長門と不知火が部屋に入れる様に手引きをしている間、私の携帯が鳴り、日向からの着信を告げる。
「何かわかったか?」
開口一番にそう言った日向は少し焦っている様子だった。
「まだ何も。これから山城と話をするところよ」
「そうか…」
少しの間があった後、日向はこう言った。
「いいか。山城は今回の件に関与していると思われる。身柄をこっちで拘束しろ」
「ちょ、ちょっと?!」
突然のことに動揺が隠せない。
「理由を聞いてもいいかしら?」
「山城がそこにいる限り、私たちは動けない。手段は問わない。今日中に拘束しろ。いいな?」
「無理難題を仰る」
思わず溜息が漏れる。隣にいたのわっちも心配そうにこちらの様子を伺っていた。
「手段は問わない…のよね?」
「後処理は私に任せろ」
「了解」
のわっちが何があったのか聞かせて欲しいと視線で訴えてきている。
「のわっち…何があっても、私の様な部下にはなっちゃ駄目よ?」
そう言うと、のわっちは苦笑いを浮かべていた。
「足柄さんのことは仕事の面では尊敬しています。仕事の面では」
のわっち、プライベートの面はどうなの?お姉さん悲しいなぁ…
長門に呼ばれ、いよいよ山城と対面する。待たされた間に考えた秘策を持って、私は取調室に入った。
「山城、久しぶりね。少し痩せたかしら?」
椅子に座りながら、拘束されている彼女に声をかける。のわっちも失礼しますと言い席についた。なんてお行儀のいい…
「今度は艦娘のあなた達に尋問されるのね…」
山城は疲れ切った顔をしていた。
「山城さん、野分達は責めたて…」
のわっちの話を遮る。
「そう、あなたを尋問する為にここにいるのよ」
キツい口調で言うと、のわっちも、監視で中にいた不知火も目を丸くしていた。
「何度も言うけど…」
山城がそう言いかけるのを遮って、私は更にキツい口調で言った。
「あなたが普段、扶桑に何をしているのかはもうわかっているのよ」
のわっちも不知火も、想定外の事態に私と山城を交互に見やっている。
「だっ…だからって今回のこととは…」
「私たちは、普段のあなたのことでここにいるの。今回も何もないわ」
睨む様に山城を見ると、疲れているせいもあってか、とても元戦艦とは思えないほど弱々しく見える。
「あれは、姉さまのためを思ってやったことであって…」
「やったことを認めるのね?」
身を乗り出し、山城に詰め寄る。
「いや…その…」
思わず山城がたじろぐ。
「どうなの?やってるの?やってないの?」
机を叩き、自白を促す。
「はい…やってます…」
涙目の山城が観念したかの様に自白した。
「のわっち!確保!急いで!」
「はっ…はいぃ!」
何が起こったのか解らないでいるのわっちが間抜けな声をあげて山城の腕を持つ。既に手錠がかけられているのでどうすればいいのか解らないとあたふたしている。
「ちょっと待ってください」
正常な判断力を取り戻した不知火が私に詰め寄る。
「どういうことですか?説明を求めます」
不知火が睨んでいたが、その目には不安が見え隠れしていた。「こんなことまで聞いていない。どうすればいいのか?」という疑問を投げかけられている様であった。
「あなた達、軍が何を調べているのかは解らないけど、私たちは私たちの捜査でここに来ているの。捜査の邪魔をするならあなたも解っているんでしょうね?」
「わかりません。説明を求めます」
「捜査内容を話すことは出来ない。私たちは仕事があるので、これで失礼するわ。のわっち、行くわよ」
不知火を押しのけて、部屋の外に出る。のわっちも慌てて山城を連れて出てくる。元駆逐艦なのに力強いわねと感じてよく見ると、山城の方が抜殻状態になっていた。
「どういうことだ?!」
部屋の外で待機していた長門が、慌てて、私たちの後を追いかけてくる。私は長門以外の職員にも聞こえる様に言う。
