四葉家の死神   作:The sleeper

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前半と後半一緒にしようかと思ったんですけど、どうしても今日中に投稿したかったんで分けました笑


47話 オワビ 1

47話 オワビ

 

 

 

 

 

 

 

 

「グ……気が重い」

 

 

論文コンペが終わり、董夜が史上初である『戦略級魔法を二つ有する魔法師』となってから初の休日。ちなみに今回は祝日などがいろいろ重なり土日月の三連休である。

 

 

「行きたくない」

 

 

普通の学生なら『三連休』というだけで心が踊りそうなものだが。土曜日、最初の休日の朝。ベットから上体を起こした董夜の顔は憂鬱に染まっていた。

 

 

「今日が雛子で………明日が真由美さんで………最後が深雪か」

 

 

董夜の口から出たのは先の『横浜事変』にて、董夜が特に苦労をかけたと思われる女性三人。

雛子は土曜日に、真由美は日曜日に、深雪は月曜日に、それぞれ夕食に誘っているのだ。

 

深雪と雛子とはあの後に会っているために、互いの距離感はある程度改善されているものの。真由美とは董夜がビンタを食らって以来会っていないのだ。

 

 

「…………真由美さんのことは明日考えよう!とりあえず今日だな」

 

 

今日明日明後日と、それぞれ夕食を食べる店は変えており。忘れないようにそれぞれの店名と場所を記した手帳を閉じて、ようやく董夜はベットから立ち上がった。

 

 

「あ、董夜おはよう!ご飯できてるよ」

 

「ん、あぁ。ありがとう」

 

 

董夜が自分の部屋から出てリビングに出ると、キッチンにいたエプロン姿の雛子がおたまを持ったまま振り返った。

テーブルの上には暖かそうな朝食が並んでいる。

 

 

「今日は四葉が車を回してくれるらしいから。6時ごろに家を出よう」

 

「おっけぃ!じゃあそれまでに準備をしなきゃね」

 

 

余談だが、雛子は女子としてかなり可愛い部類に入っている。深雪には劣るものの、そんな女子がエプロン姿でキッチンに立っていれば大抵の男子はイチコロである。

 

(……………うまい)

 

まぁ、そんな事でイチコロされる董夜ではないのだが。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「これはどうでしょうか、お兄様」

 

「とても似合っているよ、深雪」

 

 

現在時刻は正午を少し回った頃。達也は深雪の買い物に付き合うためにショッピングモールに来ていた。

 

 

「もぅ。お兄様は、それしかおっしゃらないじゃないですか」

 

 

試着室から顔を出して、頬を膨らませている妹を見て達也は苦笑いを浮かべる。

昨日の夜『董夜さんから夕食に誘っていただいた!』と興奮気味に話していた深雪に、『それじゃあ明日服を買いに行こう、プレゼントするよ』と買い物に誘ったのは達也だった。

 

先の横浜事変で始めて人の命を奪った深雪のそばに居られなかったお詫びの意味もあってのことだ。

 

 

「(それにしても董夜のことだから、深雪の他にも少なくとも雛子と七草会長の事も誘っているだろうな)」

 

「どうかなさったんですか? お兄様」

 

「な、何でもないよ」

 

 

自分しか誘われていない、と思っている深雪がその事を知ったらどうなってしまうのか。考えるだけで悪寒がしてくる達也だった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「董夜ー!車来たよー」

 

 

午後六時。自室で着替えていた董夜に、リビングから雛子の声がかかる。他家との会食やパーティーなとで着る服を着た董夜が部屋から出ると、雛子も同様にパーティー用の服を着ていた。

 

 

「どう………………かな?」

 

「お、おう、似合ってるぞ」

 

 

下を向いて上目遣いでモジモジしながら聞いて来た雛子に、思わず董夜の心の中がざわつく。

 

 

「それじゃあ、いくか」

 

「うん!」

 

 

