「京条君、応援してるよ」
「きょーじょー君! 頑張ってなのだ! 」
「負けるなよ〜」
アリアの決戦を受けるため強襲科棟、第1体育館。第1体育館とは名ばかりの……戦闘訓練場にいる。
スケートリンクみたいなフィールドで、コロッセオとあだ名されているようだ。
周りは防弾ガラスで覆われおり、観客には銃弾は当たらないようになっている。
観客席には強襲科の1,2,3年生が集まっている。どいつもこいつも暇なやつらだ。
コロッセオの中にいるのは俺とアリアの2人。
決闘は本来、C装備という全身を保護する防具を着てやるものだが、強襲科の教師、蘭豹はそんなこと御構い無しだ。
今は酔いつぶれて眠っているが、起きてC装備を着ているところを見られたら体罰がとんでくるから早めに終わらせたいものだ。
観客どもが固唾をのんで見守る中、俺たちは互いに目を合わせる。
「よし、アリア。開始の合図はそっちで構わない」
俺はグロックにマガジンをいれ───ようとしているところでアリアは好戦的な笑みを浮かべ、
「じゃあ、開始! 」
信じられない速度で俺に向かってきた。
「アリアそれは早い! フリーズ! フリィィィィズ‼︎‼︎ 」
俺が、待て! 、というハンドサインをすると、
アリアは、顔をしかめて止まっていてくれた。
15m以上離れていたはずだが、もうすぐそこまで迫ってきている。
「あんた、リロード出来てないからって止めないでよ」
「・・・・・」
俺はアリアに無言で歩いて近づく。
アリアは何かに気づいたようでその場を離れようとするが……動けない。それもそのはず。
アリアの靴は氷で、地面とくっつくように凍らされているからだ。
アリアのそばまで行き、全力のミドルキックを一発かましてやる。
「カハッ! ? 」
苦しそうな表情を浮かべ、うずくまりそうになるが、堪えた。そして二丁のガバメントを抜き、氷を破壊する。
その隙にもう一発かまそうと思ったが、バックステップで躱されてしまった。
「チッ! もう一発はイケると思ったんだがな」
「何がもう一発よ! あんた卑怯よ! 」
「なんで? 何も悪いことしてないよ? 」
わざとアリアを煽るように言うと……眉間に青筋が浮かび上がった。
「だってあなた! 待てって言ったじゃない! 」
「俺はフリーズと言ったんだ! 待てなんて一言も言ってない! 」
「だってフリーズは! ……まさかあんた! 」
お、やっと気づいたか?
「アリアが意味を取り違えるからいけないんだろう? 」
「最低よ! フリーズを使う場面が違うじゃない! 」
「俺は
『『『き、きたねえ! さすがゴミ条(先輩)だ! 』』』
グロックのマガジンをいれるのをモタモタしていたのは演技だ。観客全員がドン引きしているがまあいい。
勝ちゃいんだよ! どんな手を使ってもな!
俺はドヤ顔をアリアに向け、かかってこい、という合図をする。
「───ッ!?もう許さない! 」
アリアは腹をまだダメージから回復していないようだが、だまし討ちともとれる攻撃に腹をたて、冷静さを失っているようにも見える。
これも計画通り!
