四葉家の死神   作:The sleeper

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 二日連続で日間ランキングの一桁台に載るの初めてかもしれない。

 この小説の序盤は我ながら酷い出来だと思ってるから、てっきりもう日間ランキングには載らないものだと思ってました。

 董夜を原作の、どの展開に介入させ、どれには介入させないのか。今回のお話が、今までで一番迷いました。


71話 あとがき読んでください。

 

 

 

 

 学校ではその日の授業が全て終わり、部活動に勤しんだり、まっすぐ家に帰る生徒がちらほら出てきた頃、四葉董夜宅は本日二度目の外部からの侵入を許した。

 

 

「ご機嫌よう!董夜兄様!」

 

「ご機嫌よう、今日も元気だね」

 

 

 前触れはあったものの、リビングでとある資料を読んでいた董夜のそばに、突如として黒服姿の少女が現れた。

 満面の笑みの従姉妹に、董夜はさして驚いた様子もなく資料から顔を上げた。

 

 

「董夜兄様とご一緒できるなんて光栄ですわ」

 

「ありがとう。それにしても流石だね、全然気づかなかったよ」

 

「ご冗談を、まだ董夜兄様の眼を逃れるまでは達していませんわ」

 

 

 亜夜子が使っていた魔法、『擬似瞬間移動』は物体の慣性を消し、その周りに空気の繭を作り、さらにそれより一回り大きい真空のチューブを作って、その中を移動させる魔法である。

 チューブを作る工程で周囲の空気を押しのける気流が発生するため、移動先が事前に察知されてしまう欠点があるが、亜夜子の場合は押しのけられた空気の流れを『極致拡散』でコントロールしている為、気流は殆ど発生しない。

 

 『擬似』という言葉がついているが、事象改変範囲の広さが四葉随一の亜夜子が使うことによって『瞬間移動』と何ら遜色ない代物になっていた。

 

 

「お車の準備が整っておりますわ」

 

「浜松からご苦労様。俺の方からそっちに行ってもよかったのに…。」

 

「董夜兄様の手を煩わせるなんて、あり得ませんわ」

 

 

 そう言って、今度はちゃんと徒歩で玄関に向かう亜夜子の後を追って、董夜は座っていた椅子から腰を上げた。

 

 

 

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 達也が深雪とほのかと共にピクシーを連れて、青山霊園に向かっているころ、董夜と亜夜子も目的地に到着していた。

 

 

「大佐にあてがわれたにしては、普通のマンションですのね」

 

「あまり目立つわけにもいかないんだろ。行こう、亜夜子」

 

「はい」

 

 

 車が停車し、亜夜子が車内から近くの『外見は一般的な賃貸マンション』に目をやる。

 そして、董夜の言葉と同時に、亜夜子はブレスレット型のCADを起動させた。直後、董夜は自分と亜夜子の周りを、空気の繭が包むのを認識した。

 

 

「ハロー、ヨツバの代理人として来ました。バランス大佐と面会したい。」

 

 

 突如として現れた董夜と亜夜子に、そこにいた男が激しく動揺した。しかし、董夜の顔を見るなり、その動揺はさらに大きなものとなった。

 

 

「ッ……少々お待ちを」

 

「随分と察しがいいな、あの外国人。さぞかし有能だろう」

 

「引き入れますか?」

 

「ははっ、まさか」

 

 

 すこし離れたドアの中に男が消えていく。董夜たちはその後を追い、中にあるであろう人物の許可を待つことなく、取っ手を捻って中に入った。

 

 

「こんばんは、ミズ・バランス。二度目ですが、十師族が一、四葉家代理の四葉董夜と申します」

 

「付き添いの黒羽亜夜子です」

 

 

 董夜の顔を見たバランスが顔をしかめた。それもそうだろう、彼女はもう何度も董夜に煮湯を飲まされているのだから。

 

 

「改めて、USNA軍統合参謀本部大佐、ヴァージニア・バランスです。失礼ながら、ご用件は?」

 

「四葉家当主、四葉真夜の代理人として、本日はお願いに来ました」

 

「お願い、ですか?」

 

「はい。是非ともお聞き入れいただきたいお願いが」

 

「伺いましょう」

 

「ではお言葉に甘えて。ミズが手掛けている、我が国の魔法師に対する干渉を中止していただきたい」

 

「………」

 

 

 干渉と言う迄もなく彼女が指揮を執っている諜報戦、日本の非公開戦略級魔法師に関する調査とその確保、または無効化作戦のことだろう。しかし『中止せよ』という予想を超えた遠慮の無い要求に、バランスはすぐには反応出来なかった。

 

 

「ミズ・バランスにおかれましては、我が国の『十師族』というシステムがどのようなものであるか、ご存知でしょう。我々の当主、四葉真夜はあなた方の過剰な干渉を憂慮しています。貴国と我が国は同盟国ですから、このような事を火種にしたくはありません」

 

「……それは警告か? 手を引かねば火がつくという」

 

 

