今、日本は夏という暑い時期に入っている。夏はとにかく暑い。熱中症には特に気をつけなければならない季節だ。だが──世界のどこかにあるウルス族とやらがある場所に向かう道中は熱中症どころか、全身性低体温症にならないか心配になるほど寒い。太陽さんが顔を出してくれればこの寒さも少しは和らぐのだが、生憎の猛吹雪。太陽も分厚い雲には勝てないのだ。
俺と理子は重ね着して上から毛皮コートを着てギリギリ耐えられる寒さだが、レキはコート一枚だけ。武偵校の防弾制服だけではとっくに力尽きて氷像になってた俺と理子とは大違いだな。
──そんな事を思っていると、急に理子が袖を引っ張ってきた。
「ダーリン上着貸して」
「万年冷え性の俺に何言ってる? 」
「氷系の超能力のくせに」
「あれは水で創るのと無から創り出すのとでは違うんだよ。絶対貸さないからな」
俺は理子に盗られないように毛皮コートを羽織り直す。すると理子はリスのように頬をプクッと膨らませ、俺の毛皮コートのポケットの中に手を突っ込んできた。
理子の冷たい手が俺の手に当たりポケットから自分の手を引き抜こうとしたが、理子の冷たい手がそれを阻止してくる。今、俺と理子はポケットの中で手を握りあっている状態で・・・・・不覚にもドキッとしてしまった。
「・・・・・じゃあ代わりに手握って」
な、理子が久しぶりにデレた気がするぞ。こうしてデレてくれれば、どれだけ冷たくても握ってあげるのに!
「まあ、それくらいだったらいいぞ。目隠しさせられたまま飛行機に詰め込まれて、どこだか分からない雪国に着いたんだからな。人肌でも恋しくなったか? 」
「まあ・・・・・でも何でレキュは目隠しさせたのかな」
「知られたくなかったんじゃないか? 璃璃色金の場所を」
レキは今まで歩いていた一般道路から針葉樹林が周りに生い茂っている小道へと進路を変えた。俺たちもレキに続き、その小道へ足を踏み入れる。進めば進むほど積み重なった雪に靴が何度も埋まり、その度に雪が靴の中に入り込んだ。雪が靴の中で溶けていく感触は気持ち悪く──それは後ろを歩いている理子も同じことを思っているのか、顔をしかめている。しかも溶けた氷が足の感覚を麻痺させていくから余計にタチ悪い。
「レキ! あとどのくらいで着きそうだ? 」
「あと二十分ほど歩いてもらいます。お二人共、頑張ってください」
いつもの無表情で淡々と告げてくる様子は、完全に場馴れしているものだった。もしかしたらレキの故郷はこんな雪国なのかもしれない。今から行くウルス族ってのがレキの故郷・・・・・可能性はありそうだな。ここまで一回も道を間違えることはなかったから、後で聞いてみるか。そう思っていると、ポケットの中の理子の手がより一層俺の手を握る力を強くしてきた。
「ダーリン・・・・・手、寒くない? 」
「あ? 理子のおかげで暖かいよ」
「そか。よかった」
それから何度か、理子は俺を心配するように話しかけてくる。
『頭痛いとかある? 』
『まだ歩けそう? 』
などなど。だが理子の声は、いつもの元気な理子からは想像出来ないほど小さく、弱々しいものばかりだった。この寒さと雪の冷たさに理子も堪えているのだろう。歩くスピードも小道に入る前より若干遅くなっている気がする。小道を吹き抜ける氷のように冷たい風が、唯一露出している顔の肌に突き刺さる。理子がこの風に当たらないように盾役として前にいるが、今にも冷凍保存されそうだ。全身が鉛のように重い・・・・・
それからしばらく靴に入り込んだ雪と寒さと格闘しながら歩いていると、握られている手に引っ張られる感覚と同時にドサッと雪の中に倒れる音がした。
「──ッ!? 大丈夫か理子! 」
後ろを振り返ると理子が膝をついて荒い息を繰り返していた。顔色も青く、理子の肩に触れると、衣服の上からでもわかるほど震えている。これは──軽度の低体温症か! くそッ、何で気づかなかった俺! レキの故郷のことなんか考えてる余裕があったらなぜ理子を見ていなかった! このままこの寒さに身体を曝していたら死ぬ!
