Tari tari 1人の少年   作:一塔

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よろしくお願いします


怒ったり、仲間だったり

  「いいえ、2人ともバレーはやらないでしょう、インターハイでやめてますから」

  その言葉を思い出しながら竜司は長い坂を自転車で下っていった。

  せっかく可能性が出てきたのだが簡単に離れてしまった。

  インターハイでやめてしまった田中照は分かる、全日本バレーボール高等学校選手権大会は3年生が出れるだけであって出なくてもよい、余程の強豪高でない限りはインターハイで引退してしまうがまだ2年生でキャプテンの風間大河が辞めた事には納得がいかなかった。

  頭の中で色々と考えても埒があかない。今日は海の家にいると来夏から連絡があったのでとりあえずそこに行こうと思っていた。

  長い坂を下りて、海外沿いを快調に飛ばしていると後ろから物凄い形相で走ってくる和奏が竜司の横を通り過ぎていった。

  「おーい和奏」

  自転車を漕ぎながら竜司は声をかけた。

  「竜司くん、助けて、ストーカー!!ストーカー!!!」

  そう叫び続けている和奏に竜司は自転車を止めて笑った。

  「そんなテレビじゃあるまいし・・・うわ⁉︎」

  竜司の横を勢いよくおじさんが自転車で通り過ぎた。

  「本当だ」

  客観的に見ていた竜司は慌てて追いかけた。

  おじさんがあと少しで和奏に追いつきそうな所で竜司が追いついた。

  軽く自転車を蹴ると、砂浜に向かって転がり落ちていった。

  「あっ」

  流石にやりすぎたかと思い驚きの声を上げてしまった。

  和奏も自転車を止めて、頬に流れる汗を拭いながら落ちた先を見ていた。

  落ちたおじさんに2人で駆け寄るとおじさんの口から「まひる」と声が聞こえた。どうやらどこも怪我していないようだ。

  その言葉を聞いて和奏が腰に手を当てて口を開いた。

  「母の知り合いなら最初からそう言って下さい」

  「ご、ごめんなさい、でもとっーてもうれしくて」

  「ひぃ⁉︎」

  大げさに喜ぶおじさんに和奏は怯えた声を上げた。

  「おーい」

  上から声が聞こえてきたの視線を移すとバドミントンのラケットを背中に背負った大智がいた。

  「何してんだこんな所で」

  「あれ、合唱部の練習は?」

  今日は4時から合唱部の練習だったがどうしてこんな所に大智がいるのかと竜司は疑問に思っていた。

  「今日は中止らしいぞ、なんとかって言うバンドと沖田の家に行くんだって」

  「そっか分かった」

  そう言い残すと大智は自転車を走らせた。

  「ちょうどいいや、静岡の土産を持ってきながらおれも行くかな」

  「あ、私も行く」

  「ああ、とりあえずこの人どうする?」

  砂まみれになっているおじさんをどうしようか竜司と和奏は頭を悩ませた。

 

 

 

