やはり俺の将来設計は完璧過ぎる。   作:U.G.N

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 いろはすのお話です。
 
 どうぞ



一色いろはの想い

 高校1年の初冬。今日は新生徒会の就任式。わたくし比企谷小町は生徒会書記に就任いたしました。1年生は小町の他にもう1人だけ。副会長には元書記だった藤沢先輩。そして、生徒会長は……

 

「どーも。再び生徒会長に就任いたしました。一色いろはです」

 

 総武高初の2年連続生徒会長、一色いろは先輩である。

 

 

 

「いろは先輩」

 

「なーにー、小町ちゃん」

 

 生徒会長の席にだるーっとしているいろは先輩。

 

「てっきりいろは先輩はもう生徒会はやめると思ってました。いろは先輩が前生徒会長になった経緯を知っていましたので」

 

「……まぁ、いろいろ思うところがあってね」

 

 その思うところとはなんなのか、それを教えてもらうことはなかった。

 

 

 時は流れ、お兄ちゃんたちが卒業し、小町は2年生になった。

 

 

 2年になったといっても特に変わったことはなく、……いや、1つだけあった。それは……

 

 

「あの、一色さん。これ……」

 

「ん?ああ。藤沢さん。それならわたしがやっておいたよ?」

 

「え、これ私が頼まれてたのに」

 

「藤沢さん、他の仕事も頼まれてたでしょ?大変そうだったからやっておいた」

 

「そ、そうだったんだ。ありがとう」

 

 

 またあるときは

 

「会長ー!」

 

「それはそこ。あー、それはそっちの引き出し。それはわたしが後でやっておくから机に置いておいて」

 

「かいちょうかいちょう!」

 

「はいはい。もうやっておいたから。持っていって」

 

「ありがとうございます!」

 

「会長。部活の部長会議の時間です」

 

「はいよ。すぐ行くね」

 

 

 またまたあるときは

 

「おお。1年生ちゃん。庶務の仕事早くなったね。入ったばかりのときはオロオロしてたのにー。このこの」

 

「は、はい。一色会長がわかりやすく丁寧に教えてくれたので、頑張れてますっ」

 

「よしよし。えらいぞ」

 

「……えへへ」

 

 

「……」

 

「……?小町ちゃん?どした?」

 

「いろは先輩って仕事できたんですね」

 

「なにそれ、酷いなぁ」

 

 いろは先輩が小町の頭をポンポン撫でてくる。

 

「……兄からは人に頼ってばかりのあざとい小悪魔って聞いていたんですが。あざとくもないし、頼るどころか、頼られまくってますし」

 

「うわぁ、酷いなぁ先輩」

 

「だいたい、いろは先輩が誰かを頼ってるところとか見たことないんですけど」

 

「あー、まぁ、自分でやれることは自分でやるべきだし、わからないことは聞くべきだけど、わたしは3年だからね。教える側だよ」

 

 

 

 

「って言ってました」

 

「嘘だな」

 

「嘘ね」

 

「あ、あははは……」

 

 大学生になって初めて、元奉仕部の3人と小町の4人で食事をしていたときの話だ。

 

 そこで小町がいきなりこんなことを話し出すもんだから、俺と雪ノ下で速攻否定してやった。由比ヶ浜もあの感じじゃ絶対信じてなかったな。

 

 だって、あの頃のあいつを知っている俺らからすれば、そんなあざとくない一色、仕事をする一色、後輩に頼られる一色、全部まったく想像できなかった。

 

 

 だが、俺が総武高に教師として入ったばかりのとき、どうしても気になったのでいろんな先生に聞いて回ったことがあった。

 

 一色がいた頃からここにいた教師は

 

「一色?ああ。あいつは恐らく、総武高で過去最高の生徒会長だっただろうな。あいつの働きっぷりは今でもはっきりと覚えてるよ」

 

 一色が卒業したあとに赴任してきた先生は

 

「一色さん?話は聞いたことがあるわね。何でも総武高で唯一2年連続で生徒会長をして、常に成績もトップクラス。後輩たちからは男女問わず憧れの的になってたって」

 

