俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 武器商人との決着したところでココが到着。


第75話 分裂する心

「なんで怪我してるアル!? 」

 

 デカくリムジンのように長い装甲車のハッチから顔をだしているココは目がひんむく勢いで体を乗り出した。まあ、当たり前だろう。追いかけていた相手が瀕死の状態で現れたのだから。俺だってもう意識を手放したいけど・・・・・どうやら今までとは違うらしい。暗転しそうな意識がストッパーによって強制的にそれをさせないようにしている。そのストッパーが何なのかは大体見当がつくけど、これはさすがにキツい。もう痛みは脳が許容するキャパシティを超えてどこがどう痛いかすら分からなくなってきた。おまけに寒い。季節だとかそういうのじゃなく、本当に寒い。

 

「私はもう精神力切れよ」

 

「地中にも潜れないか? 」

 

「むり。ここはおとなしく捕まった方が吉よ。下手に抵抗すれば殺される」

 

「──そう、だな。もう、話す気力もなくなってきた。これで逃げ切っても野垂れ死ぬだけか」

 

 俺は血だらけの右腕をなんとか上に持ち上げ手のひらを見せる。あのヒルダですら潔く負けを認めると両腕を上げた。

 すると装甲車の影からわらわらと白い制服を着た──女子中学生から高校生くらいの集団がココの指示で出てきている。(おれ)がこんな状態でも自分から向かわないなんて用心な奴だ。にしても、

 

「──。───。──」

 

 女子たちは中国語かなんかで俺とココを交互に見つめ何やらヒソヒソと話している。そりゃ全身血だらけの死体みたいなやつを運べと言われれば動揺するし・・・・・あ、あの子吐いちゃってる。ごめんな、こんな見苦しい姿で。

 

「まあ捕まえられたから理由なんてどうでもいいネ。でも怪我のわりには余裕なのは気に食わないヨ。口もとがニヤついてるアル」

 

 女子の中でも俺を見てまだ平気な子4人が担架を持って近づいてくる。俺はその子たちが横に来て担架を広げた中に倒れ込むように寝そべった。掛け声と共に持ち上げられたが、重たそうに顔をひきつらせている。

 

「気のせいだ。それよりも早く医者に見せて・・・・・くれ。瑠瑠神が暴れるのも本望じゃないだろ」

 

 なんとも情けない。まさに虎の威を借る狐だ。しかも、担架に載せられ運ばれながら、だ。女の子たちは顔面蒼白でトラウマも植え付けてしまって、それでも強がる俺はいったい何様だよ。

 

「そうネ。気をつけるアル。下手に刺激して瑠瑠神になるのは朝陽の首飛ぶヨ。チョーカーなければもっと楽だたのに、日本の政府もめんどうくさいことしてくれたネ」

 

「・・・・・・・・・・っ!? 」

 

 そうだ、首のチョーカーは日本政府の判断のもと監視という名目で付けられたものだ。俺が瑠瑠神になった時点で首から上が弾け飛ぶ代物──いや、多分瑠瑠神になる直前でもこのチョーカーは発動する。成ってからじゃ遅いからな。だから今俺がこうして意識を保って担架で運ばれてること自体がおかしい。一度俺は、完全に意識を乗っ取られたんだ。

 

 ・・・・・おかしいならおかしいなりの理由はあるか。とにかく今この無防備な状態じゃあ何されたって抵抗できやしない。どんな浅いことでもいい、とにかくこの燃えるような全身の痛みから少しでも気を逸らせられれば。

 

「お前は──ヒルダとかいう名前だったネ。宣戦会議(バンディーレ)でスカした顔してたの覚えてるアル。夜なのに傘振り回して迷惑で生意気なやつネ。でも今のそのボロボロな姿の方がよっぽど似合ってるヨ」

 

「あら、半世紀すら生きてないヒト如きの幼声で何を言うかと思えば。私はどんな姿であろうと美しさは損なわれないの。お前のようなチビはせめてハイヒールとドレスを着られるようになってから私に文句を言いなさい。もっとも、否定をしようものなら殺すけど」

