Tari tari 1人の少年   作:一塔

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よろしくお願いします


ぶつかったり、悩んだり

9月も終わりに差し掛かり、合唱部の次なる活動は白浜坂高校の目玉、文化祭に向けての発表だ。白浜坂高校では白祭とも呼ばれている。

 

今日も合唱部の練習の為、全員が音楽準備室に集められた。

 

来夏が用意したホワイトボードには「合唱部会議、今日の話題、白祭について」と書かれていた。

 

いつものように椅子に座り、指揮をとる来夏の言葉を待った。

 

「ではまず、正式なメンバーとなりました坂井和奏さんからご挨拶をいただきまーす」

 

「ええっ⁉︎そんなの聞いてないよ」

 

いきなりの言葉に和奏は驚いた。

 

「はい、坂井さん規律」

 

眼鏡を直す真似をしながら、呟く来夏におそらく教頭の真似をしていると思った。

 

「ほら、ほら」

 

「えー本当に?」

 

「早く、早く」

 

嫌がる和奏の手を引いて沙羽が来夏の元に誘導するが言葉とは裏腹に表情はそれほど嫌そうに見えなかった。

 

「和奏、頑張って」

 

ウィーンが呟いた。

 

みんなの前に立たせた後、沙羽は椅子に戻り、小さく握手した。

 

「もぉー何を言えばいいの?」

 

「ファイト!」

 

和奏の問いかけに来夏は言葉をかけたがそれは答えになっておらず、少し考えた。

 

せっかくだからと今までの行動を思い返して話すことにした。

 

「えー、改めて合唱部で活動する事となりました坂井和奏です、えー、今まではちゃんと活動出来なくて、みんなにも嫌な態度をとってしまって、すいま「じゃあ、堅苦しい挨拶はここまで」

 

和奏の言葉の途中に来夏がしてやったりと言わんばかりに口を挟んだ。

 

それに和奏はそんなことをするなら最初からやらないだよと思いながら、恥ずかしい気持ちを来夏にぶつける形で頬を引っ張った。

 

「やめてよ、和奏」

 

来い夏の頬を引っ張った後、頬を赤く染めながら、椅子に座った。

 

「じゃあ、早速、白祭の話を始めます」

 

「はい!」

 

「はい、ウィーンくん」

 

本題に入った所でウィーンが手を上げた。

 

「白祭って何ですか?」

 

「そっからか」

 

ウィーン以外の5人は経験済みの白祭も今年から留学してきた彼は知らなかった。

 

それに大智は仕方ないと思いながら呟いた。

 

「白いサイだよ」「文化祭だよ」「文化祭だよ」

 

「えっ?」

 

ウィーンの質問に答えようとした、来夏と沙羽と竜司の言葉は一致してなく、首を傾げた。

 

何を言ってるんだと思いながら、竜司は2人を見つめたが、来夏と沙羽はアイコンタクトを取り、頷いた。

 

「「白いサイだよ」

 

今度は来夏と沙羽の言葉がハモった。

 

竜司は口を開かなかった。

 

「サイ?角がある?」

 

「そう、白いサイが体育館の地下にいるのは知ってるでしょ」

 

「ええっ⁉︎地下に?知ってた?」

 

初めて聞いた事に驚きを隠せないまま、ウィーンは和奏に問いかけた。

 

「もちろん」

 

それに対して何食わね顔で答えた。

 

「そのサイを1年に1回、地下から出して、パレードするんだよ、歌ったり、踊ったり」

 

「そっか、ずっと地下だとかわいそうだもんね」

 

来夏の言葉に純粋なぐらいに優しいウィーンの言葉に竜司と大智は女って怖ぇ〜って思った。

 

「今日はそのお祭りに合唱部として何をするのか、考えるからいっぱいアイデアを出して下さい」

 

「はーい」

 

「じゃあまず、沙羽から」

 

「乗馬教室!」

 

「バドミントン教室」

 

「猫カフェ」

 

「ヒーローショー」

 

「大食い大会」

 

「バレー教室」

 

