海軍特別犯罪捜査局   作:草浪

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NSCI #18 盾と銃は使いよう(3)

その後、リストにあった人たち数名に会いに行きましたが、「知らない」の一点張りですぐに追い返されました。野分達は元艦娘だと言うことを明らかにせずに捜査をしていたのですが、女3人が来たということで警戒されていたのでしょうか。

 

「ここも大した情報は聞き出せなかったな…」

 

戻った車内で長門さんがそう言いながら大きく伸びをしました。

 

「もう、令状とって強引にやっちゃう?」

 

陸奥さんも少し疲れた様子でそう言いました。

 

「それだと今回の捜査を秘密裏にやっている意味がなくなります」

 

野分がそう言うと、陸奥さんは溜息をつきました。

 

「わかっているわよ…次、行きましょうか。野分、住所」

 

そう言われ、野分は今回った人の項目に印をつけ、次の項目の住所を読み上げました。

 

「青葉さん達はうまくやっているでしょうか…」

 

野分はもらったリストをめくりながらそう呟きました。

 

「うまく…というよりは、多分私たちみたいに素直なことはやってないと思うわ」

 

陸奥さんがエンジンをかけ、車を走らせながらそう言いました。

 

「どういうことだ?」

 

助手席にいた長門さんが尋ねました。

 

「彼女達はジャーナリストだからね。私たちは捜査と言ってるけど、取材の名目で回りくどく聞いていると思うわ。他の情報も聞き出すために」

 

「じゃあ野分達もそうしますか?」

 

野分は今日1日で回りきれないであろうリストを見ながらそう言うと、陸奥さんは諦めたように答えました。

 

「本当はそうしたいところなのだけど、時間がないわ。それに…」

 

陸奥さんがバックミラー越しに野分の方にウィンクをしてきました。

 

「あなたも私も、それなりのキャリアがあると信じているわ。怪しい人物を見れば、すぐわかるでしょ?」

 

「野分は自信がないですが…頑張ります」

 

「大丈夫よ」

 

陸奥さんが長門さんの方をチラッと見ると悪戯な笑みを浮かべました。

 

「何かあっても、長門がカッコいいところ見せてくれるから」

 

そう言われた長門さんは自信満々に答えました。

 

「そうだ。私がついているから大丈夫だ」

 

「…長門さん…その…いえ、何でもないです。お願いします」

 

このやりとりを聞いていた陸奥さんが声を押し殺して笑っていたのを、野分は見逃しませんでした。

 

 

その後、数件を回りましたが、大した情報は得られず、その焦りからか、陸奥さんが苛立ち始めた時に、やっと有力な情報が得られそうな人に会うことが出来ました。

とある団地の近くの駐車場に車を止め、歩いて向かっていると、黒いワンボックスタイプ車の脇に、サングラスをかけた足柄さんの姿を見つけました。

 

「やっと来たわね…待ちくたびれちゃったわ…」

 

足柄さんがこちらの方を向くと、疲れた様子でそう言いました。

 

「あなた、こんな所で何をしているの?」

 

イライラを隠そうともしない陸奥さんがそう言うと、足柄さんは少し怯んだ様子でした。

 

「私の独断じゃないわよ?日向に言われて届け物をしに来たのよ」

 

足柄さんは慌てた様子で後部座席のドアを開け、野分達に中に入るように促しました。スモークがかかっていたので、外からはわかりませんでしたが、中に小さなジュラルミンケースが三つほど積まれていました。足柄さんは運転席に乗り込み、エンジンをかけました。

 

「のわっち、今リスト持ってる?」

 

足柄さんにそう言われ、鞄からリストを取り出して渡すと、足柄さんはタブレットの端末を見ながらリストに印をつけていきました。

 

「3人はそのケースの中身を装備してちょうだい」

 

足柄さんにそう言われ、ケースを開けると、そこにはオートマチックの拳銃が一つと弾が込められた弾倉が五本。そしてショルダーホルスターが入っていました。

 

「随分と物騒なものを持って来たな…」

 

長門さんがそれを見ると、眉間にしわを寄せました。

 

「はい、おわり。日向からの伝言よ」

 

印をつけ終えたリストを返してもらうと、赤いサインペンで丸がいくつか書かれていました。

 

「いまわかっている段階で彼らは非合法に銃火器を所持している。留意されたし。とのことよ」

 

「つまり、この印がついている人が危ない…犯行に及ぶ可能性があるということですね」

 

野分がそう言うと、長門さんが不思議そうに言いました。

 

「ならこいつらを全員捕まえればいいんじゃないのか?」

 

