襲撃の情報を聞き、私はリディアン音楽院へとやってきた。そこにはノイズが沢山いる。ううん、溢れていた。見渡す限りノイズだらけで、正直、気持ち悪いレベル。
「来たか、立花」
「翼さん」
「貴様はノイズを排除していろ。地下に人を誘導している。私達の任務は時間稼ぎだ」
「そっか。じゃあ、やろうか」
スレイプニルを起動し、黒いシンフォギアを身に纏う。手に持つのは完全聖遺物であるガングニール、デュランダル。大きな槍と大きな剣の二刀流。実験には丁度いいし。
ノイズの間をスレイプニルで駆け抜けながらガングニールとデュランダルを振るって惨殺する。でも、やっぱり扱いづらい。ガングニールは使い方を引き出しているし問題ないけど、デュランダルはやっぱり使いづらい。ガングニールの方も私に最適化しないとだめか。
とりあえず、デュランダルは使わずに先に槍を使おう。前のオーディンから教えてもらった戦い方を最適化させて私に合わせる。一振り一振り、全身を使って組み替えていく。
私はただ一振りの槍。一条の閃光となって全てを終わらす。瞳に映る最適な行動に従って自らの身体の使い方を調べる。
「うん、やっぱり槍のほうが使い易いね。穿てガングニール」
放つは必中の槍。穂先にあるルーン文字を起動させ、投擲してノイズを一掃する。息を吐きながら周りをみると、クレーターがそこかしこにできている。手を上げるとガングニールが戻ってくる。
『翼っ、翼ぁあああああああああぁぁぁぁぁっ!!』
インカムから司令の声が聞こえる。どうやら、落ちたようだ。瞳の倍率をあげてそちらの方をみると、執事風の容姿をした、緑色を基調とした自動人形にシンフォギアを破壊され、貫かれていた。入口を見れば同じようにクリスがカジノの女性ディーラーのような容姿をした、黄色を基調とした自動人形にシンフォギアを破壊されている。
「まぁ、そうだよね」
ただの破片であるシンフォギアが、彼女達に勝てるはずはないよね。
『貴様のお陰だがな。本来なら、スコアを手に入れるために身をもって集めねばならなかった』
「およ」
声が頭の中に聞こえてくる。力の発信源を感じると、私が付けているペンダントからだ。
『このまま奏者を排除する。別に構わないな?』
「うん、いいよ~」
歩きながらノイズを滅ぼしていく。必死に戦っているアピールをしないと。あれ、それだと私のところにもオートスコアラーが来た方がいいのかな?
「お前の相手はオレだ」
「あはっ♪」
目の前に魔法錬金術少女キャロルちゃんが現れた。属性過多だね。
「さあ、殺し合う」
「いいよ、殺ろうか」
互いに全力で殺し合う。全力で歌い、フォニックゲインを放出しまくる。それは相手も同じ。私達のフォニックゲインはチフォージュ・シャトーへと流れ込む。
「あははは」
「ふははは」
風の刃がビルを切断し、大地の槍がコンクリートを粉砕してでてくる。それらを燃やし尽くし、私を殺そうとしてくる。私は高速で移動しながら相手の心臓を狙う。互いが互いに全力で殺しにかかる。
「ちっ、厄介な槍だ」
「放てば必中だから、ね!」
でも、確実な時しか放てない。分解されたらたまったものじゃないから。こっちも警戒しながら確実に潰さないといけない。
「絶唱してもなんで勝てないかなー」
「ふん。私とお前とではフォニックゲインの差が大きいからだ」
「ちっ、億単位とかチートすぎるよ、キャロルちん」
「はっ、お前がいうな」
交差する一瞬でキャロルの腕を切断する。同時に私の片腕も分解される。シンフォギアのエネルギーを腕の形に実態化させて固定する。相手も同じで再構築してくる。
周りのことなど一切気にしない楽しい楽しい戦いは長くは続かない。無粋な連中が介入してきた。
「「ちっ」」
私達は互いに離れて距離を取る。真ん中にミサイルが突き刺さったのだ。空を見上げるとそこにはミサイルから飛び降りただろう三人の少女。
「あれ、敵だよね。穿て、ガング」
『あれは味方だ!』
「ちっ」
せっかくの楽しい戦いを邪魔してくれた奴等を殺そうとしたら、止められた。でも、止まらない理由は……まだないか。残念。
「ふん。この場はここまでだ。さらばだ」
「いいよ。興が削がれたし。またね~」
