俺に意味深な笑みを浮かべた二人はどこかに行ってしまった。『今夜はお楽しみに? 』 それは銃を選ぶのを楽しんでってことか。まったく、お兄さん別の意味で考えるからそういうのはやめて欲しいんだけどな。
「じゃあ、おじゃまします」
「お、おじゃまされますなのだ!? 」
壊れたロボットのようにぎこちない動きで文は部屋の中に戻って行った。言葉遣いがちょっとおかしい気がするが・・・・・緊張してるのかな。大丈夫だ、俺も緊張してるから。
俺は靴を揃え、身なりを整えてから文に続く。文は平たい胸に手を当て深呼吸をしてからドアを開けた。
(・・・・・おしゃれだ)
そこは俺たちの部屋よりおしゃれで、なにより綺麗だった。女三人だからだと思うが、必要最低限なものしか置かない俺たちと違って可愛い小物が至る所にある。他にも加湿器とか、あとは──微かにバラの香りがする。
「バラのアロマでも焚いてるのか? 」
「あの二人が焚いたのだ」
ふーん。まあいい匂いだし、嫌じゃないからな。俺は文に促されるまま椅子に座ると、俺に分厚い本を差し出し、キッチンへ急いで戻ってしまった。
「今から料理を、その、作るからそれでも見ててなのだ」
「お、おう。ありがとう」
文って料理作れたの? 初耳なんですけど。文は身長がちょっと足りないから怖いんだが、キッチンから覗かせる顔がいつもより高いし何かの台のでも乗ってるいるのだろう。
俺はその分厚い本を開いた。銃器関係の本のようで目次を見るとアサルトライフルやスナイパーライフル、サブマシンガンなど膨大な数の銃の一覧が載っている。ハンドガンは一番最後に載っていた。俺はライフル銃は使わない主義なのでハンドガンの項目まで飛ばす。
(うわ、有名なものから聞いたことのないものまでいっぱいあるな・・・・・)
ベレッタやUSP、グロックやSIGなど様々な銃がそれぞれ一ページを大胆に使って説明されている。クリーニング方法や使用弾薬、成り立ちから長所短所までだ。ここまで詳細に書かれているものは他にない。
それから俺はページをめくりながらあれこれ考えていると、美味しそうな匂いと共にカレーが運ばれてきた。いかにもって感じだが、ちょうど食べたいと思ってたからラッキーだな。
・・・・・現世で初めてラッキーと思えたよ。
「美味しそうだね」
「口に合うかどうか分からないのだ。まずかったらゴメンなのだ・・・・・」
「文が作ったのなら何でも食べるよ」
そう言いながら顔をあげると、ウサギ柄のエプロンをかけた
可愛い、可愛すぎる! 見た目ロリな子が可愛いエプロンを着て手料理を振舞ってくれるその姿!
「あ、ありがとうなのだ」
文はカレーのはいった大きな皿を俺の前に置き、文は一回り小さい皿を置いた───俺の隣に。正面じゃなくて隣にだ。
「いただきますなのだ」
「え、ああ。いただきます」
特に気にする様子もなかったので俺はスプーンを手に取り、カレーを食べ始める。
────美味しい。俺の作ったカレーよりうまいぞ! スパイスも効いてるし、これは絶品だ!