「私たちは特捜よ。あなた達が犯罪者を匿おうとしているのを見逃すと思う?」
長門はわけがわからないといった顔でこっちを見ていた。他の職員からは見えない様に長門の手を引っ張り、メモを渡した。
「じゃあねぇ〜。珈琲、ごちそうさま〜」
そう言いながら手を振り、その場を後にした。
帰りの車内、のわっちはむすっとした顔で助手席に乗っていた。
「それで…」
私がバックミラー越しに後ろに座る山城に声をかける。
「あなた普段、扶桑に何してるの?」
「今更何を…」
山城はこちらを睨む様に見ていた。
「私は何も知らないわよ?」
山城ものわっちも「はぁ?」と言いたそうな顔をしていた。
「だって鎌をかけただけだもん」
「それって…つまり…山城さんを嵌めたってことですか?」
「人聞きの悪いこと言わないの。私は扶桑の身に何かあっちゃいけないと思って山城に尋問しただけよ」
「飽きれました」
溜息をつくのわっちだけれども、少し安心した様ね。
「それで…普段何をしてるんですか…?」
のわっちが後ろを覗き込みながら山城に尋ねる。
「…黙秘するわ」
「何よ、気になるわね…」
「じゃあ次は日向さんに尋問してもらいましょう!」
のわっちが好奇心に満ち溢れた顔で言う。それを聞いた山城は目元を手で覆い、上を向く。
「…不幸だわ…」
オフィスに戻ると、日向が自分のデスクで私たちの帰りを待っていた。
「ご苦労。軍の方には私から手をまわしておいた」
「相変わらず仕事が早いことで」
自分のデスクの椅子を日向のデスクの対面に移動させ、山城に座る様に促す。
「ありがとう…」
そう言うと山城は大人しく席に座った。
「山城、久しいな」
日向がそう言い、一枚の書類を取り出して山城に見せた。
「お前は一時的にではあるが容疑者として私たちの方で身柄を預からせてもらう。扶桑の方にも承諾は得ている。行動の自由は制限されるが、そこはわかってもらいたい」
「別に構わないわ。軍にいても扱いは同じだもの」
「ねぇ、普段、あなたは何をしているの?」
「またその話?!」
山城は参った様なリアクションを取ったが、私が聞きたいのはそこではない。
「普段のお仕事は何か聞いてるのよ…」
「あぁ…」
山城は取り繕ってから話始めた。
「本当は口外してはダメなのだけれども、軍に所属しながら民間企業の役員の秘書をしているわ」
「…そんなこと簡単に言ってもいいの…?」
日向も呆気にとられている顔をしている。
「別に構わないわ。その指示を出した軍上層部に見限られた…そう思うしね」
「どういうことだ?」
「話すと長くなるわよ」
「構わない。続けてくれ…」
「ひとつ条件があるわ」
山城が真面目な顔で日向に向き直った。
「なんだ?」
「私のことはどうなっても構わない。けれど姉様だけはちゃんと守って頂戴」
日向は安心した様に表情を崩すと、「そんなことか…」と小さく呟いた。
「そんなことって…」
山城の声に怒気が含まれている。これはマズイ…それに対して、日向は余裕の表情だった。
「私はお前も扶桑も守ってやるつもりだ。どんな手を使ってでもな」
「日向…」
「しかし…」
日向が悪戯な笑みを浮かべた。
「扶桑には艦娘時代にやたら目の敵にされたからな…どうしてやろうか…」
「約束ができないなら話すことはないわ」
「冗談だ。気を悪くしないでくれ」
ニヤニヤと笑う日向に不安を覚えた山城の表情が面白い。なんとも表現し難い顔をしているのを私も笑いを堪えるので必死だった。
「大丈夫ですよ」
今まで黙って話を聞いていたのわっちが山城に話しかける。
「こんな人たちでも、仕事だけは真面目にやりますから。仕事だけは…」
だからなんで二回も言うのよ…
「よく知ってるわ。目の敵にしてたからね」
山城も苦笑いを浮かべ、のわっちに返答する。
「さて…山城、何が食べたい?」
「…カツ丼とかそんなのしか出ないんじゃないの?」