 

「そこの朝陽(雑巾)と違ってお前は用無しネ。ここでその首を切って十字架に張り付けてもいいアル」

 

「いい提案ね。それとお前の首も一緒に()()()()()力は残っているのだけど、試してみようかしら? 」

 

 と向かい合って次々と罵倒を口にする。

 充分戦っただろうに。それでも先に手を出さないだけマシか。ここでまた戦闘し始めたら俺も周りの女の子も巻き込まれる。ココが強い相手だって分かってくれてるからヒルダから一線は越えないだろうけど・・・・・。

 

「こらこら。病人がいる前でよしたまえ。死体がひとつ増えることになるぞ」

 

 と、女の子たちとは別の、成熟した声が装甲車の中から聞こえてくる。女性なのは間違いないが、綴先生のような低い声。しかも声音から気だるそうな感じが伝わってくる。

 

 一抹の不安を抱えながらも装甲車の中に運び込まれた。内装は普通の装甲車を改造しており、座席シートは半分以上がとっぱらわれて救護室風の装いが施されている。

 それに──全体的に広いな。普通の装甲車はもっと横幅が狭いはず。わざわざこの設備のために外装にも手を加えたのか。そのおかげか人ひとりが真ん中の通路で寝そべっても横に座れるスペースがあるし、簡単な手術も出来そうだ。医療器具と思しきものが天井や壁にズラリと並んでるしな。ただ、外装で見た通り異様に長い。

 

「2人ともさっさと乗りたまえ。怪我人を配達するリムジン型装甲車などと馬鹿げた発明の最初のお客様だ。死なれては開発費用が打ち切られてしまうよ。それに計画が台無しになれば諸葛もガッカリするぞ。また説教部屋に入れられても助けてられないからな」

 

 担架から手術台のようなものに移される。言い争っている2人も乗ってきたようだ。文句をたれつつ武器の柄を握っていたが、ココは先に視線をはずし、こちらへ前かがみでやってくる。ココはとことこと俺の右側に座り、ヒルダも嫌そうに隣に座った。反対側には綺麗な女の人が座っている。赤髪ショートの端正な顔立ちに白衣を纏っている。目元に隈、少し汚れたメガネ、そして薬品の匂い。さっきの声の主は間違いなくこの人だ。

 

「お前、私のコレに一瞬でも変なマネをしたらタダじゃおかないわよ」

 

 と、ピッと俺を指さすヒルダにココは意地悪そうな顔つきになった。

 

「嫉妬は見苦しいアル。負けた男に惚れるなんて末代までの恥ネ! 」

 

「違うわよ。それとも何? お前をここで末代にしてもいいのよ? 」

 

「はいはい。病人の前だよ。ただでさえ滅菌もクソもないとこなんだ、せめて唾を飛ばすのはやめてくれたまえ」

 

 両手を鳴らし睨み合っているヒルダとココを諌めると、めんどくさそうに俺の容体を観察し始める。

 

「切傷、刺傷、擦過傷、裂傷等の表面的な傷に加えて左腕骨折、重度の失血・・・・・。右目は元から、ってなんだぁこりゃ。扇風機に刃物つけて突っ込んだ傷痕みたいじゃあないか。よくもまぁこんなんで生きてるもんだ。あ、これは昔の傷か。それ抜きにしても、正しく死体のような状態で意識もあって喋れるとは。アドレナリン出て痛覚感じてないのか? 」

 

「痛いです、よ・・・・・」

 

 と、女医の感嘆の言葉に小さく反論する。すると嘲笑するかのように、

 

「コイツ元から死んでるネ。意識あるゾンビと変わらないヨ」

 

 ココは仰向けの俺の顔を見下ろし、俺の腹の辺りを握り拳で圧力をかけてきた。直後、感じ取ったのは電流。それに体が反応し胸から上半身が反射的に持ち上がる。そして、その電流は耐え難い激痛へと変化し──

