SAO:time   作:窓風

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EPISODE12 「神速と相棒」

洞窟最奥部のボス、村を襲った大渦本体のバジリスク。足は無く、頭には棘が何本もついていてどこかの秘密の部屋にでもいそうだ。

 

いや、そこはいいんだ。問題は……

 

ソーマ「身体デケェのにすばしっこいなこの‼︎」キィン!

 

速い。とにかく速い。フロアボスにこんなのいても可笑しくないほどに。俺は反応できなくないが、フィリアがついていけてない。

 

タゲがフィリアにいかないよう俺に集中させ、大体の攻撃はフィリアに任せているが、バジリスクのHPバーはまだ3本も残ってる。このままじゃ狩る前に狩られる。

 

ソーマ「このっ…‼︎」キィン!

 

アレを使うべきか……でも…………。

 

ドゴッ‼︎

 

ソーマ「がっ⁉︎」

 

注意を怠ったか、尾での薙ぎ払いをモロに喰らい数メートル飛ばされる。すぐ立たねぇと……!

 

フィリア「ソーマ!」

ソーマ「っ‼︎フィリア後ろだ‼︎」

フィリア「‼︎⁉︎」

 

瞬間、バジリスクに両脚を喰われたフィリアの身体が宙に舞った。

 

直感なのか無意識なのか、アレを使ったのかはわからないが俺は猛スピードで落下を始めるフィリアを追いかける。

 

ギリギリ追いつくとフィリアを抱きかかえ、バジリスクの背後に回りフィリアを横に寝かせてやる。

 

フィリア「ソー………マ…」

ソーマ「………………。」

 

 

悩んでる暇なんてねぇ。躊躇するんだったら今ここで出し切っちまえばいい。考えるのは後。

 

 

 

 

 

………………もう、目の前で誰かを失くしたくない。

 

 

 

 

 

 

ソーマ「フィリア、ここで安静にしててくれ。あとは俺がやる。」

 

フィリアは「……うん。」とだけ言って頷いた。

 

……さて。

 

ソーマ「コレを人前でやるのは今日が初めてだ。息を合わせてくれよ?」

 

フィリアに回復結晶を渡した俺は剣を構え、ソードスキルを発動。

 

バジリスクが突進しようとしたその一瞬に、視認不可の速度でソードスキルを放った。フィリア視点では何が起きたかわからないだろう。

 

これほどの速さをもつ刺突ソードスキルは片手剣スキルにはない。かといって細剣スキルでもない。では何か。それは、

 

 

ソーマ「……『神速・抜刀術』、壱の太刀『刹那』」

 

 

2ヶ月前に突然俺のスキルスロットに現れた、ヒースクリフの『神聖剣』に次ぐ2つ目……いや3つ目のユニークスキル『神速・抜刀術』。ゲームバランスの安定化のためか、スロットに入れてるだけでSTR値が1.3倍、AGI値が1.6倍上昇という微妙な数字だがステータスが強化される。スキル名もうちょっと短くできなかったの?茅場。

 

また、スキル取得時に獲得したソードスキルが壱の太刀『刹那』。名前の通り一瞬の間に繰り出す。また、スキル使用後の技後硬直がおそらく全ソードスキル中最短ではないかと思うくらい短い。最初に使った時はびっくりした。どうやら使用者のAGI値に比例するらしい。ただし連続使用は不可能。

 

2ヶ月経った今は熟練度が500を越えた。使用可能ソードスキルは5個。片手剣や細剣スキル等より全体的にソードスキル数が少ないとみえる。

 

 

 

さて、『刹那』を放ってから約1分が経過。

 

3本あったバジリスクのHPバーは『神速・抜刀術』のソードスキルの猛攻により削れていき、今は1本と少ししか残っていない。

 

そして参の太刀『大文字』(名前通りの3連撃。確率で火傷付与)で最後のHPバーを赤に変化させる。

 

次で最後だ。この戦いを終わらせよう。

 

ソーマ「……ふっ‼︎」

 

『刹那』で突進し一気にバジリスクとの距離を詰める。好機とみたかバジリスクが自分の身体も飲み込めるのではと思えるくらい大きく口を開け、俺を喰らおうとする。だが残念。

 

ソーマ「俺の方が速い‼︎」

 

まだ一度も使ってないソードスキルを発動。即座に右下から放つ。勢いを殺さず左に1回転して右上から斬り下ろす。動きが止まりそうなのを堪えて左下から斬り上げ、右に1回転し左上から斬り下ろす。最後に描いた二重のXの交点、ど真ん中に最大の力を込めて刺突。剣の軌跡には微かにダイヤモンドダストのようなものが舞っている。

