在る夫婦の事   作:Mr,J

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1回戦

 

プルルッ...、リビングで電話が鳴り響く。エプロン姿の女性がキッチンから駆け足で電話に出る。

 

「はい、もしもし...」

 

「やほー!しっげりーん。ミホミホだよー。ねえねえ今度いつ会える?またラブラブなデートしようよ。美味しいお店紹介するからさー」

 

「あの...すみませんが、どちら様ですか?」

 

「ん?誰あんた?」

 

「茂夫の妻ですが...」

 

「あ...ごめん、電話間違えちゃったゴメン」

 

ガチャッと、音を立てて相手の女性は、電話を切った。

 

妻は、その電話の内容の一部を気にしながら夫の帰りを待っていた。

 

約1時間後に、夫が帰宅して来た。

 

「ただいまー...。あー疲れた...」

 

「ちょっと貴方、いいかしら」

 

「ん...どうしたの?」

 

何時にも無く重い雰囲気の妻に、何気ない表情で夫は近付く。

 

「今、ミホって言う女性から電話があったのだけど」

 

「ああ...、会社の女性だよ」

 

「そう…」

 

「おとなしくて、品の良い子だよ。それに余りおしゃべりが得意じゃなくてさ...」

 

「???」

妻は首を傾げて夫の話を聞いている。

 

「会社じゃあ、存在感薄くてさ...困るんだよね」

 

「電話の前じゃあ、別人の様に振る舞うのかしら?」

 

「え?ミカって子だろ?」

 

「ミホよ、ミカって誰よ?」

 

夫は、気まずそうな表情で、顔に汗を流し流し始める。

 

「あはは...、誰だろうね、その子...電話掛けて来たんだ。困るよね」

 

「電話口では、随分親しそうに喋ってたわよ」

 

「そ...そう」

 

「貴方も知らない女性なの?」

 

「全然知らないよ。全く知らない女子高生だよ。本当困るよね」

 

「え、何で相手が女子高生だって分かるの?」

 

「え!?何で?」

ドキっとした表情で妻を見る。

 

「今、自分で言ったじゃない。もし...未成年と交際してたなんて世間に知られたら大変よ!」

 

「いや...女子高生かも知れないね...、って言う意味で言ったんだよ。そうだ...書類が残ってたから、ちょっと片付けて来る」

 

夫は自分の部屋へと戻って行く。

 

(何か怪しい...)

 

妻は夫を炙り出してみようと少し考えて、夫の部屋に入って行く。

 

「ねえ貴方、そう言えば..こないだ帰りが遅かったけど、何処へ行っていたのよ?」

 

(え...こないだって、何時の事だ?先週の金曜日かな?その前の土曜日...?あり得ない。もしかして先月の事かな?)

 

「ああ、あれね...うん...ちょっと、仕事で忙しくて帰宅が遅くなったんだよ」

 

「私、夜10時に仕事場に電話したわよ」

 

「え!何で、勝手に仕事場に電話するんだよ!」

 

「貴方の帰りが遅いから、心配して電話したのよ。携帯掛けても繋がらないから」

 

「失敬な、自分がキャバクラとか、風俗店にでも行っていると思ってたの?」

 

「どこの風俗店なのよ」

 

「三丁目の市街地にある所なんて知らないないし…行かないよ」

 

「ふーん...つまり、三丁目の市街地にあるキャバクラとか、風俗店とかに良く行くのね」

 

夫は、自分でかなりボロを出してしまっている事に気付いた。

 

「ちょっと、貴方の携帯見せてよ」

 

妻は、いきなり夫の携帯を奪い取り、着信履歴を見る。

 

「お...おい、それはダメだ!」

 

夫の着信履歴を見て妻は驚いた。

 

「ちょっと何よこれは!全部違う女性の名前ばかりじゃない!しかもランク付けしてあって...私はランキング外じゃない!」

 

「お前のも、ちゃんと入っているよ。ほら良く見て最下位にあるだろ?」

 

「何で私が最下位なのよ!バカ」

 

妻は携帯を夫に投げ飛ばす。

 

「もう!知らないッ!」

 

妻は怒って部屋を出て行く。

 

プルル...妻の携帯に夫が電話を掛けて来た。

 

「ごめん、怒らないでよ...」

 

「これから毎日、真っすぐ家に帰るなら許してあげるわ」

 

「えー...週に2.3日じゃダメ?」

 

夫の言葉に妻は何も言わず、ブッと音を立てて電話切った。

 

その後、夫が妻の携帯に再度掛けようとしても繋がらなかった。

 


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