 董夜はバランスの質問に答えず、もう一度ニッコリと微笑んだ。それと同時に亜夜子も微笑んだ為、その不気味さは一層引き立った。

 

 

「ミズ、昨日は良くお休みになられましたか?」

 

「あれは貴様らか!?」

 

「はて、ミズのお顔の色があまりよろしくないご様子でしたので、僭越ながらご案じ申し上げただけですが」

 

 

 案じているといいながら、少しも心配そうな顔はしていない。二人は笑っている。全てを心得た、訳知り顔を隠そうともせずに。

 バランスの眉間のシワがどんどんと深くなっていく。

 

 

「ミズ・バランス、どうかお気を鎮めて。我々は、出来るならばミズと良好な関係を築きたいのだから」

 

「良好な関係だと?」

 

「我々、四葉の実力はミズもご存知の通りです。そして我々もミズの力は良く存じ上げています。ミズが今回の一件から手を引くよう指示していただければ、我々はミズ個人に対しての感謝を忘れません、と当主は申しています。今後もし機会がございましたなら、ミズのお力になれるでしょう、とも」

 

「(ヨツバに貸しが作れる、ということか)」

 

 

 バランスは葛藤を見せ、彼女の天秤は理性という名の欲望側に傾いた。にっこりと笑う悪魔の側に控えている、少女の形をした小悪魔が取りだした契約書に、バランスは署名したのだった。

 

 

 

 

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 二日後

 

 

 

ーーーーーと、いうわけだ」

 

「はぁ、青木にも困ったもんだな」

 

 

 土曜日ということもあって四時限目を終え、構内に残る生徒はまばらになってきた頃。

 とある空き教室で、董夜は達也から一昨日から先ほどまでの報告を受けていた。

 当然、防音には董夜が細心の注意を払っている。

 

 

「まぁ、母上もそういう事情なら3Hの管理は達也に任せて、手を引くだろ」

 

 

 つい先程、四葉家の使用人序列四位、資産管理を担当している青木が第一高校まで来て、達也にピクシーの取引を持ちかけたのだ。

 この事は深雪同様、董夜も聞かされてなかった為。大方、青木が序列を盾にして達也相手に横車を押し倒そうとしたのだろう。

 

 

「それで明日のパラサイト殲滅、董夜はどう動くつもりだ?」

 

 

 達也が董夜に報告した内容には、昨日達也の家にハッキングし一方的に情報提供していったレイモンド・S・クラークについても当然含まれていた。

 彼とフリズスキャルヴの話を聞いた時、董夜は『雛子との連絡を最小限にしていてよかった』と改めて思った。

 達也の正体を知っているあたり、董夜が雛子を送り込んだことも。当然レイモンドは把握しているだろう。

 

 

「何もしないよ」

 

「何も、か」

 

 

 董夜の答えは予想していたのか、達也は対して驚く事はしなかった。

 

 

「ここ最近、余りにも動きすぎた。これ以上、俺がでしゃばるのは得策とは言えない。USNAに送り込んでた雛子にも、今朝帰国の指示を出したし」

 

 

 董夜は十師族の次期当主候補であると同時に、この国の戦略級魔法師である。本来ならどこにいくにしても護衛を連れて居なくてはならないはずが、最近、家はもぬけの殻状態である。

 それに最近、董夜は真夜の不信感を買ってしまっている。これ以上、余計な事はしないに越した事はないだろう。

 

 

「あとは任せた」

 

「あぁ」

 

 

 達也の目を真っ直ぐ見つめる董夜に。達也は深く頷いた、もうこの二人の間に、不要な溝はないようだった。

 

 

 

 

 

    ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

『封印されたパラサイトを回収しなさい。この回収をもって、貴方の意図不明な行動について不問とします』

 

「かしこまりました」

 

 

 

 

 董夜は心の中で達也に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 今一度確認しますと、冷凍保存されていた真夜の卵子を使い。深夜が代理出産することで生まれてきたのが董夜。という設定になっています。

 何故か今まで一度も突っ込まれた事はありませんが『董夜の父親』についてお話しします。

 当然、董夜にも遺伝子上の父親にあたる人物は存在します。
 しかし、九島光宣くんのように。いや、それ以上に董夜には、今(2020年現在)のルール上、そして倫理上ありえない事情があります。

 董夜の父親は今まで一度も、名前すらこの小説には登場していません。この先、実際に登場する事もありません。
 ですが、めちゃくちゃ察しの良い方なら分かるかもしれません。

 ちなみに、董夜の本当の父親。つまり、彼の元となった精子が、一体誰のものであるか、真夜は知りません。恐らく、別の人物だと認識しています。しかし、董夜自身は自分の父親と母親を知っています。


 この『董夜出生の秘密』が日の目を見る事になるかどうかは分かりません。
 この設定は作者が「あぁ、これ以上この小説かけない!」とか、「もうそろそろ完結させようかな」と思った時に、都合よく使うための最終兵器です。

 『秘密』なんて言って大仰にしてはいますが、別にたいした設定ではありません。ちょっと考えれば思いつきそうなものです。

 ただ、僕はこの設定が好きです。




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