「そういうわけにもいかないのよ」

 

陸奥さんが難しい顔をして答えました。

 

「銃を所持していない人間が今回の黒幕だと思うのよ。彼らは懸賞金がかかっていることを知り犯行に及ぼうとしているの」

 

「そういうことよ」

 

「それより…足柄さん、なんでここで待っていたんですか?電話してくれれば待ちぼうけなんてせずに済んだのに…」

 

野分がそう言うと、足柄さんは首を傾げました。

 

「日向がここで待てって言うからそうしたのよ。あぁ、そう言い忘れていたわ」

 

足柄さんが何かを大切なことを思い出した様で、神妙な顔になりました。

 

「その拳銃、発砲はしないでね。それ、ソフトポイントじゃなくて、ダムダム弾だから」

 

「馬鹿なの?」

 

間髪をいれずに陸奥さんがそう言いました。長門さんも呆れた様な難しい顔をしていました。

 

「そんなこと日向に言ってちょうだい。二次被害を起こさないためだとか言っていたけど…私だって反対したわよ」

 

「ダムダム弾ってなんですか?」

 

野分がそう聞くと、長門さんが丁寧に説明してくれました。

 

「大きく広がらない三式弾みたいなものだな。貫通力は無いが、対象に当たれば広範囲にダメージを与えることから確実に動きを止める…というか、殺すことができるな」

 

「そんなものを…どうして日向さんが…」

 

思わず自分の脇の下にある拳銃が暴発したら…そんなことを考えてしまい顔から血の気が引いて行くのがわかります。

 

「使い方は任せる…と言われているけど、私は撃たないでねってお願いしたいわ」

 

足柄さんが疲れ切った様子でそう言いました。おそらく、野分達が外で捜査している時、足柄さんは日向さんに振り回されていたのでしょう。

 

「用件は以上よ。何か聞きたいことはある?」

 

「…日向は何をしているの?」

 

「さぁ…明石に何かを手配させてからは、ずっと大淀とデータや資料を漁っているわ」

 

「そう…わかったわ」

 

陸奥さんは足柄さんの肩を叩いて、外に出ました。それに長門さんが続き、野分が降りようとした時、足柄さんに呼び止められました。

 

「私がここで待ってた意味、わかるわよね?」

 

「ここが一番危険。日向さんはそう考えているってことですよね?」

 

「…気をつけてね」

 

野分が車を降りると、足柄さんは早々に車を発進させました。

 

 

団地の二階に上がり、リストに赤く丸をつけられた住所の部屋番号と名前を照らし合わせ、呼びベルを押しました。先頭は長門さん、その次に陸奥さんが立ち、野分は一番後ろでした。扉が開き、一人の男性が扉の隙間からこちらの様子を伺っていました。

 

「すいません。警察なのですが…少しお話いいですか?」

 

陸奥さんが警察手帳を見せ、男性に声をかけました。

 

「お巡りが何の用だ?」

 

男性は警戒を強めました。

 

「実はこの辺りで軍関係者を襲おうとしている輩がいると聞きまして…その調査でお話を聞けたらと思いまして…」

 

「俺を疑っていると?」

 

「……いえ、逆ですよ。昔軍にいたあなたが狙われているのではないかと思いまして…」

 

陸奥さんも警戒を強めながら、それを表に出さずに応対をしていました。

 

「悪いが何も知らない。それに自衛ならできる。帰ってくれ」

 

男性が扉を閉めようとした時、野分は長門さんの背中を叩き、察してくれた長門さんが扉を引っ張り強引にこじ開けました。男性はバランスを崩し、外に飛び出しました。扉越しで見えなかった左手には拳銃が握られていました。陸奥さんは咄嗟に男性の左ひじを捻り上げ銃を取り上げました。

 

「…あなたを狙っているのは、彼女の様な艦娘なのです。あなたならよくご存知でしょう?お話だけでも聞いていただけませんか?」

 

「どういうことだ…?」

 

男性は驚いた様子で野分のことを見ていました。長門さんと陸奥さんは黙って野分を見ていました。

 

「ここ最近、艦娘が軍関係者を狙った犯罪が頻発しています。彼女はのわ…私たちの管理のもと、働いて貰っているので安全ですが、他の全ての艦娘が安全とは限りません」

 

「艦娘が俺を狙っていると?…そう言いたいのか?」

 

男性は怯えた様子で言いました。チェーンをかけた扉をいとも簡単に開けた長門さんの力を見たら当然の反応でしょう。

 

「の…私たちが女性だけで構成されているのは、そういった艦娘に警戒されずに接触するためです…信じていただけませんか?」

 

