壊れた黒い立花響   作:ヴィヴィオ

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第1話

 私、立花響は呪われている。二年前、コンサートに参加して大怪我を負った私は懸命にリハビリに励み、復帰した。しかし、私を待っていたのはコンサートで起こった事故、特異災害ノイズによって殺された人達の中で唯一生き残った私に対する迫害だった。家の壁に落書きされたり、石を投げられたりされた。中には直接的に暴言を吐いてくる人までいた。そして、お父さんはこの事から暴力的になり、何も言わずに家を出ていった。更に不幸は続き、ついには家が放火されてお母さんやおばあちゃんも死んでしまった。

 私は幼馴染である未来の家、小日向家に引き取られる事になった。それから少しして、私は小日向家を出た。私が居たら皆を不幸にしてしまうから。取り敢えず、パスポートを取って残された保険金の一部を置いて単身でヨーロッパへと渡った。ヨーロッパを選んだ理由? 世界地図に適当にダーツを投げて決めた。

 ヨーロッパの片田舎、それも山奥にある小さな村。私はそこで生活をするようになり、気の赴くままに山へと入って湖で魚を取って生活していた。その湖の中で不思議な丸い物を拾った。その不思議な丸い物は何故か、私の目の中に入ってきた。取り敢えず、その時は何もなかったのだけれど、夢で色々と見るようになった。その夢は不思議な場所を教えてくれた。そこで病弱な少女に出会って武術を色々と教えて貰った。病弱なのに何故か無茶苦茶強かった。

 師匠から免許皆伝を貰ってからは暇つぶしに夢のお告げに従って宝探しに出かけた。そうすると、不思議な物が色々と見つかった。それは全部、私の中に入っていった。それらを取り込むと、なんだか強くなれる気がしてきた。実際、身体能力は上がっている。だから、色々と修行してみた。私の身に掛かる不幸をねじ伏せ、粉砕する為に。治安の悪い所に出向いて、実際に戦ったりもした。何度か、不審者や変な人達と夢で見た場所で出会う時もあったんだよね。先に取られていたら、諦めるけれど襲って奪おうとしてきた人達は逆に潰させて貰った。

 そんな中、ある遺跡に入ると変な生物に襲われたら、気づいたら倒していた。ううん、食べていたというのが正しい。気持ち悪くなって吐いたけれど、そのまま食べた。食料がなかったから仕方ないよね。

 そんな生活をしていた私は日本に久しぶりに戻ってきた訳ですが、いきなりノイズに襲われている現場に遭遇しました。やはり、呪われている。ううん、日本が私にとっての鬼門?

 コンビニの中には炭素化した人間であろう物がある。道にも沢山ある。さて、どうしようかと悩んでいると、悲鳴が聞こえてきた。前の私なら、助けただろうけれど、今の私にとってはどうでもいい事だ。人の醜い部分を沢山見て来た私には、どうしても前みたいに助ける気が起きない。未来とおじさん、おばさん以外は死のうがどうなろうが、どうでもいい。そのはずなのに……私は小さな女の子を助けていた。

 

「お姉ちゃん……」

 

 フードを被っている私の顔を覗き込んで来る女の子。小さな子供はまだ穢れがない。なら、助けてもいいかな? そう思う事にした。

 

「大丈夫」

 

 彼女を抱き上げながら、足に力を込める。正確には履いている靴にだ。地面を蹴って、飛び上がる。壁を連続で蹴って屋上に移動した。ノイズは追ってきているけれど、私は相手の動きが良く見えて、感じられる。だから、簡単に避けられる。ノイズは触れたら終りだから、逃げる。でも、数が多くて靴の先がノイズに触れてしまった。すると、相手が炭素になってしまった。

 

「お姉ちゃん?」

「倒せた?」

 

 ニヤリと笑いながら、私は駆ける。生身で触れては駄目だろうから、靴でのみ倒す。

 

「あはっ、あははははははははっ!」

「ひぃっ!?」

 

