壊れた黒い立花響   作:ヴィヴィオ

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第7話

 

 

 授業も終わり、帰宅時間へとなった。私は教科書を鞄に戻して未来と一緒に帰ることする。未来もそのつもりなのか、急いで準備をしてこちらにやってきていた。忘れ物がないか心配するぐらい急いでいる。私が何処かに行ってしまうかとでも思っているのかな?

 

「響、帰ろ。この辺りを案内するよ」

「うん。お願い。大分変っているみたいだから」

「ノイズに壊されたりしたからね……」

「そうなんだ……」

 

 未来と一緒に帰宅する。リディアン音楽院を回って、更に街を回るともう夕方を過ぎて夜になりだした。普通なら女の子二人は危ない時間になってくるのだろうけど、私がいるし問題ないけどね。きーちゃんに言ったら相手の心配をするなって言われるくらいだし。

 

「響、晩御飯はお好み焼きでいい?」

「うん、いいよー」

「じゃあ、こっちね」

「もしかして、おばちゃんのところ?」

「そうだよ。おばちゃんのお好み焼きが一番だからね」

「久しぶりに食べるから楽しみだね~」

「前より更に美味しくなってるよ」

「それは期待大だね」

 

 未来の案内でお好み焼きふらわーの店へと移動した。

 

「いらっしゃい。あら、響ちゃんじゃない。無事だったのね。行方不明って聞い心配していたのよ」

 

 中に入るとおばちゃんが優しく迎え入れてくれた。席に着きながら、取り敢えず、全種類注文していく。

 

「響、そんなに食べられるの?」

「うん、食べられるよ~食べられる時に食べるのが基本だったし、食い溜めは大事なんだよ」

「そうなんだ……」

 

 たわいない会話をしながら、待っているとおばちゃんがお好み焼きを作って渡してくれる。

 

「これは私の奢りだよ。味わってお食べ」

「ありがとう。いただきます」

 

 一口食べると外はかりっとして中は柔らかくシャキシャキしている。キャベツととろろの角切りかな。とっても美味しい。

 

「しかし、本当に無事でよかったわね。未来ちゃんも心配していたんだよね」

「そうですよ。二年間も連絡一つも寄越さないで……」

 

 戻る気もなかったしね。でも、そうもいってられなくなったんだけどね。

 

「でも、このお好み焼きはとっても美味しい。それに優しいおばちゃんは大好きだよ」

「それはありがとうね。おばちゃんはお好み焼きを焼いて美味しそうに食べてもらえることが幸せだよ。はい、未来ちゃん」

「ありがとう。響、ちょっとそっちのも頂戴。こっちのもあげるから。はい、あ~ん」

「あ~ん。じゃあ、これはお返しだよ」

「うん」

 

 楽しいひと時が過ぎていく。何時壊れるかも知れない砂上の楼閣の平和が。

 

 

 

 

 

 

 了子

 

 

 

 

「全く、立花響には困ったものね」

 このままではクリスから私のことが漏れる。いっそ始末するか。それ以前にネフシュタンの鎧を回収して去りましょうか? でも、カ・ディンギルはデュランダルを奪われたので使えない。現状、立花響から奪い取るには戦力的にきついわね。

 そんなことを考えながらリディアン音楽院の教室を歩いていると、目の前から生徒がやってくる。

 

「先生、忘れ物です」

「あら、ありがとう。職員室に届けておくわ」

「お願いします」

「気を付けて帰りなさいね」

「は~い」

 

 受け取ったペンダントをみると、気になる反応があった。詳しく調べるとペンダントから発せられている力ね。

 

「この紋様はルーン……しかも古代の本物ね」

 

 ということは、これは立花響が作った物ね。古代のルーン魔術を扱えるのはあの子だけでしょうし。しかし、これは……ちょっと待ちなさい。急いでラボに戻って解析しましょう。

 

 

 何よこれ、ルーンはまだいいわ。でも、素材のペンダントそのものが自然にできた鉱物じゃないわ。錬金術で作られた物ね。錬金術……? なんでそんな物を彼女が持っているの? これは急いでデータを取り寄せるしかないわね

 

「了子さん、今日の響さんの記録です」

「ええ、ありがとう」

 

 連絡をすれば緒川君がすぐに渡してくれた。早速確認する。コーヒーを飲みながら、映像を確認するが、なんの問題もない普通の少女。ルーン魔術だけでも異常なのに錬金術まで精通している? いえ、それはないわね。ん、朝方、誰かに電話している? 通信記録をハッキングして……欧州?

