SAO:time   作:窓風

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えー、今回からルビがつくであろうところはつけないでいこうかと思います。必要最低限のところはつけますが。
一応そのままでも読めるのでそこまで問題ではないはず。
……すいません、いちいちルビ付けするのが面倒なだけです。


EPISODE13 「迷宮区に吹く爽風」

2024年 10月19日 a.m.11:40

アインクラッド第74層 迷宮区

 

相棒『ウィンディア・スウィフト』を入手してから約4ヶ月。現在の最前線は74層。もう少しでアインクラッド全体の75%を制覇したことになる。加えて言うと、SAOが開始されてから2年が経つ。

 

ソーマ「2年、か……」

 

自身が何者なのか、どういう存在なのか、その他諸々の謎が解けない限り歳を重ねることをしない。あの日にそう決めた。文字通り永遠の16歳だぞ☆ごめん、気持ち悪いな……

 

クライン「なぁに黄昏てんだ。ほれ、POPしたぞ。」

ソーマ「あ、あぁ。」

 

そうそう言い忘れてたが、今はクライン率いるギルド『風林火山』と攻略中だ。あのクリスマス以来たまに一緒に攻略することがあり、今もクラインに誘われた故。

 

さしたる問題もなく、無事に『リザードマンロード』4体を7人でスイッチしながら屠る。

 

ソーマ「そろそろ安全エリアだ。そこで休憩しよう。」

 

おう、と風林火山の面々が答えてクラインを先頭に安全エリアへと入っていく。聞いた話、クラインは前のMMOでもこのメンバーのリーダーだったらしい。確かに面倒見良さそうな感じはするからまぁ納得。

 

そこまで考えて俺も安全エリアに入る。抜けた先には腰を下ろしてサンドイッチを頬張る黒の剣士と、それを見て微笑んでいる閃光がいた。

 

ソーマ「よっす。」

クライン「お?キリトじゃねぇか!」

キリト「ソーマか。一緒にいるのは……って、なんだクラインか。」

クライン「なんだとはなんだぁ!んで、その隣にいるのは……」

 

クラインがキリトの隣にいるアスナを見た途端、氷漬けにされたように制止。またいつものパターンか。こいつ美人に目がないから……。

 

キリト「あぁ、会議が何度か顔を合わせてると思うけど、こっちが血盟騎士団副団長、『閃光』の……って、どうした?ラグってんのか?」

 

視線を戻すと上半身を90°曲げて礼をしつつ右手を前に出しているバンダナ侍。口にしたのもいつもの。

 

クライン「ククククライン、24歳独身恋人募集ty」

ソーマ「せいっ」

 

バンダナの結び目を掴み引っ張る。侍は流れに逆らわずに仰け反り、背中から転んだ。

 

ソーマ「気にしなくていいぞアスナ。美人の前だとこいついつもこんなもんだから。」

クライン「ひっでぇ言い草よぉ。」

ソーマ「事実だろうが。」

 

そこまで話したところで、俺たちが出てきた通路から複数人のプレイヤーがガシャガシャとアーマーを鳴らして隊列を組んで出てきた。装備を見るに『軍』だろう。

 

?「よし、全員休め!」

 

隊長と思われるプレイヤーがそう言うと隊列を組んでたプレイヤーたちのほとんどが膝から崩れ、肩で息をしていた。するとその隊長が俺たちの方へ来た。

 

コーバッツ「私は『アインクラッド解放軍』中佐、コーバッツだ。君たちは、こここら先のマッピングを済ませているかね?」

キリト「あ、あぁ。ボス部屋の前までとってある。」

コーバッツ「そうか。ならばその情報を我々に提供していただきたい。」

クライン「てめっ、マッピングの大変さが分かってて言ってるのか⁉︎」

ソーマ「クライン。」

クライン「でもよ、」

ソーマ「ダンジョンマップは最終的に共有財産だ。どうせ街に戻ったら公開するつもりだったんだろ?キリト。」

キリト「あぁ。だから情報をやるよ。」

コーバッツ「感謝する。」

キリト「だけど、ボスにそのメンバーで挑むのはやめておいた方がいいぜ。」

コーバッツ「……それは私が判断することだ。」

 