俺はアリアに肉薄し、そのまま左足で前蹴りを繰り出す。
「オラァ! 」
だが単調な攻撃はさすがにかわせるようで、左足の反対方向へと回避したが、それも予想通り。
繰り出した左足を振り下ろし、その勢いで飛び上がり、右足でアリアの脇腹に鋭い蹴りをいれる。
だが、半分は打撃を与えたが、残りはアリアの左腕の払いで威力を相殺されてしまった。
険しい表情をしながらも、二丁のガバメントで応戦してくる。
俺は銃口の向きから弾道を予測し、変則的に動くが、
Sランクともあり、狙いは良く2発ほど防弾制服をかすめた。
冷静さが欠けていてもこの命中率は驚異的であり、俺もグロックで応戦する。
遠距離での戦いに持ち込みたかったが、アリアはイノシシのごとく迫ってきた。距離を開けても超人的なスピードで詰めてくる。
アリアは、ガン=カタで素早い動きで翻弄してくるからまた避けにくい。
俺はアリアの動きを予測し、次に走り込んでくる位置に発砲する。
「「うぐっ‼︎ 」」
俺が放った弾は見事アリアの脇腹にヒットしたが、アリアも撃っていたようで、胸辺りに被弾してしまった。
今の所は互角に思えるが、若干おされてきている。
アリアのガン=カタにかろうじて対応できる感じだ。
だが、被弾しているのは俺の方が多くなってきている。
アリアが右手のガバメントを突き出すのを見切り、左手で払うが、それと同時にアリアも反対の手に持っているガバメントの射撃が襲いかかる———
———前に、肘でなんとかアリアの左腕を打撃し逸らせ、発砲された弾は、俺の脇と体の間を通過する。
俺はグロックでアリアの肩に撃ち込もうとしたが、今度は内側から逸らされ、
アリアはホルスターにガバメントを素早く戻し、今度は二刀流で攻めてくる。
俺は近接戦はグロックでは不利だと判断し、【雪月花】を居合斬りのようにしてアリアの攻撃を刀で受ける。
ギャリギャリギャリッ! と、刀で斬り結び互いの顔が至近距離まで近づく。
「アリア、そんな怖い顔してたらモテないぜッ! 」
「だからッ! いらないって言ってるでしょうが! 」
アリアが左手に持っている刀はそのまま、右手に持っている刀で喉元を突いてきた。
俺は切り結んでいる刀を跳ね上げ、突いてきた刀を軌道をそらすように【雪月花】をはらい、受け流す。
アリアのふところに素早くもぐりこみ、バックキックをお見舞いしようとするが、それはギリギリ体を大きく反らすことで躱されてしまった。そして、その回避と同時にサマーソルトキックが繰り出される。
「うぁ……」
俺も上体を後ろにそらしたが、つま先がかすめてしまい、視界が揺れる。
震える足に気合いを入れ直したところで、アリアの手に刀ではなくガバメントが握られていた。
再びアリアのガバメントが火を噴くが、俺は銃口の向きからそれらをなんとか躱す。
アリアは弾切れになったガバメントをリロードするために距離をとった。
「ふぅ、やっぱ強いなアリアは」
奇襲を仕掛けた直後は攻撃が単調だったが、もう冷静さを取り戻し始めている。そろそろ決めないとやばいな。
だが......平賀さんからもらった異様に軽いマガジンのことを思い出す。
平賀さんっ! どんな弾がはいってるのか分かんないが使わせてもらうぞ!
俺はマガジンポーチから、平賀さんのくれたマガジン取り出す。アリアがリロードを終え、こちらに向かおうとしてきていた。俺はマガジンを入れ、スライドを引く。マガジンをいれた時にヌルッ、とした感覚があったが、弾にそういう成分がはいっているのだろう。
だが、もし殺傷弾がはいっていたら大変なので俺はグロックを上に向け、トリガーを引く──が、
「え? 」
不発? 俺はグロックのスライドをひいたが......本来排莢されるはずの薬莢もなかった。
もう一度スライドを引いてみたが、やはり弾が装填されていない。
マガジンにはしっかり弾らしきものが入っていたはずだ。
俺はマガジンをリリースをしようとした時……手に黒い塗料みたいなものがついているのを確認した。
なんだ? なんで俺の手に……何か調べるため、匂いを嗅いでみると……
甘い匂いが塗料らしきものから発せられていた。それはまるでチョコのような匂いで──
「まさか⁉︎ 」
俺は手についた塗料を指でとり、舐めてみた。
(あ、甘い⁉︎ これは……
平賀さん⁉︎ なんてものを俺に作ってくれてんの⁉︎ そりゃ冷やしとけって言われますわ!
というか、似てすぎじゃないですか⁉︎ 完全に騙されましたよ!