 

「待ちなさい。待ちなさいよ。確か、欧州で世界を分解しようとする動きがあったわね。まさか、まさか……」

 

 急いで立花響の来歴を調べる。すると欧州を中心に活動しているのがわかった。それも例の連中と接触している形跡がある。でも、連中の動きはちゃんと掴んでいた。まだしばらくは問題なかったはず。潰すのに時間は数十年単位で十分に……いえ、立花響と協力すれば……まずい。すぐに世界中のレイラインを調べる。するとある一ヶ所に力が集中しているのがわかった。

 

 このエネルギーの量は巨大な建造物。調べれば調べるほど私が掴んでいた情報がダミーだと思い知らされた。数十年、数百年におよぶ連中の本当の計画が明らかになってくる。

 

 やばいやばい! ふざけるんじゃないわよ、コイツら!

 

 こんな計画、認められるもんですか! 世界を分解するなんて私が望んでいるものじゃない! バラルの呪詛を解くどころか! あの方との思い出があるこの世界が消滅してしまう! 私はあくまでもこの世界でいきたいのだ。それを連中は全てをなかった事にして、作り直そうとしている。それこそ神の御業。また塔を作った時のような事が起こるかも知れない。

 

 しかし、それには必要な呪われた旋律を手に入れなければ……確か、立花響が運ばれた時、彼女の意識は何処かにいっていた。戻ると同時に彼女の身体に変化が起きている。まるで代償を支払ったかのように臓器がなくなって、聖遺物が修復していた。彼女はもしかして……いや、そんなはずは……いえ、あるじゃない。彼女はガングニールとスレイプニルの使い手、オーディン。なら、ミーミルの泉から知識を引き出しても不思議じゃない。ましてや代償を支払っている!

 

「しかし、油断はできないわね。もうこうなったら……」

「了子君、失礼する」

「弦十郎君」

「すまないな。拘束させてもらう。理由はわかるな?」

 

 彼の後ろから、クリスが顔を覗かせていた。

 

「そう。バレたのね。まあ、いいわ。むしろ、こちらから話しに行こうと思ったのだし」

「どういうことだよ!」

「了子君。では……」

「世界は何時だって待ってくれないのよ。私は私なりに世界を救い救済するつもりだった。でも、立花響はどうかわからないけれど、彼女と協力関係にあるかもしれない連中は世界そのものを消すつもりよ」

「なんだよそれは!」

「了子君、詳しく話してくれ」

「いいわ。でも、それは別の所に連絡を取ってからよ。現状、私達が用意できる戦力では連中の戦力に足りないわ。別の奏者を呼ぶわ」

「別の奏者が居るのか?」

「ええ。アメリカにね」

「やはりアメリカとも内通していたのか。しかし、それほどに危険なことをしようとしているのは事実なんだな」

「そうよ。だからこそ、協力すべきね」

「わかった。若者が道を間違えようとするなら、正すのは大人の役目だからな」

 

 世界は加速する。聖遺物と融合した立花響を中心に。

 

「しかし、響君に事情を聞くしかないな」

「そうね。これはあくまでも私の推測にすぎない。でも、錬金術師が世界を再構築しようとしているのは本当よ。これを見て」

 

 私は皆に説明している。そんな時、警報が鳴り響いた。

 

『火災発生! 被害は右側に移動中。ノイズに似た反応を確認しています! 至急、奏者に出動要請を!』

「わかった。響君に出動要請をだせ」

「クリスもいきなさい」

「わかった。それが平和に繋がるなら……やってやるよ」

「それじゃあ、そっちは頼むわ。私は連絡をいれるから。危なくなったら私もネフシュタンの鎧で出るから、連絡してちょうだい」

「了解した」

 

