人生とは出会いと別れの繰り返し。
出会いがあって初めて別れがある。だからといって別れがあったからまた出会いがあるとは限らない。
この世界には何十億もの人間がいて、日本に限定しても1億以上である。そんな膨大な数の人間がいるなかで高校卒業と同時に会わなくなった人間と再び会うのはいったいどれくらいの確率なのだろうか。
「いや、でも同じ大学ならそりゃ会うでしょ」
「ですよねー」
俺やめぐり先輩と同じく総武高校出身であるサキサキこと川崎沙希。
総武高で俺以外にこの大学を受かった人間を知らなかったのでかなり驚いた。まぁ俺が大学知ってるのなんて、戸塚と雪ノ下と由比ヶ浜くらいなもんだが。
「あんた私立文系じゃなかったっけ?」
製菓研に見学に来た川崎と一緒に椅子に座り、お菓子作りを始めた先輩たちを眺めながら話を始める。
「あー、まあ2年の冬から死ぬ気で勉強したからな」
「……ふぅん。あんたが死ぬ気でね」
「なにかしらその疑いの目は。失礼じゃないかしら?」
「……なにそれ、雪ノ下の真似?」
おお、やっぱ似てるんだな。由比ヶ浜も一発でわかってたし。
「でも、まあそうか。お前、スカラシップとるくらいには頭良かったもんな」
「……まぁ、あんたのおかげでね」
「いや、スカラシップは俺のおかげじゃねーだろ。お前の実力だ」
「でも、あんたにスカラシップのこと教えてもらえなかったらバイトも続けてて、多分ここは受かってなかったと思うし」
「……ま、それはそれで何とかなってただろ」
「……かもね」
川崎と2人でこんなに話したのは初めてかもしれない。前は何かオドオドしてたくせに。あ、それは俺もでしたね。
「でも、何であんたこの大学にしたの?」
「……めぐり先輩に半ば強制で、入れって言われたんだよ」
「……とか言って、一緒の大学に行きたいとか何とか言われて嬉しかったんでしょ」
「……うっせーよ」
「あんたが照れても可愛くないよ?」
「いや、ホントうっせーよ」
照れてないし。いやマジで。照れてないから。
~めぐりside~
「…………」
「いやめぐり、彼氏の方じゃなくて手元見て、手元見て混ぜて」
「えー? わかってるよー?」
「いや、わかってないでしょ。いいから手元見ろ!」
わかってる。約1ヶ月ぶりに元クラスメートに会っただけ。
「めぐりー、それ終わったらオーブン温めておいて」
オーブン、180℃に設定だったよね。
テレテネーカラ! イヤ,テレテルデショ。
「あっつ!! ちょ、めぐり! これ何℃に合わせてんの!? 230じゃんこれ! 熱すぎ!!」
あの2人は別に熱くない。熱いのはわたしと八幡くんだけ。
「めぐり! 焦げてる! それ焦げてるから!!」
焦げてない。わたしと八幡くんは焦げずに永遠に燃え続ける。
「めぐりぃ! いい加減にしろぉ!!」
「えぇぇ!? な、何が!?」
「「「「自覚ねーのかよ!!」」」」
わたしの同級生4人が同時にツッコんでくる。部長は何かため息ついてるし、一体どうしたの!?
~八幡side~
自覚ねーのかよ!! という声がこっちまで聞こえてくる。
「何してんだあれ?」
「さあ?」
川崎と首を傾げていると、先輩たちの方から甘い匂いが漂ってくる。
「おお、なかなか良い匂いだな」
「……でも、ちょっと焦げ臭くない?」
「ん? 確かにそう言われてみれば……」
だがあそこにいるのは全員1年以上製菓研にいた者たちだ。お菓子作りの基本でもあるクッキーを今さら失敗する人などいるのだろうか?
「比企谷くーん! ちょっと来てー」
不意に部長さんに呼ばれたので、そっちに向かってみた。
「彼女の手作りを食べるのは彼氏の役目。と、いうわけで、これ食べてあげて。めぐり作クッキー」
そう言い俺の前に出されたのは一口サイズのクッキーが数個。全体的に黒っぽく、少しビターで大人っぽい匂いが俺の嗅覚を刺激する。
「なるほど、少し苦めのチョコクッキーですね」
「ううん。ただの焦げたクッキー」
ですよねー。黒っぽくっていうか真っ黒だし、てか木炭みたいだし。
一体いつの間にこのサークルには由比ヶ浜が入ったのん?
「う、うぅ~」
何か涙目で唸り声をあげるめぐり先輩。
ごめんなさい。お菓子作りの基本でもあるクッキーを今さら失敗する人は俺の彼女でした。
「ち、違うんだよ! 今日はたまたま失敗しちゃっただけで、いつもはもっと綺麗にできるんだよ!? あ、でも、こんなに焦げちゃったのは食べなくていいから……ってあれ?」
俺は何かごちゃごちゃと言い訳をしているめぐり先輩を無視して、残り1つとなった焦げクッキーを口の中に放り込む。
「は、八幡、くん。全部……」
「苦い」
「うっ」
俺の一言にしゅんと肩を落としためぐり先輩の頭にぽんっと手を置く。
「まぁでも、めぐり先輩がお菓子作り上手なのは知ってますよ。去年、散々食わされたんですから。今日はたまたま失敗しちゃっただけですよね?」
「は、八幡くん……」
くしゃくしゃと頭を撫でると、ついさっきまで落ち込んでいた顔が嬉しそうな表情に変わる。
すると、何故か後ろからおおーという歓声があがり、振り返ってみると先輩たちが拍手をしていた。
「……な、なんすか」
「いやー、比企谷君は男だね~」
「私もああいう彼氏が欲しいなぁ」
「……手慣れてる」
「頭撫でられてる! めぐりんが頭撫でられてふにゃふにゃになってる!」
最後のやつが危ない。
「うんうん。流石は城廻の彼氏だね」
「だ、だからなんすか」
部長さんまでからかってくる。
「……比企谷、あんた変わったね」
「お前までなんだよ」
川崎も呆れながら言ってくる。
俺、そんな変なことしたか? ただ焦げたクッキーはどっかの誰かさんのおかげで慣れてただけなんだが。
「あの、八幡くん……。あんな失敗したクッキーを全部食べてくれて嬉しかったから、お礼って言ったらおかしいけど、何でも好きなこと言って? できるだけ叶えてあげる」
めぐり先輩が何故か頬を染めながらそんなことを言い出した。
「おお! めぐりがいった!」
「言うときは言うよねめぐりって」
「……大胆」
「彼氏君!! ここは男を魅せるところだ! いってしまえ!」
「あ、じゃあ口の中が苦いんで、マッカンでお願いします」
「うん。わかってた」
めぐり先輩の赤く染まっていた頬は一瞬で元に戻り、無表情になってしまった。
そして後ろでは2年の先輩たちがずっこけていて、部長さんが苦笑いをし、川崎は呆れたようにため息をついていた。
何故?
焦げたクッキーは八幡にはなんてことのないものなのです。むしろ手作りクッキーとは焦げているもの。それが彼の中では当たり前。
八幡に常識は通用しねえ。
あと、実はもう高校時代に八幡とめぐりが付き合っていたことは八幡の同級生たちの中ではかなり有名でした。
次回もお楽しみに
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