 

『神速・抜刀術』、

伍の太刀『如月』。

 

直後、バジリスクが白く発光し爆散。ポリゴン片となって宙に消えていった先には『Congratulations‼︎』の文字。手元にはボス討伐の報酬なのか短剣『ソードブレイカー』が。

 

フィリア「……ありがとう、ソーマ。」

 

振り向くと部位欠損が治り立てるようになったフィリアがいた。

 

ソーマ「なんの。フィリアが脚喰われた時は焦ったからちぃとばかり本気出しちまったわ。」

フィリア「そうそう!さっきのスゴイのナニ?」

ソーマ「……2人だけの秘密にしてくれるか?」

フィリア「もちろん!」

 

俺はフィリアにさっきの現象の説明をしてクエストクリアの報告をしに洞窟を出て村へと戻った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

村人「おお、ありがとう。これで村は儀式を行わなくていいのだな。ありがとう。ありがとう。……これは、父が若い時にあの洞窟で採った鉱石だ。加工手段がなくこのままにしていたが、君ならこれをうまく使ってくれるだろう。ああ、本当にありがとう。」

 

クエスト完了の報告をしに村へ戻り、話を聞いた村人から報酬として幻の鉱石『グリーンエメライト・インゴット』をもらった。色は名前の通りグリーンエメラルド。この色も結構好み。

 

ソーマ「クエストクリアか。お疲れ。」

フィリア「うん、ソーマもお疲れ様!」

ソーマ「じゃあクエストクリア記念として、ほい。」

フィリア「え?」

 

俺は『ソードブレイカー』をストレージから出してフィリアに手渡す。

 

ソーマ「俺も短剣スキルは持ってるけど基本は片手剣だからな。それにこの剣、中々のモンだぞ?」

フィリア「でも……」

ソーマ「いいって。プレゼントみたいなモンだ。」

フィリア「それなら……はい!」

 

対してフィリアはさっきの鉱石を出して俺に手渡す。

 

フィリア「私からもプレゼント!助けてもらっちゃったし、コレもくれたしね。」

ソーマ「いや、でもよぉ…」

フィリア「それにさっきのソーマ、すごく物欲しそうにコレ見てたよね?」

ソーマ「うぐっ……」

 

はいそうです物欲しそうに見てました。だっていい色にしてるし。色だけか。

 

ソーマ「……分かったよ。プレゼント交換ってことで。」

フィリア「ふふっ、私もコレ、大事に使わせてもらうね!」

ソーマ「んじゃ早速リズに剣を作ってもらうか。リンダースに戻るぞ。」

フィリア「うんっ!」

 

夕陽に照らされてなのか、なぜだかその時のフィリアの笑顔が眩しく見えた。

 

 

場面は変わって48層『リンダース』、リズベット武具店前。

 

 

 

フィリア「あれ?リズいないみたいだよ?」

ソーマ「だな。……っと、よくみたらリズからメッセージ来てたわ。」ピッ

 

…………。

 

フィリア「リズはなんて?」

ソーマ「どうやら噂の竜の体内で出来る鉱石を、剣を作って欲しいっていうプレイヤーと行ってるから遅くなるらしい。」

フィリア「そうなんだ。じゃあ明日また来よ?」

ソーマ「いやぁ……残念ながら待てないな。変な話だけど、コイツが『早く作ってくれ!』って言ってるような気がして。」

フィリア「ふふっ。それは別にいいんだけど……他に鍛冶屋のアテはあるの?」

ソーマ「…………一つだけ。行ってもいいか?」

フィリア「私は構わないよ。」

ソーマ「そうか。じゃあ行こう。」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

アインクラッド第28層 南の森の奥

 

 

フィリア「ここは…?」

ソーマ「ここに知り合いがNPCに弟子入りして修行してるんだ。」

フィリア「へぇ〜。」

 

やってきたのは森の奥にある、レンガでできた高い煙突が特徴の一軒家。コンコンとノックするとすぐにドアが開き、赤髪の少女が出てきた。

 

ソーマ「ようレイン。久しぶり。」

レイン「ソーマ!久しぶり!そっちの人は?」

フィリア「フィリアです。」

レイン「私はレイン。敬語は使わなくていいよ。歳も同じくらいだろうし。」

フィリア「それじゃあ……よろしくレイン。」

レイン「うん、よろしく!」

 

