やはり俺の将来設計は完璧過ぎる。   作:U.G.N

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 どうぞ



比企谷小町は兄より厄介

「あの、平塚先生」

 

 教室に向かう途中廊下を歩いていると、後ろからついてきている佐藤が話しかけてくる。

 

「ん?どうした?」

 

「今日はまず担任の顔見せをして、その後始業式、そしてHRをして終わり、ですよね?」

 

「その通りだ」

 

 今日は始業式の日。つまり、校長のありがたい言葉と担任発表、あとは今後の連絡事項などを伝えてはい解散である。

 

「何で教科書持ったんですか?」

 

「ああ。私は基本、現国の教科書をいつでも持っているんだ。質問したい奴もいるかもしれんし、教科書を持っているだけで現国の教師だとわかるだろ?」

 

「なら、まずその白衣を脱いだらどうですかね」

 

「いや、それはできん」

 

「なんでだよ……」

 

 

 

 

 

 

「えー、このクラスの担任になった平塚だ。1年間よろしく。知っているとは思うが、担当は現国。あと、一応生活指導と生徒会の顧問もしている」

 

「……もう社畜だろそれ」

 

「そこの金髪新人、うるさいぞ」

 

「……すみません」

 

 確かに多いことは多いが、運動部の顧問じゃないだけマシだ。休日に活動はないしな。それに去年までは奉仕部もあったんだから、充分楽さ。

 

「まぁ私の自己紹介はこの辺にして、お前たちも気になっていたと思うが、次はこのヤンキーに自己紹介してもらう」

 

「……ヤンキーじゃねぇよ」

 

 はぁ、と溜め息をつきながら教壇に上がる佐藤。

 

「あー、新任の佐藤 潤です。この後の始業式でも挨拶はしますが、一応平塚先生が俺の教育係だそうなので、このクラスには先に挨拶させてもらいます」

 

 何だ、ちゃんと敬語も話せるじゃないか。

 そう思いながら私は教室の後ろまで行き、壁にもたれかかる。

 

「担当は現国なんで、平塚先生の授業のときは基本教室の後ろにいると思います」

 

「まぁ、しばらくしたら授業もしてもらうがな」

 

「……だそうです」

 

 そのまま佐藤が話をしていく。意外と話せてるな。まぁ採用試験に受かってるんだからコミュ障ではないか。

 

 そんなことを思いながら佐藤の話を聞いていると、私の前に座っていた1番後ろの席の女子生徒が私に振り返り、小さな声で話しかけてきた。

 

「平塚先生、佐藤先生の教育係なんですか?」

 

「ああ。さっき佐藤が言っていただろう」

 

「なんでまた?」

 

「上からの命令だ。逆らうことはできんのだよ」

 

「でも、新人のお世話係なんて、先生もすっかりベテラン扱いですね♪」

 

 バコン!

 

「いったぁぁぁ!!」

 

「あ?どうかしました?」

 

「ああ、佐藤。気にするな。生意気な生徒に教育的指導をしただけだ」

 

「出席簿で叩くなんてひっどーい!」

 

「まったく。何故お前たち兄妹は私の精神を逆撫ですることに長けているのだ。比企谷妹よ」

 

 世話のやける兄がいなくなったと思ったら次は妹か。雪ノ下姉妹といい、比企谷兄妹といい、私が特に世話をやく生徒は賢いのに問題児ばかりだな。

 ……いや、確かこの妹はアホだったな。

 

「すまんな佐藤。続けてくれ」

 

「はあ。あー、それで、こんな見た目で大学時代にしていたバイトにもしばらくの間ヤンキーだと思われてたんだが、そういった経歴はないから、安心してくれ」

 

「え、そうなの?」

 

「なんでアンタが1番驚いてんだよ……」

 

 いかんいかん。つい声に出てしまった。

 

「せんせー!バイトって何してたんですかー?」

 

 比企谷妹が佐藤に質問する。ふむ、きっと麻薬の配達だな。

 

「7年間同じファミレスでキッチンを担当していた」

 

「そのなりでか!?」

 

「やっぱりアンタが1番驚くのかよ。ていうか、さっきから失礼だな」

 

「ああ、スマンスマン」

 

「7年って、高校からですか?」

 

「ああ。16の頃から大学卒業するまで」

 

「大学受験のときにやめなかったんですか?」

 

 ふむ。確かに受験勉強しながらバイトは厳しいだろう。教員採用試験にも同じことがいえる。

 

「あー、流石に高3のときはシフトは減らしたな。でもやめはしなかったな。店がキツいときはたまに行ってたし。でも休憩時間とかにも勉強はできるし、意外と家とは違う場所ですると集中できたりするんだよ」

 

 佐藤の言葉に生徒たちがへぇ~と声を上げる。

 それで大学受験にも教員採用試験にも合格しているのだから彼らに対して確かに説得力はあるな。

 

「あー、あと、黙って話を聞くのは得意だ。何か聞いて欲しい話があったら遠慮なく話してくれていい。愚痴でも惚気でも何でも聞き役になってやる。特に惚気を聞かされるのは得意だ。ただし、アドバイスはできん。悩み相談とかだと、一緒に考えてやることはできるが、一方的なアドバイスは無理だから。そこはよろしく」

 

 話の聞き役?何故そんなものが得意なんだ?

 

「せんせー!平塚先生に彼氏ができません!どうしたらいいと思いますか!?」

 

 バチコーン!!

 

「ギャアァァァ!!」

 

 この小娘、比企谷と違って性格が明るくて目立っても何とも思わない分、比企谷より厄介だ。たちが悪すぎる。比企谷、お前は実は優秀な生徒だったんだな……

 

「……すまん。それは俺にはどうしようもできない」

 

「お前も真面目に答えんでいい!!」

 

 おい、何故そこで笑いが起きる!貴様ら失礼すぎるぞ!!ガキども、笑うんじゃない!おい佐藤、何だその可哀想な者を見る目は。や、やめろ!そんな目で私を見るなぁ!!!

 

 

 

 




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