「信じるも何も…お前達だって艦娘を連れているじゃないか…」

 

男性は陸奥さんに取り押さえられ、身動きが取れずにいましたが、その目は長門さんを睨みつけていました。野分も咄嗟に出た嘘なので、辻褄を合わせようと考えていると、長門さんが口を開きました。

 

「私は彼女に恩がある。それに報いるために働いているだけだ。彼女を死なせたくなくてな」

 

男性はそれを聞いて黙り込んでしまいました。

 

「銃を所持していた。恐らく何か身に覚えがあるのでしょう。本来は銃刀法違反なのですが、今回は特別に見逃します。丸腰で艦娘から身を守るのは無理でしょうから…」

 

野分はそう言うと、ジャケットをめくって見せ、先ほど足柄さんから渡されたホルスターに収められた拳銃を男性に見せました。

 

「私からのお話は以上なのですが…何かお話頂けることはないでしょうか?」

 

男性は少し考える様な素振りをしましたが、結局何も話してくれませんでした。

 

「そうですか…離してあげてください」

 

陸奥さんにそう言い、拘束を解かれた男性に取り上げた拳銃を手渡しました。

 

「何かあったら、すぐに連絡をください」

 

男性は野分から銃を奪う様に取ると、すぐに部屋の中に戻っていってしまいました。

 

 

長門さんも陸奥さんも一言も喋らず、足早に車まで戻りました。野分も慌てて二人を追いかけました。後部座席に座った野分は、明らかにお二人が不機嫌なのが手に取るようにわかりました。

 

「その…変な嘘をついたことは謝ります…」

 

押し潰されそうな雰囲気の中、やっと謝罪の言葉を口にすることができました。

 

「野分、違うのよ」

 

陸奥さんが単調に答えました。

 

「あぁ、そうだな」

 

長門さんもそれに続きました。

 

「野分が何か悪い事をしたのはわかります…」

 

野分は戦艦二人のプレッシャーにもう泣きそうです。

 

「私も長門も、別に怒っているんじゃないの」

 

「私は怒っているぞ」

 

「ごめんなさい…その理由を聞いてもいいですか?」

 

恐る恐る尋ねると、陸奥さんは深いため息をつきました。

 

「まさか野分が自分の立場を逆手とって追い詰めるとは思わなかったのよ。感心した…というか、日向はあなたに何をさせているのかと思ってね…」

 

「もっと素直に今の世の中を生きてもらいたい…そのために私たちが頑張ろうと思っていたのだが…どうやら私たちが力不足だと感じたし…日向は野分に何をさせているんだと腹が立ってな…」

 

「その…ごめんなさい…」

 

二人の意見を聞いて、嬉しく思った反面、申し訳なく思いました。

 

「この事は後で本人に問い詰めるわ…それで、これからどうするの?野分捜査官殿」

 

陸奥さんがハンドルに抱きつきながらこちらを見ました。長門さんも振り返ってこちらを見ています。

 

「戻って日向さんの指示を仰ぎたいと思っているのですが…」

 

野分がそう言うと、陸奥さんは首を横に振りました。

 

「野分はどうすればいいと思ってるの?あなたの考えが聞きたいわ」

 

陸奥さんの言葉を受けて、長門さんが頷きました。

 

「わかりました…青葉さんを呼んで、彼の行動を監視させましょう。できれば盗聴も行なって貰いたいです。陸奥さんには、警察の力を使って彼が誰かと接触を図ったらそれが誰かを調べて欲しいです」

 

「わかったわ。日向も同じ事を考えているとみたいだしね」

 

陸奥さんはそう言うと、隣に止まっていた車を指差しました。見覚えのある大きな羽をつけた車がそこに止まっていました。

 

「あれ、青葉のでしょ?」

 

「そうですね…いつの間に来たのでしょう」

 

「私にできる事はないか?」

 

長門さんは少し興奮した様子で野分を見ていました。もちろん、長門さんにもやってもらいたいことがあります。

 

「長門さんには…野分とヒーローになってもらいますね。不知火姉さんと那智さんには悪役になってもらいますけど…申し訳ないのですが、連絡をお願いします」

 

野分が申し訳なさそうに言うと、長門さんはよくわからないといった顔をしていましたが、了承してもらい、連絡を取ってもらいました。

日向さんの指示が仰げない今、自分の考えをどこまで日向さんの考えと擦り寄せることが出来るか…自信はないけどやるしかない。野分はそう考えて、これから行う作戦のシミュレーションを頭の中でしました。


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