どんどん出てくるアイデアをホワイトボードに書き写し、内容を確認した来夏は斜線を引いた。

 

「却下!却下!却下!歌と全然関係ないじゃん」

 

「じゃあ、歌う乗馬教室」

 

「歌うバドミントン教室」

 

「ヒーローショー」

 

「歌う猫カフェ」

 

「歌う大食い大会」

 

「歌うバレー教室」

 

「違うって、体育館のステージでやるんだから、体育館いっぱいに人を集めて、私達の最初で最後の晴れ舞台なんだよ」

 

 来夏がやりたいのはそういうのでなかった。

 

「普通に合唱じゃだめなの?」

 

「でも、それだと声楽部にまけちゃうよね、やっぱり合唱は人数が多い方が迫力あるし」

 

 来夏の言うことには一理ある。

 

 「教頭には負けたくないよね」

 

 沙羽の言葉に和奏も頷いた。

 

 「勝ち負けじゃなくて、自分たちの歌を歌えばいんじゃないのか?」

 

 大智の言葉に来夏達は少し表情が緩んだ。

 

 「ヒュ~」

 

 「「「かっこいい~」」」

 

 「な、なんだよ!?だってそうだろ」

 

 少し頬を赤く染めながら大智が返した。

 

 「まあ、まずはそうだよね」

 

 「うん」

 

 「よし、教頭も声楽部もなんぼのもんじゃい~ん?」

 

 右手を高々と上げ、叫んだ来夏だったが、音楽準備室の扉が開く音がし、振り向くと、声楽部の部長、広畑七恵よみどりと2年の大谷政美が入ってきた。

 

 三人は楽譜を手にしながら選んでいる様子であった。

 

 すると、七恵の視線が楽譜から来夏に向けられた。

 

 「良かったわね、楽しく遊べるお友達ができて」

 

 その言葉にみどりは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

 「え?」

 

 「声楽部には将来の事のも考えて、まじめにやってる子も多いからあんまり邪魔しないでくれると嬉しいんだけど」

 

 それだけ言い残して七恵は準備室を去って行った。

 

 追いかけるようにみどりが出て行った。

 

 「チャオ~ストレピトーソ」

 

 最後に政美が扉を閉めながら、不敵な笑みを浮かべて去って行った。

 

 政美の言葉に和奏と竜司はむっとした表情を浮かべた。

 

 「すとれぴとーす?」

 

 意味を理解していない来夏たちは何の事だか分らなかった。

 

 「やかましく」

 

 「うん、音楽用語でストレピトーソはやかましく、騒々しい」

 

 竜司と和奏の言葉に意味を理解した沙羽が険しい表情を浮かべた。

 

 「やかましくて、いいよ」

 

 「・・・やっぱ、負けたくない」

 

 幸いにも彼女たちの言葉で合唱部の目的が決まった。

 

 すると、また、音楽準備室の扉が開いた。

 

 「すいませーん、ここにアホのバレー馬鹿の佐原竜司っていう人がいるって聞いたんですけど」

 

 扉を開けた先には私服で帽子を深々と被っている女性の姿があった。

 

 「天才の佐原竜司ならいるけど」

 

 「それはないでしょう」

 

 「うん、バレー馬鹿は分るけど」

 

 「天才って言うのは」

 

 竜司の言葉に沙羽と和奏と来夏は否定した。

 

 「フフッ」

 

 「ところであんた誰だ?」

 

 淑やかに微笑んでいる女性に竜司が尋ねると女性は帽子をとった。

 

 素顔を見た竜司は見知った顔に驚いた。

 

 「忘れたなんて言わせないわよ」

 

 「どうしてお前がここに!?、ソヨン!!」

 

「どうしてじゃないでしょう、最近、全然来ないんだって?お父さんからあなたを連行するように言われたの」

 

「竜司くん、知り合い?」

 

疑問に思った和奏が口を開くと竜司は頷いた。

 

「ああ、湘南海星高校三年の岩崎ソヨン、俺が海星高校バレー部の時のマネージャーだよ」

 

「ちょっと待って、竜司、海星高校のバレー部だったの?」

 

