Tari tari 1人の少年   作:一塔

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よろしくお願いします。


驚いたり、焦ったり

 日曜日

 来夏と紗羽は街中から少し裏路地に入ったこしゃれた喫茶店に来ていた。

 目立ちにくい場所なのか日曜日の昼ごろだがお客の数は来夏達以外み女性の二組しか入っていなかった。

 店の中も広々とし、涼しそうな雰囲気が漂う、居心地のいい店だ。

 その雰囲気が気にっている来夏と紗羽はこの見せの常連客だ。

 二人はパウンドケーキとソーダ水を注文し考えごとをしていた。

 瓶できたソーダ水をコップに移して来夏はストローを吸い一気に飲みほした。

 「今から部を作るのはいいけど、本当に発表会出る気?」

 来夏は声楽部を辞め、新たに合唱部を作り、合同発表会に参加するつもりであった。

 親友の為に力を貸すため紗羽も合唱部と弓道部のかけもちとなった。

 「今からメンツ集めるの大変だよ?分かってる?」

 「ズッズッズッズっっ」

 来夏はソーダ水が入っていないコップにストローで吸いながら答えた。

 「坂井さん怒らせたこと気にしてんの?」

 この反応に紗羽は考えているんだなと思い、思い当たる事を口にした。

 合唱部を作る際に紗羽の他に和奏も誘ったのだが「歌はもう辞めたから」と言われ少々討論したのであった。

 そのことも紗羽に話してあった。

 「教頭に言われた事?」

 「ズッズッズッズっっ」

 その反応に紗羽のなかで答えが出た。

 「両方かぁ~まあ確かに去年の発表会は完全に来夏の失敗だったからね~」

 去年の発表会の事を思い出したら「フフッ」と思い出し笑いをした。

 それを見て来夏はストローから口を離し、軽く机を両手で叩き。

 「笑うな、だからいろいろ特訓しているんでしょ」

 少し真剣みな表情に変わった。

 「もう去年までの私とは違うんだから」

 「クリームちょうだい」

 「って聞けよ!」

 紗羽はパウンドケーキについてきたクリームを口に運び、優しい表情を浮かべた。

 「分かってるって、今日も行くんでしょ特訓」

 そう言うと来夏は椅子から立ち上がり。

 「もちろん!ここ紗羽の奢りね」

 「なんで?」

 「笑ったから」

 来夏の回答に紗羽は頷き、会計を済ませた。

 そのまま二人は駅に向かい、来夏はヘッドホンをつけた。

 紗羽は来夏の奢りでソフトクリーム買い商店街に向かった。

 ヘッドホンの音楽を入れ、太ももを軽く叩きながらリズムをとり、歌い始めた

 「fly,fliy,fly~♪必要なのは~♪輝くそーの瞳~Try,Try,Try~♪体ひとつでどーこまでも走るrun way」

 駅近くの時計台の下でリズムかるに歌う来夏に色んな人が注目していた。

 たまたま通りかかった和奏は何をしているんだろう?と思い近くで見ていた。

 「昨日よりも~♪楽しくいたいから~どんなことがあっても笑い飛ばしてたくて~♪」

 少し驚いている和奏を見つけて大智が自転車を止め、その大智を見つけたウィーンが近寄ってきて、ちょうど紗羽も両手にソフトクリームをてにして戻ってきた。

 「人は人だってぇぇぇ・・うえぇ」

 紗羽以外の知り合いに見られたことに急に恥ずかしさが込み上がってきた。

 「お前今歌ってたのか?」

 大智の問いかけに来夏は答える事無くソフトクリーム舐めていた。

 「聞いてんのか?」

 「坂井さんそのコロッケいっぱい買ったの?」

 手からぶらさげてるビニール袋と今、口にしているコロッケをみて紗羽は口を開いた。

 「そう、15個ぐらいかな、食べる?」

 「いいのぉ?」

 「うん」

 紗羽に聞いたつもりだが、来夏が食いついてきた。

 袋の中からコロッケを四つ取り出して、みんなに渡した。

 「ありがと、いいのこんなにもらっちゃって」

 「大丈夫だよ、たくさん買ってあるから」

 「この後何かあるの?」

 「うん、佐原君の試合の応援を高橋先生と」

 紗羽の問いかけに口を開いた。

 「そういえば竜司、今日試合だったな」

 思い出したかのように大智が呟いた。

 「坂井さん、私と来夏も一緒に行っていい?」

 「うん、大丈夫だと思うよ」

 「田中とウィーンは?」

 女性組は応援に行くことが決まったが男子組はどうするのか来夏が聞いてみた。

 「ごめん、今から制服を取り行くんだ」

 「俺もそれの付き添いだ」

 「そうなんだね、じゃあ行こうか」

 紗羽が来夏の手を引いて歩きだした。

 その後ろをついてくように和奏も歩きだして。

 女性組が行った後に大智とウィーンも歩きだした。

 