ちなみに董夜と雛子がこうやっておめかしをして出かけることは非常に稀である。そのため二人は何となくぎこちなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「あんなに買っていただいてありがとうございます」

 

「気にすることはないさ」

 

 

店で服を何着か達也に買ってもらった深雪は、そのまま荷物を家まで送り。自宅に帰るためにショッピングモールの出口まで歩いていた。

そこに、

 

 

「あれ?達也くんと深雪さん?」

 

「か、会長!?」

 

「それに、渡辺先輩まで」

 

 

今まさにショッピングモールを出ようとしていた深雪たちの前に現れたのは私服姿の真由美と摩利だった。

 

 

「会長たちはなぜこんなところに?」

 

「ちょっと明日用事があって服を買いに来たの。深雪さんは?」

 

 

ちなみに摩利は真由美の『明日の用事』が董夜とのディナーである事を知っている。そして達也同様『それが互いに知れたらめんどくさい事になる』という認識もある。

 

 

「私は明後日に用事がありまして、そのための服を買いに来ました」

 

 

二人の後ろでダラダラと汗を流している摩利と達也を置いて深雪と真由美の勘繰りあいは続く。

 

 

「み、深雪もうそろそろ行こう。会長も忙しいだろうし」

 

「お兄様?」

 

 

深雪の背中を軽く押す達也に深雪は首を傾げたが、達也はそんな事を気にせずに摩利にアイコンタクトを送る。

 

 

「そんな事ないわよ達也くn「そ、そろそろお腹も空いて来たし、そこでご飯でも食べないか?!」ま、まぁ、いいけど」

 

 

摩利の勢いに押されて真由美は近くの飲食店に入っていった。

 

 

「俺たちも行こう。お腹も空いて来たし」

 

「はい!お兄様!」

 

 

達也は深雪を連れて歩きながら、既に姿の見えない摩利にガッツポーズを心の中で送った。何の偶然か、飲食店の中でも摩利が達也にガッツポーズを送っていた。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「董夜様、到着しました」

 

 

運転手の無機質な声に董夜と雛子の会話が止まる。最初こそ無言だった二人も互いに「らしくないな」と感じたのか後半はいつも通りに会話をしていた。

 

 

「ありがとう、お疲れ様」

 

「運転ご苦労様です」

 

「滅相もございません」

 

 

後部座席のドアを開けて待機している運転手に董夜と雛子が礼を言うと、運転手は恭しく頭を下げた。

そして董夜は雛子の手を取り、店の中までエスコートしていった。

 

 

「中華のお店なんだね」

 

「ああ、結構美味しいぞ」

 

「お待ちしておりました、四葉董夜様。こちらへどうぞ」

 

 

店に入ると店員が現れ、董夜たちを店の一番奥の部屋へと案内した。

ちなみにこの店は政府要人や芸能人などがお忍びでよく訪れら事があり。プライバシーの機密管理は都内と言わず国内随一である。

そして、董夜たちが案内された部屋は、この店の中でも他の部屋とは隔絶されているVIPルームだった。

 

 

「うわー、すごいところだねー。董夜はこういう所によく来るの?」

 

「いや、四葉のスポンサーとの会食の時は来たりするけど、普段は来ないな」

 

 

部屋全体が醸し出す高級感に雛子が少々瞠目し問いかけた問いに董夜は苦笑して答えた。部屋の中は中華のお店らしく装飾されており。かなり豪奢にできていた。

 

 

「それに雛子と二人で暮らし始めてから、下手に外で食べるより家で食べる方が美味しくなったからな」

 

「董夜……………………!!」

 

 

董夜の言葉に、雛子が年相応の女の子の笑顔を浮かべたところで、ちょうど董夜が事前に注文していた料理の数々が運ばれて来た

 

 

「うわーーー!おいしそーだね!」

 

「ああ、それじゃ」

 

「「いただきます!」」

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ふぃーーー!美味しかったねー!」

 

「ああ、もう食べれないな」

 

 