「あれ、言ってなかったっけ」

 

竜司が湘南海星高校のバレー部だったのを、知っているのは沙羽と和奏だけだった。

 

「それより、来るの?来ないの?」

 

「行かないって言ったら?」

 

「言わなくても分かるよね?」

 

可愛らしい笑顔を浮かべているが何故か竜司には寒気が走った。

 

「・・・はい」

 

「うん、すいません、竜司をお借りします」

 

「・・・うん」

 

礼儀正しく一礼するソヨンの姿に来夏は頷くしか出来なかった。

 

竜司の手を引いて音楽準備室を後にした。

 

「それにしても綺麗な子だったな」

 

「うん、びっくりした、本当に綺麗だったね」

 

ソヨンを見た後の2人は単純な感想を述べた。

 

「最低」

 

それだけ沙羽は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状態は悪くないな」

 

レントゲンで撮った写真を見ながらソヨンの父、岩崎健が呟いた。

 

ソヨンに連れてこられた場所は自宅のスポーツ医院であった。

 

竜司が湘南海星高校の時にソヨンがマネージャーだったこともあり、随分お世話になった。

 

「だからと言って無茶はするなよ」

 

「分かってます、俺の肩はもう治らない、いつ壊れてもおかしくない状態だっていう事はね」

 

「・・・分かってればいい」

 

竜司の言葉に健も低い声で呟いた。

 

「ソヨン」

 

「はーい」

 

健の声に返しながらソヨンが診察室に入ってきた。

 

「竜司にマッサージをしてやれ」

 

「はーい、こっちに来て」

 

言われるがままに竜司は隣の部屋に移動して、ベットにうつ伏せの状態に寝かされた。

 

タオルを腰にかけてマッサージを始めた。

 

「ずいぶん、張ってるわね」

 

「ここんとこ練習試合が多かったからな」

 

「竜司、肩以外は真面目にケアしてないでしょう」

 

その言葉に竜司は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「図星のようね、時間かかるけど大丈夫?」

 

「ああ、頼むわ」

 

ソヨンのマッサージは力加減がちょうどよく、竜司はだんだん気持ちよくなっていった。

 

「また、バレー部に戻ったの?」

 

指圧しながらソヨンが呟いた。

 

「うん」

 

「・・・大丈夫?」

 

「何が?」

 

「何がって、肩の状態よ、無理してない?」

 

「してないよ、心配性だなぁ」

 

「ごめんね」

 

ソヨンはマッサージの腕を止めて、小さな声で呟いた。

 

「この怪我はお前の所為じゃないって言ってるだろ、気にし過ぎなんだよ」

 

心配するソヨンに竜司は軽く笑いながら口を開いて、続けた。

 

「それに、お前や先生には感謝してるんだ、俺の為に金も取らないで診てくれてるんだからな」

 

「うん、ありがと」

 

竜司の優しさにソヨンは心の中で感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 

マッサージをしてもらったから非常に身体の動きが良く感じた。

 

どれくらいマッサージをしてもらってたかは途中であまりの気持ちよさに眠ってしまって、覚えていなかった。

 

今日は部活が休みとなり、竜司は1人校舎周りをランニングしていた。

 

身体を休めることも大事だが、身体の調子が良いので勿体無いという気持ちが1番であった。

 

校舎を走りながら校庭の前を走ると、見知った顔が電話している事に気が付いた。

 

「竜司、竜司」

 

「ん?来夏か、どうした?」

 

今度は裏口の方から来夏に呼びかけられた。

 

「沙羽、見なかった?」

 

「あいつならあそこ」

 

質問の答えを知っている竜司はを指指した。

 

それに来夏はホッと胸を撫で下ろした。

 

「好きなだけじゃ駄目なんですか?そんな半端な気持ちじゃありません!!」

 

来夏の行動に疑問を抱いた竜司は話を聞こうと思ったが沙羽の激しい大きな声が聞こえて、口を閉ざした。

 

「じゃあ、直接会って、お願いします」

 

話の内容を聞いていた来夏は興奮した様子で口を開いた。

 

「foreignlove」

 