  来夏とコンドルクインズ達は沙羽の家の庭にキャンピングカーを停めて来ていた。

  お寺という事もあり、庭が広くなっている。そこに机と椅子をを広げてコーヒーを入れていた。

  「何かあったら行って下さいね」

  「ご好意感謝します」

  志保はそう言い残すと家に帰って行った。

  「君たちも一緒にどうかね?」

  「はい!」

  コーヒーを指をさしながら聞かれた問いに来夏は元気良く答えた。

  「私はいいです、ではごゆっくり」

  沙羽もそれだけ言って家に戻ろうとしていた。

  その姿を見て来夏が追いかけた。

  「あ、沙羽〜今日泊めて、ゆっくり話したいから」

  顔の前で手を合わせる来夏を見て沙羽は腕を組み、嫌そうな顔で口を開いた。

  「だったらキャンピングカーにでも泊めてもらったら」

  「ええっ」

  いいの?と思うように期待している来夏の顔を見て沙羽は来夏の頬を片手で挟んだ。

  「もう、冗談だよ」

  「冗談?」

  「amigo!」

  聞いたことの無い声が聞こえた事で沙羽と来夏は声の方に視線を向けるとおじさんが手を振っていた。その隣で竜司と和奏が自転車を押しながら歩いていた。

  「みつけたよ、まひるのむすめさん」

  歩きながらキャンピングカーの前に自転車を停めるとおじさん2人が駆け寄ってきた。

  「おお、よく見つけたな」

  「座って座って」

  椅子に座るように言われたが和奏は拒んだが、結局、断れずに座っていた。

  コーヒーを出させれて軽くお礼をして一口、コーヒーを口に含んだ。

  「まだ路上ライブをしている時にまひると出会ってね」

  「一緒に歌を作ったんだ」

  和奏達の会話を邪魔しては行けないと思った来夏達はキャンピングカーの影でこっそり話を聞くことにした。

  「amigo、amigo」

  「そう、この曲が私達のヒット曲なんだ」

  「まひるから何か聞いていない?」

  「いえ、母からは何も」

  母の話をされると少し寂しくなってしまった。

  視線を移すとギターケースに和奏と同じキーホルダーが付いていた。それを冷たい視線で見ていた。

  「あの頃のまひるに良く似ている」

  「まひるはもっと明るかったがな」

  「髪ももう少し長った、ああ、昨日のことのようだ」

  3人で和奏を見ながら昔の事を思い出していた。

  「・・まだ、信じられん、まひるがもういないなんて」

  1人の男の言葉に3人とも落ちんだ表情を見せた。

  余程、まひるの事を慕っていたんだなと和奏は思っていた。

  キャンピングカーの影で聞いていた来夏達も寂しそうな表情を浮かべていた。

  「では私はこれで」

  母の事を聞けて良かったと思う反面、聞かなければ良かったと思っていた。

  和奏は何も言わずに停めてあった自転車に跨って家路についていった。

  「さて、俺も行くかなとその前にこれ」

  竜司も自転車に跨ったところで紙袋を沙羽に渡した。

  「何これ?」

  「静岡のお土産」

  「静岡行ってきたの?」

  「私には⁉︎」

  「来夏のは合唱部の時にみんなの買ってあるからな、沙羽にはこないだ打ち上げでお世話になったから」

  袋の中を開けるとみかんのスポンジケーキのようであった。

  お土産も渡して帰ろうとした竜司だったがもう一つ思い出した。

  「そういえば、3年の田中照と2年の風間大河って知ってる?」

  ついでにバレー部の事も聞いとこうと思って口を開いた。

  「照くんなら私より、田中の方が詳しいかも、風間大河くんの事は何も」

  「大河なら知ってるよ、弟と仲良いから」

  「そっか、照の事は田中に聞いて、大河の事は誠に聞くかな」

  意外に手応えがあったなと思いながら竜司は自転車を走らせた。

  なんでそんな事をと思って沙羽と来夏は顔を合わせて首を傾げた。

 

 

  次の日の朝、来夏はいつもより早く起床してコンドルクインズの元に来ていた。

  小さい頃から知っているので実物に会えたことに嬉しくて仕方なかった。

  沙羽もその事を知っているから特に何も言わず、いつも通りにサブレに跨って散歩していた。

  コンドルクインズの前を通ると来夏が両手に木の枝を抱えて近寄ってきた。

  「沙羽〜今日の練習なんだけど」

  「今日はバイトも無いから、学校で練習でしょ?」

  バイトがある時は終わってから学校で沙羽に合わせて練習を行っているのだ。

  「その事なんだけど、私、欠席してもいいかな、コンドルクインズで海の家で歌うんだって、そうだ、なんなら部員全員で見学に行こうか、色々と勉強になる事もあるし」

  嬉しそうに喋る来夏に沙羽は厳しい表情を向けた。

  「1人で行って」

  「えっ?」

  「私達まだ何も出来てないじゃん、これ遊びだったの?私、尊敬している凄い騎手が相手でも一緒に走るなら絶対に負けたくない、来夏が歌わなきゃ、ただのファンクラブだったら私もう、合唱部辞めるからね、バカ!おたんこなす!」