「文、美味いよこれ! 」
「本当なのだ!? ありがとうなのだ」
俺は一口ずつ味わって食べる。文はカレーにがっついてる俺を見て頬を赤くしているが、文も冷めないうち食べた方がいいのに。
それからカレーを食べ終え皿を一緒に洗った。といっても二人分だけなのですぐ終わった。文が幸せそうに鼻歌を口ずさみながら皿を洗う姿は小学生のそれだが。
「てことできょーじょー君、早速決めるのだ」
「おう。そろそろM93Rも文に返さないとな」
俺と文はリビングに戻り、同じソファに腰掛けカタログを一緒に見る。
「きょーじょー君はどんなハンドガンがいいのだ? 」
「そうだな・・・・・威力が高くて頑丈なやつだな。珍銃じゃなきゃいいぞ」
「それだと、ファイブセブンとかどうなのだ? 」
「あれは外見がちょっとな・・・・・他のにしてくれ」
「外見もいれるのだ!? 」
「まあ、自分が気に入っている銃じゃないと、どうしても集中しきれなくてな。緊急時の場合は仕方ないけど、文もお気に入りのメーカーとかあるだろ? 」
「確かになのだ」
文は俺のわがままを聞き入れてまた銃選びに戻った。文の横顔を見ると、真剣な眼差しでカタログとにらめっこしている。俺のために尽くしてくれる数少ない友達だ。大切にしなければ、そう思い俺はソファから立ち上がり、テーブルの角に寄せて置いてあった手提げ袋からカルピスを取り出し、俺と文のコップに注ぐ。零れない程度に注ぎ、ソファの前のテーブルにゆっくりと置いた。
「これはきょーじょー君が買ってきてくれたのだ? 」
「おう。チョコも買ってきたぞ」
俺はいかにも高級そうな見た目の箱を開けた。中に入っているチョコは一つずつ小分けにされている。文はそのチョコ達を見ると途端に目を輝かせ右手を伸ばし──チョコをとる寸前で固まった。
「ううう、今これを食べたら太るのだ」
「太る? 太らないって。むしろ文はもう少し食べた方がいいんじゃないかな」
「だって、太ったらその、きょーじょー君に嫌われるのだ・・・・・」
「俺がそんな事で文を嫌いになるわけないだろ。それに、一キロや二キロ太ったところで気づかないよ」
文はそれを聞くと再び目を輝かせ、小分けにされている内の一つを手に取り口の中に放り込んだ。
その瞬間、文は両手を頬にあてると心底幸せそうな顔をした。体を左右に揺らし幸せ全開オーラを出している。これは買ってきた甲斐があったな。
「ありがとうなのだ〜ほっぺたが落ちそうなのだ! 」
「ありがとう。そんなに美味しかったか? 」
「うん! 」
チョコを口元につけ、無邪気に笑ったその顔に──少しドキッとしてしまった。文は元から可愛いのにそんな顔を向けられて、心に響かないと言う者はいないだろう。
それから文はパクパクと小分けにされているチョコを口に放り込んでいく。俺も一つ食べてみたが、甘すぎて無理だ。かといってコーヒーもまだ飲めない。アイスコーヒーもだ。あれのどこが美味しいのかよくわからん。
「きょーじょー君、これはどうなのだ? 」
指さされたページを見ると、写っていたのはHK45だった。
「HK45なら外見もいいと思うし、装弾数は十発、チャンバー内にあらかじめ装填しておけば十一発なのだ。使用弾薬は、.45ACP弾だから破壊力も充分なのだ」
「HK45か・・・・・そこにフラッシュライトをつければ暗い場所の戦闘が可能になるな。よし、それで決まりだ! 」
「ふふ、ふふふなのだ! 決まったのだぁ〜! 」
え・・・・・文さん? テンションおかしくないですか?
文の頬は微かに朱色に染まっていて、えへへとだらしなく口を緩めている。
「きょーじょー君! いや、朝陽君! 」
「はい・・・・・はい? 」
「前々から朝陽君は危なっかしいのだ! 何回も何回も入院して、あややがどれだけ心配したのか分かっているのだ!? 」
「あ、あの? 文───」
「朝陽君! 」
「ゴメンなさい」
おかしい。絶対におかしい。キャラが変わりすぎている。文はソファから勢いよく立つと、座っている俺の頭を両手でなで始めた。
「えへへ、いっつも入退院を繰り返してあややを心配させる朝陽君のためにとっておきのプレゼントがあるのだぁ」
文はおぼつかない足取りで寝室に行くと、物を散らかす音が聞こえてきた。それも金属音だ。寝室に何を持ち込んでいるのかは知らないが、また何か開発したらしい。
「うーん、うーんなのだあああ! 」
再びリビングに文が戻ってくると、文の片腕に盾が装着されていた。見た目が黒一色で、盾全体が二段構造になっている。盾の上から盾を繋げたような形だ。
「それは? 」
「これは、アルミニウム合金の中で最高の強度を持つジュラルミンがで出来た汎用長方盾なのだ! 」
「汎用ってことは守る以外に何かできるのか? 」
「そうなのだ! 盾をつけたまま拳で殴れるのだ! 」
・・・・・それって普通じゃないか?