 

 

 江の島グラウンド

 人工芝が一面に敷かれており、グラウンドを囲むように観客席が作られているが予選1回戦ともいうことで半分以上の席があいていた。

 観客席にはいると白のユニホームを纏い、アップをしている。

 「坂井!」

 横から自分の名前を呼ばれて向きを変えるとそこには高橋先生が立っていた。

 「こんにちは、先生」

 「こんにちは」

 「こんにちは」

 「はい、こんにちは、宮本と沖田も来たのね」

 「ちょうど駅であったので」

 和奏がまさか友達を連れてくるなんてと驚きながらの嬉しい気持ちが込み上げてきた。

 最前列の席に腰を降ろしてアップしている選手を見ながら紗羽がふと首を傾げた。

 「竜司くん、いますか?」

 「え?」

 紗羽の言葉をきいて来夏も探したが確かに竜司の姿がなかった。

 「さっきから見てたんだけどいないみたいなのよね、佐原の事だから寝坊とかだといいんだけど」

 心配そうにグラウンドを見つめる高橋先生に少しだが他の人達も不安が伝わってきた。

  「きっと大丈夫ね、私、飲み物買ってくるね」

  席から立とうとする高橋先生を抑えて紗羽が立ち上がった。

  「私が買ってきますよ」

  「あらそう?じゃあお願いしようかな」

  「私はお茶」

  「はいはい、先生と坂井さんは?」

  手を上げて申告する来夏にうっすら笑みを浮かべた。

  「私はお水をお願いしようかな」

  「私は持ってきてるから大丈夫」

  「OK‼︎、じゃあ行って参ります」

  高橋先生からお金を受け取り、観客席からスタジアムの中に入って行った。

 

 

  スタジアムの中は色々と入り組んでおり、自動販売機が見つからない。

  しばらく歩いて行くと選手の控え室に方まで来ていた。

  「やっと見つけた」

  紗羽は控え室の近くにあった自動販売機を見つけて、お金を入れお茶とお水のボタンを押した。

  自分は何を飲もうかと選んでいると聞いたことある声が聞こえてきた。

  「先生、いつもありがとうございます」

  (竜司くんの声だ)

  半分開いている扉の中を覗くとベンチに座っている竜司と白衣をきた男性が立っていた。

  「いつも言っているが痛み止めはうつたびに効果が薄れていく、それはわかってるね」

  「まあ」

  痛み止め?どこか怪我しているのかと思いながらも紗羽はじっと中の様子を伺っていた。

  「君はもうスポーツをやれる身体じゃない、バレーを辞めたと聞いていたから安心していたがよりによってサッカーとは」

  スポーツをやれる身体じゃない?どういう事? 紗羽の頭の中で困惑していた。

  「色々考えたんだけどやっぱり駄目でした」

  笑顔で答える竜司に先生も厳しい顔は崩れなかった。

  「医者として本当は諦めてほしいが、君がやると言った以上、しょうがない、全力でサポートはするが、なるべく接触はきよつけること、分かったね」

  「分かってます」

  「ならいいが」

  重い空気の中で話が終わったのか竜司は立ち上がり、扉の方に歩いてきた。それに気付いた紗羽は慌てて自動販売機の前に戻った。

  扉が開き、竜司が出てくるとすぐに紗羽を見つけた。

  「紗羽、こんなとこで何してんだ?」

  「えっ、ほら喉が乾いてジュース買ってたの」

  ぎこちない笑顔で答える紗羽に竜司は不信感を抱きながらも頷いた。

  「何してたの?他の人達は練習始まってるよ」

  「いやぁー寝坊しちゃって着替えてたんだよ」

  「全くもう、さっきから高橋先生が気にしてたよ」

  嘘だと心の中で思いながらも信じる振りをした。

  「やべぇ、挨拶に行くかな」

  「いいの、練習は?」

  「もう終わるから今からはな、悪りぃけど案内頼める?」

  「うんいいよ」

  竜司の事も考えて紗羽は悩んでいたのが嘘みたいに来夏と同じお茶のボタンを押して取り口から三つのペットボトルを手にした。

  「持つよ」

  紗羽の手からペットボトルを取り観客席に向かって歩き出した。

  「ありがとう」

  さりげない優しさに笑顔を見せながら竜司をみんなの元に案内するべく観客席に向かった。

 