「生憎だがそういうサービスはうちにはない」
「じゃあ鳳翔さんのところ…」
「そこまでの遠出は許されていない」
「…何があるのよ」
「近くにあるファーストフードか、コンビニかどちらかだな。喫茶店もあるか」
「コンビニでいいわ…でもお金持ってないわよ。急に連れてこられたから」
「それぐらいは出してやる。気を使わなくていいから、好きなもの食べろ」
「…じゃあファミレスでいいわ。帰りにコンビニも寄るからそのつもりで」
「わかった。足柄と野分はどうする?もう定時は過ぎてるが一緒に行くか?」
「ご相伴させてもらうわ。遅くなると思って晩御飯断っちゃたし」
「野分もご一緒します。お昼から何も食べてないのでお腹すきました」
「わかった。お前らはそのまま帰っていいからな。今日は私が残る」
「いいの?」
「足柄と野分には明日も頑張ってもらわなくちゃいけないからな。私は明日は頑張れない」
そう言うと日向は足元から一升瓶を二つ取り出した。山城とのわっちが怪訝そうな顔を浮かべてる。
「ちょっと…本当に大丈夫なの?」
「野分にはもうわかりません」
「晩酌は後だ。さっさと食べに行くぞ」
その後、火力が自慢だった元戦艦とお腹を空かせた育ち盛りの元駆逐艦の夕飯代を会計した日向が「不幸だ…」と呟いていた。私は怖くなって伝票は見ていない。
翌日、朝一番でオフィスに出向くと、日向が既に仕事を始めていた。
「おはよう。早いわね」
きっと遅くまで飲んでいたであろうに、朝からパリッとしている日向には脱帽するわ。
「おはよう。今日の予定はどうなっている?」
モニターから目を逸らさずに日向が問いかけてきた。
「午前中に長門と不知火がこっちにくる手筈になっているわ」
「軍の二人がか?」
「えぇ、山城を連れてくる時に、何故軍が山城を査問にかけたのか調べる様に伝えたのよ」
「上出来だ。しかし何故午前中に来るとわかる?」
「私の勘よ」
「そうか…これを見てくれ」
そう言うと日向は見ていたモニターをこちらに向けてきた。そこには、明石からの調査報告が表示されていた。
「一度強くぶつけた後、押し出す様に車体を当てている…ねぇ」
「現場を見たお前はどう考える?」
日向が背もたれに体重を預けて伸びをする。流石の日向も考えをまとめられていないようね。
「運転席側だけの人間を狙うなら一度ぶつけただけでいいと思うわ。しかし…そこから押し出したとなると…」
事件現場を頭の中に思い浮かべながら、車の動きをイメージする。そこに何があったかを鮮明に。
「中央分離帯…」
陸奥との会話で出てきたこの単語を思い出す。
「そうよ、それにに当てるつもりだったんだわ」
「扶桑も狙われていた…そういうことになるな」
「えぇ、でも、もしそうであれば、少し変じゃないかしら」
「同感だ。人間よりも丈夫な元艦娘を狙うなら、他の方法があったはずだ」
「狙いは大佐の方で、扶桑はついでだったのかしら…」
「あるいは、横に扶桑が乗っていて口封じのためにやった…ということも考えられる」
「情報が少なすぎるわね…陸奥からは何も?」
「使われた車の入手経路をたどっている。早ければ今日中にでもわかると連絡が来た」
「わかったわ…お茶でも淹れましょうか」
「あぁ、頼む」
私は給湯室に行き、日向のお茶とあと四、五分もしないうちに来るであろうのわっちの分と自分の分の珈琲を入れる。普段はブラックで飲むのだけど、朝から頭を使ったので砂糖を多めに入れる。
デスクに戻ると、ちょうどのわっちが来たところだった。
「おはようございます」
「おはよう、珈琲淹れたから飲んで」
「ありがとございます」
のわっちが鞄をデスクの脇に置いて珈琲に口をつける…あら、眉間に皺が寄ってる。
「………甘い」
「あっ…ごめん、間違ってのわっちの方に砂糖を入れちゃった」