「大丈夫・・・・・まだ歩ける──」
「そんなわけないだろ! ほら、おんぶしてやるから早く乗れ! 」
それでも渋っている理子の腕を無理やり首に回すと、理子の両足を持って勢いよく持ち上げた。一刻も早く理子の足を暖めなければ凍傷になる!
「レキ! ペースあげるからもうちょっと早く案内を頼む」
レキはコクっと首を縦に振り了解の意を示すと、理子を背負った俺がギリギリついてこれる速度で走り始めた。俺は雪に足を取られながらも必死にレキについていく。理子を背負ったことで、俺の身体から一気に体力が抜けていくのがわかる。だけど──今は理子の方が危険な状態だ。それに、雪に足を滑らせて理子ごと倒れたらもう理子を背負って起き上がる力は無い。
それからだんだんと抜けていく体力と足の震えに歯を食いしばりながら走り続けた。この吹雪の中、レキを見失ったら二人ともここで死ぬ事になる。もちろん、理子を俺もこんな所で死ぬわけにはいかない!
「もうちょっとだから頑張れ! 」
理子からの返事はなく、荒く少し暖かい息が首元に当たるだけだ。それでも励ましの言葉をかけ続けながら懸命に足を動かす。だが少しずつ険しくなっていく小道と叩きつけてくる吹雪に俺も徐々に意識が朦朧とし始め───少し先にいるレキが俺に向かって大きく手をあげたのを確認し、最後の力を振り絞る。
「ガアァァ! ラストスパート行くぞォ! 」
俺は自分を大声で奮い立たせ、全身全霊を込めて走る。とうの昔に足の感覚は無くなっている。だがそれでも止まるわけにはいかない!
「うおぉぉぉぉ! 」
走る。走る。走る。何度も雪に足をとられ転びそうになりながら、それでも理子を助けるために歯を食いしばって走る。それなのに、周りの景色が・・・・・いや、全ての事がまるでスローモーションで流れているように見える。多分限界が近いのだろう。
「朝陽さん。頑張りましたね」
スローモーションの世界の中、やっとの思いでレキの横まで走り抜けると、レキの声──いや、いつもの無機質な声のレキとは違う人物の声が脳内に直接入り込んできた。その瞬間、全身から力が消えるようになくなっていき、全力疾走のまま前のめりに倒れてしまった。
意識が暗転していく中、最後に見えたのはいくつもの山小屋風の家が点在している集落と、俺たちの所へ向かってくる女性達の姿で・・・・・
『──貴方の名前は何? 』
身に覚えのない場所、目の前にはみすぼらしい格好の男と、ボロボロの布を巻いている格好の女が立っていた。
『──え? なんでそんな事聞くのって? まあいいじゃん』
その二人は傍にいる俺のことが見えていないように喋っている。男の顔は目元から上に黒い靄がかかっていてハッキリと見えないが、女の顔は普通に見える。パッチリと優しげに開かれた両目が特徴で、現代にいればモデル間違いなしだ。キンジの兄・・・・・姉のカナさんとは違った魅力を持っている。
『──そっか。素敵な名前だね。実は私、貴方に一目惚れしてしまったの』
見覚えのない場所なのに、何故か懐かしく思える。でも絶対に現代ではない。もっと昔の時代の光景だ。
『──え? 結婚しよう!? そんな早いって! もう! ・・・・・でもありがと。私の名前は───よ』
女は頬を朱色に染めると少し微笑んだ。
そして男の手を優しく握り、どこか身に覚えのある声色とハイライトの消えた目でこう言った。
『──ずっと一緒に、いようね。約束だから』
その男は恥ずかしさのあまりその女の事を見れていなかった。女が不気味に口を歪ませているのを・・・・・
鼻腔をくすぐるような甘い香りがする。それと同時に、二つの柔らかい何かが顔に押し付けられているのが感覚的にわかった。目を開けても暗くてそれが何か分からないが、取り敢えずテンプレ通りに言っておこう。
「知らない天井だ」
「ひゃぅ! 」
・・・・・なんだ今の声。
「そんな所で声出さないで! 」
両肩を強く掴まれると、その天井から引き離された。その天井は理子の顔をしていて───
「って理子かよ!? 」
「私は天井じゃないから! 」
そう言うと、理子はジト目で唸りながら睨んできた。お前はケモノか? というか、サラッと俺の思考をよむなよ。お前は他人の思考をよめる超能力にでも目覚めたか? ───待て。目の前に理子がいるってことはさっき俺の顔に押し付けられていたのは・・・・・
「おっぱ──」
「死ね! 」
「タコス! 」
見事に顔面を殴られた。向き合っていた理子と距離が近かったから鼻は折れなかったけどな!