しかし、キャロルとの闘いは本当に楽しいけど辛い。身体がボロボロだよ。回復のルーン、ちゃんと使っておこう。
「じゃあ、私は帰りますね」
『救助は手伝ってくれないのかね?』
「……未来が心配なので、この場はお任せします」
『彼女はこちらで保護している。彼女の両親もだ。一旦、こちらに来てくれ』
「わかりました」
残念。リディアン音楽院の地下にある秘密基地に入ると、みんな大慌てだ。内部も襲撃されていたようで、大変だ! あの腹黒さんも身体を貫かれて死んじゃったみたい。
『響君、司令室にきてくれ』
「了解しました」
司令室に入ると、知らない女の子が武装したままで三人居て、司令と話している。
「来たか」
「何の用ですか?」
「君に聞きたいことがある」
「おっと、下手な動きをすると首が離れるデスよ」
「? どういうこと?」
「君は彼女と知り合いなのだろう?」
画面にキャロルの姿が映し出される。会話、聞かれてたか。うん、これはこっちのミスだ。とっても大きな。
「知り合いですよ」
「へぇ、認めるのね」
「欧州で出会って友達になりましたし」
「友達同士で殺し合いをしたの!?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「「っ!?」」
黒髪と緑髪の子が驚いているけど、それぐらい当然じゃないかな。
「今回のことは知っていたのか?」
「知らなかったよ」
襲撃がいつかなんて知らなかったし、嘘じゃない。嘘をつかなければばれにくいんだよね。
「本当のようですね。嘘ではないようです。脈拍と呼吸からもそれがわかります」
「そうか。それなら……」
扉が開いて衝撃が走る。いや、後ろに気配があるのがわかったけれど、ここで動くのはまずい。
「大丈夫?」
後ろを振り向くと良く見知った子がいた。
「あ、あれ、響さん? なっ、なんでここに……」
「久しぶりだね、エルフナインちゃん」
エルフナインちゃんは身体を震わせて、後退る。
「こ、この人が首謀者です!」
あ、これはまずい。非情に不味い。そういえばエルフナインちゃんって、キャロルが考えた最初の計画通りに作られたクローンの子だ。だったら、私達の計画を妨害しても当然だよね。
「確保っ!」
瞬時に身体を傾ける。脇腹が大鎌で抉られ、血が噴き出す。それに驚いた表情をする。まさか、自分から飛び込むとは思っていなかったようだ。だけど、その隙が致命的だよ。
「ごめんなさい!」
「なっ!?」
スレイプニルを起動して転移しようとした直後、エルフナインちゃんに刺された。よく見るとそれはアルカノイズの紋様が刻まれていた。エルフナインちゃんの瞳の先にキャロルの姿をみる。ニヤリと笑う彼女の目的はわかっている。私という戦力を以て、こいつらを滅ぼせということだ。
アルカノイズの短剣により、そのほとんどが聖遺物で構成されている私の身体はズタズタに分解され、それを押しとどめようと力が暴走してコントロールから外れていく。
「響君っ!」
しかし、甘いよキャロル。私がなんの対策をしていないと思っているのかな? なめんなっ!
懐からパクっておいた転移結晶を取り出してさっさと転移する。
「まっーー」
瞬時に転移した先はチフォージュ・シャトー。つまり、キャロルの本拠地。玉座に座るキャロルが忌々しそうにこちらを見て来る。
「……いつの間にパクってやがった」
「甘いよ。さて、キャロル。ここで暴走して欲しく無かったらわかるよね?」
「ちっ、いいだろう。オレ自らが、改造してやる」
「どうせだから、デュランダルも混ぜて。あとネフシュタンも」
「いいだろう。どうせ、もうチフォージュ・シャトーは起動した。後は時間を稼ぐだけだ。命が持つ時間は保証できない。それでいいな?」
「もちろんだよ」
「なら、やってやる」
キャロルちゃんによる人体改造。これにより、スペシャルでスーパーなオーディンへと完全に生まれ変わる。立花響の残滓はもう擬態する必要すらないので、要らない。必要なのは戦闘力だけだ。
「ああ、逃げられてしまいました。絶対に彼女はキャロルと協力して、妨害してきます……確実に殺さないとだめだったのに……」
「詳しく説明してもらうぞ。だが、その前に響君のことを未来君に伝えねば……彼女なら、まだ響君を説得できるかもしれん」