  強い口調で言い放ち、沙羽はサブレを走らせた。

  冷水を頭から浴びたようだった。

  沙羽の言う通りだった。

  来夏は唇を噛み締めて言葉を受け止めた。

 

 

 

  「なるほど、それで来夏が来てないのか」

  笑いながら竜司は音楽室に荷物を置いた。

  「笑い事じゃないんだよ、少し言い過ぎたかな」

  ピアノの前に腰を降ろして考える沙羽を見て竜司は隣に腰を降ろした。

  「いいんじゃないのか、憧れを抱いて前を向いていない来夏を気づかせたんだから」

  「そうかも知れないけどさ」

  「ならいいさ、それで気付けないなら来夏はそこまでなんだよ」

  竜司はバックからゴムチューブを取り出して、トレーニングを始めた。

  「それに、楽しいだけが友達じゃないだろ、来夏の事は沙羽が1番知ってるんだし、これぐらいで折れる玉じゃないだろう」

  竜司の言葉に沙羽はこくりと頷いた。

  「なら大丈夫だ」

  「そうだね、後は来夏を信じよう」

  笑顔で答える沙羽に竜司もトレーニングの手を緩める事なく頷いた。

  「よお」

  「やってるね」

  音楽室に大智とウィーンが入ってきた。

  「竜司、ファルセットって出来る?」

  入るなり、ウィーンは本を広げて問いかけた。

  大智は床で腹筋を始めた。

  「ファルセットか、あんな高い声は出せないな、沙羽なら出来るんじゃないか?」

  トレーニングを途中で止めて竜司は沙羽に投げかけた。

  ウィーンは手にしていた本を渡した。

  「ファー♪」

  沙羽が試しに声に出した。

  それを聞いて竜司が首を傾げた。

  「もうワンオクターブ上だな」

  「ファー♪♪」

  竜司に言われて沙羽はもう一度声を出した。

  その声を聞いて竜司はオッケイサインを指で作った。

  「面白そうだな、ちょっと俺にも見せて」

  大智も腹筋を止めて本に視線を送った。

 

 

 

  合唱部が練習をしている中、来夏はアスファルトの上を走っていた。

  沙羽に言われた事を受け止めて、今自分が何をしなければならないか改めてわかったのだ。

  町内会主催のワールドミュージックのイベントで歌う場所を探す事であった。

  イベントの開催は残り僅か、時間は無い、とりあえず今回のイベントの主催者でもある志保の元に尋ねてみると商店街の田島生花店という花屋だけがまだ歌い手が決まった連絡を受けていなかった。

