どうぞ
「はるさんも来てたんだぁ」
「まぁね、大学の友達との飲み会があるんだけど、その前に映画でも観に行こーかなと思ってね」
自然に俺たちの席に着く陽乃さん。せっかくめぐり先輩と2人きりだったのに。
「映画って何の映画ですか?ていうか、雪ノ下さんも映画なんて観るんですね」
「ひどいなー比企谷君。私でも映画くらい観るよ」
果たしてそうだろうか。この人は絶対好んで映画なんて見ないと思うんだが。
「それで、2人は何の話してたの?」
「あ、そうそう。今一昨年の卒業式はすごかったんだよって八幡くんに教えてあげてたの」
「卒業式?」
「はるさん、答辞読んだでしょ?」
陽乃さんは思い出したように、ぽんっと手を叩く。
「ああ、あれね。確かその時の生徒会長に答辞読ませてって言ったら推薦してくれたんだよね」
マジでこの人、脅してたよ。
「でも何でそんな話?」
「わたしも答辞任されちゃったんですぅ」
「ああ。もうそんな時期か」
「それで、八幡くんに手伝ってもらってるの」
「あぁ。奉仕部、ね」
陽乃さんは一瞬チラリと俺を見る。
面倒だな。この人が何か言い出す前にこちらが主導権を握ってやる。めぐり先輩との2人きりの空間を邪魔したこと、後悔させてやるよ。俺やってやんよ。
「雪ノ下さん。映画の時間はいいんですか?」
「あ、そうそう。はるさんは何観るの?」
「あー、今流行ってる、感動するって云われてるやつかな」
被ってる、被ってるから。てか、絶対あなたは似合わないからあの映画。
「あー、その映画ですか。さっき俺たち観てきましたよ。幼馴染の主人公とヒロインがやっとの思いで恋人になるんですけど、その日にヒロインが事故に遭って主人公との思い出を全て忘れるんですよ。それから……」
「……それで、最後にヒロインが記憶を思い出してハッピーエンドです」
「」
「ちょっ、八幡くん!?何で全部教えちゃうの!?はるさんこれから観に行くって言ってたのに。それに、1番泣けるシーンも言っちゃうし!」
「へ?あぁすみません。つい」
俺がついネタバレしてしまったせいで陽乃さんが口を開けて固まっている。かなり珍しい顔だと思う。
「あ、あははー、もう比企谷君ったら何でネタバレしちゃうかなー」
「いやー、面白かったんでつい。すんません」
「しょうがないなぁ。じゃあ、あのミステリーにしよっかな」
「ああ。あの映画の犯人、主人公の奥さんですよ」
「」
「この前戸塚と観に行ったんですけど、奥さんが第一の被害者だったんで完全に候補から外してたんですけど、奥さんが犯人ってわかったとき少し鳥肌立ちましたね」
「八幡くんっ!?」
あ、またネタバレしちゃった。てへぺろ☆
「ひ、ひどいなぁ比企谷君。そんなこと言われたら奥さんをずっと見ちゃうじゃない」
「すんません。あまりにも良く出来ていた映画だったので」
「も、もう~。ならSFのやつにしよっと」
「あっ、あれは最後人類滅びますよ」
「何でっ!?何で比企谷君意地悪するのっ!?何で全部言っちゃうの!?比企谷君、私のこと嫌いなの!?」
「いや、別に嫌いというわけでは。まぁ苦手ではありますけど。あ、やっぱり少し嫌いかも」
「ショック!!!お姉さん超ショック!!もういいっ!!比企谷君のバカーーー!!」
そのまま陽乃さんは泣きながら走り去っていった。
あれ?あの人あんなショボかったっけ?
「もぅ~。何であんな意地悪したの?」
「あの人が、俺とめぐり先輩の2人きりの空間を邪魔したからですよ」
「……へ!?」
ボフッと首まで真っ赤にするめぐり先輩。
「そ、そそそ、それって、どういう……」
「どういうも何も、そのままの意味ですよ。俺は今日めぐり先輩と出掛けるの楽しみだったんですよ。だから、誰にも邪魔されたくなかった。それだけです」
「そ、そうなんだ……」
正直な気持ちをめぐり先輩に言ったのだが、めぐり先輩が俯いてしまった。何か気に障ることでも言ってしまっただろうか?
「……わ、わたしもね、今日のことは楽しみにしてたし、とても楽しいよ」
めぐり先輩が俯きながら聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟く。しかし、残念ながら俺は難聴系主人公ではなく、敏感系モブCくらいである。つまり、しっかりと聞こえてしまう。気に障ったんじゃなくて、ただ照れてるだけっぽいなこれ。超可愛いんですけど。
「そ、そうですか。それは、良かったです……」
うん。これは恥ずかしい。誰か助けて。戸塚ぁ!小町ぃ!いや、この際平塚先生でもいい。誰でもいいからこの甘酸っぱい空気を壊してくれぇ!
「あれ?もしかしてせんぱいと城廻先輩ですか?」
「よし、行きましょうめぐり先輩」
「え、ええ!?」
俺はめぐり先輩の鞄と手を掴んで声の主から逃げるように席から離れ、歩き出す。
「ちょ、ちょっとせんぱい!何で逃げるんですかぁ!?」
「うるせぇ!!誰でもいいとは言ったが、お前は駄目なんだよ。絶対に!お前はコカ・コーラの自販機にでも戻ってろ!」
「」
俺はまだ理解の追い付いていないめぐり先輩と、そのまま走って逃げるのだった。
題名通り、あくまでこの物語はギャグなんです。
つまり、魔王もギャグのように八幡が片付けちゃいました。
それでは次回でデート編は終わります。
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