海軍特別犯罪捜査局   作:草浪

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NSCI #24 管理された自由(4)

陸奥さんと現地で合流する約束を取り付け、日向さんと例の貿易会社へと向かいました。足柄さんは青葉さん達に話をするということで別行動となりましたが、夜には合流する手筈になっています。

 

「野分は今回の一件、どう思っているんだ?」

 

助手席に座る日向さんが野分に尋ねました。

 

「政治に巻き込まれることは前から予想はしていましたが……ここまで大胆にやってくるとは思っていませんでしたね。個人単位での買収なり、脅迫というのは想定していましたが……」

 

野分はそう答えました。実際、これまでにここまで大掛かりに艦娘を手に入れようという動きはありませんでした。しかし、どうやら野分の回答は日向さんを満足させるものではありませんでした。

 

「この管理計画の良し悪しについて聞かせてくれないか?」

 

日向さんは腕を組みジッと考え始めました。

 

「野分は反対です。軍属で戦争中ならまだしも、今は戦争も終わってみんな平和に暮らす事を望んでいます。それを自分たちのの私利私欲の為に働くのを快くは思いません」

 

「そうか……実は私は悩んでいるんだ」

 

日向さんは驚くべき事を口にしました。野分も足柄さんも、絶対に反対すると思っていたし、そうであるべきだと考えていたので、日向さんが悩んでいることが信じられませんでした。

 

「……日向さんのどこかで、艦娘は管理されていた方がいいという考えがある……そういうことですか?」

 

野分は思わずハンドルを握る手に力を込めました。

 

「そうじゃない。この計画の実行部隊は私たちになる。そうすれば今よりも艦娘を巻き込む事案を事前に抑え込むことが出来るんじゃないか……そう思えてきてな」

 

日向さんは目を閉じると、何かを考え始めました。

 

「それでも、政治家の言いなりになるのは嫌ですよ」

 

野分がそう答えると、日向さんは表情を崩しました。

 

「足柄も同じ事を言うだろうな。当然私もそう思っている。今よりも権限が与えられ、好き勝手に出来るなら……そう思うわけだ」

 

「好き勝手にできればいいですけど……」

 

「今だって好き勝手にやっているんだ。少し抵抗が強くなったところで変わらないだろう?」

 

「……そういう意味ですか」

 

日向さんが考えていることがわかり、少しホッとした反面、やっぱり無茶苦茶をするんだと思ってしまいました。

 

「なんにせよ、私は自分達は何もしなかったのに横槍を入れる連中が気にくわない。すまないが、私のわがままにもう少し付き合ってもらうぞ」

 

日向さんはそう言うと、ダッシュボードの中から拳銃を取り出しました。

 

「……話を聞きに行くだけですよね?」

 

「これで聞ける話もあることを野分も知っているだろう?」

 

日向さんは冷たい表情で拳銃を見ていました。

 

 

そこまで大きくない建物の駐車場に車を停めると、既に陸奥さんが到着していました。

 

「急に呼び出して、一体なんの騒ぎかしら?別の件で忙しいのだけど……」

 

陸奥さんは不満そうに日向さんを見ました。

 

「もしかしたらこれで最後になるかもしれないんだ。悪いが協力してくれ」

 

最後という言葉に野分は言葉を失いましたが、陸奥さんはため息をついて呆れていました。

 

「あなたの最後は何回あるのかしら?それで、ここに何があるの?」

 

陸奥さんは諦めた様子で日向さんに話を聞きました。

 

「ここに艦娘を不条理に取り込もうという動きがあってな。その話を聞きにきたんだ。表向きは不正な金が動いているということで来てはいるが」

 

「不条理ねぇ……アポは取ったのかしら?」

 

「だからお前を呼んだんじゃないか」

 

日向さんがしたり顔で陸奥さんを見ました。それを受けた陸奥さんは大きなため息をつきました。

 

「私の手帳はマスターキーではないのだけど……それにあなた達だってそれなりの捜査権は持っているでしょうに」

 

「二つのバッジがあれば行けないところはないさ。いくぞ」

 

日向さんはそう言うと、建物の入り口に歩き始めました。陸奥さんは嫌々という様子でしたが、渋々後に続き、野分もその後を追いました。

 

 

受付で用件を言い、通された部屋で五分ほど待つと、高価そうなスーツを着た初老の男性が部屋に入ってきました。

 

「お話は伺いました。そんな事実はありません」

 

男性は部屋に入るなり、興奮した様子でそう言いました。

 

「私たちもそんなことはない。そう考えています。なにより、これを立証する証拠がありませんからね」

 

日向さん落ち着いた様子でそう言いました。

 

「でしたら、これでお引き取りをお願いできますか?会社として警察を出入りさせたとなったら評判が悪くなるので……」

 

男性は早々に話を終わらせ、野分達を追い出そうとしましたが、日向さんも陸奥さんも動こうとはしませんでした。

 

「火がないところに煙はたたないと言うじゃないですか。何故軍内でこの様な噂が広まったのか、何か心当たりはありませんか?」

 

