すみません。前回のあとがきでデート編と書いたのですが、その前にこれを入れておきたかったので今回はデート編ではありません。
では、どうぞ
From: 城廻 めぐり
To: 比企谷 八幡
件名: 土曜日のお出掛けについて♪
午前10時に千葉駅前に集合で大丈夫かな?あっ、東口側ね。比企谷くんの都合にも合わせたいので、もし時間を変えたいとかあれば返信ください。あぁっ、でも、この時間で大丈夫な場合でも返信くれたら嬉しいです♪
めぐり
保護保護。
俺は記念すべきめぐり先輩の初メールをうっかり消してしまわないように保護する。
今日の放課後、俺は見事めぐり先輩のメアドと番号を交換することに成功した。
『今日の夜にでも土曜日の予定のメールするねぇ』と言われたので、リビングの炬燵で温まりながらそのメールを待っていた。
1度、材木座とかいう見たこともない奴からメールが来たりしてつい携帯を叩きつけそうになったが、何とか踏みとどまり、明日俺に土下座して謝れとだけ返したあとに受信拒否をしておいた。
そして今、待望のめぐり先輩からのメールが届いた。絶対に間違えないように何度も何度も繰り返し読む。
すると、ガチャリとリビングの扉が開く音がする。
「……お兄ちゃん、どしたの?」
小町が引いたような顔で俺を見てくる。
「お兄ちゃんすごい顔がニヤけてるよ。正直気持ち悪い」
引いたようなじゃなく、実際引いてました。
そして俺がスマホを見ていたことに気づくと、更にゴミを見るような目に変わっていく。
「……お兄ちゃん。見るなとは言わないけどさ、変なサイトとか見るなら自分の部屋で見た方がいいよ?」
小町は何か凄く変な誤解をしている様子。
「おいバカ、ちげーよ。メールしてただけだっての」
「メール?お兄ちゃんが?誰?結衣さん?あ、でもニヤけてるってことは戸塚さんかな?」
ん?その言い方だと俺は戸塚とメールをするときはいつもニヤけてるってことにならないか?え?そんなことないよね?
「どっちでもねーよ」
「えっ、じゃあ誰?まさかの雪乃さん?」
「違う違う。お前の知らない人だよ」
俺がそう言うと小町の目がキラーンと光る。
「これはっ!新しいお義姉ちゃん候補の予感!お兄ちゃんちょっと見せて!」
小町が素早く俺のスマホを取り上げる。
「やはり女の人!ねぇお兄ちゃん!誰!?城廻めぐりって誰!?同級生?後輩?もしかして先輩!?」
小町が何やら興奮している。
「しかも土曜日お出掛けって書いてある!いつ!?今週の土曜日!?それって明後日じゃん!デート?もしかしてデートなの!?」
「うるせーよ。ちょっと一緒に映画観に行くだけだっての」
「キャアー!!デートじゃん!何それ!いったいいつの間に!それ、小町的に超ポイント高いよっ!」
「高いのはお前のテンションだっての」
ほんと何なのこの子?お兄ちゃんが女の人と一緒に出掛けるのがそんなに珍しいの?あ、はい。珍しかったですね。
「いいからスマホ返せって。まだ返信してねーんだよ」
「あ、そうだねゴメンゴメン」
小町が素直にスマホを返す。やけに素直だな。
「そ、れ、で、城廻めぐりっていったい誰なのさっ」
「あー、先輩だよ先輩。元生徒会長。文化祭とか体育祭とかのときに実行委員やらなんやらで知り合って、最近また卒業式の答辞の原稿手伝ってんだよ」
「なるほど、元生徒会長なら答辞読まなきゃだもんね。それでまた奉仕部で手伝ってるんだ」
「……いや、それは俺が個人的に付き合ってる」
「え?でも雪乃さんや結衣さんは?」
「あいつらは一色の送辞を手伝ってると思う。それで城廻先輩が感動する答辞が書きたいって言うから、参考に今感動するって云われてる映画を観に行こうって誘われたんだよ」
「そこに雪乃さんたちは?」
「……いない」
「2人きり?」
「……ああ」
「……」
「……」
「キャアアぁぁぁーーーーーーー!!!」
小町の叫び声が響いた。
あのね?もう夜の9時回ってるからね?
一応当たり障りのない返信を終え、今俺は小町に根掘り葉掘りめぐり先輩について聞かれていた。
「それでたまたま図書室で会って、流れで答辞の原稿を手伝うことになったんだ」
「ま、そんなとこだな」
「……ねぇ、めぐりさんってどんな人?」
「あん?あーそうだな、可愛くて、癒し系お姉さんって感じだな。少し話すだけですげー癒される。戸塚側の人間だ」
「……べた褒めだね」
「まぁ、嘘偽りはないからな」
小町が驚いたように俺を見る。
「お兄ちゃんがそこまで言うなんて……、女の人だよね?」
「当たり前だろ。失礼なこと言うんじゃねーよ」
俺は男しか褒めないみたいじゃないか。
と、そんなことより、どうせバレてしまったのだから夢のことはまだ内緒だとしても、このことは小町には話しておこう。
「……なぁ小町。ちょっと真剣な話をしていいか?」
「ん?なに?」
俺の真剣な雰囲気を感じてか、少し姿勢を正す小町。
「これから言うことは嘘でも冗談でもない」
「う、うん」
俺は1度深呼吸をする。
「俺は城廻先輩のことが好きだ」
「……へ?」
「まだ告白するつもりはないが、明後日は名前呼びにチャレンジしてみるつもりだ」
「え、ちょっ」
「このことは戸塚とお前しか知らない。そして戸塚には、俺と城廻先輩がうまくいくようにと協力してもらっている。この名前呼びも戸塚の案だ」
「え?は?」
「だからお前にも協力してほしい。いや、心配はするな。受験の邪魔はしない。明後日の俺の服装を考えてくれればそれで大丈夫だ」
「」
「頼めないか?」
「」
「……?小町?」
何故か小町が固まってしまった。
「おーい、小町?」
「き」
「き?」
「き、キャアアアぁぁぁーーーーーーー!!!」
小町の本日2度目の叫び声がこだまする。
いや、だからね?もう10時前だからね?
「落ち着いたか?」
「だ、だだ大丈夫っ。もちついてるよ」
「いや、餅ついてどうするんだよ。いいから落ち着け」
小町がスーハースーハーと深呼吸をする。
「お兄ちゃん、本気なの?」
「……ああ。悪いが、今までにないぐらいの本気度だ」
「……そっか。よしっ!なら協力するよっ!その代わり、今度小町にもめぐりさん紹介してねっ」
「ああ」
「じゃあ早速お兄ちゃんをコーディネートしちゃおう」
「は?今からか?」
「善は急げだよお兄ちゃん。当日の朝に慌てても良いことないでしょ?」
なるほど。
「それもそうだな。じゃあ、ちょっと頼むわ」
「小町におまかせっ!」
きゃぴるんっとウインクする小町はやはり可愛かった。めぐり先輩と小町と戸塚がいる家庭って、本当に俺は恐ろしいことを思い付いてしまったのではないのだろうか。
次回はデート編なのでご心配なく。
感想、評価、お願いします。