「柔らかくて暖かくて良かったぞ! 」
「・・・・・一回逝っとく? 」
「凍え死にそうになったから。もう充分」
「そう。なら少し離れて」
理子は自身の細い腕で俺をグイグイと押し始めた。
それもそのはず。周りをよく見ると、部屋の隅に俺たちが寝ているベッドはシングルベッドで、あとは暖炉、木の椅子とテーブルがある。この部屋はあまり大きくなく、おまけに外が吹雪で中の電気がついてないから暗いのだ。理子は俺がベッドから落ちそうになるまで押すと、俺と視線が合わないように反対方向に向いてしまった。
「うーん。向き合えばそれっぽく見えるな。雰囲気も出てるし」
「い、意識しないで! この姿だと余計にそう見える! 」
「何を言って……」
ふと自分の身体に視線を落とすとパンツ以外全て剥ぎ取られている。理子も、よく見ると着ているのは上下ハニーゴールドの下着だけだった。
何で剥ぎ取られてるの? ──まさかとは思うが。
「理子さん? いくら劣情を催したからって流石にこれは引くわ」
「私がやったんじゃない! レキとこの村の人達がやってくれたの! 」
理子は慌てた様子で再び俺と顔を合わせた。その頰は僅かに朱色に染まって・・・・・良い雰囲気になっているのも相まってか今まで以上に可愛く見えるぞ。
「じゃあ俺達のこの姿はお前のせいじゃないと? 」
「そう! 理子が起きた時にちょうどレキが来てて、
『毛布は一つしかないので二人仲良く使ってください』って言ったから! 仕方なく! こうして二人で一つのベッドに・・・・・」
ありがたいな。非常にありがたいけど! 男女が暗い密室の中で一つのベッドにいるんだぞ!? レキはそこら辺の知識が無いだろうから当然の事をしたまでと思ってるだろうけど、他の部屋はなかったのかね。
「だったら俺が起きた時に、おっぱ──胸に埋もれてたのはなんでだ? 」
「キョー君凄くうなされてたから。苦しそうに顔を歪めて。それで何か理子に出来ることないかなって思って! それで頭を撫でてたら自然とあの位置に来ただけ! 」
「うなされてた? 」
そういえば変な夢を見たな。古臭い衣服を着た男と女がいて・・・・・何を喋っていたのかは思い出せない。
───あの言葉以外は。
『ずっと一緒に、いようね。約束だから』
忘れもしないあの声音は瑠瑠神と同じだ。永遠を誓う愛の裏に隠しきれないほどの束縛が垣間見えるあの目も、あの口の歪み方も全て。
「キョー君? 怖い夢だったの? 肩、震えてるよ」
「・・・・・少しな」
「まさか瑠瑠神のこと? 」
「違うと思う・・・・・あの女の顔は瑠瑠神とは全くの別人だ。だけど喋っている言葉も、ハイライトが消えた目も同じだった。今は神弾で瑠瑠神を抑えてるからまだ影響は出ないはず──ただの悪夢だな」
ため息混じりに言うと、理子は優しく俺の手首を握ってきた。俺と理子の間には毛布が少し垂れており、その綺麗な身体を隠す役割をしている。だが理子は、毛布さんの仕事を奪うように力強くで引っ張ってきた。
ま、その腕力で俺をどうにか出来るとでも───
「今、理子ごときの腕力で俺を引っ張ることは不可能だって思ったでしょ 」
───身体中から力が抜けているのか、一切抵抗する事が出来ず、理子の顔の目の前まで引っ張られてしまった。
「キョー君は理子を背負って雪道を駆けたから、その時の疲れだよ。理子の為に冷たい風が当たらないように盾になってたのも知ってるんだよ? 」
「・・・・・バレてたか」
「うん。キョー君にはいつも助けてもらってばかりだよね」