  まだ可能性があると思い、全力で花屋に向かっていたのだ。

  花屋に着くと息を切らしながら声を上げた。

  「すいません、ワールドミュージックで歌う人ってもう決まってますか」

  「ああ、たった今ね、興味のある知り合いがいるから紹介してくれるって、まだその辺にいるんじゃないかな?」

  決まったという言葉を聞いて残念そうな表情を浮かべた。

  それと同じぐらいに肩に掛けていたバックの中から着信音が聞こえてきた。バックの中から携帯を取り出して、確認すると画面には坂井和奏と書いてあった。

  「あっ、ほら」

  店主は先ほどきた人を見つけて指を差すとそこには携帯を耳に当てて自転車を押している和奏の姿があった。

  「坂井さん!」

  和奏は自分の名前を呼ばれた事に気付き振り返るとそこには電話をかけていた来夏の姿があった。

  2人はすぐ近くにある海辺に来た。

  陽も沈み始めてオレンジ色の空にはカモメが大きく旋回していた。

  「ありがとう」

  「ううん、良かったね、ステージ見つかって」

  「久々本気で走ったぁ〜」

  来夏は疲れたように腰を下ろした。

  和奏は学校を出た時に買った野菜ジュースを飲みながら海を見つめていた。

  音楽の為なら全力でやる来夏を見て、前の疑問を聞いて見る事にした。

  「宮本さん、答えは見つかったの?」

  「私、天才だったらな〜きっと今ごろ〜」

  立ち上がり、両手を広げて空を見上げる来夏に質問の答えが返ってきている気がしなかった。

  「何?」

  「だめーやっぱ1人じゃ歌えないや」

  「なんなのそれ?」

  それが答えなのと思いながら和奏は苦笑した。

  来夏はもう一度腰を降ろして恐る恐る口を開いた。

  「坂井さんが音楽を辞めたのって」

  その言葉に和奏は無理して笑顔を作って答えた。

  「私も天才じゃないから、あ、そうだ」

  何かを思い出したかのように和奏はバックの中から「心の旋律」の楽譜を取り出して、来夏に見せた。

  「宮本さん、この歌の事何か知ってる?」

  「来夏でいいよ」

  少し照れながら来夏は口を開いて楽譜を受け取った。

  その言葉が和奏はとても嬉しかった。

  「ああ、これ、実はよく知らなくって」

  「そっか」

  「んん〜んんん〜♪、いい歌だよね」

  「うん」

  楽譜を受け取り和奏はバックの中にしまって自転車に手をかけた。

  「じゃあまたね」

  「うん」

  別れの挨拶をして、ゆっくりと歩き出す和奏の背中に声をかけた。

  「坂井さん、ありがとう」

  和奏は歩みをとめて、軽く微笑みながら振り返って。

  「和奏でいいよ」

  その言葉に来夏はとても嬉しくて顔がほころんだ。

  本当の友達になれた気がしたからであった。

  和奏はとめた歩みを進めて、家路についた。

  来夏はまだやるべき事があって走り出した。

 

 

  合唱部の練習が終わって、沙羽と大智とウィーンは坂道を下っていた。

  竜司は自主練をしていくと言って学校に残っている。

  「宮本こなかったじゃん」

  大智の言葉に沙羽はやっぱり言い過ぎたかなと考えていた。

  竜司に言われて少し気持ちも楽になっていたが、やっぱり音楽への思いがそこまでだったとは思いたくはないがそう思ってしまう自分がいた。

  だがその悩みも杞憂に終わった。

  夕陽が落ちる海をバックに坂道を駆け抜けてくる来夏の姿が見えた。

  来夏は沙羽を見つけると自信満々の笑みで親指を突き立てた。

  それを見て安心した表情で沙羽も親指を突き立てた。

  「宮本、遅えよ」

  息を切らしながら近づいて来る来夏に大智は口を開いた。

  「しょうがないでしょう、歌う場所を探してたんだから」

  「場所は決まったの?」

  「うん、田島生花店になったよ、和奏がお願いしてくれた」

  嬉しそうに呟く来夏に沙羽も優しく微笑んだ。

  「音楽は決めてあるから明日発表するね」

  「みんなで頑張ろう」

  音楽も決まり、ウィーンは天高く拳を突き上げた。

  「そうだ、竜司くんに伝えてくるよ、まだ自主練していると思うから」

  やる気になってきた沙羽は下った坂道をまた登り始めた。

  「みんなは先に帰ってて」

  手を振って歩き出す沙羽を見ながら3人は見送った。

  「てか、メールか電話でいいんじゃないのか?」

  「あんた、本当に分かってないのね」

  「何がだ?」

  「沙羽は竜司の事が好きなんだよ」

  「そうなのか?」

  「もちろん」

  「え、でも竜司は坂井の事が好きなんじゃないのか?」

  「それは僕も思った事があるよ、和奏も竜司には心許してる感があると思うよ」

  「言われてみれば確かに」

  3人はその場で頭を悩ましていた。

 

 

