四葉家の死神   作:The sleeper

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 この二次小説でのダブルセブン編は、いきなり七宝の董夜達への顔合わせから始まります。
 描写されていない部分を説明しますと、
 一、董夜は北山家のホームパーティーに参加していません。
 二、小和村真紀について、達也は現段階では董夜に報告していません。
 三、桜井水波は董夜への挨拶を済ませています。

 これまでも、そしてこれからにも言える事ですが、拙作で描写がカットされている部分は基本的に原作と同じと思っていただいて構いません。
 作者の怠慢を嘲笑ってください。


 ちなみに新生徒会メンバーは

会長、 中条あずさ
副会長、四葉董夜・司波深雪
会計、 五十里啓・司波達也
書記、 光井ほのか・(七草泉美)

です。
これから先も、今まで通り原作からは余り乖離させない方針でいきます。

 ちなみに今話では董夜がやたら先輩風を吹かせますが、董夜の七宝と泉美香澄に対するスタンスを表しているので、我慢してください!


ダブルセブン編
74話


 

 

 

 

 

 

 

 

「もうそろそろ今年度の新入生総代の子が来ますよ」

 

 

 生徒会室で執務に当たっていたメンバーに、会長のあずさが声をかけた。室内には、昨年度まではいなかった新書記のほのか。そして今年度から新設された【魔法工学科】に転科し、新会計になった達也が加わっている。

 

 

「七宝琢磨、でしたっけ?」

 

「はい、なかなかやる気のありそうな子ですよ」

 

 

 あずさの言葉に、特別な反応を示す者はいなかった。ただ董夜が名前を確認しただけで、昨日から発足した新生徒会は黙々と執務をこなしている。

 ちょうどその時だった。

 

 

『一年A組の七宝琢磨です。』

 

 

 生徒会室のインターホンがなり。男の声が流れた。

 ドアから一番近くに座っているほのかが立ち上がって、ドアの開錠操作をした。

 

 

「失礼します」

 

「紹介します。今年度の新入生総代を務めてくれる七宝琢磨くんです」

 

 

 入室してきた七宝は、室内にいた董夜を見つけると、その顔をじっと見つめた。その表情には興味ではなく、ライバル意識のような敵対心が見て取れた。

 そして、あずさに紹介されると、七宝はペコリと一礼した。その態度は新入生としてはまずまず尋常なものだったが、その印象は五十里とほのかに続いて達也が自己紹介をしたところで一変した。

 

 

「会計の司波達也です。よろしく、七宝君」

 

「七宝、琢磨です。よろしくお願いします」

 

「……七宝くん?」

 

 

 七宝は達也の顔ではなく左胸を見ていた。あずさがそっと声を掛けると、七宝はハッとした表情の後、ばつの悪そうな愛想笑いを浮かべた。

 

 

「すみません、司波先輩が着けている歯車のエンブレムに見覚えが無かったものですから」

 

「ああ、なるほど。今年から新設された魔法工学科のエンブレムなんですよ」

 

「そうでしたか」

 

 

 琢磨は意図したものかそうでないのか、興味がないというぞんざいな素振りで相槌を打った。

 達也はそれを不愉快とは思わなかった。だがそれは、深雪にとって見過ごせない出来事だった。尊大な表情、不遜な目つき。自分が格上である事を根拠もなく信じ、相手を故無く見下す。深雪にはそう感じられた。深雪の横では、ほのかも似たような雰囲気で琢磨の事を睨んでいる。

 

 一方の七宝は、すぐに挨拶を続けるべく次の相手へ身体の向きを変えた。こんなところで騒ぎを起こすつもりは無かったし、そもそも七宝には自分が失礼な真似をしたという自覚が無かった。だから彼は特に心構えも無く、次の生徒会役員、つまり深雪へ目を向けた。

 

 その直後、たじろいだ顔を見せてしまったのは、七宝にとって屈辱だったに違いない。

 初見の七宝が平静を失ったとしても恥にならないプレッシャーを深雪が放っていたのだから。

 しかし七宝本人はそう思わなかった。悔しげな表情が、抑えきれず浮かび上がる。すぐに儀礼的な笑みを造ったが、客観的に見てあまり上手くいって無かった。

 

 

「副会長の司波深雪です」

 

「………七宝琢磨です。よろしくお願いします」

 

 

 その冷たい表情に相応しく、深雪が口にした自己紹介のセリフはこれだけだった。

 七宝の声が少し震えていたのは、恐れではなく怒り故だった。彼は深雪に気圧されている自分に腹を立てていた。自分に対する怒りを他人に転嫁しないだけの自制心は保っていたが、元来七宝は気性の激しい少年だ。自分を抑える為に、彼は奥歯を噛み締めていた。いくら表情を取り作ろうとしても、隠せないほど強く。

 

