第15話です
どうぞ
「は、八幡、くんっ」
はぁはぁと息を切らしながら、めぐり先輩が俺を止める。
「あ、すみません。速すぎましたか?」
「いきなり走り出すんだもん。びっくりしちゃったよぉ」
俺はめぐり先輩と手を繋いでいたことを思い出し、すぐに離す。
「さっき一色さんの声がしなかった?」
「気のせいです。聞こえたとしたらそれは水の亡霊です。俺が自販機に戻しておきました」
「水?亡霊?……自販機?」
んん?と首を傾げるめぐり先輩。どうやら先程の水の亡霊の声は聞いたが、姿は見ていないらしい。
「それより、暑くなっちゃいましたね。外に出ましょうか」
「そだねぇ。暖房も効いてるし、走ったからちょっと暑いかな」
めぐり先輩は首に巻いているマフラーを取り、首もとをパタパタする。
「」
さ、鎖骨が……。白くて綺麗な鎖骨がチラチラと……。いかん、これは罠だ!見てはいけない!……ぐ、見ては、み、ては……。
「ふぅ。じゃあ外行こっか」
あ、パタパタ終わっちゃった。いや、見てねーから。見てないから!
俺は甘い誘惑との激しい戦いを終え、めぐり先輩と外へ向かった。
只今午後2時45分
今までの俺なら真っ先に帰宅を提案していただろう。だが、今日の俺は一味違う。昨日の小町の話を思い出す。
☆小町のデートの心得その2
『甘いものが嫌いな女の子はいません。時間が余ったら1度提案してみること』
「あ、あの、めぐり先輩。少し甘いもの食べたくありませんか?」
「あ、いいね!どこかいいとこあるかなぁ?」
「あー、それで1つ心当たりがあるんですが……」
「ほんと?ならそこ行こうよ!」
ふんふん~♪と機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら、歩き出すめぐり先輩だった。
「確か、この辺りだったと……。あ、ありましたね」
俺が指差す先にあるのは、この間行ったこじゃれたカフェである。
「へえぇ~、オシャレなカフェだねぇ。こんなところにあったんだねぇ。八幡くん、よく知ってるね」
「まぁもちろん、俺が見つけた訳じゃないんですけどね。この間一色に教えてもらったというか、連れてこられたんですよ」
「……」
「……あれ?めぐり先輩?」
めぐり先輩が突然黙りこんでしまった。
「あの、めぐりせn……」
「一色さんと来たの?」
めぐり先輩が俺に被せるように言ってくる。
「え?まぁ、はい」
「……2人で?」
「え?まぁ、はい」
「………そう」
「……?えーと、??」
まためぐり先輩が黙りこんでしまう。
「……行くよ」
「へ?」
「いいから、早く行くよ」
めぐり先輩が俺の腕に抱きついて、引っ張って行く。
「ち、ちょっと、めぐり先輩!?」
ナニコレ!?ナニコレ!?可愛い柔らかい良い匂い恥ずかしい柔らかい柔らかい恥ずかしい柔らかい。
ちょっ、本当に腕に柔らかい感触が当たってるんですけどっ!
俺はめぐり先輩に引っ張られるまま店に入っていった。
「ダージリンとロールケーキで♪」
「あ、あの」
「比企谷くんは?」
「あれ?あの、比企谷って……」
「比企谷くんは?」
「えっと、あの」
「比企谷くんは?」
「………………ブレンドとジェラートで」
「かしこまりましたー」
「……」
「……」
あっれー?めぐり先輩の顔すっごいニコニコなのに、怖い。これはこの間奉仕部で一色を見つけた時と同じ顔だ。ていうか、八幡くんから比企谷くんに戻っちゃったんですけど、何かそれが一番キツいな。
「あの、めぐり先輩は一体何に怒っているのでしょうか?」
「怒ってる?わたしが?」
怒ってるぅー。どう見ても怒ってるよー。
「えっと、マジで何で怒ってるんですか?」
「だから怒ってないよぉ」
「じゃあ何で比企谷呼び戻っちゃったんですか?」
「そうだっけ?大丈夫だよ?八幡くん」
うーん。あ、もしかして。
「俺が一色と2人でここに来たから、嫉妬しちゃったんですか?なんちゃって」
んなわけないわな。
「……」
あれ?めぐり先輩が俯いちゃった。もしかして、更に怒らせたか?
と思ったが、マフラーを取って見えるようになった首まで真っ赤になっている。あれ?まさかの図星か?
「そ、そそそんなわけないでしょ。何を言ってるの?八幡くん」
その後、注文したものが来て機嫌が直ったため、結局何故めぐり先輩が怒ったのかは謎のままだった。
「今日はありがとね。楽しかったよぉ」
俺たちは集合場所でもあった、駅前に来ていた。今日はここでお別れである。
「俺も楽しかったです。誘っていただいてありがとうございました」
「答辞の原稿も頑張ろうね!」
「そうですね。参考になりましたか?」
「まぁそうだねぇ。はるさんの話が聞ければもっと良かったのに」
「それは駄目です。絶対に」
「ははは、わかったわかった」
即答する俺に、若干苦笑いのめぐり先輩。
「じゃあ、また月曜日にね」
「はい」
俺はバイバイと手を振りながら階段を登っていくめぐり先輩の背中が見えなくなるまで、見送った。
比企谷家
「ただいま」
「お兄ちゃんおかえりー」
家に入るとリビングから小町の声が聞こえる。あいつまた炬燵で勉強とかしてんのか?
俺はガチャとリビングの扉を開ける。
「おい、小町。炬燵で勉強は……やめ、ろ……って」
あれ?天使が2人いる?俺の目がとうとう腐り過ぎて幻覚を見せているのか?
「と、戸塚?」
「あはは、八幡お疲れ」
「いや、何で戸塚がいるんだ?」
「いやー、ちょっとね」
「昼間、たまたま会った戸塚さんに勉強教えてもらってたの。お兄ちゃん数学とか教えれないし」
小町が説明してくれる。
「そ、れ、よ、り、お兄ちゃんの話聞かせてよ♪」
「ぼくも聞きたいかな♪」
その後2人の天使に色々聞かれまくったのは言うまでもないだろう。
デート編終わりました。
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