中佐はキリトからマップをもらうと、部下たちを立たせ、また隊列を組んで先へと進んでいった。

 

ソーマ「……ところで、ボス部屋の中は覗いたのか?」

アスナ「う、うん。ボスの名前は『ザ・グリームアイズ』。体長は約3mくらいで山羊の頭に尻尾は蛇。目と身体は深い青で身体は筋肉質だった。武器は両手剣を片手で持ってたわ。」

ソーマ「青眼の悪魔、ってか。両手剣だと範囲攻撃もありそうだな。それに尻尾の蛇もデバフをかけるかもしれない。」

キリト「ま、作戦会議はその内開かれるだろうから、そん時に考えようぜ。」

ソーマ「だな。2人は街に戻るのか?」

アスナ「ううん。もうちょっと攻略しようと思ってたよ。」

ソーマ「そうか。」

クライン「……気になるのか?」

ソーマ「あぁ。……どうも嫌な予感がする。」

キリト「……一応様子だけでも見に行くか?」

 

キリトがそう言うと、その場にいる全員がやれやれといった感じの笑みを零す。全く、お人好しの集団じゃねえか。

 

装備を確認し、キリトを先頭に風林火山のメンバーが先に歩き出す。クラインはアスナに何か話してるようだった。それに対しアスナは笑顔で返答した。

 

クライン「あ〜、アスナさん。えぇ…キリトのこと、ヘタレで戦闘バカですがよろしく頼んます。」

アスナ「はい。任されました♩」

 

 

……キリト、お前も恵まれてるな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

それから迷宮区を奥へ奥へと、時折戦闘して進んだ。ただ、数が少し多かった。

 

問題なくリザードマンロードを屠り、剣を納める。その時。

 

「うわああぁぁぁぁ‼︎‼︎」

 

悲鳴。それもボス部屋の方から。

 

キリトとアイコンタクトを取り、すぐさま駆けつける。ただ俺は全速だったためキリトを置いていく形になったが。申し訳ない。

 

重厚な扉が開け放たれたボス部屋の前に着くと、絶句した。

 

深い青の体躯を持つ悪魔はこちら側に背を向け、眼前に散らばる兵士に容赦ない攻撃を繰り出していた。危険だと判断したならとっくに転移結晶で離脱してるはず。なのに離脱していない。いや、離脱できないのか。

 

結晶無効化空間(クリスタル無効エリア)。その単語が脳裏をよぎる。

 

キリト達が追いついた頃、悪魔が大剣を振ったと同時に1つの影がこちらに飛んできて、地面で大きくバウンドした。そのプレイヤーは中佐、コーバッツだった。

 

あり得ない。

 

涙を浮かべてそう言った中佐はポリゴン片となり散っていった。

 

視線を前に戻すと指揮官を失った軍隊は怯え、狼狽え、されるがままになっていた。

 

 

もう限界だった。否、既に限界だったのだ。

 

ロクな情報もなく、軍隊を疲労させたまま悪魔に挑み散っていったコーバッツ。

 

4ヵ月前、クエストに挑み、躊躇し力を抑えた結果、死ぬことはなかったが危険な目に遭わせてしまったフィリア。

 

ちょうど1年前、中下層パーティの助っ人としてクエストを手伝った帰り。話し声がして覗いた林の中で串刺しにされていたグリセルダさん。

 

一度一方通行の好意を抱き、記憶がない状態で再会し、目の前で殺人者に殺されてしまった 。

 

 

ただ見ていることしかできなかった。そんな自分が憎い。憎い。憎い。

何故。何故。何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。

 

 