文はその盾を持ったままフラフラとソファまで歩き、頭から突っ伏した。何があったんだと聞きたいが、文の口から次々と説明が溢れ出てくるのでタイミングが掴めない。
「ちなみにこの盾は二つに分けられるのだ。通常時はこうやって纏められて、持ち運びも楽なのだ。これを朝陽君にプレゼント! いつも他の装備科の人じゃなくてあややを選んでくれてるお礼なのだ! 」
「あ、ありがとう・・・・・」
「どういたしましてなのだぁ」
文は俺に盾を渡してきた。盾の裏側を見ると手で掴んで扱うものではなく、衝撃吸収材が円筒形になっていて先端に謎のスイッチ付きの取っ手がある。そこに腕を通して取っ手を掴めば、銃弾を受けても怯むことなく突っ込めるな。盾自体の長さも、縦40cm、横20cmと防弾制服の背中にもぎりぎり隠せる。その場合は盾一つ持ちじゃないと制服が不自然な盛り上がり方になりそうだが。
「えへへ〜気に入ってくれたのだぁ? 」
「ああ。でもこの取っ手に付いてあるスイッチはなんだ? 」
「それは一回限りの必殺技! それを押せば盾の内部にある金属マグネシウムが外に押し出されて燃焼するのだ」
「つまり? 」
「閃光手榴弾機能付き長方盾なのだ」
また珍妙なものを作りやがって。自分がその閃光をくらったらどうするよ。敵も俺も目を押さえながら悶えるという中々シュールな光景になるぞ。それに金属マグネシウムが入ってる所に着弾したら終わりじゃねえか。
文はそんな事はお構い無しにテレビをつけ、丁度やっていた動物特集を俺の左腕を体全体で抱きつきながら見始めた。抱きつかれることは理子で慣れているから別に構わないが、アレが当たっているのだ。柔らかいアレが。外から見ても断崖絶壁のくせに、腕を押し付けられると確かに感じられる柔らかい感触が!
俺はその押し付けられる感触から来る煩悩を必死に退治するが、文は我関せずとばかりに腕を抱きしめる力を強くしている。それもテレビに可愛い動物が映る度にだ。
「ちょっと腕を抱きしめる力を弱くしてくれない? 」
「朝陽君は暖かいからずっと握ってたいのだ〜」
そんな事普段だったら言わないよね。これが素なのか? 学校ではなくプライベートの時の文がこの姿なのか?
それからキンジに教えてもらった煩悩退散術を脳内で行っていると、腕にかかる力が急に緩んだ。
「歯磨きしてくるのだ! 」
文は立ち上がると、両手を横に伸ばし、飛行機の真似をしながらリビングを出ていってしまった。
いや、これはプライベートの時とか関係ない。本当にどうかしてる。
「文・・・・・妙に頬が赤いし、テンションもおかしい。いつからだ? 」
そこで少し考えてみる。カレーを食べていた最中はいつものテンションだった。だとしたらその後だ。銃を選んでいる最中にチョコを食べて、カルピス飲んでて・・・・・チョコ?
(まさかチョコか? )
俺は小分けにされていた高級チョコレートの箱の成分表を見る。そこには一般的なチョコに含まれている成分ばかりだ。カカオに糖質にアルコールに食物繊維に──ちょっと待て。アルコールだとッ!? いや、入っていたとしても少量のはず! でもあの文のテンションは・・・・・間違いなく酔っている!
「たっだいま〜なのだ! 」
「文、酔ってるのかお前」
「全然酔ってないのだぁ! 」
──さっきより悪化してる気がする。だめだ、早くこの部屋から脱出しないとからまれる! !
「朝陽君今日はもちろん泊まっていくのだ? 」
「え、俺はお前が寝たら帰るが」
「帰っちゃいやなのだ! 」
今にも転びそうな走り方で向かってくると、腰にしがみついてきた。涙を目にいっぱいに溜め今にも泣きそうなのを下唇を噛んで必死に堪えている。
早速拘束されたよちくしょう! 可愛い・・・・・可愛いけどッ!
「明日はちょっと用事があるから───」
「いやなのだ! 一緒にいてなのだ! 」
頬に一筋の涙が伝っていくのが見える。これは、無理やりにでも帰ったらあとで恨まれるタイプだ。
理子には悪いけど今日は文の部屋に泊まるしかないか・・・・・
「分かった、分かったから。帰らないよ」
「本当なのだ!? 」
俺が帰らないと言った途端に、目に溜めていた涙は消え屈託の無い笑みを向けてきた。文は酔うとこんな甘えん坊さんになるのか。俺ならまだしも、他の男にこれをしたら一発アウトだ。色々な意味で。
「えへへ。もう九時だからあややはもう寝るのだ」
寝るだけだったら家に帰してくれよ。
「朝陽君も一緒に寝るのだ」
文は俺の手を引っ張ると寝室まで小走りで足を運んだ。照明は窓から差し込む月明かりだけ。こんな真っ暗闇の中、男女二人が同じベッドで寝るとは、これから俺の中で戦争が起こるぞ。
「ここがあややのベッドなのだ」
案内されたベッドは熊のぬいぐるみや水玉模様の掛け布団がある。いかにも女子って感じだ。そのベッドに飛び込み、それにつられて俺もそのベッドに入らざるを得なくなる。柑橘系のいい匂いが俺を包み込み、一瞬だけ
「文、それはくっつきすぎじゃないか? 」
「そんな事ないのだ! 朝陽君はあややにされるがままになるのだ」
「いや、理性さんが悲鳴をあげてるんですよ」
文は体全体で俺に覆いかぶさってきた。第三者から見れば文が俺を押し倒しているイケナイ状況になっている。
このままされるがままだと高校生らしいそういう事が始まってしまう! 絶対に、絶対にR18展開には持っていかせないぞ!