  沙羽は自転車を停めて、体育館に向かって歩き出すとまだ明かりはついていた。辺りはすっかり暗くなっているが中から音が聞こえてきた。

  こっそり体育館の中を覗いてみると、ボールが散乱している。その脇でエンドラインからエンドラインまでダッシュしている竜司の姿があった。

  息を切らしながら4往復した所で膝に手をついて呼吸を整えて、しばらくしてからまた走り出した。

  真剣な竜司の表情に沙羽は見惚れていた。

  だがすぐに首を横に振って、自動販売機のある所に歩き、お茶とスポーツドリンクを買い、今度は静かに体育館の中に入り、隅っこで腰を降ろした。

  練習中に声を掛けるのも悪い気がして練習が終わるのを待っていた。

  一体何往復したのだろうと考えている内に竜司はコートに仰向けで倒れた。

  苦しそうに荒々しく呼吸をしていた。

  それを見て沙羽はゆっくりと近づいて、おでこにスポーツドリンクを置いた。

  「えっ?」

  おでこに冷たい感触が広がり軽く驚きながら確認するとそこには笑顔を見せている沙羽の姿があった。

  「どうしたぁ、はぁはぁ、」

  「大丈夫?死にそうだよ」

  「死にはしねぇよ、それよりどうしてこんな時間に?」

  合唱部の練習は随分前に終わっているのは知っていたので沙羽だけここにいる事が不思議であった。

  「来夏がワールドミュージックの場所を見つけたから伝えに来たの」

  「そうか、良かったな沙羽」

  来夏が来たということに沙羽も心が少し軽くなったのだろうと思い、労いの言葉をかけた。

  沙羽は日時を伝えると竜司は少し考えた表情を浮かべた。

  「その日は練習と被ってるな、悪りぃな」

  「ううん、竜司くんはこっちを優先して、来夏が歌を始めた気持ちと竜司くんがバレーを始めた気持ちは同じくらい大切だと思うから」

  沙羽は少し残念そうな表情を浮かべながら呟いた。

  その言葉に竜司は笑顔で頷いてゆっくりと立ち上がり、スポーツドリンクを口に含んだ。

  「ごちそうさん」

  「いえいえ、お返し期待しているから」

  「おかしいだろ」

  沙羽のボケと竜司のツッコミが入り、2人は微笑んだ。

  「まだ時間あるか?」

  「えっ、大丈夫だけど」

  「じゃあ」

  竜司はボールカゴを運びながらアッタクラインにカゴを置き、沙羽に来るようにジェスチャーした。

  沙羽にボールカゴを渡して竜司は沙羽から3mぐらい離れた所に立った。

  「そこから俺の顔面に本気で投げてきて」

  「本気で?」

  「ああ」

  本気と言っても女子の玉ならそれほど速くないだろうと思っていた。

  沙羽は軽く手を上げて「行くよ」と言ってボールを投げた。

  軽く構えを取っていた竜司は耳を掠めていくボールに反応が出来なかった。

  「次行くよ」

  「待って」

  驚きながら2、3歩後退した。

  「よしいいぞ」

  女子の玉とは思えないと竜司は驚いた。

  今度は油断しないでしっかりと構えた。

  沙羽は大きく振りかぶってボールをボールを投げた。

  ボールは竜司の顔に向かって飛んでいく。

  竜司は顔の前でオーバーハンドでボールを上げた。

  ボールは回転しながら沙羽の手に届いた。

  「んーやっぱり、回転がかかるなぁ、よし、どんどん来い」

  手の感触やボールの軌道を確認しながら、沙羽にどんどん要求した。

  沙羽は言われた通りにボールを投げた込み、竜司は軽々とオーバーレシーブをしていく。

  何十球ほどやった所で竜司は最初の位置に立ち、オーバーレシーブを始めた。

  最初の時とは違いボールを上げていく。

  目が慣れた事もあるが沙羽の体力が落ちて来ている事も原因の一つだろう。

  しばらくして竜司はボールを真上に上げて、キャッチした。

  「よし、終わりにしよう、ありがとな」

  「ふぅー、お疲れ様」

  汗を拭いながら沙羽は一つ息を吐いた。

  竜司は1度体育館を出るとすぐにアイシング道具を持ってきた。

  「これで肩を冷やしな」

  女性という事もあり、何十球もボールを全力に投げることは肩に負担がかかる。少しでも軽減できる。

  「大丈夫だよ」

  「ダメだ、しっかり冷やさないと怪我にも繋がる」

  「・・はい」

  軽く微笑みながら断ったが真剣な表情で話す竜司に沙羽はさらに断る事が出来なかった。

  肩にアイシングを行なった。

  「俺が片付けをするから、休んでてくれ」

  そう言うと竜司は落ちてるボールをカゴにしまい、張ってあったネットを片付けていった。

 

 

 

 




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