 深雪と七宝、二人の態度は到底平和的と言えるものでは無かった。徐々に不穏の度を増す空気に、あずさがオロオロとしている。

 そんな時

 

 

「深雪」

 

 

 握手を終えた深雪に董夜がハッキリと声をかけた。その声には明らかな叱責が含まれており、自分の行いが間違っているとは思っていない深雪が驚いた顔で董夜を見た。

 

 

「進級し、もう二年に上がったんだ。上級生として、そう大人気ないことをするもんじゃない」

 

 

 七宝の達也に対する感情を理解したうえで七宝の味方をした董夜に、深雪同様、七宝を睨んでいたほのかまで驚いた顔を向けた。

 

 七宝もその言葉を聞いて【四葉董夜】という人物に対して、拍子抜けしたような表情だったが、次の瞬間には一変した。

 

 

「総代とは言え新入生。この間まで()()()だったんだ。多少の礼を欠いたぐらいで事を荒立てるモノじゃない」

 

「ッ……!!」

 

 

 『子供の粗相ぐらい許してやれ』という董夜の意思を、室内にいた全員が感じ取った。

 七宝の顔が赤く染まり、もはや隠そうともせずに奥歯を噛み締めて董夜を睨みつけている。

 

 しかし

 

 

「同じく副会長の四葉董夜だ。よろしく七宝君」

 

「七宝………琢磨です」

 

 

 董夜と握手を交わした瞬間、七宝の董夜に対する敵意が引っ込んだ。

 別に董夜は深雪のようにプレッシャーを放っている訳でも、スンとした表情をしている訳でもない。誰が見ても好意的に微笑んでいる。

 

 

「(これが………四葉、董夜)」

 

 

 しかし、七宝は自分を見つめる董夜の目を見て。

 ()()()()の【世界最強の魔法師】と呼ばれる男が間近にいる事に、()()()()()『ビビってしまった』のだ。

 そんな自分に対する怒りが七宝の中に湧き出したが、そんな強気な心とは裏腹に、董夜に握られている手は明らかに震えている。

 

 

「ハハ、緊張してるのか?」

 

 

 そう言って笑う董夜に、七宝の心がさらに恥辱の類で埋め尽くされた。

 

 七宝とて馬鹿ではない、董夜の眼中に自分が写っていないことなど、察せられない筈はなかった。

 

 

 

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「おはようございます。あれ、俺が最後ですか」

 

「えぇ董夜さん。三分の遅刻です」

 

 

 四月八日、魔法大学付属第一高校入学式当日。

 先日、董夜に叱責されて拗ねているのか、深雪が董夜にやや冷たい態度を取ったが、それを董夜はスルーした。

 

 

「あれ、その子は新入生?」

 

「はい、四葉先輩。桜井水波です。いつも達也兄さまと深雪姉さまがお世話になっています。それに、ご高名はかねがね伺っております」

 

「そっか、よろしく桜井さん」

 

 

 もう既に挨拶は済ませている二人だが、四葉と司波の関係性に疑問を持たれないために、あえて初対面の体裁を取った。

 

 

「全員そろったようですから、まずは式次第を確認しましょうか」

 

「そうね、時間を無駄にする事もないわ」

 

「では、開会三十分前の配置から。来賓の誘導に董夜、放送室に深雪……」

 

 

 本来あずさの役目だが、達也は構わずリハーサル前の打ち合わせを進めた。水波がこの場にいる不自然さは、誰にも指摘されないまま忘れ去られた。

 

 

 

 

     ◇ ◇ ◇

 

 

 

「なぁ深雪、そんなに拗ねるなよ」

 

「別に拗ねていません」

 

 

 リハーサルも終わりに近づき、出番を終えた深雪に、董夜が話しかけた。しかし、深雪は明らかに頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

 

 

「七草家への対抗心から、七宝家は師補十八家の中でもとりわけ十師族の地位に執着が強い家だ。それにアイツは見る限り人一倍自己顕示欲が強い。こうなる事は予想できただろう」

 

「それでも、お兄様と董夜さんへの態度は見過ごせる物ではありませんでした」

 

 

 いつにも増して頑固な深雪に、董夜は小さくため息をついた。リハーサルもいよいよ終わろうとしている。

 

 

「アイツは自分より上の十師族であり、昨年の総代の俺をライバル視してる。これからも似たような事はあるだろう。そういう時にもっと余裕のある対応をしてもらわないと困る」

 

「…………分かりました」

 

 

 まだ納得は行っていないようだが、深雪は渋々折れたようだ。

 そんな時、ふと深雪と董夜が講堂の出口に目を向けると、ちょうど達也が新入生の誘導に行くところだった。

 

 

「アイツ一人で捌き切れるか分からないし、俺も行ってくる」

 

「あ、はい。行ってらっしゃいませ」

 

 

 

