、納得できないのよね……」

 

「えっ……私は嫌よ!バイクはゆっくり乗るのに限るって思っているのに」

 

あの日以来、私はバイクに乗っている。速さを競うのではなく、休みの日にゆっくりツーリングに出かけていた。

 

「あら……あらあら。私の仕事を増やさないでね」

 

陸奥が面白そうに私を見ていた。

 

「しかし、R1000ねぇ……ん?よく知ってるわねぇ」

 

高雄からバイクの名前が出てきたことを疑問の思っていると、高雄は携帯を取り出し、一枚の写真を見せてきた。

 

「これ、私のエリミネーター。美人でしょ」

 

「あなたの影響じゃない……」

 

今時女子がガールズトークに花を咲かせる店内で、私はまた天井を仰いだ。

 


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