体育館。
バドミントンのネットが張られて、コートに大智、ネットを挟んで来夏、沙羽が体操着を着て立っていた。
手にはバドミントンのラケットを手にしていた。
「約束通り、私達が勝ったら合唱部に入部してもらうよ」
「ああ、その変わり、俺が勝ったら2人ともバドミントン部に入部してもらからな」
どうやら廃部になりそうな二つの部活を救うべく、バドミントンで対決することとなった。
どうしてこうなったかと言うと数日前、来夏と沙羽に誘われて駅から裏路地にある喫茶店に来た時である。
和奏はパウンドケーキとオレンジジュースを来夏はクリームソーダ、沙羽はコーラを注文した。
「田中って歌えるの?頭数だけ揃えてもって言ってたじゃん」
沙羽が来夏に話をしている隣で和奏は美味しそうにパウンドケーキを口にしていた。
「高橋先生の送別会の時覚えてる?」
来夏の言葉に沙羽はその時を思い出した。
「そういえば歌ってたね」
「うん、その気になれば戦力になると思う」
「あいつ、その気になるかな?」
「大丈夫、あいつ単純そうだから、バドミントンで勝てば入ってくれるよ」
二人の会話を気にするどころか、パウンドケーキに水分を持ってかれた和奏はオレンジジュースについているストローに口をつけた。
「でも田中、去年は全国大会行ってたよたしか、勝てるの?」
「ふーん」
ストローに口を付けながら音楽科では知らなかった情報を聞いて和奏は興味なさそうに呟いた。
沙羽の言葉に来夏は腕を組み考えた。
「でも大丈夫でしょう、3対1なら」
3人という事に和奏は少し考えた。
来夏と沙羽は3人の中の2人だろう、あと1人は恐らく竜司だと思うが、風邪が治ったばかりだ、もしかしたらと思い。
「3対1って・・・3?」
自分を指差しながら口を開いた。
「昼休憩に10分だけ、お願い!ダメェ?」
手を合わせて頭を下げてくる来夏に和奏は困った表情でオレンジジュースを机に置いた。
「竜司くんは?」
「竜司は病み上りだから沙羽がダメって」
「当たり前でしょう、また風邪がぶり返したら困るじゃない」
あの時の風邪は沙羽は自分の所為だと思っていた。
最初に聞いた時から竜司の参加だけは認める気は無かった。
風邪を引いたという言葉に和奏が恥ずかしい気持ちと身体が熱くなる気がし、オレンジジュースをまた飲み、机に置いた。そこで沙羽の口が開いた。
「スポーツ嫌い?」
「嫌いじゃないけど、沖田さん私もう「沙羽でいいよ、本当に嫌なら2人でやるから気が向いたらね」
和奏は部を作る為に名前を貸していただけ、退部しようかとも思っていたが沙羽の言葉に困った表情を見せた。
あの時の竜司の言葉が頭に浮かんでいた。
好きな事に理由なんていらねぇよ。
正直迷ったが、答えは出さなかった。
パウンドケーキを口にして悩んだ。
説得をしたが参加するかは分からないまま、体育館に来ていた。
すると扉が音を立て開いた。
来夏、沙羽、大智が視線を向けるとそこには体操着を着て、ラケットを持った和奏がいた。
悩んだ結果、少し、自分に素直になろうと決めた結果だった。
「きたぁー!」
「ありがとう」
「えっ3人?」
2人だけかと思っていた大智だったが和奏の登場に驚きを隠せなかった。
「当たり前でしょう、3人とも合唱部なんだから」
3対1になると思っていた大智だったが。
「ひどいよ大智、部活があるなら呼んでくれなきゃ」
和奏と一緒にウィーンが登場した。
来夏達のコートを通り、大智の元に来た。
「バトミントン部なんだって」
途中で話を聞いていた和奏はウィーンがバドミントン部に入部していた事を知っていた。
部活に誘ったがまさかこの勝負に来てくれると思っていなかった大智は少々驚いた。
「僕はどうすればいい?」
「そうだな、こっちは2人でいいよな、バドミントン部なんだから」
先ほど来夏が言った言葉に似ている発言に気難しい表情を浮かべていた。
後ろでは屈伸をしながら準備する和奏を隣で沙羽が見ていた。
「気軽に遊びのつもりでいいからね」
ここで和奏の表情が変わった。
「やるからには勝ちたい」
ボソっと言った言葉に聞き取れなかったが始まるらしい。
大智チームはウィーンが右端に真ん中には大智が陣取っていた。
「サーブは私達から3本勝負で先に2本取った方が勝ち!」