 

「があァ、ぁぁ・・・・・っっ!? 」

 

「ココ、いじわるしないで拘束しろ。こりゃ多分腹ん中がトマトスープみたいになってる。どうにもただお腹を斬られて出てくる出血量じゃないしね。詳しく診ないと分かんないけど、多分胃は無くなってるんじゃないかな。腸も怪しい。腎臓は免れてるだろうが、呼吸の方はどうだ? 」

 

「呼吸音に雑音は混ざってないネ。でも肋骨は折れてるかもネ。教えろアル」

 

「・・・・・ぐぅ、俺に聞かれたって知らねえ、よ。痛みに判別つけられないんだ」

 

「まあ、折れてたら肺に刺さってどのみち穴開くしいいか。処置を始めよう。ココはこの子の服とか重そうなのは脱がせてあげて。蘭幇城に着くまで死なないといいね、君。こうもグッチャグチャの状態で生きてることが人体の奇跡なんだ」

 

 と女医は白いゴム手袋を装着しマスクをする。そしてココは渋々と俺の防弾制服を脱がしていく。脱がすといっても前のボタンを開けるだけだが、かなりの血を吸っていたようで、いくぶんか痛みがマシになったような気がする。制服の重みをこんなことで知るなんて思わなんだ。

 そして腰の銃や腕に装着している盾も、装備品は全て外されていく。今なら飛べそうなくらい体が軽いと感じるが、ココは、こちらの気は知らぬと満面の笑みを浮かべてくる。

 

「どんな気持ちアルか? 敵に怪我を治して貰うのは悔しいアルか? 自分の失敗の()()()()()を敵にさせるのはみっともないアルと思うネ? 」

 

()()()()だよココ」

 

「どーでもいいヨ! さっさと治せアル! 」

 

「はいはい。君、今その痛みをとるからジッとしていたまえ」

 

 女医は窮屈そうに身をかがめ俺が寝ている手術台の下を覗き込んだ。ガラスが容器と当たる音や初見で薬とわかるあの特有の匂いがする。

 あーでもないこーでもないとブツブツ言っている姿はどことなく平賀さんに似ている。時々机下の天井に頭をぶつけるとことか。

 

「あぁこれだこれ! これを打てば楽になるよ! 」

 

 そう引っ張り出してきたのは2本の注射器を取りだした。中身は何かの液体で満たされている。わざわざこんな所に連れ込んで毒薬を投与なんて考えにくいが、敵側から無償で施しを受けることほど怖いものは無い。

 

「それの中身が朝陽を殺す毒じゃない証拠はあるのよね」

 

 ヒルダも同じことを思っていたようだ。女医はその疑問を待っていたかのように微笑むと、

 

「そのために2本あるんだ。どちらか選んで、私かココ、運転手に先に注射しても構わないよ」

 

 と2本の注射器をヒルダに差し出した。

 

「──わかった」

 

 そうヒルダは呟くと女医の右手側の注射器を取り、ヒルダ自らの腕にぶつりと刺した。これには女医はもちろんの事、俺もココも驚かざるを得なかった。何せプライドの高いヒルダが俺のためにここまでするとは思わなかったからだ。

 

「・・・・・・・・・・毒はない、わね」

 

「よく自分に打ったネ。勇気だけは認めるヨ」

 

「はっ! 事前に解毒剤を飲まれてるかもしれないのにわざわざ無駄打ちさせるわけないわよ。コイツに死なれても困るの」

 

「はははっ! いいねいいねそーゆーの! ちなみに今打ったのはモルヒネ塩酸塩だよ。俗に言う痛み止めだ。だんだん君の痛みもひいてきただろう? 」

 

 女医はヒルダのあちこち破けた服の合間から覗く痛々しい傷を見つめている。ヒルダ自身がその効果を肌で感じ取っているため獅子のような荒々しい目を閉じた。その沈黙に女は、さてとつぶやき、