理子は巧みな足さばきで俺の身体をベッドの中央──理子のすぐ側まで持ってくると、妖しげな動きで両足を絡ませてきた。
その妖しい動きに煩悩が働き始めたが・・・・・理子の潤んだ瞳を見て、すぐに活動を停止させた。
「理子? 」
「ありがとう。本当にありがとうね。いつも命懸けで任務をこなして、何度も命を落としかけて、神様にも命を狙われてる」
理子は俺を見据えると、何かを決意したように話し始めた。
「神弾で抑えてる瑠瑠神がいつまたキョー君を襲うのかも分からない。無限に続く不安に毎日晒されているのに、キョー君はその現実から逃げるどころか立ち向かってる。理子だったらもうとっくに耐えきれずに壊れちゃうかもしれない」
「壊れるってそんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないよ。キョー君はいつも仲間のことを思って行動してる。自分のことを犠牲にしてまで助けてくれる」
「俺はそんな強い人間じゃ・・・・・」
理子は俺の口に手を当ててきた。これ以上喋らせないつもりらしい。
「理子はキョー君の恋人だよ? 偽物って言われたらそこまでだけど、それでも恋人同士。キョー君あの日に理子に言ったよね? 『互いに迷惑をかけてこそ恋人同士』だって。あの日あの時、キョー君の言葉にどれだけ助けられたか分かる? 」
あの日──俺の前から消えた方がいいと言っている理子を引き止めた日のことだろう。
理子は天使のような笑みを向けると、俺の頭を包み込むようにして腕をまわした。
「支えきれなくなったら理子も──私も一緒に支えるから。瑠瑠神に苦しめられて、どうしても辛い時は私も一緒にその苦しみを背負う。もし、私が足でまといになったら遠慮なく捨てて。その覚悟はできてる」
「そんな・・・・・どうしてそこまで言えるんだ? 」
「私もブラドにずっと苦しめられてた。絶えることのない恐怖にずっと怯えてた。でも、キョー君がその恐怖から助けてくれたでしょ? だからね。今度は私がキョー君の役に立ちたい。弱いなりにキョー君を助けるから」
理子はまっすぐ俺を見つめてきた。ここまで言われたらもう何も言い返せない・・・・・
まさか理子にこんな事を言われる日が来るなんて思ってもみなかったな。
「瑠瑠神を倒さない限り絶対に干渉される時が来る。それに耐えきれなくて壊れるかもしれない。諦めそうになったり、瑠瑠神に操られて理子を殺そうとするかもしれない。それでも理子は傍にいてくれるか? 」
「うん! なんたって理子はキョー君のハニーだからね! 」
理子は俺に覆いかぶさるように抱きついてきた。
色々と当たっていてこれはこれで幸せだな・・・・・下着姿の女の子に抱きつかれるなんて、もしかしたら今日が命日かもしれない。それにしても、こうやって抱きつかれていると何故だか分からんが心が温かくなる。凄い安心できるなこれ──
「──お二人とも、もう話しかけていいでしょうか」
「「ふぁ!? 」」
突然現れたレキが、いつの間にか俺たちを見下ろすようにベッドの横に立っていた。理子は驚きすぎて壁際まで転がり、頭を壁に強く打ち付け悶絶している。
お前は幽霊か! と、頭の中でツッコミを入れ、レキに質問する。
「いつからいましたか? 」
「知らない天井あたりからいました」
「最初からじゃねえか! 」
