俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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第14話 恋ニ溺レル

「朝陽、会いに来たよ」

 

 目の前にいるデュランダル、いや、別の何かが俺の名前を呼んだ。

 

「瑠瑠神・・・・・だよな? 」

 

「ふふっ、神なんてつけないでよ。私達は恋人でしょ? ルルって呼んでよ」

 

 いくらなんでも復活するのが早すぎる! あのロリ神ぃ! 仕事サボりやがったな! でも・・・・・どうやってデュランダルの身体から追い出す?

 

「ルル、ゼウスに閉じ込められてたんじゃないのか? 」

 

「朝陽のいるところには私がいるのよ? 当然のことじゃない」

 

 当たり前のことだよ、どうしてそんなこと聞くの? そんな顔で俺を見つめてくる。

 ふざけるな、当たり前なわけあるか!

 

「朝陽、そいつと知り合いなの⁉︎ 詳しく教え​──」

 

「黙れ! 私以外の女が朝陽の名を呼ぶな! 」

 

 デュランダルに憑依した瑠瑠神はエメラルドのように緑に光っている目を金色に変化させ、それをアリアに向ける。瑠瑠神は腰に差している補助刀剣に手をかけると、瞬間移動したと錯覚させるような速さでアリアの前まで肉薄してきた。アリアはあまりの速さに反応出来ず……

 

 

「まったく、その速さは僕でも焦ったよ」

 

 アリアに瑠瑠神の万物をも切り裂くような鋭い斬撃が当たる瞬間、アリアの目の前でシャーロックが太刀で受け止めていた。太刀と刀が激しくせめぎ合い、激しく火花を散らす。

 

「邪魔だ! 」

 

 瑠瑠神は半歩下がると、横に薙ぐようにしてシャーロックの太刀を叩き切った。そしてその刃は邪魔者に向けられる。瑠瑠神は左脇腹から右肩にかけ切り裂くように刀を振るったが、届く寸前に突如発生した()()によって瑠瑠神は体勢を崩し切先はシャーロックの服を掠めた。

 

「ジャンヌ君、許してくれ」

 

 シャーロックは体勢を崩した瑠瑠神の腹に突き出すようにして蹴る​──踏み蹴りを繰り出した。

 

 ​───ドゴッ!!

 骨が折れたような鈍い音を響かせ、デュランダルは後ろの壁まで吹き飛び大きく打ち付けられ、膝から崩れ落ちた。あの倒れ方は意識が飛んだ時の倒れ方だ。

 

「ありがとう・・・・・S 」

 

「おやおや、名前を伏せるのか。まあいいだろう」

 

 あの時別れたはずのシャーロックがお面をかぶってここにいる。なぜお面など被っているのか聞いてみたいが、生憎そんな暇はない。

 

「それにしてもなんでここに来た? 」

 

「嫌な予感がしたんだ。僕は勘が鋭いからね」

 

「そうか・・・・・あいつはまだ()()か? 」

 

「意識を刈り取ってもすぐ回復してくるだろう。何か打開策を考えなければならない」

 

 打開策? あのヤンデレをどうしろと。撃退方法なんてないだろ! シャーロックの持つ何百もの超能力(ステルス)を駆使してもあいつを撃退することなんて不可能に近い。

 

「あ、朝陽⁉︎ その私を助けてくれた人は誰なの? 」

 

「自分で調べろっ! 今は悠長なことを言ってる暇はないぞ」

 

 その時、頭の中に聞き慣れた、今1番文句を言いたいヤツの声が聞こえてきた。

 

『 朝陽! 瑠瑠神がそっちにいるのか!? 』

 

(いるから戦闘になってんだろ! )

 

 ロリ神(ゼウス様)は俺の返事を聞くと、慌ててブツブツと独り言を始めてしまった。いつものふざけたような声音ではない、真剣でむしろ危機迫っている感じだ。危機迫ってるのは俺の方だけどな!!

 

『・・・・・分からない。瑠瑠神は人に憑依できるほどの力をまだ取り戻してない。誰かに協力してもらっているのか? 』

 

(俺が知りたいよそんなこと! 瑠瑠神を撃退する方法を教えろ! )

 

『 成功するかどうか分からないが……瑠瑠神の言う事に一つだけ従ってくれ』

 

「出来るわけないだろ!! 」

 

 あ、つい叫んじまった……キンジ達もシャーロックも驚かないでくれ。このロリ神が無茶ぶり言うんだ。

 と、俺の叫びに反応するかのように瑠瑠神はゆらりと身体を起こした。その動きは死体が無理やり動いているような、まるでゾンビだ。だがその金色の瞳に宿った狂気はさっきより強くなっていた。

 

「ねえ朝陽、私の言う事聞いてよ。私たち恋人同士でしょ? 」

 

 恋人じゃない! という禁止ワードは絶対に言わないようにしておく。よくわからない不可視の攻撃で手足切断されたら今度こそ死ぬ。

 

「ルル、ちょっと待ってくれ。心の準備が整っていない」

 

「あら・・・・・やっと言う事聞いてくれるの? 」

 

(おいロリ神! 言う事1つ聞けばいいんだな!? )

 

『 そうするしかない。幸運を祈るよ』

 

 幸運を祈る・・・・・か。幸運のステータスがマイナス値カンストしてる俺に幸運なんて存在するのか? それでもやるしかない!

