やはり俺の将来設計は完璧過ぎる。   作:U.G.N

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 どうぞ



平塚先生と佐藤さん

 

「そんでなぁ~、そのとき比企谷がなぁ、何て言ったと思うぅ?」

 

「……さぁ?」

 

「苦しんだから本物ってわけでもないでしょ。だってよぉ~! 可愛くねぇ~!!」

 

「…………そっすか」

 

 本当に、何でこの人はこんなにも残念なのか。

 結婚できない理由が痛いほど伝わってくる。

 

「そのあともな、いろいろあってなぁ。あ~あ、生意気だったな~!!」

 

「ちょっ、うるせぇ」

 

 ったく。

 それにしても……

 

「何だか今日は比企谷の兄貴の話ばっかですね」

 

「んあ? そ~か? まぁ~、この間久しぶりに会ったからなぁ。相変わらず生意気だったけどなぁ! 何であいつに彼女がいて、私に彼氏がいないんだ! …………チッ! すみませーん!ハイボールお代わり~!」

 

「はぁ、飲み過ぎ」

 

「うっさいなぁ~。だいたい今日はお前から誘ってきたんだろぉ~? 明日は休みなんだし、のーまーせーろー!」

 

 座敷の個室で寝転がり、駄々をこね始める。

 

「…………」

 

 藤沢、やっぱねーわこの人。

 

 

 

 

 

「うっ、きぼぢわるい……」

 

 店から出た後、俺が肩を貸して何とか平塚先生を歩かせる。

 

「……おい、待て。そこに公園あるから。そこまで我慢しろ。おい、吐くなよ。頼むぞ」

 

 フラフラしながら公園に着くと、まずは平塚先生をベンチに寝かせる。

 

「ちょっとそこの自販機で水買ってくるから、大人しく寝ててください」

 

「いってら~」

 

 

 俺は自販機で天然水を2本買うと、先程のベンチへ戻る。すると、微かに平塚先生の声が聞こえる。

 

「…………比企谷も、比企谷妹も、楽しそうだったなぁ。あんな初々しくて、聞いてるこっちが恥ずかしくなるような、そんな恋。あれ? 私、最後にそんな恋したのいつだっけ? 今彼氏なんてできてもすぐ結婚をちらつかせちゃって、絶対逃げられるよなぁ~。あはは、自分の悪いところなんて、わかってるんだけどなぁ~。…………………はぁ、彼氏、欲しい、なぁ~」

 

「…………」

 

「このまま、なのかなぁ。…………もう、ダメなのかなぁ」

 

 声が震えている。

 平塚先生だって人間だ。比企谷や一色、俺だってそうだ。俺たちの何気ないひと言があの人を傷つけていたのかもしれない。いくつになろうとも、人は傷つきやすく、脆く、壊れやすい。先生の酒癖が悪いのは、もしかしたら普段心の奥底に隠している深い傷が表に出てこないようにするためなんじゃないのか? 自分が傷ついているのを隠すためなんじゃないのか?

 普段は頼りになって、生徒からも、俺からも、たくさん頼られて。

 

 じゃあ、彼女は一体誰を頼っているのだろう?

 

 彼女には頼れるような人がいるのだろうか?俺たちの前ではいつだって頼れる平塚静でいないといけないから、そう思っているから、思い詰めているから、だから彼女は1人になった今、静かに泣いているのではないのだろうか。

 

 

 

 たった1人で……。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

「おっそーい! 酔いが醒めるじゃないか!」

 

「いや、別にいいじゃねーか」

 

 むしろ、少し醒ますために公園に寄ったんだろ。

 

「はい、水」

 

「おおー。さんきゅさんきゅ」

 

 身体を起こし、ゴクッゴクッと勢いよく水を飲んでいく平塚先生。

 

「…………ぷはー! あー、うまい!」

 

「それ、水ですよ」

 

「わかっているよ。気分だ気分」

 

 立ち上がった平塚先生はなおも水をがぶ飲みしていく。

 

「……それで?」

 

「はい?」

 

 平塚先生がいきなり話しかけてくる。

 

「何かあるから私を誘ったんじゃないのか?」

 

「…………」

 

 咄嗟に言葉が出なかった。いつもなら適当に返せたはずだ。なのに今に限っては、一色の″あの言葉″と、さっきの平塚先生の涙が脳をよぎり、上手く言葉が出なかった。

 

「話してみたまえ。私は君の教育係だ」

 

 何故今日、平塚先生を誘った? そんなのわかりきっている。一色たちに言われたからだ。それをそのまま言えばいい。他に何があるっていうんだ。

 

「ん?」

 

 平塚先生が優しく微笑む。その笑顔は、母親のように優しくて、恋人のように美しくて、そして、平塚先生らしいカッコよさがあった。

 

 その表情にはさっきまでベンチで1人泣いていた平塚静はどこにもいなかった。

 

 じゃあ、さっきまでの平塚静はどこに行ったのか。

 答えは……、どこにも行っていない。

 目の前にいる。彼女が平塚静だ。

 

 

 どこかの生徒会長の言う、俺が惚れているらしい平塚静は目の前の彼女だ。

 

 頼りになって、優しくて、美しくて、カッコよくて、酒癖が悪くて、ヘビースモーカーで、アニメ好きで、暴力的で、ラーメン好きで、寂しがり屋で、泣き虫で。

 

 そんでもって、俺が惚れたらしい女。

 

 

 なぁ藤沢、新しいことなんて何も気付かねーよ。

 

 

 

 もう、知ってるから。

 

 

「……? 佐藤?」

 

 平塚先生が急に黙りこんだ俺に近づいてくる。

 

 そして俺は、その近づいてくる身体を、力強く抱き締めた。

 

「……!? さ、佐藤!? お、おい、どうした!」

 

 いきなり抱き締められた平塚先生はもの凄い勢いでテンパる。

 

「…………好きみたいです」

 

「……は?」

 

「……俺、平塚先生のこと、好きみたいです」

 

 

 

 いや、抱き締めてみて初めて気付いたことが1つあった。

 平塚先生も俺からしてみれば小動物みたいに小さくて、可愛いってことが。

 

 

 

 

 

 

 





 次回、平塚静編最終回。

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