壊れた黒い立花響   作:ヴィヴィオ

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第6話

 

 

 

 

「皆さんこんばんは。私、立花響は現在戦場リポーターとして走行中の車に乗っております!」

 

 車が左に避けるとマンホールが破裂して、中から大量の水が出てくる。

 

「見てください。ノイズの襲撃です! はたしてノイズの狙いはなんなのか! お送りは私、立花響と腹黒いで評判の了子さんでお送り致します!」

「腹黒くないから!」

 

 運転席で車を走らせて、ノイズの攻撃から避ける避ける。いやー楽しいカーチェイスだね。ドライブテクニックも凄い。前後左右を自由自在に動いてるよ。

 

「というか、随分と余裕ね」

「だって、殺る気がないようですし。それにぶっちゃけ、車より私が走った方が速いですし」

「まじで?」

「私の速度は亜光速です!」

「化け物じゃない」

 

 実際はもっと速いよ? というか、転移できちゃうし。

 

「しっかし、デュランダルを輸送中にピンポイントで狙ってくるとか、酷い漏洩具合ですよね。大丈夫か、二課」

「本当にそうよね」

「まったくですよ」

 

 私が大事に抱え持っているケース。ここに完全聖遺物であるデュランダルが入っている。デュランダルといえば竜殺しの魔剣だよ。とっても美味しそう。食べちゃいたい。でも、食べたら怒られるよね。だったら、ちょっと細工しておこう。バレなきゃ犯罪じゃない。という訳で、響さんはこそこそとデュランダルを手に入れる算段を行うよ。

 

『二人共、予定を変更だ。薬品工場の方へ行ってくれ』

「ちょっとっ、正気?」

『敵にバレていたんだ。だったら、予想外の所に行って相手の出方を封じる。響君、頼む』

「了解だよ!」

「ちょっとっ!?」

 

 急速走行中の車からドアを開けて飛び出す。地面に着地する瞬間に完全聖遺物であるスレイプニルを起動して着地する。すると、直ぐに地面から巨大ノイズが出現して私を捕らえようとしてくる。

 

「邪魔だよ」

 

 足を地面に叩きつけて、広範囲を陥没させてノイズを殲滅する。我が身はそのほぼ全てが聖遺物の兵器だ。故にノイズなどおそるるに足らず。ついでに踏み砕いた衝撃と砂塵を利用して一気に加速して、空からも誰からも見えない場所に隠れる。こっそりとやる事をやってから、薬品工場へと向かった。

 

『響君、無事か!』

「ちゃんと到着したよ、隊長~」

『うむ。こちらでも確認できた。しかし、姿が一瞬見えなかったが?』

「それはそっちが追い付いてなかっただけだよ」

『ケースが開けられた反応が一瞬だけあったのだが……』

「ごめんなさい、ちょっと落としちゃった。中身は無事だよ。ほら」

 

 ケースを開けて、中を見せてあげる。

 

『確かにそのようだ……響君っ!?』

「ん?」

 

 隊長の声が聞こえた瞬間、私の腕をネフシュタンの鎧の鎖が巻き付いた。ケースには別の物が巻き付いている。

 

「貰ったぞ!」

「うん、凄いね。でも、甘い」

 

 片手を回して、鎖を掴んで逆に引っ張って地面に何度も何度もぶつけてあげる。

 

「私の怪力、舐めたら駄目だよ? なんてったって怪獣少女響ちゃんだからね! がおぉー!」

「ふざけんな! ぐはっ!?」

 

 地面に思いっきり叩き付け、陥没させた女の子の頭をスレイプニルで踏みつけて固定する。ついでに封印のルーンも使ってシンフォギアやネフシュタンの鎧の効果を短時間だけ封じる。そんな事をしながら戦いの余波で空を飛んでいたケースを見上げると、蓋が空いていた。

 

「わっと」

 

 中から零れ落ちたデュランダルを掴むと、身体中の血液が沸騰したかのように熱くなって、ドクンッと心臓が動き出して私の身体から膨大なフォニックゲインが発生する。デュランダルはフォニックゲインを吸収して錆びを弾き飛ばして綺麗なその身を曝した。膨大な力の奔流は空へと柱を作り出し、私の心の中へと侵蝕してくる。デュランダルは私を乗っ取ろうとしてきている。

 

「五月蠅いっ、駄剣が! 私に従えっ!」

 

 叫びながら、全ての力を出し切って制圧にかかる。でも、おかしな事に私であって私でない別の誰かの記憶が流れ込んで来る。ミーミルの泉を飲み過ぎていろんな世界と繋がったからかも知れない。その少女も不幸を背負って生きて、最後には若くして皆に見送られつつ息を引き取った。これが良い人生? ふざけるな! なんで別の私も不幸にばかりならなきゃならなくちゃいけないんだ! 私は疫病神に憑かれているのか! もしくは私自身が疫病神だとでも言いたいのか!