「…野分が何かしましたか…?」
「本当にそうじゃないの!ごめんなさい」
先程までのことを知らないのわっちは故意にやったと思っているらしい。必死に弁解する私を横目に日向が小さく溜息をついていた。
長門達がやって来たのは、それから一時間も経たないうちだった。
「随分早いわね」
「あぁ、思いの外すぐに調べがついてな」
「そうなの…で、なんで青葉もいるの?」
長門に背負われながら寝ている青葉も一緒だった
「青葉が頑張ってくれたんですよ」
目の下にクマを作って来た不知火が眠たそうに答える。
「あなたも相当ね…飲み物入れて来るけど、何がいいかしら?」
「「珈琲濃い目で(頼む)(お願いします)」」
「わかったわ。応接室で待っていて頂戴。すぐ持っていくわ」
のわっちに案内を任せると、再び給湯室に向かう。
「青葉も濃い目でいいわよね…」
珈琲の匂いが立ち込める給湯室に少し罪悪感を覚えたけど、タバコよりはマシと言い聞かせ、応接室に向かった。
「あぁ…足柄さん、おひさしぶりです…」
私が扉を開けた音で目が覚めた青葉が目をこすりながら挨拶をする。
「おはよう青葉。さっそくで悪いのだけれども、話を聞かせて貰えるかしら?」
「先に私から話そう。その前に山城もこの席にいれたいのだが…」
長門がそう言うと、不知火も続けて補足をした。
「山城さんが知っていることを不知火達も知りたいのです。この後の調査のためにもお願いします」
「別に構わないわ。のわっち、お願いできる?」
「わかりました」
のわっちが山城を連れてくると、長門がわかったことを話し始めた。
深海棲艦との戦いが終わり、艦娘の多くが普通の兵士として軍に編入された事がきっかけだった。艦娘を近くに置くことをステータスだと考えている佐官とは別に、自分の地位を脅かされると感じている佐官もいるらしい。山城は後者の佐官の下で働いていたのだが、姉の扶桑が秘書に昇進したことを受け、その佐官は山城を左遷した。そして畳み掛ける様に今回の事件で濡れ衣を着せられた…ということらしいのだけど…
「軍内って、一人のお偉いさんの推測で査問にかけられるの?」
「査問は軍法会議ではないからな」
「それについては不知火からお話しします」
今度は不知火が話し始めようとする。
「ちょ…ちょっと待ってください…」
一生懸命メモをとっていたのわっちが話を区切る。
「そういう話であれば、元中佐の日向さんも呼んできた方がいいですか?」
私たちの方見ずにペンを走らせるのわっち。意見具申もあるのだが、時間稼ぎ的な意味合いもあるのだろう。
「時間を見つけて来ると思うわ…多分今頃、軍からのクレームの対応で忙しいと思うわ…」
長門達の方を見ると、二人とも「当然だろ」と言わんばかりの顔をしている。
「あの後、私たちがどれだけ叱責されたことか…」
長門が恨む様な視線で私を見つめる。
「山城に別の容疑がかけられていたのなら教えてくれてもよかったじゃないか」
「というか、よく知ってましたね。扶桑さんが山城さんに下着を盗られて困っているなんて」
「「「えっ…?」」」
ペンを走らせていたのわっちも思わず手を止める。私も持っていたカップを落としそうになった。
「ちょ…ちょっと?!どうしてあなたがそれを知ってるのよ?」
山城が真っ赤な顔で不知火を睨む。
「えっ…いや…時雨が扶桑さんから相談されたのを以前話してくれまして…軍内の元駆逐艦はだいたい知ってますよ…?」
「そんな…不幸だわ…」
「不幸じゃなくて自業自得ね…」
不知火がのわっちの方を見ると声をかけた。
「…話を続けてもいいかしら?」
「はい、もう大丈夫です」
さすがはお姉ちゃん。意図に気がついてさり気なくフォローしたわね…
「では不知火の方でわかったですが…」