 急ぐ事なく、達也の後を追って講堂を出た董夜。近辺の状況を俯瞰しようと眼を使うと、とある少女が魔法を発動させているのが観えた。

 董夜は少し小走り気味に、眼の通りになるであろう場所へと向かった。

 

 

「お姉ちゃんを苛めるなー!」

 

 

 どうやら間に合ったようだ。

 目の前には達也と真由美がいた。そしてその二人、というより達也に向かって魔法を発動させながら突っ込んでいく香澄と、少し離れたところにいる泉美が見えた。

 

 

「あ、あれ?なんで魔法が………。」

 

 

 香澄の魔法を術式解体で吹き飛ばし。その体を達也が難なく受け止めた。

 そして、ゆっくりと香澄を地面に下ろした。

 

 

「香澄ちゃん、何やってるんです?」

 

「あっ、泉美……ちょっと早とちりでさ……」

 

「相変わらずおっちょこちょいですね、香澄ちゃんは」

 

「早とちりやおっちょこちょいで済む問題じゃありません!」

 

「ふにゃ!? 何するのさ、お姉ちゃん!」

 

 

 双子の間では笑い話で済みそうだったが、姉にとっては笑い話では済まなかったのだ。

 それを見ていた董夜は『彼女達の知り合い』として、さらに『この学校の生徒会役員』として注意するために、表情を変えた。

 

 

「香澄、自衛目的以外で魔法を発動させるのは、校則違反以前に犯罪だ。相手が達也だったからよかったものを、ゲガをしたらどうするつもりだったんだ」

 

「………と、董夜兄ぃ」

 

「董夜お兄様!」

 

 

 急に現れた董夜の厳しい視線に、香澄の体が揺れた。

 しかし、そんな香澄とは別に、泉美は董夜を見ると目を輝かせている。

 

 

「今回は魔法が発動する前に達也がかき消したから不問とするが、次から気をつけるように」

 

「はい、すみませんでした…………達也?もしかして司波達也?」

 

「先輩、でしょ! 初対面の相手に呼び捨てなんて、香澄ちゃん、貴女には再教育が必要な様ね」

 

「ちょっ!? お姉ちゃん、何でそんなに怒ってるのさー!」

 

 

 真由美と香澄が騒いでいる横で、泉美が達也に頭を下げた。

 

「姉二人が申し訳ありませんでした、司波先輩」

 

「いや、大丈夫だ」

 

 

 そして、そのまま泉美は董夜の元へと駆け寄った。嬉しさいっぱいの笑みをたたえて。

 

 

「董夜お兄様!お久しぶりです!」

 

「董夜兄ぃ!久しぶり!」

 

 

 そこへ真由美から逃げ出してきた香澄も加わった。先ほど叱責されたばかりにもかかわらず、いつも通りの香澄に、董夜は苦笑いを浮かべた。

 

 

「二人とも入学おめでとう。これからよろしく」

 

「はいっ!」

 

「うんっ!」

 

 

 そう言って二人の頭を撫でる董夜に、二人とも満面の笑みで答えた。その様子を真由美がどこか羨ましそうな目で見ている。

 

 

「それより二人とも、そろそろ講堂に行かないと座る場所が無くなるわよ」

 

「そうですわね、香澄ちゃん行きましょう。董夜お兄様、司波先輩失礼します」

 

「じゃーね!董夜兄ぃ!」

 

 

 人数分用意されている席がなくなることなどないのだが、真由美が双子を講堂に誘導した。

 

 

「では七草先輩、俺は見回りに戻るので」

 

「えぇ、お疲れ様達也くん」

 

「俺もすぐ戻る」

 

 

 達也も双子に続いて立ち去り、董夜と真由美だけが残される。

 

 

「ふふっ、董夜くんが先輩やってると、何だか新鮮ね」

 

「揶揄わないでください」

 

「ところで、この格好、どうかな?」

 

 

 その場で一回転し、私服姿の自分をアピールする真由美に、董夜が笑って答えた。だが、その答えは真由美の望んだものではなかったが。

 

 

「お似合いですよ。凄く大人びていて、まるで別人のようです」

 

「そう、ありがとう……って、別人の『よう』ってどういう意味かな?」

 

「別に他意はありませんよ。俺は真由美さんの事を童顔だとか幼児体型だとか思ってませんし」

 

「はぁ、達也くんにも同じ事を言われたわ」

 

「おや、これは失礼」

 

 

 その後、多少の世間話を交わして、董夜も講堂へと戻った。

 

 

「董夜、お前七草の三女に『お兄様』と呼ばれてるのか」

 

「まぁね」

 

「俺とお揃い、だな」

 

「……………。」

 

 

 董夜は鳥肌が立った。




 実は私、【南海騒擾編】以降のお話を全く知りません。
 さらに、ダブルセブン編以降のお話は記憶が曖昧です。
 ………キッツ。


 七宝をボコボコにしたい。けど、十三塚の出番は奪いたくない。

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