 

「金属アレルギーとかないよね。じゃあ打たせてもらうよ」

 

 腕にプスリと突き刺され液体が注入される。身体中が気の遠くなるような痛みがこれで引いてくれるといいが・・・・・。

 

「君、血液型は? 意識はハッキリしてるし見たとこ手足の感覚は残ってるみたいだからそんなには失ってないと思うけど」

 

「ざっと4Lくらいじゃないの? お前は血を流しすぎよ」

 

「4Lって、人の血は60kgの人で大体4.6Lしかないんだけど」

 

「さっきも言ったネ。コイツは死んでるアル。瑠瑠色金に生かされて人の形をしてるだけヨ。それに内蔵潰されてるヤツが血が無くなったくらいでくたばるわけないアル。一滴残らず流しきってもピンピンしてるネ」

 

「ちょ、ちょっと待て。この女医さんは知ってるのか? 」

 

「藍幇の医者だから当然ヨ。特に怪我人多いからハケンされてきたネ」

 

「ココの言う通り。私は本部から派遣された医者だよ。香港支部は荒っぽいことが好きなようでね、一応大学病院勤めなんだけど専属の医者扱いされてるようでね。今回の作戦に同行するにあたって君の説明をされたわけさ。だがまあなるほど・・・・・人体が死んでいるというのは比喩ではなく実際に起こっていることか」

 

 ちょっと、少なくとも大学病院勤めの人に教えちゃダメな情報でしょう藍幇の香港支部さん。相当口が堅いか忠誠心があるか、それとも適当なのか・・・・・。確かに輸血が絶対必要そうな俺に対して1度も輸血しようなんてそぶりを見せなかったからな。とにかく現場を知っていてパニックにならない人で良かった。

 

「ところで君、少しは楽になったかい? 」

 

 つんつんと腕を押され──耐え難い痛みが気にならない程度にまで引いていることに気づいた。息苦しさや圧迫感は消えないけど、こんなにも効き目が早いのか。その代わり汗と・・・・・涙、か? 痛みが急に引いた反動で出てきたのか? 死体の体でまだ人の名残があるって結構・・・・・

 

「なみ、だ? 」

 

「あーそうそう。そういえばこの薬、モルヒネ塩酸塩なんだけど、いくらなんでもこんな即効性は無いのは武偵時代の純粋な京城朝陽(きみ)なら一瞬で理解できたはずなのにね」

 

 涙はすぐに止まったが体が狂ったかのように発汗し続けている。暑いわけでもなく何かに危機感を感じている訳でもない。

 

「そこで私の超能力(ステルス)が役に立つわけさ。能力は()()。自分が触ったものしか効かないのがデメリットではあるが、私は戦闘員ではなく後方支援だからね。()()()()()()()()君を助けたと思っているようだけど、私は藍幇側──つまり君とは敵対関係にあるんだ。だから私が君の痛みをとった過程で何をしようと君は文句を言えない。だろ? 」

 

「お前、コイツにいったい何をした! 」

 

 俺が口を開くより先にヒルダは優雅さとかけ離れたドスが効いた声をはった。ココはソレに向けて銃を構えそれ以上動くなと警告意思をみせる。顔に張り付いた挑発的な笑みは依然として残っているがそこに油断は一切見られない。

 

「ただ助けるかと思たネ? 油断大敵アル。そんなのだからコイツ達バスカービルに負けるアルヨ」

 

 ちらちらと俺を見下しつつココはトリガーに指をかける。ヒルダが指先をピクリとでも動かせばすぐ撃てるように。

 

「銀弾入りネ。今なら一発で殺せるヨ。試すアルカ? 」

 

 ヒルダは俺にも聞こえるくらい大きな歯ぎしりをすると、いつの間にか手にしていた三又槍(トライデント)を装甲車の床に突き立てた。ココは確か中国だかの有名な武人の末裔だったか、その腕は折り紙つきだ。

