その日の夕方、塾帰りの女子高生数名が自転車を押しながら帰宅していた。その中の一人が、近くの駐車場に停めてある車に気付き足を止める。
「どうしたの?」
一緒にいた友達が振り返って言う。
「何でも無い…急用思い出したから先に帰って」
それを聞いた友達が皆、手を振って帰って行く。
誰も居なくなると、女の子は持っていたスマホを取り出す。
(高級スポーツカーで、色は赤で…確かジャガーと言う車…パパのに似ている。しかも…近くにはソープランドがある。アヤシイ…)
最近、母が父の浮気に気付き、あまり両親の関係が良く無い事に気になっていた女の子は、父親の疑惑に過敏になっていた。
不審に感じた女の子は父親のスマホに電話を掛ける。
プルルル…
着信に気付いた父親は、娘からの電話に出る。
「おう、どうした?」
「ねえパパ…今は何処にいるの?」
それを聞いた父親は、周囲を見回す。周りは女性のキャバ嬢と、それを楽しむ男性客が居た。
側に居たキャバ嬢が父親の肩に顔を乗せていた。
「い…今は、大事な会議中だよ…。いきなり電話して来てどうしたのだ?」
「そう…私ね、塾帰りにキャバクラの近くの駐車場にパパに似た車を見つけたの…」
「そ…そうか、世の中には似た車に乗った人が沢山いるのだな。ハハ…」
「確かパパ…以前言ったわよね、自分と同じ車は国内では数が少ないって…小さな町で似た車を利用する人が、そんなにいるのかしら?」
「偶然かもしれないぞ⁉︎ハハ…」
「フウン…そうなの…」
女の子は、父親の電話の向こうから騒がしい声が聞こえるのを耳にする。
「随分賑やかな会議ね…」
「きょ…今日の会議は楽しくやろうって名目で行われているのだよ」
来客の男性が歌を披露しようとマイクを手にして歌い出す。
「カラオケが聞こえるけど…会議中に歌が行われるの?」
「歌を歌いながら会議するのが、今日の課題なんだ」
「へえ…そうなの、ねえパパ、私パパの会社に行っても良いかしら?」
「え、何で…?」
「私も高3だし、進路の事もあるから、ちょっとパパの会社を見学するくらい構わないでしょ?それとも私に見られるとマズイものでもあるわけ?ちゃんと真面目に仕事してるなら見られても平気でしょう?」
「ああ…べ、別に構わないさ、ハハ…会社に来るんだ分かった」
「じゃあ、今から行くね」
そう言って娘はスマホを切る。
娘が会社に来ると知った父親は急いで背広を着て、会計を済ませてキャバクラを出て行く。
駐車場の近くに向かうと娘が立っていた。父親の姿を見つけた娘はすかさず写メで父親の姿をスマホに納める。
「あ…アレ、何でお前がここに居るの?」
「多分…パパは、キャバクラに居ると思って電話してしたのよ。ヤッパリ…ココで遊んで居たのね」
「スミマセン、どうかママには内緒にして下さい」
父親は娘に向かって土下座をする。
「じゃあ、今回の事…ママには内緒にしてあげる。その代わり口止め料五千円ね」
「ワカリマシタ」
父親は娘に口止め料を払う。
お金を受け取った娘が帰ろうとした時、父親が車では無く建物に向かう姿を見て
「ちょっとパパ、何処へ行くの⁉︎」
父親の襟を掴み娘は父親の進行方向を止める。
「え〜もうちょっと遊んで行きたいんだけど…」
「ダメよ、家へ帰るのよママが心配するでしょ。真っ直ぐ家に帰りなさい」
仕方無く娘は近くの広場に自転車を置いて、父親の車の助手席に乗る。
「ちゃんと家に帰るのよ」
「ハイ、ワカリマシタ…」
残念そうに父親は答えて、親娘を乗せた車は家に帰って行く。