「そうだ、前に絵本を読んでくれるって約束してたのだ。今持ってくるのだ」
文は覆いかぶさった状態からその絵本を取るために俺に体を密着させてきた。
ヤバいって、文も酔ってるからって危ないのは気づいてよ!
「んーあったのだ! 」
そう言って取り出してきたのは、薄いペラペラな紙で作られている絵本だった。題名は暗くてよく見えないが、絵本にそんな薄い紙使ったか? だがこれは俺の煩悩を退散させるためのチャンスだ。これをフル活用してやる。
「読んでって言われても明かりがないぞ」
「今つけるのだ」
文は、俺の横に寝転がりながら枕元にある小さな豆電球をつけた。そしてその絵本に写し出されていた表紙は────
「え、ええええ!? 」
────R18、色々とマズイ人が写っている成人向けの本だった。
「ちょ、文!? なんでこんな本を!? 」
「あの二人があややのベッドの下によく隠すのだ」
「アイツらあああああああ!? 」
何がこのチャンスをフル活用だ。フル活用したらダメだろ! 当たり障りナイトになる!
「読んでくれないのだ? 」
「まだ文には早いかな・・・・・」
「もうあややも大人なのだ! それくらいの知識はあるのだ! 」
そう言うと、文は再び俺の上にのしかかり、互いの吐息がかかるくらいに顔を近づけてきた。子ども扱いされたを怒っているのか、リスのように頬を膨らませている。
「朝陽君が思っているほどあややは子どもじゃないのだ。そういう事にだって興味あるし、こんなことをするのは朝陽君の前だけなのだ・・・・・」
涙とは違う潤んだような目で俺だけを見つめてくる。文の小さな手が俺の手を握り、外の暑さとは違う熱さが伝わってきた。
小柄な体に華奢な手足、幼さと妖艶さを兼ね備えた顔、吸い込まれそうになる瞳、濡れたように艶やかな唇、乱れた髪、それら全てが月明かりに照らされ美しく際立っている。
「本当はずっと前からこうなりたかったのだ。でも朝陽君はいつも任務や訓練ばかりなのだ。でも・・・・・やっとできるのだ」
「文・・・・・酔いが冷めるまで大人しくして──」
「大人しくするのは朝陽君の方なのだ」
心臓が信じられないほど高鳴っている。文は少しずつ顔を近づけてきた。ここでされてしまったら、多分もう後戻りできない。自分自身のことだからよく分かっている。それでも───文を止めることができない。
「朝陽君・・・・・大好きなのだ」
文は静かに目を閉じ────
その唇は俺ではなく、横にある枕に落とされた。
「へ? 」
そのまま時間が経たない内に静かな寝息が耳をくすぐってきた。
(・・・・・寝落ち、か)
俺の心臓はもう寝てしまった文に聞こえるんじゃないかと思ってしまうほどうるさい。俺は右手で拳を作り、
「うぐッ」
思いっきり自分の頬を殴った。これが今出来る精一杯の自分への罰だ。雰囲気が良かったとはいえ、危うく流されそうになった。ここでしてしまったら文に一生消えない傷を負わせてしまう。それだけは──友達として、してはならない。好きという言葉も酔いからきたただの悪ふざけだろう。
俺はもう一発自分の頬を殴り、鈍い痛みを感じながら寝ることにした。
「──それで、結局手は出さなかったの? 」
「そう! そうだから! 殴らないで! 」
あの日、朝まで抱きつかれていた俺は一睡も出来なかった。起きた文は自分のベッドに俺がいることにビックリしたのか、弾かれたようにベッドから飛び出してリビングへ逃げ込んだ。そこで俺が一から説明してやると、全てを思い出したようで、床を回転しながら奇声をあげるという奇行を繰り広げ始めてしまった。
よほど恥ずかしかったのか、声をかけてもその状態だったので盾を貰って帰ることに。その盾は一つは俺の背中、もう一つは寮にある。
だが今は寮に置いてきた盾が喉から手が出るほど欲しい。なぜならば・・・・・アリアと理子に脇腹を一秒間に二回殴られながら台場に向かっているからだ。台場に行くのになぜ痛い思いをしなきゃいけんのだ!