赤髪の少女、レインに案内され家の中に。何度か来たことはあるが、家の中をぐるりと見渡す。イメージはハグ○ッドの家を4〜5人で暮らせる程度の広さにしたみたいな。

 

ふと一つのベッドに目がいく。

 

ソーマ「なぁレイン。爺さん、どこか具合悪いのか?」

レイン「……うん。ここ最近から急に。」

ソーマ「……そうか。」

 

俺はベッドの方へ行き、横たわるNPCに声をかける。

 

ソーマ「爺さん、俺が分かるかい?」

「おぉ、分かるとも。風の子よ。久しいな。こんな情けない格好を見せてしまって申し訳ない。」

ソーマ「気にすることじゃないさ。」

 

俺を風の子と呼ぶNPCの爺さんは、白内障なのか知らんが何も見えないらしい。それでもすごいのが昔、その目でずっと鍛冶屋をやってきたため一時期『盲目の鍛冶屋』と呼ばれていたという。歳は70過ぎ。

 

ソーマ「そうだ。レイン、頼みたいことがあって来たんだった。」

レイン「何?剣の強化?」

ソーマ「いや、剣を作って欲しい。」

レイン「……私がやっていいの?」

ソーマ「いつも通ってるところが休みでさ。レインにしか頼めないんだ。やってもらえるか?」

レイン「……未熟な私でいいなら。」

ソーマ「それならぜひお願いしたいな。爺さんに修行の成果を見せてやれ。」

レイン「……うん!」

 

鉱石をレインに渡し、レインは鍛冶場に行き、俺とフィリアは居間で待つ。鍛冶場には関係者しか入るなと前に爺さんに言われたからな。ここは静かに待とう。

 

 

数十分後、レインが鉱石からできたであろう剣を持って戻って来た。

 

刀身は白く、片手剣の割には少し細い。柄は碧で鍔は竜巻が連想され、刀身に巻きつくような感じ。そして鍔の真ん中に鉱石の名残なのか鉱石と同色の宝石のようなものがはめられている。

 

レインに剣を手渡され、剣のステータスを見る。

 

レイン「できたよ。銘は『ウィンディア・スウィフト』。ステータスは見ての通り、敏捷寄りだけど攻撃力も充分あるから、最前線でもちゃんと使えると思うよ。」

ソーマ「おぉ……」

フィリア「綺麗……」

 

まさかこんな綺麗なのが出来上がるとは思わなかった。でもこれだけのステータスなら、キリトの愛剣に勝るとも劣らないだろう。

 

「風の子よ。試しに、外に出て振ってみてはどうかね。」

ソーマ「爺さん……そうだな。ちょっと外に出てる。」

レイン「私も行くよ。」

フィリア「私も。」

 

ドアを閉め、周りに何もないか、誰もいないか確認。大丈夫だな。

 

ソーマ「……よし。」

 

シーツリーズを外し、スウィフトを装備、抜刀。手に持った感覚は、とても軽い。ピッタリだ。

 

剣を構え、片手剣ソードスキル『ホリゾンタル・スクエア』を発動。

 

ソーマ「はぁっ‼︎」

 

剣に敏捷の補正があったのか、それとも剣が軽く振りやすかったのかはわからなかった。

 

どちらにせよ、予想よりも剣撃が速かったのには驚いた。

 

ソーマ「……レイン、ありがとう。」

レイン「お安い御用だよ。」

ソーマ「はいお代。」

レイン「もう、修行の一環だからいらないって言ってるでしょ?」

ソーマ「じゃあお小遣いだな。」

レイン「保護者か!」

フィリア「ふふっ」

 

他愛もない会話をして森を後にする。

 

ただ、この時の俺は思いもしなかった。

 

 

 

この剣、『ウィンディア・スウィフト』が、これからの旅を共にする相棒となるなんて。

 

 

 

 

 

fin

 

◇◇◇

 

 

次回

 

13話 「迷宮区に吹く爽風」




どうも、中毒野郎です。

活動報告で中間テストがあるから最新話投稿は6月になってからって言ったのに翌日あたりに出すっていう。

まぁ楽しんで読んでいただけたら作者も嬉しいのでいいのですが。あと会話部分ですが、後々のストーリーで混乱しそうなので主人公の会話にも 名前「」 という風にします。その辺がぐだぐだですんません。

次話は6月中旬あたりの予定です。
ではしゃ……さらば!(噛んだ)

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