「フォーリンラブ?」

 

来夏の言葉に竜司は首を傾げた。

 

「おい、来夏」

 

来夏はブツブツ言いながら校舎に帰っていった。

 

きっと竜司の声も聞こえていなかったのだろう。

 

いまいち状況がつかめないま、竜司はランニングを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

日曜日は1日練習となっており、朝9時から夕方の4時までとなっている。

 

午前中は主に基礎体力トレーニングが主に行い、午後からはレギュラーメンバーでコートに入り、動きの確認を行った。

 

白浜坂高校の目標は全国大会出場、その為には春高予選では最低2位に入らなければならない。

 

チーム数の多い関係から神奈川県は2チームまでが全国大会出場に行くことができる。

 

だが選手達は2位で全国大会に出場するつもりは微塵もなかった。

 

神奈川の強豪、湘南海星高校に勝って全国大会出場を決めたいのが本音であった。

 

組み合わせはまだ発表されていないが、夏の結果からすれば恐らく決勝まで当たらない可能性も出てくる。

 

とりあえず今は練習あるのみだと集中するしかなかった。

 

練習が終わった後はいつも竜司は自主練を行うが、今日は病院に派遣されるので健から来いと言われており、近くの大きな病院で診察を受け、軽くリハビリ運動を行っていた。

 

一通り、終わったので竜司は帰ろうとしていた。

 

すると会計をしている正一と沙羽の姿が目に入ってきた。

 

沙羽の頬にガーゼが当てられているのが心配になって竜司は声をかけた。

 

「こんにちは」

 

「ん、ああ、佐原くんか、こんにちは」

 

「竜司くん、どうしたの?こんな所で」

 

「お前こそどうしたんだよ」

 

「ちょっとね」

 

竜司の言葉に沙羽は落ち込んだ様子で口を濁した。

 

「そっか」

 

この調子だと何を言っても返って来ないなと思った。

 

「帰るぞ」

 

「・・・お父さん、先に帰ってて」

 

「何を「私、竜司くんと帰るから」」

 

何を言っているんだと思いながらも正一は竜司に視線を向けるとこくりと頷くのが分かった。

 

ここは下手に口出ししない方が良いと踏んだ正一は気よつけなさいと言って病院を後にしていった。

 

「じゃあ、お願いします」

 

最近、元気が無かった事もあり、竜司は断る事も出来ずに沙羽と歩いて帰る事にした。

 

 

 

 

 

帰りながら互いに一言も喋らない事に気まづかったのか、沙羽から先に口を開いた。

 

「何も聞かないんだ」

 

「何か聞いて欲しかったか?」

 

何かを聞いても満足する答えが返って来ないだろうと思っていた竜司は沙羽から喋る事を待っていた。

 

「ううん」

 

首を横に振って、また口を閉ざしたがすぐに口を開いた。

 

「竜司くんって優しいよね」

 

「そうか?」

 

「うん、嫌な事があっても他の人と違って何も聞かないから心が楽なの」

 

「聞かなかったと言うより、聞き出せないと思ってるからかな」

 

沙羽の本心に竜司も本心を伝えた。

 

「・・・一つ聞いてもいい?」

 

いつもの沙羽と違ってか細い小さな声での問い掛けに竜司は頷いた。

 

「竜司くんの夢って何?」

 

「夢か、・・・しいて言うならバレー選手かな」

 

「じゃあ、その夢が叶えられない現実にぶつかったら竜司くんはどうする?」

 

まさか、俺の怪我の事を知っているのか?

 

少し竜司は考えた。

 

「それでも、何かバレー選手になれる可能性を探すかな」

 

「何があっても?」

 

「ああ、好きだからこそ、簡単に諦められない、どんな事があってもな」

 

まあ、今の俺だから言える事だけど。

 

「たとえ、この身体がついてこれなくてもな」

 

その言葉に沙羽は軽く微笑んだ。

 

私のしている事は間違っていないと言われている気がしたからだ。

 

この時はまだ、竜司が間違った事を言っているとは思いもしなかった。

 

 

 




ありがとうございました。

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