 邪魔になってきた女の子を隅っこに置いて、私は狩りに入る。一応、守りながら狩りまくる。

 

「鬼に逢うては鬼を斬る。仏に逢うては仏を斬る。ツルギの理ここに在り」

 

 師匠に教えて貰った。言霊を放ち、自分自身をただの殺戮兵器へと変える。テンションが上がってくると、段々と心の中に何かが湧き出てくる。師匠と戦っている時もあったけれど、なんだろうか? 師匠の教えでは欲望の赴くままにやってしまえと教えて貰った。だったら、やってしまうのが正解だよね?

 

Balwisyall(バルウィシャル) Nescell(ネスケル) Gungnir(ガングニール) Sleipnir(スレイプニル)

 

 歌った瞬間、私の身体が変化した。内側から大量の機械が溢れ出し、ガントレットを作成。ブーツがグリーブへと変化した。色は黒色をメインにしていて、サブにオレンジ色だね。手には黒い大きな槍が握られている。うん、コスプレっぽいからパーカーとかに変えよう。そう思ったら変化した。

 

「う~ん、私、槍よりも拳なんだよね。師匠から教わったのって格闘技だから」

 

 そう言うと、どことなく槍がしゅんとした感じがして矛先が分かれて私の両手に宿った。

 

「使えない事もないけど」

 

 次の瞬間には槍は元に戻っていた。なにこれ、可愛い。

 

「よ~し、お姉さん、槍を遣っちゃうぞー!」

 

 張り切って一振りしてみる。槍さん、元気に光り輝いて斬撃を飛ばして回りを吹き飛ばした。回りの工場地帯諸共。お姉さん、びっくりだよ。槍さんが褒めて褒めてと光を点滅させている。

 

「よーしよーし。よくやったね! でも、今度は威力を一点集中しようか。勿体ないからね」

 

 槍さんが元気に返事をした気がしたら、ノイズが懲りずに襲い掛かって来た。ううん、女の子を狙うあたりちょっとは変えてきたのかな? 取り敢えず、女の子の前まで一瞬で戻る。目の前の大きなノイズが現れて攻撃をしてこようとする。反撃の一撃を決めようとしたらコスプレした変な人に斬られた。

 

「何をしている。惚けている場合……」

「私の獲物をとるなぁあぁぁぁぁっ!」

「なっ!?」

 

 取り敢えず、蹴り飛ばしてみた。すると、どこからともなく出現させた剣で防いぎながら吹き飛んだ。一応、それなりには戦えるみたい。

 

「何をする!」

「五月蠅い、コスプレ変質者め!」

「コスプレではない! ましてや変質者などと!」

「変質者はみんなそういうんだ! だいたい有名人のコスプレなんて、恥をし……」

「本人だ!」

「嘘だ! アーティストが踊って戦える訳ない!」

「それは……」

「お姉ちゃん達、危ない!」

 

 声が聞こえた瞬間、ノイズが殺到する。

 

「「邪魔っ!」」

 

 私達は同時に発して、回りのノイズを粉砕する。

 

「わぁ~すごい~」

「……先ずは邪魔者を排除するぞ」

「……まあ、いっか」

 

 先ずはノイズの殲滅を優先するとしようかな。いや、違うや。ここは女の子を抱えて逃げよう。面倒だし。

 

「えい」

「ちょっ、貴様っ!」

「さらばだよ、ニセモノ君。ノイズは任せた!」

「待てっ!」

「だが、断る! 待てと言われて待つ人はあんまりいないから!」

 

 靴の力を使って女の子を連れて逃げる。

 

 

 

 

 逃げた先で女の子を交番に届け、私はホテルに戻る事にする。次の日、朝食を終えて、外に出ると突然黒服に囲まれた。それに昨日のニセモノさんまで居る。

 

「えっと……」

「トレジャーハンターの立花響さんですね。ご同行願います」

「え、お断りします」

 