 ただ女医はヒルダの明確な殺意を持った視線にビビったのか、両手を胸元で横に振った。

 

「待て待て。そんな惨いことは出来ないよ。言ったじゃないか、私の能力は増幅と即効だって。モルヒネ塩酸塩を打った私は痛みを止める成分を()()させ、さらに即効作用させた。ただここで疑問が生まれるよね。ココ、なんだと思う? 」

 

「決まってるアル。痛みを止めるだけなら他の薬でもいいネ」

 

「正解だ。じゃあ私がこの状況で増幅させた効果、なんだと思う? 」

 

 ──っ、やられたっ。この人は1人の医者であるまえに蘭幇の構成員。少しでもマトモそうな人だと思った俺が間違いだった! キンジのようなお人好しでない限り無償で助け味方に引き込むなんてことはしない。あれはリーダーとしての天性のカリスマがあってこそだからだ。裏切ったとしても何のデメリットもない。今の状況のように弱みを握るのが普通だ。

 

 そして俺に仕掛けられた弱みだが──モルヒネは強力な痛み止めとして被弾した際に自ら注射することもある。緊急時に痛みで動けなくならないようにだ。副作用としては嘔吐や発疹を伴うが、それよりももっと重要な副作用があると習ったはずだ。・・・・・そうだっ、確か──

 

「モルヒネには薬物依存性がある。俺を薬漬けにして従わせようって魂胆だな」

 

 ニィィ、と女医は口元を緩めさせた。否定して欲しかったんだがな。武偵とはいえ、危険薬物耐性をつける名目で生徒にドラッグや薬物を勧めるバカはいない。そもそも吸ったらアウトだ。・・・・・違法薬物は人をダメにする。どれほど増幅させたのかは分からないが、大切なものを失うくらいであれば、

 

「はっ、このまま舌を噛みきった方がマシだ」

 

 と舌を歯で強く噛む。血が流れるくらいには強く噛んだつもりだが─と俺を利用したいくせして血相変えて止める素振りをみせないし、悪人面は一向に崩れていない。

 

「薬物依存症なんてオマケに過ぎないよ。金属(かみさま)相手に薬が効くとは思ってないし、なんか・・・・・嫌だろ? ラリってる神様なんて私が見たくない。ではなぜか」

 

 女医は俺にゆっくり顔を近づける。

 瑠瑠神のことを知っているのなら、今すぐ時の流れを遅くし女医の首を刎ねるのは容易いことだと把握しているはず。なのに目の前の女医からは恐怖心が一切感じられない。けたけたと笑うばかりだ。

 

「この作戦にあたってココから君は色金になりつつあると聞いてね。一度瑠瑠神に成った君は日本政府や武装検事から監視されている。使いようによっては核よりも強大な抑止力となる君を厳重管理したかったはずさ。その気になれば世界中の要人たちを一瞬にして殺せる力──それを疎む国や組織が一斉に日本へ来れば戦争になるのは必然よ。たった1人の制御できるやもしれぬ抑止力のために数千人数万人の犠牲を払えるほど日本に人的資源はない」

 

 ──時に、と言葉を続ける。

 

「あの胡散臭い武器商人がハッキングでもしなければこの地に君が現れることはなかっただろうね。各国(かれら)の矛先はこの地へと向けられる。君がモルヒネを大量摂取していることによる薬物依存に陥った、しかも()()()()()から薬物依存という診断書まで書かれそれが提出されたとしたら・・・・・日本政府や武装検事が聞けば彼らはどうする思う? 」

 

「・・・・・良くて武偵三倍刑で21年前後は刑務所ん中。悪けりゃ無期懲役か」

 

「ふむ。それもあるだろうが、薬漬けにでもされていれば君はすぐに終了処分を下されるだろうね。君と時を同じくしてこの地に足を踏み入れた武装検事も数多くいるはずだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。君を殺せる口実があるのなら喜んで殺すだろうね」

 