どれだけ後悔しても、一度死んだ者は生き返らない。それが基本であり普通だ。だから、進むしかない。進む以外あり得ない。

 

……気が着くと俺は咆哮をあげて悪魔に突進していた。周囲の目もくれず、自身にのみ与えられたユニークスキルを使って。

 

 

 

 

ソーマ「バッカヤロォォォォォ‼︎‼︎」

 

『刹那』は、速さはあれどその分威力はない。牽制するのが精々だろう。

 

ボスの腰に相棒の剣先が深く刺さるがHPバーは1ドットも減らず、ボスが振り向きタゲが俺に向く。

 

剣を抜くよりコンマ何秒か早く大剣が振られる。かろうじて避けたものの、前髪が掠り、隠れていた右目が露わになる。しかしそこはどうでもいい。

 

こちらに突進してくるアスナを視界の端で捉え、再度振られた大剣を弾きスイッチ。すかさずキリトの援護。それでもドット単位しか削れない。風林火山は『軍』のメンバーをボスから遠ざけようとしているが、少々もたついてるようだった。

 

ボスの攻撃を捌きながら考える。ひたすら考える。

 

速さで攻めてもジリ貧になるだけ。状況的に考えても、重い攻撃で攻めて短期決着をするのが望ましい。

 

しかし、『神速・抜刀術』はSTRに補正がかかるとはいえ、基本的にAGI特化型だ。アスナの細剣やクラインの刀も然り。ゴリ押しするには攻撃の質がもっと欲しい。

 

つまり、STR特化型のキリトに頼る他ない。アレを使えば、量もあり質もある。一石二鳥とはこういうことか。

 

それはご本人も考えついたようだ。だが、アレを使うのを躊躇っている。まぁ無理もない。

 

 

ユニークスキルはクラインの『刀スキル』のようなエクストラスキルと違い、全プレイヤー中1人にしか与えられない。加えてSAOはMMORPGであり、プレイヤー全員が『人間』だ。『感情』がある。自分がユニークスキルを所持していると公表すれば、周囲の人間からは羨み、妬みといった感情を含んだ視線を受ける。『笑う棺桶』が2ヵ月前に崩壊したとはいえ、殺人者プレイヤーに暗殺される、というのもありえる。

それ故、ユニークスキルを所持しているのを隠すのが基本なのだ。だが、今のこの状況でそれを押し通すべきなのか?

 

黒猫団を壊滅させてしまった、あの日のように。

 

迷う暇なんてない。

 

 

ソーマ「キリト‼︎」

キリト「⁉︎」

ソーマ「気にしたって仕方ねぇんだ!今この一瞬を全力でやり遂げろ!迷うな‼︎」

 

俺は未だに葛藤を続けるキリトに大声で叫ぶ。するとキリトは何かが吹っ切れたようだ。

 

キリト「……すまない!10秒だけ持ちこたえてくれ‼︎」

ソーマ「請け負った‼︎」

 

返答してボスに『刹那』で突進。キリトはしゃがみこんでメニューを開き操作。長く感じるであろう10秒も実際は短く、後ろからすぐに「いいぞ!」と聞こえた。剣をパリィさせ、ボスをスタンさせてすかさずキリトとスイッチする。

 

そして黒衣の剣士は行動不能なボスに向かって大技を放った。

 

右手には愛剣『エリュシデータ』を、左手には背中から出現した2本目の剣を持って。

 

キリト「ぜああぁっ‼︎」

 

途端に2本の剣が輝き、ソードスキルを発動する。

 

『二刀流』。

それが、キリトに与えられたユニークスキル。今キリトが放ってるソードスキルはその上位剣技『スターバースト・ストリーム』。合計16連撃。

 

キリト「うおぉぁぁぁぁ‼︎」

 

キリトとボスの咆哮が混じり、最後の16発目をボスの腹に深々と打ち込む。ボスのHPバーを確認しようと視線を向けようとした瞬間、ボスの体が白く発光し、ポリゴン片となって宙に消えていった。そして宙には『Congratulations‼︎』の文字が。