日向さんがそう言うと、男性は知らないの一点張りでした。日向さんが陸奥さんに目で合図をすると、陸奥さんはそれを受けて喋り始めました。

 

「彼女達の要請を受けて、こちらでも調べさせていただきました。その結果、不審な送金記録を見つけました。あなたは何かご存知ではないですか?」

 

陸奥さんが冷たい視線で男性を見ました。その視線に男性は一瞬ひるんだ様子でしたが、陸奥さんは詳しくは何も知らず、ただ鎌をかけただけでした。

 

「仕事絡みの送金だろう。別にやましい金じゃ……」

 

「賄賂ですか?こちらもまだ全貌を把握しているわけではないので、どこに送金したかまでは調べがついていません。まぁ時間の問題でしょうが……」

 

陸奥さんは冷たくそう言い放つと、日向さんにアイコンタクトを送りました。それを受けた日向さんは、野分がとっているメモを見ると、感慨深そうに話し始めました。

 

「別に私たちも、あなた達がやっていることに文句を言うつもりはない。だが、上手くやってくれないと火消しで忙しくなるのでな……」

 

日向さんは冷たくそう言うと、男性の方へと歩み寄りました。

 

「だから何も知らないと言っている……」

 

「黙れ」

 

日向さんは男性の言葉を遮り、男性の背広の内側に手を入れました。

 

「お前らが勝手に動いたせいで、現場は大変なんだ。私たちが担当になったから良かったものの……計画が頓挫したら、貴様どうやって責任を取るつもりだ?貴様の命だけでは足りないことぐらいわかっているだろう……?」

 

日向さんが小声で男性にそう言うと、男性の体が震え始めました。野分は黙って見ていることしかできませんでしたが、陸奥さんはおもむろに立ち上がると、出入り口に歩み寄りました。

 

「別に私たちはあなたにどうこうするつもりはないわ。けれど、これからやらなくちゃいけないことがいっぱいあるのよ。円滑に進めるためにいまどうなっているのか、それを教えてちょうだい」

 

陸奥さんは扉に寄りかかり、出口を塞ぎました。

 

「こちらの現状は話した通りだ。お前らがこちらに何も伝えずに動いた結果がこれだ。これからどうするつもりだ?」

 

「どうするも何も……あの三人がまとめようとしている法案を邪魔するだけだ……そもそもお前らは誰の指示で動いている……」

 

男性が怯えた目で日向さんを見ました。日向さんは冷たい表情を崩さず、男性を見ていました。

 

「末端のことなどお前が知らなくてもいい。それにわかりきったことを言っても意味がないことぐらいわからないか?」

 

カチリと言う金属音が聞こえると、男性の表情が恐怖に包まれました。目の前の光景に頭がついていかず、野分は男性が言う言葉を一字一句逃さずメモをとることしかできませんでした。

 

「待ってくれ!わかった!話す!」

 

男性は慌てた様子で叫びました。

 

「私たちは口封じを頼まれた。だが状況が変わった」

 

「あぁ、だからこれからは別のネタでやつらを強請る。艦娘って知っているか?」

 

「艦娘?人型の兵器か?」

 

男性が口にした言葉に、日向さんも陸奥さんも表情が強張りました。

 

「そうだ。やつらは強引な方法で艦娘を手中に置こうと考えている。だから艦娘を使ってやつらをハメる手筈になっている」

 

「どうやってハメるんだ?場合によってはまた私たちはが火消しで駆け回ることになる」

 

「艦娘を使ってやつらの一人を消す。それで奴らの計画は頓挫させる。いまはそういう計画だ」

 

「そうか……その艦娘は誰だ?大きな火が起きないよう、私たちも協力する必要がある」

 

「大和だ!たしか大和とかいうやつだ!」

 

「わかった」

 

日向さんは男性の背広から手を抜くと、持っていた拳銃をホルスターに収めました。陸奥さんにアイコンタクトを送ると、陸奥さんは後ろから男性に忍び寄りました。

 

「情報提供ありがとう。これ他人に漏らしたらあなた一人に泥をかぶってもらうわ。当然、家族も無事だとは思わないことね……」

 

「時間を取らせてすまないな。野分、行くぞ」

 

日向さんと陸奥さんはそう言うと先に部屋から出ていきました。野分はノートを鞄に入れ、慌てて後を追いました。

 

「お前らは一体……」

 

怯える男性を横目に、何も言わずに部屋を後にしました。

 

 

近くのコンビニまで車を走らせ、日向さんの指示で駐車場の端に車を停めると、陸奥さんもその横に車を停めました。

 

「それで、計画とか法案って何のことかしら?」

 

車を降りた陸奥さんは不機嫌を隠さずに日向さん尋ねました。

 

「今はまだ話せない」

 

日向さんは申し訳なさそうにそう言いました。

 

「なにそれ。ここまで付き合わせたんだから話しなさいよ」

 

陸奥さんが日向さんに詰め寄りました。日向さんは何も言いません。

 

「あのッ!」

 

それまで言葉を発することができなかった野分の喉がやっと声を出せました。

 