 

「ああ。でも1つ条件がある」

 

「なあに? 」

 

「頼みは1つだけ聞いてやる。そのかわり1年間だけ俺に近づかないでくれ」

 

 瑠瑠神はそれだけ聞くと、だんだん瞳に宿した光が薄くなっていくのが見えた。そして怒りと悲しみが混ざった顔を向けた。自分が嫌われていると思ったのだろう。

 

「なんで? ねえなんでなの? 私はこんなにも朝陽を愛しているのに・・・・・今だってこの気持ち悪い女の身体に憑依してまでアナタに会いに来てるのよ? 近づかないでって何? 私のこと嫌いなの? ねえなんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!? この裏切り者!! 」

 

 瑠瑠神は再び刀を持ち俺に超人的なスピードで肉薄してきた。俺はそう来ると分かっていたので瑠瑠神の太刀筋に雪月花を滑り込ませる。激しい音と共に凄まじい威力が腕に伝わり、腕に痺れが残るが俺は瑠瑠神の刀を弾き返す。だが弾き返したと同時に下からすくい上げるような斬撃が俺を襲ってきた。

 

 それをバックステップで間一髪のところで避ける。瑠瑠神の体勢が崩れ反撃のチャンスが生まれたが、何があっても反撃なんてしないし、したくもない。もし俺がここで1発でも瑠瑠神を殴ろうものなら今度こそ俺は死ぬだろう。

 

 瑠瑠神は前に倒れ込むようにして体勢が崩れていたが、その倒れ込みを利用して全体重をのせた、上段からのただの振り下ろしをしてきた。恐ろしいほどの威力を秘めているソレが俺を殺しに襲いかかってくる。

 

 避けようとしても軸足である右足に体重が乗っているからそれは無理だ。俺は雪月花を右手は柄をしっかり握り、左手は切先に近い雪月花の腹の部分に手を添える。瑠瑠神の斬撃を雪月花全体で受け止めるような構えとなる。

 

 死を具現化したようなソレは凄まじいほどの速さで振り下ろされ​、

 

 ​───ガキイィィィィン!!

 腕が折れ肩が外れたと錯覚させるほどの衝撃が全身を駆け巡った。その痛みと瑠瑠神から発せられるプレッシャーから必死に耐える。

 俺と瑠瑠神​――詳しくはデュランダルだが​――の顔は15cmしか離れておらず、その狂いに狂った眼から俺に対しての異常な愛しか感じ取れない。

 

「おいルル! 人の話を最後まで聞け!! 」

 

「なんで私と離れたいの!? 」

 

「お前に変わった俺を見てもらいたいからだ!! 」

 

 1世1代になるであろう大博打!! まさに生か死か、だ! ここで失敗したら俺のこれからが最悪の中の最悪、死後の世界でも最も不幸な人物になりかねない!

 

「変わった・・・・・朝陽? 」

 

「そうだ! 俺はこのままだと情けないだろ!? 」

 

 瑠瑠神は刀にこめる力を少し弱めてくれた。話は聞いてくれたな。まずは第一関門突破、あとは頷いてくれるかだ!

 

「今のままでも私は愛してるよ? 」

 

「でも俺は変わりたいんだ! 変わった俺を見てほしいんだ! 」

 

 俺は瑠瑠神の目から片時も視線をずらさない。嘘だとバレたらここで八つ裂きの刑だからな! 瑠瑠神は不意に刀から手を離し、俺から一歩引いた位置に下がった。俺はバレたか!? と思い、冷や汗が背中を伝ったが両手を胸の位置まで持ってくると満面の笑顔を俺に向けた。

 目は狂気にそまったままだが、嬉しい、ということだろう。とりあえずこの場は凌げた。

 

「分かったよ。1年待ってるからね」

 

「ああ、頼むよ」

 

 よしこれで退散してくれ​─────

 

「じゃあ1つお願い聞いて? 」

 

「あ……」

 

 忘れてたああああああああ!! どうしよう!? 理子とかアリア殺せとか言われたらどうしよう!? ノーカンにしてもらうか? いやそれで拒否したら殺されるぞ!?

 

「じゃーあー……わ、私に……」

 

「ルルに? 」

 

 

 

 

 

「キス・・・・・して? 」

 

 

 

 

 

「「ふぁ!? 」」

 

 俺とアリアがハモったことは気にしない! キンジ達はいつでも戦闘に参加できるように体勢を整えてこわばった表情をしていたが、一気に解けてしまった。アリアに関しては顔を真っ赤に染めている。お前がキスされるわけじゃないだろ! というか……キス、だと!? キスってあれだよな? 互いの唇をくっつけるやつだよな? 接吻(せっぷん)だよな? なんで神様に最初を捧げなきゃいけないの!?