 さらには用務員のおっちゃんまでも

 

「一色さん?ああ、よく覚えてるよ。あの生徒会長の子だろ?よく花壇の手入れとか手伝ってくれたなぁ。あの子今は何してるのかな。まぁきっとどこにいてもいろんな人に頼られてるだろうね」

 

 そして、極めつけはこの人……

 

「一色か。確かに君たちが卒業してからの一色は凄かったな。私もよく生徒会室には行っていたんだが、私も、というか、生徒会役員ですら彼女が仕事をしている姿を見たことなかったんだ」

 

「いや、それじゃ駄目でしょ」

 

 仕事してる姿を見たことないのに、何故誉められてんだ?

 

「ん?ああ言い方が悪かったな。厳密には彼女が自分の仕事をしている姿を見たことない、だな」

 

 どこが違うんだ?

 

「つまりだな。あいつは常に周りに目を配り、誰かの仕事を手伝ったり、後輩に仕事を教えたりしていたんだよ。だが、決して自分の仕事はしていなかったわけではない。自分の仕事はいつの間にか全て終わっていて、その上で他の奴の手伝いをしていたんだ」

 

「え、なにそれ怖い」

 

 いつの間にか自分の仕事は終わってるとか、どんな超能力だよ

 

「恐らくあの頃の一色は、事務仕事だけなら雪ノ下をも凌駕していただろうな」

 

「……なん、だと」

 

 あの一色があの雪ノ下をも凌駕?

 

「大学も推薦で余裕に合格。ほんと、後輩からは男女問わず頼られまくってたな」

 

 あいつに何があったんだよ……。

 

 

 

 

 

「しまいには、仕事とは関係ない後輩の相談とかも受けてたらしいな。そんでまぁまぁ有名な会社に就職して、仕事のできるキャリアウーマンになったわけだな。まぁできすぎるせいで、男が寄ってこないんだろうけど」

 

 俺は小町や平塚先生に聞いた話を葉山にしてやった。

 しかし、この目の前でぐーすか寝ている奴がそんなに凄い奴だとは今でも想像できないんだが。まぁ確かにさっき話したときは、葉山の前で堂々と葉山の彼女という箔が欲しかったとか言ってたけど。

 

「……まるで奉仕部みたいだな」

 

「あ?」

 

 ビールを飲みながら葉山の言葉に耳を傾ける。

 

「彼女がだよ。あざとくはなくなっても結衣のように明るく後輩を可愛がり、雪ノ下さん並みの仕事をこなし、君のように見えないところで自分の仕事を終わらせてしまう。しかも、後輩の仕事はいろはが全てやってあげるんじゃなく、あくまでも最低限の手伝いや、やり方などの助言をするだけ。しまいには後輩の相談にまで乗ってあげる。まるで奉仕部そのものだ」

 

「……」

 

 確かに言われてみればそうかもしれない。

 しかし、もし葉山の言った通りなら、何故一色は奉仕部の真似事など……。

 

「………無くしちゃダメなんですよ」

 

「……?一色?お前起きて……」

 

「あそこはわたしが1番好きだった場所なんです。だから、無くしちゃダメなんです」

 

 テーブルの上で腕を組み、顔を下げているので一色の表情は見えない。

 

「先輩たち奉仕部のせいですからね?わたしがこんなにもできる女になっちゃったのは」

 

 そう言いながら、一色はゆっくりと身体を起こしていく。

 

「そのせいで良い男が全く寄ってきません!」

 

 バッと勢いよく顔を上げ、俺に指を指してくる一色。そこには、確かに大人にはなったがあの時と全く同じ表情があった。

 

「なので先輩、先輩よりも良い男をわたしに紹介してもらいますから!」

 

 そうあの時と……

 

 

 

「責任、とってくださいね」

 

 

 

 あの時と同じ、小悪魔めいた笑顔が。

 

 

 

 

 




 いろはすでした。
 次回もお楽しみに。

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