 やってる事が遺跡の発掘だから、トレジャーハンターって言われてるんだよね。でも、自分から名乗った事はないのに。

 

「それはできません」

「じゃあ、令状を見せてください」

「それは……」

「ないなら、断ります。力で来るなら、少女を拉致監禁しようとする不審者として正当防衛的な防衛を行います。被害がどうなろうと知りませんけど」

「貴様っ」

「私、間違った事を言ってません。ちゃんと年金支払ってますし、国民として当然の権利です。それにこれから用事が……」

「そうだね。用事があるよね、響。それもとっても大事な用事が」

「え?」

 

 肩を掴まれて、ギギギギと振り返るとそこに満面の黒い笑みを浮かべた未来が居た。

 

「家族に釈明するって用事がね」

「ななななな、なんでここに未来が……」

「捜索依頼を出してたら、見つかったっていう知らせが来て慌ててきたんだよ?」

 

 今度は黒服の方をみると、いつの間にか赤い服を着た大きな男性が居た。

 

「いかんなぁ、未成年が保護者になんの連絡もせず二年も行方をくらませたら。それはもう、心配されるだろう」

「はかったな! 目的は未来が来るまでの足止め!」

「拒否される可能性は大きかったのでな。関係者を呼んだまでだ。それに令状と言ったな。いいだろう、直ぐに取って来てやろうじゃないか。何せ、君には私有地に対する不法侵入や器物破損、古代遺産の窃盗、暴行などの嫌疑が掛けられているからな」

「デスヨネー。デモ、セイトウボウエイダヨ?」

「過剰防衛の間違いだろう」

「銃を使われたんだから、問題ないですよーだ」

「まあ、その辺はどうでもいいさ。我々は君が持っている物に興味があるのだ」

「どっちにしろ、お断りですよ~だ。行こう、未来。おばさん達にもお土産があるんだよ」

「すいません、お話は後日にしてください。お父さん達も待っていますので」

「うむ。送って行こうじゃないか」

「ありがとうございます」

「いや、いいです。自前でどうとでもなるんで」

「え? ちょっと響!?」

 

 未来をお姫様抱っこして、さっさと逃げる。車なんて乗せられたら、何処に連れていかれるかわかったもんじゃないし。だから、家まで逃げた。未来達とお話したら、さっさと逃げるんだ。そう思ってたんだけど、家に着いて中に入った瞬間、手錠がされました。私と未来の手に。

 

「あの、未来さん?」

「もう逃がさないよ、響」

「怖い、怖いから!」

 

 未来からは逃げられなかった。結局、一緒に寝て、何をするにも一緒だった。そしたら、赤い人、風鳴弦十郎という人と櫻井了子という人がやって来た。

 

「協力して欲しい」

「やだ」

「せめて、メディカルチェックとか……」

「やだ。胡散臭いし」

「う、胡散臭いっ!?」

「腹に黒い一物とかいっぱい持ってそうだし。そういう人、いっぱい見て来たから」

「なんですって!」

「だが、いいのか?」

「危険だと言うんでしょう? 構いませんよ。襲われたら背後の組織ごと叩き潰してやります。未来達を傷つけるなら……容赦は一切しません。例え無関係の一般人が巻き込まれようが、知った事じゃありません。もしも人質を取るような事をすれば……その時はその時ですね」

「響?」

「ごめんね、未来。私は日本政府も大っ嫌いだから。私にとって未来達以外、心底どうでもいいんだよ」

「響君の事は調べさせて貰った。すまないと思っている」

「別に謝らなくてもいいよ。お母さん達は帰ってこないんだから。ああ、そうだ。忘れてた。日本で一番やらなきゃいけない事があったんだ……お母さんとお婆ちゃんの……」

「響、部屋でやすも。ほら……」

「うん……」

「私達はおいとましよう」

「そうね」

 

 未来に連れられて部屋で一緒に眠った。久しぶりに幸せな夢を見れた気がした。ノイズに襲われるまでは。

 

 

 

 

 

 


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