「・・・?誰?何で私の名前を知ってるの?」
目の前の少女は幼く、弱々しく壁に背中をつけ、もたれ掛かるように座っていた。
「ビンゴか。・・・暗くてよく見えないか。どれ。」
光学術式を発動させ、顔がよく見えるようにする。
「全く、旧友を忘れるとはな。寂しいぞケイ。」
カタカタ
「あ、あ・・・千代美か!!」
「久々に日本語を聞いたな。そうだ。今はアンチョビ・・・アンチョビ・サン・ホテロという元ダキア貴族の娘たがな。」
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
「ど、どうした!?」
錯乱状態のケイを落ち着かせ、チスクに言って車に乗せた。
何でも一般的な家に生まれたが、父親の会社が破産すると借金取りがやって来て一家離散状態になり、信用してきた親族や近隣の人達も金が無いとわかると手のひらを返して冷たくなり、路地裏で必死に生きてきたらしい。
可愛そうだと思うが、貴族社会、海外の生活、町長としての活動、経済界等富を持つがゆえにケイの父親ような敗者を星の数程見てきたアンチョビはうろたえることもなく、堂々と言った。
「社会にフェアプレイなんて無い。ケイ、フェアプレイ精神は自由の国である合衆国・・・いや、今の時代どこに行っても生きていけないぞ。まぁチャンスはあげるがな。」
ペラっとパンフレットを4枚渡す。
傭兵募集、工場作業員募集、受付募集、下働き募集の4つ。
「傭兵・・・戦車には乗れる?」
「・・・あぁ。」
ケイは迷いなく傭兵の募集を選んだ。
傭兵といっても私のシークレットサービスだったり、魔導師達を訓練する組織だったりと小さな組織に分割して戦力を保有しているように見せていないが、今の段階で5航空大隊、2個歩兵中隊、3砲兵小隊を保有している。
現在精鋭部隊がイルドア王国に向かっているのも合わせればもう少し増えるがな。
パチン
「戦車の指揮ができるのがいてよかった。」
コプコプコプ
「それほど戦車というのは戦争を変えるのですか?」
私はコインを机に弾くように置き、チスクは私用のワインを注いでいた。
「簡単に言えば移動トーチカだからな。」
「私には軍事兵器の事はさっぱりですが・・・。」
「チスク、外交でも兵器は有効に使える。例としては合衆国の砲艦外交だな。戦艦という自国の国力を現す物で力の差、圧力で交渉を有利にできる。」
「なるほど。」
まぁダキアの国力では戦車でも駆逐戦車を造るのが精々だがな。
ヘッタンことヘッツァーやフランスのRenaultUE57のような安くて簡単に製造できたり、トラクターの改造車を使うしか道がなかった。
「貧乏とはやなものだな。」