 さて、F.I.S.にはガングニールとシュルシュガナ、イガリマの三人。この三人にクリスと翼ちゃん。そして、私と弦十郎君、緒川君。これだけでもまだ足りないかも知れないわね。そうなるともう一人くらいは奏者が欲しくなるわ……そうね。とっておきがいるじゃない。立花響に対するカウンター装置とすればいい。この世界を解体なんて、絶対にさせないわ。

 

「悪者が悪者をしないとか、ダメだぞ」

「っ!? ごふっ!?」

 

 私の腹から鉤爪が生えていた。周りが赤く染まり、腕が引き抜かれる。床に倒れた私が見たものは、赤い髪の自動人形。

 

「要らない役者は退場ダ。役から外れた邪魔者は排除するんだな」

「ミカ、帰りますよ。欲しい物は手に入れましたから、さっさと逃げるのよ」

 

 置かれていたネフシュタンの鎧とソロモンの杖を持ったゴスロリ風の容姿をした、青を基調とした自動人形。

 

「了解ダ」

 

 転移していった奴等を見送ってから、空いた穴を手で押さえながら必死にコンソールを操作する。

 

『はい。こちら、F.I.S.』

「おひさし、ぶりね……」

『あなた、その怪我は……』

「いいから、データを、おく、る……急いで、日本に……彼女、達を……」

 

 叩き付けるように送信ボタンを叩く。最後の力を振り絞った私はそのまま崩れていく。通信先から声が聞こえてくるが、もうほとんど聞こえない。血を流し過ぎている。

 

「……ふぅ……」

 

 このまま一人でまた死ぬのかと思ったら、扉が開けられ弦十郎君が入ってきた。

 

「嫌な予感がしたんだ。あまりにも襲撃のタイミングが良すぎると」

「……そ、う……」

 

 抱き上げてくれる弦十郎君の唇を読んで答える。

 

「……こ、の……世界、たの……よ……」

「ああ、任せろ」

 

 涙を流している弦十郎君の目元を指で擦って倒れる。意識が闇に飲まれ、新たにフィーネとして再誕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー。計画は順調かな?」

「当然だ。邪魔者は始末した」

 

 私、立花響は未来と一緒にお好み焼き屋フラワーから公園にきて、休憩している。今、未来がおトイレにいっているので、私がベンチに座ってジュースを飲んでいる。その背後にある自販機でジュースを飲んでいる金髪の少女。

 

「そっかー。旋律とバックドアを用意した甲斐があるよ。よくやったね」

「お膳立てがされていたんだ。この程度は容易い。しかし、本当によかったのか?」

「何が?」

「世界を再構築すれば、皆が消える。大切な知り合いも居たのだろう?」

「知り合い? 前の私ならともかく、今の私に大切な知り合いなんていないよ」

 

 公衆トイレの方で未来が手を振っている。私も手を振り返す。

 

「立花響」

「違うよ。立花響はすでに死んでいるんだから。ここにいるのはただの残滓」

「そうか。予定通りに行う。どうせ私達は過去を取り戻すことを願う者達だ。お前はお前で好きに動くがいい立花響、いや、オーディン」

「うん。じゃあね、キャロル。次は戦場で全力で後悔のないように歌をおう」

 

 肩の上から後ろに向けた缶が缶とぶつかり、軽い音を鳴らす。そのまま後は最後まで飲み乾してからゴミ箱に入れて未来のもとへと向かう。

 

「お待たせ、響」

「帰ろっか」

「電話、なってるよ? でないの?」

「ちょっとまってね」

「うん」

 

 帰ろうとすると電話が鳴った。しかたないので出る。

 

『響さん。すぐに現場に向かってください! リディアン音楽院が襲撃を受けています』

「はい、わかりました」

「どうしたの?」

「ちょっといかなきゃ。ごめんね、未来」

「響?」

 

 振り向くとそこにはすでに私はいない。風が吹く音だけが残る。

 

「帰って、くるよね……?」

 

 

 

 

 

 

 


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