「だったら! なんで首元に
「寝れなくてモゾモゾしてたら噛みつかれたんだよ! 何回も言わせるな! あとアリア、お前は関係ないだろ! 」
「うるさい! 黙って殴られてなさい! 」
アリアはレキがキンジにプロポーズ、もといキスをしている所を目撃してしまったらしく、その日からずっと不機嫌だ。だからって俺に八つ当たりしないでもらいたい。
それからしばらくパンチを受けつつ歩いていると、ビルの壁に寄りかかっている見た目が幼女の子が俺たちを見つめてきた。その子は清朝中国の民族衣装をアレンジしたよく分からない服装をしている。右目に付けている眼帯には赤い龍が描かれ、左腕にはグルグルと包帯が巻かれている。
「やっと来たアルね。待ちくたびれたヨ」
その子は俺たちの行く道を塞ぐようにして立った。どこかで見たことあるような顔と喋り方だな。
「ややや⁉︎ そこにいるのはパンツ脱がせ魔なのカ⁉︎ 」
その子は俺を見るなり失礼な事を言ってきた。パンツ脱がせ魔とか、初対面のやつにそんな事言われたく──あれ、もしかして、
「お前・・・・・藍幇の四姉妹か⁉︎ 」
「そうアルよ。私、お前に負けた日から必死に特訓して強くなったヨ。ここで恨みを晴らすネ! ──って言いたい所だけど、今、もう昔の私じゃないネ。今日は神崎・H・アリアを狙いにきたヨ」
「あぁん? アンタ、見るからに下級生なんだけど。『水投げ』の日だからって下級生が上級生を呼び捨てにして良いという訳ではないのよ? てか、まずアンタから名乗りなさいよ」
そう、今日は水投げ──徒手でなら誰が誰にケンカをふっかけてもいいという東京武偵高の狂った喧嘩祭り──の日だ。だが目の前にいるコイツは喧嘩を売る相手を間違えたな。気が立っているアリアに敵う相手など少ないはずだ。
「それもそうアルね。じゃあ名乗らせてもらうヨ」
ソイツは包帯が巻かれている左腕を天高く上げると不敵な笑みを浮かべた。
「我が名はココ!『万能の武人』の二つ名を持ち、この薄汚い世に終焉をもたらす者アル! 」
あ、ダメだ。この子も色んな意味でダメなやつになっちまった。
「ココ、その二つ名って自称じゃなかっけ? 」
「黙るアル! 我に逆らえば、我が右目に封印している紅龍が目を覚まし、破壊の限りを尽くすアルよ! 」
「そ、そうなの!? 」
「真に受けるな」
前に会った時から変わりすぎだろ。コイツらのボスも大変だな・・・・・
「紅龍を操る事が出来るのは我が
ココは右手でその
「やってみなさい! 何が来ようと全部風穴開けてやる! 」
「ダメだアリア。アイツは──ココは病に侵されている。少なく見積もって半年間位は治らない。マトモにアレを相手にすればお前も感染しかねないぞ」
「ど、どういうこと? 」
アリアは振り返ると、キョトンとした顔で俺を見つめてきた。
「ココ! お前は今何歳だ! 」
「生を受けて14年アル、だがしかし! 私の力は今も尚成長し続けるアル! 」
くそッ! これは完全にそっち側に堕ちてるぞ!
「ちょっと! アイツは何言ってるの!? 」
「アリア・・・・・あれは思春期を迎えた中学二年の頃にかかってしまうと言われる病だ。その病にかかってしまえば、形成されていく自意識と夢見がちな幼児性が混ざり合って、おかしな行動をとってしまう」
「キョー君、あれは多分、邪気眼系だよ」
「ああ。このタイプはあとから思い出すだけで悶え死ぬレベルだ」
そこまで言ってもアリアは首を傾げている。いい加減気づけよ!
「邪気眼系って何よ! 」
「簡単に言えば自分に隠された強大な能力があると信じ込んでいるタイプだ」
「じゃ、じゃあその病の名前は? 」
「シャーロック四世! 早く私と闘うアルよ! さもなければ、この
俺はアリアの心に刻みこむように話した。
「アリアよく聞け。もう一度言うが、アレは思春期の少年少女達を悩ますただ一つの病。恐ろしくも愛すべきその病の名は───中二病だ」
緋アリの設定資料集を購入。一番驚いたのは、平賀さんの方がアリアより背が高いことでした。原作に平賀さんの方が背が高いってのってたかな・・・・・?
レッドアイからブラッドアイへ変更しました。