「今回の件は、野分達も秘密裏に動いています。ここで陸奥さんを巻き込んで後々に迷惑をかけるわけにはいきません。ですけど、協力して欲しいです。お願いします」

 

頭を精一杯回して出ていた言葉も、理解が得られるものではないことは野分もわかっていました。けれど、野分にはそう言って頭を下げることしかできませんでした。

 

「もう迷惑は被っているのだけど……」

 

陸奥さんは今日何度目かわからないため息をつくと、陸奥さんの車のボンネットに座りました。

 

「それで、私はこれからどうすればいいの?大和を監視すればいいわけ?」

 

陸奥さんはつまらなそうにそう言いました。

 

「いや……大和はこちらで引き受ける。陸奥はこれから青葉達と行動をしてくれないか?指示は追って出す」

 

日向さんが応えました。

 

「指示って……私はあなたの部下じゃないのだけど……まぁいいわ。やったげる」

 

「これからどうしますか?」

 

野分が日向さんにそう聞くと、ちょうど日向さんの携帯がなりました。電話を取り、一言二言の会話を終えると電話を切りました。

 

「足柄が青葉達を捕まえた。これから青葉達の事務所に向かうが、その前にやることがある」

 

日向さんはそう言うと、コンビニに入り、雑誌を立ち読みしていた見覚えのある銀色のポニーテールの人に通りかけざまに声をかけ、そのまま飲み物を買って外に出てきました。

 

「行くぞ」

 

日向さんはそう言うと早々に車に乗り込みました。野分と陸奥さんは顔を見合わせることしかできませんでした。

 

 

日向さんの指示で車を走らせていると、後ろを走る陸奥さんから電話がきました。

 

「ねぇ。さっきから派手な車がずっと後ろにいるのだけど……」

 

陸奥さんにそう言われ、バックミラーを見ると、確かに派手な車が陸奥さんの車の後ろにいました。日向さんにそれを言うと、日向さんは大きなため息を付き、次の角を曲がるように言いました。角を曲がり、狭い路地に入ると、陸奥さんも、その後ろの車も続いて曲がりました。狭い路地を少し走らせると、派手な車が横に並びました。日向さんはそれを見て止まるように指示すると、急いで車の外に出ました。野分も慌てて外に出ると、陸奥さんも車から降りていました。

 

「……他になかったのか?」

 

日向さんが横に止めた車の運転席に座る人物と話していました。

 

「明石さんに急に言われたんで、私物ですよ。急いでいるんでしょ?早く」

 

夕張さんが運転席から降りてきました。そして後部座席から由良さんが出てきました。

 

「お久しぶりです。色々言いたいことがありますけど、それは後にしますね。早く乗って」

 

「ちょっと……押さないでよ……」

 

由良さんは陸奥さんは後部座席に押し込むと、そのまま陸奥さんの車に乗り込みました。

 

「野分、早く乗れ」

 

いつの間にか運転席に座った日向さんに声をかけられ、慌てて助手席に乗り込むと、夕張さんは急いで野分達の運転していた車に乗り込み、発進させました。陸奥さんの車を運転する由良さんもそれに続きました。

 

「どういうことか、説明してくれる?それともこれも話せないのかしら?」

 

腕と足を組み、完全に怒っている陸奥さんが声をかけました。

 

「私たちの車は追跡される可能性があったからな。乗り換えたわけだ」

 

日向さんはそう言うと車をバックさせ、元来た道を戻りました。

 

「事前に言ってくれるかしら?私もあの車私物なんだけど……」

 

「それなら好都合だ。後で私たちのオフィスまで取りに来ればいい」

 

日向さんは何事も無かった様に車を走らせました。

 

「あの……野分が呼び出しておいて、こんなことになってしまってすいません……」

 

「野分は気にしなくていいわ。後でしっかり説明してもらうし、褒美ももらうから」

 

陸奥さんの機嫌はしばらく治りませんでした。

 

 

夕張さんの車を走らせ、青葉さん達の事務所に着いた時にはもう日は沈んでいました。青葉さんのスポーツカーの横に夕張さんの車を停めると、出迎えて来れた足柄さんが目を丸くしていました。

 

「明石も夕張も……趣味が似てるわねぇ……」

 

「まったくだ。運転はしやすかったけどな」

 

「自分の知り合いにFJに乗っている人間がいるとは思っていなかったわ」

 

「H1もそうそういないがな」

 

日向さんと足柄さんが他愛のない会話をしながら事務所に入っていきました。その後を陸奥さんと着いていくと、野分のお腹がなりました。

 

「安心したらお腹すいちゃった?」

 

陸奥さんが悪戯な顔で野分を見ていました。

 

「えっと……その……お腹すきました」

 

少し恥ずかしかったですが、色々なことがあって疲れたのは事実です。

 

「私もお腹すいたわ……どうせ外に出れないんだから何か頼みましょう。ピザがいいわ」

 

きっと日向さんが嫌がるだろうけど、陸奥さんには逆らえないだろうな……そう考えながら陸奥さんと青葉さんの事務所に入りました。


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