 

視線を下に戻すと、剣を手放して地面に突っ伏すキリトがいた。

 

アスナ「キリト君!」

 

アスナがものすごい速さで駆け寄る。

 

俺やクラインは安堵のため息をついて、アスナの後を追った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

同日 p.m.6:00

アインクラッド第35層 『ミーシェ』

路地裏の酒場

 

今回のボス戦で大健闘したキリトにはアスナに付き添ってもらって休んでもらい、クラインら風林火山と75層の転移門をアクティベートした。その後俺からクラインたちに声をかけて、今は前のクリスマスにクラインと飲んだ酒場で(時間的にちょっと早いが)飲んでいた。俺はアルコールは飲めない、ていうか飲もうと思わないのでお茶を。

 

クライン「それにしてもよ、オメェもユニークスキル持ってたなんてな。加えてその眼だ。明日から何言われっかわかんねぇぞ?」

ソーマ「スキルと眼は関係ない。何か言われんのは明白だが……」

 

くっくっとクラインは笑う。風林火山のメンバーも各々で談笑している。

 

眼、というのは、前髪で隠れてた俺の右目のことだ。ボス戦で前髪がなくなってからなぜか戻らずに、右目が露わになったままだった。ただ、普通とは違って……紺色の左目に対して碧色の右目なのだ。

 

ソーマ「まずプレイヤー全員が現実の顔なんだから、オッドアイなんて絶対いないだろ。クエストの報酬やエクストラスキルの可能性があるから、バレたら言い寄られて面倒なことになるだけだ。」

クライン「でも、そんなクエストを受けたことやエクストラスキルを持ってるってことは、」

ソーマ「ない。あったらキリト辺りには話してる。明日からどう過ごしゃいいんだ……」

 

頭を抱えて項垂れる。そこに笑ってクラインが肩を組んできて顔をあげる。

 

 

 

その瞬間俺が見たのは瓶が並んだ棚ではなく、どこかの公園の遊具の上から見る夕陽だった。背の高いビル群の隙間から覗くそれはとても眩しく、綺麗だった。そして肩を組んでる隣の男の子を見る。その子は少々趣味の悪いバンダナを頭に巻いて、肩を組む俺と笑いあっていた。なぜか、この光景がひどく懐かしい。この男の子の名前は……

 

 

 

ソーマ「………………」

クライン「お?どうした?俺の顔に何かついてるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーマ「…………遼?遼太郎?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がとある名前を呟くと、クラインは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。しかしすぐに、両目から涙を流し始めた。

 

クライン「……ようやく、思い出しやがったなこの野郎!」

 

そう言ってクラインは俺の頭を拳でグリグリとしてきた。よほど嬉しかったと見える。

 

 

 

……そうか。これが、俺の記憶。どこかの町のこの夕陽が。この友達が。壷井遼太郎という、当時小学生の頃の同級生が。今の俺にとっては、とても大切な思い出なのだ。もう二度と、忘れるわけにはいかない。

 

ソーマ「なぁ、遼。お前が良かったらなんだけど、お前の知る蒼葉誠っていう人間のことを教えてくれないか?」

クライン「…へっ、聞いて後悔すんなよ?」

 

クラインは涙を拭うとニカッといつものように笑って答えた。

 

 

ようやく、ようやく一つ思い出せた。

でもまだ一つだ。もっともっと思い出していかないと。

 

 

この日、蒼葉誠という1人の人間の第二の人生ともいえる物語がようやく始まった気がした。

 

 

 

 

 

fin

 

 

◇◇◇

 

 

次回

 

14話 「コロシアムでの激闘」




どうも、中毒野郎です。

途中に謎の空白がありますが、あれはわざとです。
空白に人の名前が入りますが、その名前が明かされるのは少し後になりそうです。

次話の投稿は早くて7月中旬ですね。それまでしばしお待ち!

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