 女医は親指を立てると首を掻き切る仕草をした。

 まさにその通りになるだろうな。今なお俺の首に着いているチョーカーは政府につけられた首輪だ。命令ひとつで首から上が吹き飛ぶ。

 

「首を吊るか銃で撃たれるか、焼くも凍らすも等しく死だ。やつらには口実さえあればいい。学生の儚い命を散らすのは簡単な仕事だ。──さて、ここでひとつ提案がある」

 

 饒舌な口を閉ざしにんまりと俺を見定める。その次に続く言葉はどれだけ鈍感なやつだろうと予測が立てられる。あたかも、殺されたくなければという前置きをしているかのような口ぶりだったんだ。であれば、

 

眷属(こっち)に来い。京城朝陽。その力を失うには早すぎる」

 

 やはりそうくるかっ。

 そもそも色金自体が貴重なんだ。弱みを握ろうとするのは当然の結果。だけど・・・・・っ、この能力が他に渡れば即刻戦争になるのは間違いなしだ。それを承知で言ってるのか!?

 

「断ってもいいよ。それは自由だ。けど、断った場合は君が薬物依存状態であるという診断書が日本政府に届いてしまう。さっき言った通りのことが起きるが、それだけじゃあない。バスカービルも問題となる。聞けばメンバーは名だたる称号やそれなりの有名人ばかりじゃないか。その輝かしい経歴はさぞ素晴らしいものだろうね」

 

 ここで俺が断れば、瑠瑠色金(おれ)を監視するという任を遂行出来ず、犯罪者を生み出したという足枷がキンジたちについてしまう。チーム解散すら有り得る話だ。俺と違って将来があるアイツらに一生背負わなくていい呪いをかけてしまうことになる。

 

「・・・・・・・・・・お前らの報告書だけを日本政府が信じると思うか? 」

 

「報告書だけじゃ信じるわけないさ。だから動画も添付するさ。君が瑠瑠神として暴れ回っている姿をね」

 

「なっ! っ、お前らの前でなる気はないし、そもそも俺が瑠瑠神になった時のリスクは──」

 

「もちろん考えてあるとも。君の刀、確か対瑠瑠色金(アンチ・グリーン)だったよね」

 

 こっ、こいつ! どこまで知ってやがるんだ!?

 俺の刀のことは誰にも話してないはず! せいぜい知ってて平賀さんか理子くらいだ! ゼウスとの面識もないはず!

 

「うちの武器商人が『瑠瑠神との交渉の手札は揃えてある』って言っててね。胡散臭い人間──人間? ではあるけど、こと兵器の製作・運用についてはピカイチなんだ。私は刀鍛冶じゃないしマニアでもないけど、そういう効果があるってのは今の君の顔から判断できたよ。あははっ、可愛いところもあるじゃないか」

 

「余計なお世話だ! くそっ・・・・・! 」

 

 完全に逃げ道を絶たれた。ヒルダと俺は満身創痍。頼りになる武器もない。救援を呼ぼうにもココがそれを許すはずもない。こうして易々と命を握られて・・・・・本当に情けない──!

 

「さて。質問を戻そう──と言いたいところだが、まずは場所を変えようか。君を無傷で連行するつもりがとんだ寄り道をしてくれたおかげで残業になってしまったよ。君のせいでもあるんだぞココ」

 

「エロジジイがいたからしょうがないネ! 」

 

「はいはい。言い訳は帰ってから聞くよ。それと──君がこうして大怪我をしてる理由もね」

 

 女医は立ち上がり、後方の扉を開けた。そこに広がるのはさっきの荒れ果てた土地などではなく、

 

「ようこそ蘭幇城へ。今日から自分の家だと思って過ごしてくれたまえ」

 

 背面扉が開けられた先には海の上にそびえ立つ城があった。中心街にある高層ビルよりも低いが、一瞥するだけで吸い寄せられてしまうような妖しい光、そして周りを飾る豪華絢爛な衣服を纏った城が、我が物顔で鎮座していた。

 

 

 

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