来夏はラケットを向けながらルールの説明を行った。
大智が構えを取り、後ろでウィーンも真似るように構えた。
それを見て来夏チームは3人が羽を手にしてサーブを打つ構えを取った。
「おい、同時に3つ⁉︎」
「当たり前でしょう」
「怖気ついたの」
来夏と沙羽の挑発に乗り、大智はムッとした表情を浮かべ。
「来い!」
と叫んだ。
「せーの!!」
来夏の指揮に合わせて3人がどうして羽を打ち抜いた。
大智チームのコートに向かって飛ぶシャトルを見て、1つ、2つと返し、1番高く浮いているシャトルは大きくジャンプをしてスマッシュした。
まずはスマッシュしたシャトルが来夏がタイミングを合わせて振ったラケットにかすりもしないでコートに落ちた。
次に和奏の近くに飛んで来たシャトルを走って追いかけて、前に飛び込みながら、高く打ち返した。
「沙羽!」
最後に沙羽がジャンプしながらスマッシュを打ち込んだ。
一瞬、和奏のシャトルを返そうと動いたが逆方向に打ち込まれた沙羽のシャトルに向かい始めて飛び込んだ。
だが、数センチの所で届かなかった。
倒れながら大智はチームメイトの名前を口にした。
「ウィーン!」
「任せて」
後ろから走りながら大きくジャンプをしてラケットを振りかぶった。
床に膝をついている和奏、後ろに下がって警戒する来夏と沙羽、ジャンプする姿を見て安心した様子で見送る大智。
振り抜いたラケットは真芯でシャトルをとらえた。
スピードに乗ったシャトルはネットを越えずにネットに突き刺さった。
「「「「あっ」」」」
4人同時にポツリと呟いた。
これで来夏チームの勝利が決まった。
3人が集まり、手を上げてハイタッチを交わした。
「「ナイス、坂井さん、和奏さん!」」
「わ、和奏さん?」
和奏の事をしたの名前で呼んだ沙羽に来夏は驚いていた。
「沙羽、凄かったね」
「さ、沙羽?」
今度は沙羽の事をしたの名前で呼ぶ和奏に驚いた。
「弓道で鍛えてますから」
「宮本さんも惜しかったよね」
「う、うん」
自分も来夏と呼んでもらいたかったがそれは叶わなかった。
少し、仲間はずれにされてる気がして来夏は歯切れの悪い回答をした。
体育館を出て、階段に座り、落ち込んでいる大智にウィーンが近付いた。
「ごめん、大智」
「いや、いいよ、俺1人でもどうせ負けたんだからな」
これで高校生活最後のバドミントンが終わったと思った。
「泣いてんのか大智?」
「泣いてねぇよ竜司」
「あっ、竜司」
制服姿で体育館の入り口にやってきた竜司は落ち込んでいる大智に声をかけた後、来夏に呼ばれて来夏の元に向かった。
「頼まれてたもの作ってきたぞ」
紙を1枚来夏に渡した。
「お前、歌でプロとか目指してんのか?」
竜司から紙を受け取りながら来夏は驚いた様子で口を開いた。
「いや、そこまでは考えてないけど田中は?」
どうしてそんなことをと考えていると沙羽と和奏もやってきた。
「俺は大学でもバドミントンを続けて、いつかプロになって・・・・」
次第に声が小さくなって照れている大智に来夏に軽く笑った。
「なんで照れてんの」
「もじもじしてキモいね〜」
冗談交じりに沙羽が和奏に呟いた。
「うるさい、お前らに・・・」
言い返そうとしたが来夏が紙を1枚大智に見せた。
「大会に出なよ」
紙を受け取り、確認すると部活名に合唱時々バトミントン部と書かれていた。
「そのかわり、合唱にもちゃんと参加してよ」
「宮本・・ってこれお前、合唱部辞めるつもりなかったろ」
「ふふん、その時はバトミントン時々合唱部だったかもね」
「こら待てチビ」
階段を下り走っていく来夏を大智が追いかけていく。
笑いながら他のメンバーもゆっくりと階段を降りていった。
新しい部活の顧問を校長先生に頼んだが、合唱部全員で挨拶に来いと言われた来夏達は病院に来ていた。
病室に入り、新規部活動申請書を渡した。
「合唱時々バトミントン部?」
「バドミントンです」
「まあ、どっちでもいいが、あまり渡しに恥をかかせんでくれよ」
と言いながらサインを書き、来夏に渡した。
そして和奏に視線を移した。
「君が坂井さんか」
「はい!」
「やはり面影があるな」
「えっ?」
「君のお母さんは私の教え子だった、何か聞いてないかね」