マガジンリリースボタンをおしてもやはり出てこない。
当たり前だ。 チョコなのだから。
アリアは……まだ遠くにいると思ったが、すぐそばまで来て、ドロップキックの体勢になっていた。
そんなもの、避けきれるはずもなく……
「ウルァ! 」
「ガッ⁉︎ 」
肋骨が軋むほどの威力を持ったソレが見事に胸に決まり、吹っ飛ばされてしまった。
幸い肋骨は折れてはないらしい。
(まだ……やれる! )
俺はグロックをしまい、【雪月花】を再び鞘から抜く。
アリアは、俺が【雪月花】を抜いたのを見て、ガバメントで容赦なく狙ってきた。
それらを銃口の向きからかろうじて避け、アリアに肉薄する。
アリアの.45ACP弾が脚部に当たり、転びそうになるがなんとか立ち直る。ここで転んでしまったらハチの巣になるからな。
俺は必死に頭を働かせ、弾道を予測し、かろうじて避けながらも距離を詰めていく。
だが、アリアもそれは計算済みらしい。アリアの銃口の向きから考えると、確実に避けれない弾が1つ、胸の中央に向かってとんでくるはずだ。俺は一か八かの賭けに出ることにした。
アリアがニヤリと笑い、トリガーを引き──
金属を叩き斬る甲高い音と共に俺の【雪月花】は、迫り来る .45ACP弾を真っ二つに斬った。
手に若干痺れが走るが、許容範囲!
「なっ⁉︎ 」
アリアは、信じられない! 、という顔を俺に向けた。
その隙に、【雪月花】をアリアに全力の突きをお見舞いする。
風をきる音を鳴らし──その斬撃はアリアの首を掠めた。
アリアはガバメントを上に向けたまま、硬直してしまっている。
「アリア、まだやるか? 」
「ハァ……あたしの負けよ」
「よし! 勝ったあああああああああああ! 」
俺の叫びと共に、観客一同はこれほどないくらいに盛り上がっていた。
アリアとの対戦後、平賀さんにチョコマガジン事件について電話で話した。
平賀さんは、この世の終わりが来る、みたいな声音で俺と会話していた。
『ああ、せっかくこの中に手紙入れたのに……』
「なんでチョコマガジンなんて作るの? 手紙くらい直接渡してくれよ……」
『だって! 理子ちゃんが、今時の女子はチョコに手紙入れるんだよ? 、って言ってたのだ! 』
「そんなわけあるか! 理子め、いらん知識を平賀さんに植えつけやがって」
まったく、完成度高すぎて見分けつかなかったよ……
気づかなかった俺も、未熟者だけどさ。
『お、怒ってるのだ? 』
平賀さんが泣きそうな感じになっている。
なにこの小動物、可愛い。
「怒ってないさ。チョコも美味しかったよ」
すると、一気に、パアッと幸せそうな声になった。
『ありがとうなのだ! 』
「いえいえ。ところで……なんて手紙書いてくれたの? もしかしてラブレター? 」
茶化すように言うと、
『ち、違うのだ! お礼の手紙なのだ! 』
全力で否定された。ちょっと悲しい!
いや、だいぶ悲しい!!
「ふーん、そっか。じゃあ今度から手渡しでよろしくな! 俺はアリアに呼ばれてるからもう切るね! 」
そう言い残し、平賀さんとの通話を終えた。
その後、俺とキンジとアリアはゲームセンターに来ている。戦闘後のお疲れ会のような感じだ。そして、
「ねえ、聞いてる? あんたのおごりなんだからね?」
「ごめんなさい。卑怯者です。許してください」
「イヤよ、レオポンゲットするまで帰らないから! 」
「キンジ! アリアにUFOキャッチャーのやり方をそろそろ教えてやってくれ! 」
アリアにおごらされている。理由はひとつ、俺がフリーズとか言って騙したからだ。
アリアはゲームセンターにあるUFOキャッチャーの景品のレオポンという猫みたいなキャラクターに目を輝かせ、子供みたいに欲しがっているのだ。
「キンジ! あんたやってみなさいよ 」
「わかったよ。お前がヘタなのがハッキリわかるぞ」
「はやくやりなさい!」
キンジはコインを入れ、狙いを定めてボタンを押す。
レオポン集団の真ん中にアームがはいり、1匹とれた......と思ったら腕と紐に挟まっていたもう1匹とれた。
合計2匹、キンジ恐るべし!!