不知火が言うには、その艦娘をよく思っていないのは佐官は、自分の部下を使って元艦娘に良くない待遇を与えることで、退役に追いやろうとしていたらしい。そして山城が派遣されていた民間企業の中にも艦娘をよく思わない人間が多く存在していたと言うことだ。
「…そして山城は軍が嫌いになって、海軍関係者を狙った…そう言うことね」
「そういうことだ」
長門と私が納得した様に山城を見る。
「私はやってないわよ…」
「痴漢もよくそう言うのよね…」
「もう何でもいいわ…不幸だわ…」
山城の目から光が失われた。そろそろ不味いわね…
不知火が横で船を漕いでいる青葉を肘でつつく。しかし起きない。
「青葉…起きて…」
肩を揺すって強引に起こしにかかる。
「…寝てませんよ」
今更すぎる言い訳をする青葉にのわっちが興味を示した。
「珍しいですね…青葉さんがこんなに弱ってるなんて…」
「それはですね…」
青葉が不知火の方を見る。
「別の事件で三日三晩寝ずの張り込みが終わった日に、お二人がお願いして来てですね…眠たい目を擦って一晩中車を運転してあっちこっち聞き込みしたりしてたんですよ…」
「お願いだから断ってもよかったのよ?」
「…本気の目付きだったお二人相手に断れるわけないじゃないですか…」
青葉がひとつ大きな伸びをすると、カバンからメモを取り出す。
「青葉の取材によりますとね…」
青葉が話し始めた。色々と必要のない情報も混じっていたが、軍関係者と、非社会的な組織の人間がここ最近頻繁に会っていたこと。その際に多額の金銭取引があったことがわかった。そして、山城いる企業の人間もそれに関与していたこと。それらの報告をすると青葉はペンを取り出した。
「山城さんはこのことを知っていましたか?」
青葉が何か確信めいた表情で山城に尋ねる。軍の二人も鋭い目つきで山城を見る。
「…知らなかったわ…」
山城が目を逸らしながら答える。
「そうですか…最近、綺麗な女性が関与していたと思われる組織の事務所の付近をうろついていた…という情報もあるのですが…」
「私じゃないわ…」
「山城さん…調べればすぐにわかることですよ?」
のわっちが山城に言い寄る。それでも山城は自分の意見を変えない。
「私は知らない。やってない。それだけよ」
部屋が沈黙に包まれる。しばらくすると、応接室の扉が開いた。
「すまない、遅くなった……ひと段落ついているなら、少し早いが昼食しよう」
部屋の雰囲気を察したのか、小休止を提案した日向の後ろに誰か人影があるのを見つけた。
「姉様…?」
私たちの場所からは誰かまではわからないが、山城はその誰かを言い当てた。
「…驚かそうと思っていたのだが…バレてはしかたないな」
扉を大きく開け、後ろに隠れていた扶桑が姿を現した。
「よくわかったわね…」
私が山城に問いかけると、自信気に答えた。
「私が姉様の匂いを間違えるわけないじゃない」
「……そう…お昼にしましょう」
美しい姉愛を見せつけられた私は話題を変えるべく席を立った。
「野分、出前のメニューを取って来てくれ。店は任せる」
「わかりました!」
のわっちが嬉しそうに自分のデスクへ向かっていく。
「脂っこいものはちょっと…」
扶桑が小声で言う。
「心配するな。野分が出前で頼むのはいつも卵とじうどんの蕎麦屋だ」
扶桑を山城の隣に座らせ、日向も席についた。
「さて、ここまででわかったことを話し…」
「持って来ました!」
日向の話を遮り、のわっちがメニューと携帯を片手に部屋に入ってきた。
あぁ…日向が凄く渋い顔してる…
「おかえり。のわっち…さぁ!早く決めてさっさと頼むわよ〜」
日向の顔を見ないようにのわっちからメニューを受け取る。
「今頼めば、注文が混まないので、出来立てがお昼前には配達してくれるはずです!早く頼みましょう!」
日向以外の全員が苦笑いを浮かべる。「はやくはやく」と急かす野分を横目に、日向がため息をついているのを私は見て見ぬフリをした。