最後のデザートを食べ終わり、お茶を飲んで一服していた二人だったが。突然、董夜が真剣な顔に変わり、それに気づいた雛子の顔も引き締まる。

 

 

「今回は………………迷惑をかけたな」

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

 

そう言ってお互いに頭を下げる。そして顔を上げた時には既に二人は笑顔だった。

 

 

「これから大変になると思うけど、よろしくな」

 

 

董夜の魔法が二つ目の戦略級魔法として認定され。いまや董夜を求めて連日マスコミが第一高校前に押し寄せている。それを何とか躱している董夜だが、それに付き添う雛子も何かと大変なのだ。

そして、董夜の言葉に雛子は満面の笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 

「 うんっ! 」

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

翌日

 

 

「 ほら董夜! そろそろ出発の時間だよ!」

 

「やだーやだー! 行きたくねぇ!」

 

 

現在は午後の三時。

今日は董夜が真由美を夕食に誘っている日である。

そして董夜が真由美を七草邸まで迎えに行く手はずになっている為。三時半には家を出発しなければいけないのだがが……………………。

 

 

「もう! いつまでビビってんの!」

 

「べ、別にビビってるわけじゃ」

 

 

現在董夜は自室で布団に丸まっており、雛子が布団の端を引っ張っても頑なにベットから出ようとしない。

そして雛子は最後の手段へと移行するべく懐から携帯電話を取り出し、とある人物に電話をかけた。

 

 

「………………もしもし深雪?」

 

 

雛子の口から出た言葉に、布団どころかベット全体がガタッと揺れた。

 

 

「実は董夜この後、さe「チョットォォォォォォォォォ!!!」 ウルサイな」

 

『え?ど、どうしたの雛子?!』

 

 

雛子が『七草真由美さん』と言い終わる前に布団から飛び出した董夜が、雛子から携帯を奪い取って、携帯の向こうの深雪に『なんでもない! 明日楽しみにしてろヨ☆』とだけ言って切った。

そしてその隙に雛子が布団をもぎとって、部屋から出て行く。

 

 

「クソ、やられた」

 

 

実は董夜は深雪を夕食に誘った際に『私の他に誰かを誘いましたか?』と聞かれて『い、いや?さ、誘ってないぞ?』と答えている。そして真由美とも同じような問答をしており、今更白状できないのだ。

そして昨日と同様の服(クリーニング済み)に着替えてリビングに降りると雛子が呆れ顔でコーヒーを用意して待っていた。

 

 

「もお! ビンタ一つで何クヨクヨしてんの!」

 

「いや、あれから一回も会ってないんだぞ?」

 

「そういえば七草弘一には会うの?」

 

「いや、あの人は今日スポンサーとの会食d………てかこれ調べたのお前じゃん」

 

 

言い訳なんぞ聞かん、とばかりにスルーをする雛子に董夜はコーヒーを飲んで一息つきながら答える。

 

 

「話題を変えてあげたの、感謝してね」

 

「いや、大して変わってなくないか?」

 

 

そうして董夜が肩を落として、コーヒーを飲み終わった頃。ちょうど表に車のエンジン音が聞こえ、董夜の携帯に到着を入らせるメールが届く。

 

 

「そんじゃ、言ってくる」

 

「ほいほい、もう一発食らってこい」

 

「いや、マジでそれは勘弁」

 

「いってらっしゃい」

 

「……………いってきます」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「董夜様、まもなく到着いたします」

 

 

昨日と同じ運転手の声にいよいよ董夜の心が引き締まっていく。意味もないのに携帯を見て(雛子にセットしてもらった)髪をいじり、襟を正す。

そしてついに七草邸に到着した。

運転手に扉を開けてもらい董夜が降りると玄関前には真由美が既に待っており、その後ろでは泉美と香澄や使用人らしき人がいた。

 

 

「お、お待たせしましたか?真由美さん」

 

「い、いいえ?時間ぴったりよ董夜くん」

 

 