 

 

  「全くありえない」

  高橋先生に挨拶に行くと第一声がこれだった。

  寝坊したと告げると呆れた表情を浮かべていた。

  「まあまあ」

  笑顔で答える竜司に高橋先生も頷いた。

  「坂井も来夏もありがとな」

  「いいってことよ、頑張れ、少年よ」

  「佐原くんこれ」

  和奏がコロッケの入った袋を渡すと竜司の顔から笑顔が浮かんだ。

  「駅前のコロッケじゃん、あんがとな、先生のは?」

  「私のはハーフタイムにでも持ってきます」

  「はい、じゃあ行ってきます」

  「頑張れよ」

  高橋先生の応援に笑顔で答える竜司。

  袋からコロッケを一つ取り出して食べながらスタジアムの中に入ってくのを確認するするとゆっくりとグラウンドに視線を向けた。

  お茶を飲みながら来夏は紗羽に視線を向けると元気がないように感じた。

  「どうしたの紗羽?」

  「えっ?なんでもないよ」

  ハッと我に返り、笑顔を見せた。

  親友の目はごまかせなかったが深くは追求する事はなかった。

  「さあ、来夏、全力で応援するよ」

  「おう」

  気合いの入った二人を見て和奏と高橋先生は微笑んだ。

 

 

 

  白のユニホームの白浜坂高校(10人)対黒のユニホーム鎌倉工業高校(11人)

  センターサークルを挟み、互いに向かい合い、挨拶を行い、握手を交わした。

  先行は白浜坂高校、試合開始のホイッスルが会場に響きわたった。

  ボールを一度戻し、トップ下のポジションに竜司の元に渡った。

  「いけー竜司、シュート」

  「「打てるか!」」

  来夏の声が聞こえ、紗羽と同じタイミングで竜司もツッコミを入れた。

  竜司は前線に大きくボールを蹴りだした。

  観客がいないっていうのも悪くないもんだなって竜司は思った。

  前線に飛んだボールを追うように相手DF2人と味方FW1人(石井 武)で走っていく。

  DFを振り切りこの試合の最初のシュートは白浜坂高校で始まった。

  右上に向かって飛んでいき、キーパーも横っ飛びで触りに行くが届かない。

  だが運悪く、ゴールバーに嫌われた。

  惜しい!という声が観客席から聞こえた。

  「OK.OK、ナイスシュート」

  シュートを打ち、戻ってきた選手にハイタッチをしながらそう声をかけた。

  相手ボールでのスタート。

  「やっかいだな、あのFWの選手」

  「ああ、それにあのパスをだした10番もな」

  「しょうがない、いつものように潰すか」

  ゴールキックされる前に前線の選手達で話を行った。

  ゴールキックでセンターラインまで飛んできたボールに武が競り合いに行き、ボールは竜司の元に来た。

  一旦、自陣のDFにボールを預けて、様子を伺う。

  パス交換を行い、相手がプレッシャーをかけてきたところでセンターサークル辺りにいた竜司にボールが戻ってきた。

  ボールを受け取る前にチラッと前線に視線を向け、状況を確認すると相手DF2人と武の1人だ。

  (よし、もう一回だ)

  ワントラップで振り向きざまに前線にロングフィード。

  先程と同じシュチュエーションだ。

  DF2人に挟まれながらも駆けていく。

  (よし、もらっ、グゥホ)

  振り切れると思った矢先であった。

  相手DFの肘が鳩尾に入り、さらには足を思いっきり踏まれた。

  その場で倒れる武。

  ピピッ!

  反則のホイッスルに試合が止まった。

  開始早々の出来事に相手選手にはカードは出ない。

  武の元へは味方の選手達が集まってきた。

  「武大丈夫か?」

  その場で足を押さえてうずくまるっている武に声をかけるが返事は返ってこなかった。

  役員が担架を持ってきて、武を乗せ、医務室に運ばれた。あの様子だと試合復帰は難しいだろうと竜司は思っていた。

  これで2人減った状態となった。

  「さあ、みんな、武の為にもこの試合勝つぞ」

  「おう!!」

  竜司の声にチームメイトから声が上がる。

  この時は竜司も不幸な事故と思っていた。

  それは観客、係員、審判も同じ。

  さらなる不幸が訪れるとは。

 

 




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