 

「……絶対に……やる……」

「おっ、おいっ!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 雄叫びをあげながら、力を解放すると勝手にシンフォギアを身に纏っていた。問題は別の形に変化していた。黒いブレストアーマーに肩を露出させた黒いハイレグのアンダーウェアと紺色のアームカバー。下は切れ目が入ったスカート。赤い布のような物で止めている。更には髪が長くなっている。ヘアバンドは前からあるので気にしない。その姿は私に流れ込んで来た別の私の姿に似ている。確かにあの子は剣士だったけれど。でも、響さん的には露出が多いと思うんだよね。肩とか、足とか、脇とか、水着よりはましだけど似たようなものだよね。

 

「ふう。さて、それじゃあ……試してみようか」

「おい、馬鹿やめろ!」

 

 頭を足で押さえつけている女の子にニヤリと笑いながら、覚醒したデュランダルを切先を下にして降ろす。

 

「ばいばい。機会があればまた来世で」

『待つんだ! 彼女は確保してくれ!』

 

 耳に取り付けたインカムから、隊長の声が首を切断しようとする前に聞こえたので止める。切先が少し食い込んだけど、まあ、いいよね。

 

「捕虜にしろって。良かったね」

「ふっ、ふざけんな! 捕虜にされるぐらいなら殺せ!」

 

 あれ、これってもしかして、あれに素晴らしいシチュエーション?

 

「い・や・だ。そんな屈辱に塗れた顔をされると、響さんは拒否したくなっちゃった。これから頭や身体を弄られて、いっぱい凌辱されて犯されるといいよ」

「くそっ、殺せっ、ころせぇぇぇぇぇっ!!」

『いや、そんな事はしないから』

「てへ」

 

 くっころ頂きました。さぁ、皆さんもご一緒にくっころ、くっころ。あれ、何を言っているんだろ? おかしいな。響さん、ちょっと電波を受信しちゃった。取り敢えず、デュランダルを直そう。

 剣を四回くらい振ってから、鞘に戻す。やっぱり、この剣は大きい。それに鞘が無い。そうだ。良い事を思い付いた。デュランダルを持っと細身にして、鞘をガングニールにしよう。そうしたら、ガングニールも拗ねる事はないだろうし。なんか、アーッって声が聞こえてきそうだから、止めてあげよう。でも、デュランダルは大きさを変化できたようなので、御願いしたら二つに分かれて剣と鞘になってくれた。片手剣と槍の二刀流か。なんか、変な感じだね。まるでジャンヌ・ダルクだよ。計画が狂ったけどまあ、いいか。

 

「さて、それじゃあ待つまで暇だから解体作業でもしようか」

「ひっ!?」

 

 デュランダルは仕舞って、ガングニールの矛先でネフシュタンの鎧を剥ぎ取っていく。二課の皆さんが来た頃には裸に剥かれて鎖で大事な部分を拘束されて泣いている女の子と、ネフシュタンの鎧を着ている私が居た。

 

「響君……」

「ちゃんと捕まえたし、ネフシュタンの鎧も回収したよ」

「デュランダルは?」

「あれ? アレは貰う事にしたよ。それが協力する報酬だね。お願いを聞いてくれるって約束したしね」

「それは……」

「それにもう、私以外には使えなくしちゃったから無駄だよ。それとも、約束を守らない?」

「いや、いいだろう。代わりにネフシュタンの鎧は渡してくれ」

「いいよ。ついでにこれもあげる」

「シンフォギアだと……」

 

 了子さんの方を見ると、何か物凄く睨んできたのでブイサインをしておく。響ちゃんは煽っていくスタイルなのだ、えっへん。

 

 

 

 

 

 さて、無事に一仕事を終えて予定外にデュランダルを手に入れた私は制服を着てリディアン音楽院に来ている。というのも転入が簡単に終わったからだ。まあ、二課や政府からしたら完全聖遺物を複数持つ私の監視の意味もあるのだろう。

 

「それでは立花響さん、挨拶をお願いね」

「立花響です。二年前までは日本で住んでいましたが、今まで海外を転々としていました。後は何が要りました?」

「好きな事と嫌いな事ね」

「好きな事は修行と遺跡探索。あと、修行の成果を感じる戦い。嫌いな事は人とノイズです」

 

 私の言葉に皆が騒然とする。でも、気にしない。

 

「そ、それでは質問は?」

「はい。海外ではどこに居たんですか?」

「色々と。基本的には戦場や古代遺跡が有る場所を転々としていましたので、85ヵ国ぐらいかな」

「せ、戦場?」

「そう、戦場。銃弾と硝煙と血の臭いが蔓延る場所です」

 

 騒然とする中、私は空いている席に座ってさっさと教科書を読んでいく。音楽院なだけあって音楽史や演奏の技術など、沢山ある。私には足りない技術ばかり。歌が力になるなんて知らなかったから、勉強はしていない。でも、シンフォギアの力を引き出すには必要な事だろう。前は勉強が嫌いだったけれど、今の私はオーディンの瞳と融合しているせいか、知識の吸収効率が非常にいい。だから、読むだけで理解できる。

 

「響?」

「どうしたの、未来」

「その、戦場って……」

「実際、行ってたよ。修行した力を試すのに丁度いいし、紛争地帯に目的の遺跡があった場合もあったし。むしろ、ゲリラが根城にしてた所もあったよ。まあ、襲い掛かってきたから爆弾とか狙撃とか、その他諸々で始末してあげたけど」

「大丈夫だったの?」

「平気平気。まあ、何度か死にかけたけどね」

「それ、平気じゃないから……」

 

 そう、私は死にかけた事が何度もある。でも、大けがをしたはずが気付いたら生き残って立っていたりする事も多い。シンフォギアの暴走機能のお蔭でね。

 

「それよりも後で学校を案内してよ」

「うん、わかった」

 

 それから、学校を案内して貰った。私にとっては未来だけは大事な親友だ。他の二人はなんていうか、友達だし。

 

 

 

 

 

 


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