魔導師達は戦争開始から航空機の試験で中々空を飛ぶことはできなかった。
が、戦争が中盤の4ヶ月目にようやく400名分の(一世代前だが)演算宝珠を揃えることができた。
アンチョビはブルシロフ攻勢の反撃作戦に参加した。
前線司令官はヘスではなく、元第一航空連隊中隊長だったブリュンスタッドが空軍少佐の地位で率いた。
最初からアンチョビに従ってきたダキア出身の元貴族の女であり、結婚前に逃げ出し、そのままアンチョビの私軍に参加した経緯がある。
ブリュンスタッドだけでなく何名か元上流階級から脱落した者が空軍には多くいた。
「憂さ晴らしよ。死になさい。」
砲術術式がダキアでは未発達だが、軽機関銃や手榴弾を敵上空から降らせる事で装甲車の前進を可能にしたが、弾薬の消耗が激しかったため帰還した時に陣地を奪還されてしまったが、重武装もしくは砲術術式の発達すれば大打撃を与えることができそうである。
そんな中、火炎放射機の実戦配備が始まる。
アンチョビの言う特殊兵科とは塹壕戦の切り札としている浸透戦術を実行できるだけの練度を持つ突撃兵、援護兵、衛生兵、狙撃兵の育成計画であり、火炎放射兵も必要だが戦車に乗せることを前提にしていた。
しかし、魔導師達の火力不足の一時的な足しにするため火炎放射機が十数機配備されることとなる。
火力支援として大砲もようやくまともなのが共和国からライン生産の許可が降りた。
M1897 75mm野砲であり、連邦の野砲より劣るものの、今までのような射程外から砲撃を受け続けるという心配はなくなった。
戦争も5ヶ月目になると塹壕前に鉄条網が張り巡らされ連邦軍自慢の騎兵単独での突撃は不可能となる。
しかしこの頃から連邦軍・・・いや、第三軍から逃亡兵が出始めていた。
「補給切れか?」
私はそう判断したのだが、共和国からダキアに客人がやって来ると状況が変わる。
「お初に御目にかかります。ミスアンチョビ。」
「ようこそお越しくださいました・・・ケレン。」
ケレン・・・元の世界ではケレンスキーと呼ばれるロシアの政治家であり、ダキアに亡命してきた。
現状社会主義でも選挙の議席数によって革命戦線以外の左翼政党の連立内閣が出来上がっており、国家元首(総統)の私とは別に副総統が内閣のトップがなるシステムになっていることから
『民主的修正社会主義国家』
と呼ばれている。
経済は修正資本主義別名混合経済型、農業も混合農業主体の大規模資本主義型と色々カオスだが、穏健の社会主義者達には手本となる国であり、連邦と対立した社会主義政治家や修正資本主義に興味を持った専門家がダキアに移民してきていた。
しかし今回のケレンは現在連邦の首相だった人物であり、戦争開始時の頭だった奴だ。
「ヨセフ・ジュガシヴィリが議会を掌握した。書記長という職についたため私は追い出されたわけだ。」
計画通りだな。
「私の命をやる代わりに第三軍の一部将校の亡命を許してはくれないか。」