「いえ」
少し考えた様子で校長は窓の外に視線を変えた。
「彼女との出会いで音楽の持つ意味が変わった、あの頃の私という男はモレンドと・・・」
言いかけている途中でノックの音が聞こえ、口が止まった。
「どうぞ」
「失礼します」
「げぇ」
扉を開けて中に入ってきたのは教頭先生であった。
まさかのタイミングに苦虫を噛み潰した表情を来夏は浮かべた。
「校長先生、こちら目を通して欲しい書類です」
「こんなに⁉︎」
紙袋が束になるように机に置かれた。
「教頭先生、新しい部の承認をお願いします」
意を決した表情で来夏が新規部活動申請書を差し出した。
申請書を受け取り、中身を確認したあと、視線を来夏に戻した。
「こんなものが承認されると思ってるのですか?」
「どうしてですか?」
「こないだの音楽発表会といい」
教頭先生は喋りながら申請書をグチャグチャに丸めた。
「音楽を馬鹿にするのもいい加減になさい」
言い終えた後、ゴミ箱に向かって投げた。
その様子に竜司だけではなく沙羽や来夏も爆発寸前であった。
ゴミ箱に向かって飛ぶ紙がゴミ箱に入る前に大智が持ってきていたラケットで弾いた。
「納得できません」
「拾って捨てなさい」
その言葉に沙羽と竜司はカチンと来た。
言い返そうと思ったら先に和奏が動いた。
床に落ちた紙を拾い上げて広げた。
その様子にその場にいた全員が驚いた。
「あ、ああハンコがまだだったね、ハンコ、ハンコ」
校長先生が引き出しからハンコを取り出して、押した。
今日この場で合唱時々バドミントン部が承認されたのだ。
白浜坂高校終業式、夏に入り、8月の終わりまで長い長い夏休みに入る。
部活動に励むもの、勉学に励むの様々に分かれるだろう。
7月最後の歌は白浜坂高校校歌。
生徒会長がステージに立ち指揮を行う。
「白き浜の声を聞き〜長き坂道を登ろう♪瞬く日々と刹那の友は〜
永久(とわ)に広がるハーモニー〜〜♪ allegro〜♪vivace〜♫amoroso〜
歌おう白浜坂高校〜〜♪」
校歌も歌い終わり、各自教室に戻り、先生の話を聞き、最後の授業が終わった。
合唱時々バトミントン部は来夏に言われて音楽準備室に集まっていた。
「じゃあ、今日は部活なしね、色々と忙しいと思うけど明日は4時からここで練習ね」
「はーい」
部活の日程の話に沙羽が答えた。
そこで音楽準備室の扉が開き、視線が扉に移った。
そこにはみどりが立っていた。
「あっ、部活中にごめんね」
「ううん、大丈夫だよ、どうしたの?」
「今日、午後から男子バレー部恒例の相模湾流域練習試合があるの」
「相模湾流域練習試合?」
相模湾流域練習試合の言葉に大智がなんだそれと思うよに呟いた。
「あんた知らないの、相模湾流域練習試合って白浜坂高校、相模中央高校、湘南海星高校の相模湾流域の練習試合のこと、毎年、行われていて、会場はその3チームで順番なの、今年は白浜坂高校が会場なんだって」
沙羽の解説に大智はなるほどと思った。
前に配られたプリントにそう書いてあったのを思い出した。
「うん、会場になった高校は余興を行うから声楽部で合唱を披露するから準備でね」
「何か手伝おうか?」
「ううん、大丈夫、ありがと」
荷物を探しながら、竜司の言葉に首を横に振って断った。
「ねぇ、みんなでバレーを見に行こうよ」
練習試合の事を聞いてウィーンが楽しそうに提案した。
「私はいいよ、沙羽はと坂井さんは?」
「私も大丈夫」
沙羽からはすぐに返事が帰ってきたが、和奏は少し考えた。
もしかしたらと思い、和奏は首を縦に振った。
「私も大丈夫」
「やったー、大智と竜司は?」
「俺はパス、姉貴の大学で練習あるから」
「どーしようかな」
大智はすぐに断ったが竜司は少し考えた。
「行かないの?」
和奏は合唱時々バトミントン部の活動だと思い、参加を決意したのだろう。なら参加した方がいいのかなと思えた。
「俺も行くよ」
「よし、1時に体育館集合ね解散!」
来夏は嬉しそう口を開いた。
昼飯を食いにウィーンと二人で食堂に来ていた。
ウィーンはサンドウィッチを食べ、竜司はオムライスを食べながら外を見ていた。
(来たか)
湘南海星高校のバスを見ながらオムライスを口にした。
ありがとうございます