お互いの脳内で先日のビンタがフラッシュバックし、若干気まずくなる。

そしてそんな事をしる由もない泉美と香澄は、嬉しそうな顔で董夜に駆け寄った。

 

 

「董夜兄さま! とてもお似合いです!」

 

「カッコいいよ! 董夜兄ぃ! 」

 

「あ、あはは。ありがとう」

 

「四葉董夜様」

 

 

泉美と香澄の言葉をから笑いと共に答えた董夜に、真由美の後ろに控えていた黒服の人物が話しかけた。

 

 

「七草真由美様のボディーガードを務めております、名倉三郎と申します」

 

「どうも」

 

 

ボディーガードが本来自己紹介をすることなど無い。つまり、なにか他に重要な用があるのだろう

それに董夜にとって、名倉が【七倉(なくら)】の『数字落ち(エクストラ)』であり。七草家に置いて、ただのボディーガードで無いことは雛子の調べで判明済みである。

 

 

「本日は弘一様がご不在で、挨拶ができずに申し訳ございません。当主に変わってお詫び申し上げます」

 

 

『不在なのは知ってます』などどは言えない董夜は、お構いなく、とだけ言って名倉を視界から外した。

 

 

 

「それじゃあ行きましょうか真由美さん」

 

「…!、ありがとう」

 

 

降りた時とは違い、董夜自身が真由美の為に車の扉を開ける。そして真由美は少し恥ずかしがりながら車に乗り込む。

そんな二人の姿に香澄は「うわぁ!」と目を輝かせ、泉美は董夜の視界に入らないように唾を吐き捨てた。

 

 

「それじゃあ、いってくるわね」

 

 

車の窓を開けて真由美が香澄たちに手を振る。そして車が走り出した直後、真由美は泉美に勝ち誇ったかのような笑みを向け、泉美は車が見えなくなった後まで地団駄を踏んでいた。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

司波宅

 

 

「 !!! 」

 

「どうした深雪?」

 

「董夜さんの身に災いが迫っている気がします」

 

「き、気のせいじゃないか?」

 

「そんなはずがありません! 今すぐ電話を!」

 

「そ、そうだ!董夜は今日叔母様の仕事を手伝っているはずだ、電話は迷惑だろう」

 

「…………ホントウデスカ?」

 

「ほ、本当だ」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「お夕飯の準備をしてきますね!」

 

「あ、ああ」

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「わぁ! 素敵なお店ね!」

 

「俺も来るのは初めてですけど、中々いい雰囲気ですね」

 

 

出発から数十分後。横浜の臨海部某所、海を一望できるイタリアンに董夜たちは来ていた。ここも先日の中華同様、政財界の要人がお忍びで訪れる高級イタリアンである。

 

 

「本日は御誘い頂き、ありがとうございます」

 

「いやいや、今日は『四葉』としてじゃなくて『後輩』として誘ったんですから、堅くなるのはやめましょうよ」

 

「そう言ってもらえると助かるわ」

 

 

わざと堅苦しく挨拶をした真由美に、董夜は困ったように笑う。

そして店員に席まで案内してもらった。そこは店の一部が屋外に出ていて、夜の海を一望できる席だった。

そしてウェイトレスに飲み物のみを注文する。

 

 

「お料理は注文しないの?」

 

「予約した段階で注文したので、大丈夫ですよ」

 

「あら、用意周到ね」

 

 

もうこの時点で二人の間に、最初のような気まずさは無く。以前のような雰囲気に戻っていた。

そしてウエイトレスが二人分の飲み物を持ってくる。

 

 

「それにしても白ぶどうのジュースって」

 

「フフフ、まだ未成年だからね。それに大事なのはムードよ」

 

 

董夜の分まで注文した真由美のチョイスに董夜は苦笑を漏らす。

 

 

「それじゃあ」

 

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「 乾杯 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

グラスがぶつかる小気味のいい音が、店内と夜の横浜に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後半は続く………………

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