「おいキンジ、金稼げるぞ」
「こんなので金稼ぎなんかするか! 」
アリアはそんな会話など耳に入っていないような、キラキラした目でレオポン2匹を見つめている。子供かよ......
「 ねえキンジ! これ1匹あげるわ!」
「は? いらね──」
「ああ? 」
「──い、いります! 欲しいです!! 」
キンジ、アリアに逆らえないんだな.....俺もだけど。
そのあとキンジとアリアが携帯にレオポンをつけている間、俺は1人寂しくゲーセンの中を歩いていた。
2分くらい歩き回っていると、金髪ポニーテール女子がチャラ男3人に囲まれているのを確認。武偵校の生徒らしいが、どうやらナンパされているらしいな。助けるか。
「おー、こんなところにいたのか! 探したぞ〜」
チャラ男3人の間を通り、金髪ポニーテールの手をつかむ。
「さ、遊んでないでさっさと帰るか」
「おいおい! 今俺らこの子と遊んでんだよ! 」
「彼氏か? 弱そうだな!! 」
「おい! 俺とタイマンはれや! 」
やれやれ......血の気が多い奴らはホントに扱いに困る。
さて、どうしたものか.....待て、俺の名演技が台無しじゃないか!!
「ビビってんのか? 楽勝だな! 」
男はいきなり顔を殴ってきたが......ちっとも痛くない。
赤ん坊に触られている、そんな感じだ。
「痛くないよ。あ、それと君今殴ったよね? 」
「ああ、それがどうした! オラァ!! 」
再び顔面を殴ってきたが、俺はその拳を弾いて逸らし、男の顎めがけて正拳突きを放つ。
ゴッ!!っと音がして、その場に崩れるように倒れた。あれ? 軽くよろめくくらいに調整したはずなんだけど.....
男の仲間はそれを見て激怒したのか、メリケンサックを指にはめて、殴ってくるので、
俺はそれらを見切り、ボディーブローをその男達に1発ずつ打ち込む。
男どもはその場にうずくまり、腹を抱えて唸りはじめてしまった。
よし、これで片付いた。
「大丈夫だったか? 」
「あ.....はい。助かりました! でも先輩が手を下す程のことでもなかったですよ? 」
「あ、もしかして強襲科だった?悪いことしたね」
「いやそんな! 強襲科でも有名な先輩に助けてもらえて光栄です!! 演技は少し......下手でしたけど......」
演技については触れないでくれ!.....恥ずかしい!!
ん? 強襲科の新入生の中にこの子見たことあるな。一応名前聞いておくか。
「演技はいいよ......強襲科だよね?名前聞かせてよ」
「あ、火野ライカっていいます! よろしくお願いします! 」
「ああ、よろしく。 じゃ、俺はそろそろ友人のところへ戻るわ。また今度な! 」
「はい! 」
元気でいいな。こういう子を妹に欲しい。まあ俺の妹になってくれる人なんてこの世のどこを探してもいないと思うが。
「あ、それと1つ!ライカは可愛いからはやく寮に戻らないとまた声かけられるぞ! 」
「な!? あ、あたしは────」
後ろから声が聞こえるが、手を後ろに振るだけにしておいた。それにしても、武偵校の女子ってなんであんなに可愛い子がいっぱいいるんだよ。
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「朝陽、やっと会えるね」
お気に入り100突破いたしました。これも読者様のおかげです。
今後もよろしくお願いします。
Freeze(フリーズ) 凍る、凍結する、動かなくなるなど。