理子もなんで気づかないんだよ! 気づかなかった俺も悪いけどさ、お前は部屋を見渡せるだろ! いや待て、影が薄すぎて視認出来なかったとか・・・・・ありそうで怖いな。理子は恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤に染めている。
「レキュ! この事は内緒にしてください! 」
「ええ。いいですよ」
快く承諾してくれたが、理子は毛布に包まって唸り声をあげながらバタバタと足を動かし始めた。そんなに恥ずかしいなら最初から言わなきゃいいのに・・・・・
「あ、運んでくれてありがとな。重かっただろ? 」
「いえ。村の皆が手伝ってくれたので重くはありませんでした。ただ・・・・・」
「ただ? 」
レキは胸の前まで右手を持ってくると、首を少し傾げ、機械が台本を読み上げるような棒読みでとんでもない事を口にした。
「すごく、大きかったです。朝陽さん」
「それは俺自身のことだよな!? 息子じゃないよな!? 」
「それは置いて、ご飯持ってきました」
「結構重要だと思うんだけど!? 」
レキはまだ湯気がたっているお粥をテーブルまで運んできた。この匂いから分かる。絶対に俺の作ったお粥より美味い。レキは部屋の扉の前まで歩くと、振り向きざまに口を開いた。
「邪魔してスミマセンでした」
「おおう・・・・・」
レキが出ていくと、途端に恥ずかしさと気まずい気持ちが津波のように押し寄せてきた。理子はレキが出ていったにも関わらず、まだベッドの上でバタバタと足を動かしている。泳いでんのか?
「理子? 腹減ったし、ご飯食べようぜ? 」
毛布をめくると、涙目になっている理子が俺を睨み付けた。そして自分が下着姿のを再確認したのか、キツく拳を握りしめた。
「ねえ? その拳は俺に向けないでね? さっきまで俺を支えるとか助けるだとか言ってたよな? だったら俺を殴らないで───」
「うるさいこの変態! 」
力が入らない状態で防げることはなく、見事に理子のアッパーカットが顎に炸裂し、天井近くまで打ち上げられた。
(ハニーがもっと優しくなりますように! )
宙に打ち上げられた状態で俺に出来たことはそう祈ることくらいだった・・・・・
それから数日後、右手の呪いが解けた俺と視力が完全回復した理子の体力が完全回復したので、村の人に感謝を伝えてから璃璃神のいる場所へまた歩き出した。数日前の吹雪が嘘のように今は晴れている。そう言っても、寒いのには変わりない。木々に降り積もった雪が俺の頭に数えるのも面倒になるほど落ちてくる光景を理子が苦笑いで見てくる。
「大変だね・・・・・」
「世界一不幸がこんなに大変だとは思わなかった」
今更すぎと理子に言われると同時に先頭を歩いていたレキが急に止まった。何事かとレキが見ている方向を見ると───直径が100メートルほどのキレイな半球形をしている湖が広がっていた。
「ここが目的地です」
湖の周りに生えている木々も一寸の狂いもなく円形状に配置されている。完全な半球形の湖ならまだ有り得るが、生えている木々まで円形状に──まるで揃えられたように綺麗に並んでいるのは不自然すぎる。璃璃神は相当の綺麗好きだな。
「で、どこにいるんだ? その璃璃神とやらは」
「ここにいます。初めまして」
レキは振り向くと、蒼色の瞳を俺たちに向け、お辞儀をしてきた。圧倒的存在感が熱風のようにレキから放出され、思わず一歩下がってしまう。
「私は璃璃神。貴方を待っていました。早速ですが、殺し合いをしましょう」
蘭豹先生って、ブラックラグ○ンの大尉にしか思えん。
跪け! のあの人。