 

「ね? はやく・・・・・」

 

 瑠瑠神が――本当はデュランダルだが――蕩けた瞳をし、頬も僅かにピンク色になっている。上目遣いも完璧だ。デュランダルには悪いが・・・・・これも生き残るためなんだ! 俺は瑠瑠神に近づき、腰に手をまわす。

 

「ふふっ、震えちゃって、可愛いよ? 」

 

「緊張してるんだよ……」

 

 緊張? そんなもんしてねえよ。震えてんのはお前に殺された時のこと思い出したからだよ! トラウマなんだよ!

 瑠瑠神は少し背伸びをし、さらに俺の顔に近づいてくる。俺の首に手をまわし、傍から見ればもうカップルにしか見えない。

 

 薄紅色の唇が近づいてくる。お互いの吐息が触れ合うほどの距離。もうすぐそこまで迫ってきている。

 俺は意を決して​─────

 

 

 

 

 

 瑠瑠神にキスをした……

 

 

 

 

 

 

 

 ​───────​───────​──────

 

 

 

「もう疲れた死のう」

 

「死ぬな朝陽! ここで死なれても困るんだ!! 」

 

 寮に戻り、ベランダから飛び降りようとしているところをキンジに止められている。俺は世間一般でいう鬱状態だ。なんせ俺を殺したヤンデレとキスをしたんだからな。しかもファーストキスだよ。

 

「そうよ! あいつと何があったのか教えなさい! 」

 

「ほっといてくれよ・・・・・」

 

 瑠瑠神とキスをしたあと、瑠瑠神は言う事を聞いてくれたようですぐにデュランダルの憑依を解いてくれた。去り際に、

 

「でも朝陽にほかの女がこういうことしたらすぐ行くから」

 

 と言われ背筋が凍るような眼を向けられた。

 そういえばデュランダルの本当の名前は、ジャンヌ・ダルク30世というらしい。死んだんじゃねえのか!? とツッコミをいれる気も起きないけどな。ジャンヌは連行され、シャーロックは知らぬ間に消えてしまった。理子もどこに行ったか分からないしな。それで俺達の事情聴取は後日、寮に戻り、今に至る。

 

「話すと長くなるぞ? 」

 

「こんなことに巻き込まれた俺達は​───」

 

「わかったよ! 話せばいいんだろ? 」

 

 それから俺は元々この世界の住人ではないこと、前世で瑠瑠神という存在に惚れられ殺されたこと、全知全能の神様(笑)にこの世界に転生して瑠瑠神の本体の一部である瑠瑠色金を傷つけろと言われこの世界に転生したこと、瑠瑠神がヤンデレで危ないこと全てを話した。

 終始、キンジとアリアと何故かいた白雪は信じられないという顔をしていた。そりゃ転生なんて信じられないだろうな。

 

「でもその瑠瑠神は1年間お前の前に現れないんだろ? 」

 

「1年だぞ!? 1年であいつ瑠瑠色金を見つけて傷つけるんだぞ!? まずそれがどこにあるかすら分からないのに! 」

 

 1年、それは長いようで短い。仮に見つけ出せたとしても瑠瑠神に勝てる見込みなんてものはない。三途の川に片足突っ込んでる状態からどうしろと?

 

「瑠瑠色金……もしかして……」

 

「白雪? どうした? 」

 

 白雪は瑠瑠色金、特に色金という単語に反応していた。心当たりがあるなら教えて欲しいものだが・・・・・明らかに何か隠してるな。

 

「ううん、なんでもないよ」

 

「そうか」

 

 何か隠し事があるようだが、でもそれは瑠瑠神に直接関係することじゃない。だから言いたくても言えない、そんな感じか? それでも聞きたいんだが。

 

「白雪、ホントに何でもないのか? 」

 

 白雪はひどく躊躇った表情を浮かべたが、何かを決断したように重い口を開いてくれた。

 

「​───ごめん嘘。でもここでは言えないの。後でメールでもいい? 」

 

「え、ああ分かった。後でな」

 

 ここでは話せない、つまりアリアとキンジ、その他の誰にも話してはいけない事なのだろう。おっと、こんな俺の暗い過去を話していたら場の雰囲気が悪くなったな。今日はもうやめにするか。

 

「よし! この話題はおしまいだ! もう飯にしよう」

 

「そうだな……朝陽も色々あるんだな」

 

「同情するならお前が瑠瑠神を貰ってくれ」

 

「嫌だよ! 」

 

「女たらしのお前ならイケるだろ!? 」

 

 俺の……俺の初キスまで捧げて撃退したんだ。1年後とは言わず、一生、いや死んでも俺の前に現れないでくれ!!

 

 

 







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