四葉家の死神   作:The sleeper

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今回は場面の切り替わりが多い為、切り替わる際に ◇ を置きました。



43話 ジュウリン

43話 ジュウリン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下道をシェルターへと避難する第一高校生徒・職員の集団と、地下道に入り込んだ武装ゲリラとの遭遇戦が終息を迎えようとしている頃。横浜国際会議場では達也が信じられない、といった顔をしていた。

 

 

「いま、なんと?」

 

「四葉董夜殿を今回の戦闘に【戦略級魔法師】として参加していただく。もう言わんぞ特尉」

 

「はっ、申し訳ありません」

 

 

風間からの軽い叱責を受けた達也は敬礼をするが、その顔からは戸惑いの色が消えていない。

 

 

「ここで彼と合流。行動を開始する」

 

「………少佐」

 

 

風間が今後の指示を出したのとほぼ同時に会議室の扉が開かれ、一人の軍人が入ってきた。

 

 

「なんだ」

 

「四葉殿が到着いたしました」

 

 

その言葉にその場にいた独立魔装大隊の面々に緊張が走り、それと同時に達也と深雪、克人、真由美の顔も引き締まる。

 

独立魔装大隊の面々と達也、深雪は【戦略級魔法師 四葉董夜】がいかに冷たく、残酷かを理解しているから。

そして克人と真由美は【普段の董夜】と【師族会議四葉家次期当主候補の四葉董夜】の違いを知っているから、それぞれの理由で緊張が走っている。

 

 

「す、すごい緊張感だね」

 

 

しかし、エリカや雫達はその場の緊張感に当てられながらも『何故こんな空気になっているのだろうか?』と疑問を感じていた。それは普段の董夜しか知らないから、優しい董夜しか見ていないからである。そんなエリカ達の疑問、そして甘えはすぐに吹き飛ばされることになる。

 

 

「…どうぞ」

 

 

風間に董夜の到着を知らせた軍人が会議室の扉を開き、閉まらないように抑える。そして、その死神はゆっくりと、そして確かな足取りで姿を現した。

 

 

「ただいま到着しました。師族会議四葉家次期当主候補、戦略級魔法師 四葉董夜です」

 

「………っ!?」

 

 

それはエリカ達の誰かか、それとも覚悟していたはずの克人か真由美か。声にならない叫びを誰かがあげた。

それは深雪ですら3年前にモニター越しでしか見たことがなかった姿。

独立魔装大隊隊員でも3年前の沖縄戦で董夜とともに戦場に立った者しか見たことがない姿、

達也でも数度しか見たことがない姿。

 

 

「今回国防軍の指揮下に入るわけではありませんが、せいぜい邪魔にならないように動きますので、状況をお聞かせ願えませんか?」

 

 

それは皆が思っていた姿ではない、皆が憧れていた姿ではない。決して【英雄】などではない。

 

 

 

 

「ここに来るまでに数人、片付けたのですが」

 

 

 

 

それは…………………死神そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響子の隊はオフロード一台に響子を含めて五人の分隊規模にも及ばない小集団だったが、全員が相当な手練れであると思わせる雰囲気を纏っていた。ちなみに達也と董夜はすでに戦闘に参加し、克人は響子の部下二人と車一台を借りて魔法協会に向かった。

 

 

「そ、そんな」

 

 

そしてその一行は地下シェルターが設置されている駅前の広場にたどり着き、その場の惨状に言葉を失っていた。

なぜなら広場が大きく陥没し、巨大な金属塊がその上を闊歩していたからである。

 

 

「直立戦車………一体どこから……?」

 

 

響子にとっても予想外の事態だったのか、呻くような声が唇から漏れる。

複合装甲板で覆われた人型の移動砲台。それが二機。そしてその下で陥没する地面。

その状況は直立戦車が地下シェルター、もしくは地下通路に向けて、何らかの攻撃を加えたことを物語っていた。

 

 

「このっ!」

 

「花音、【地雷原】はマズイよ!」

 

 

茫然自失から回復した花音は直ぐに魔法を発動しようとするが、五十里が地下の状況も鑑みてそれを止めた。

そして次の瞬間には直立戦車の車体に複数の穴が空き、白く凍り付いていた。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「シェルター確保に向かっていた工作員、直立戦車、共に連絡が途絶えました」

 

 

真由美達が直立戦車の処理を終え、別の場所では一条(クリムゾン) 将輝(プリンス)が敵の処理を進めている頃。

敵の司令部、偽装揚陸艇の艦橋には順風満帆とは程遠い雰囲気が漂っていた。

それは平服工作員の損耗が予想よりもかなり激しく、作戦変更を余儀なくされていたからである。

 

 

「機動部隊を上陸させろ」

 

 

艦長の判断により直立戦車と装甲車、そして機動部隊隊員が複数名上陸のために出動していった。

 

 

 

魔人と死神の闊歩する土地へと………………………………

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

山下埠頭に機動部隊を上陸させた侵攻軍は、部隊を三つに分けた。一つは魔法協会のあるベイヒルズへ、そしてもう一つは沿岸沿いに北へ侵攻、そして最後の一つはその他市街への侵攻である。

 

ちょうど同じ頃、大型トレーラーの中で達也はムーバル・スーツに着替え、飛行魔法用CADのスイッチを押し、空へ駆け上がり、柳の隊へと向かった。

 

状況が目まぐるしく動く中、横浜の上空で全長一メートルほどの小さな偵察機が飛んでいた………………しかし。

 

 

 

「………覗きは良くない」

 

 

無人偵察機に何処から魔法が打ち出され、偵察機に搭載された魔法感知機能が魔法を感知する。しかし、次の瞬間に偵察機は蒸発し風と共に消えた。

 

 

 

「さて、動こうか」

 

はい(イエス)ご主人様(マスター)

 

 

とあるビルの屋上に立っていた董夜の口と、彼の耳についている無線機から声が漏れると同時に董夜の姿は地面へと向かい。それと同時に付近にあった一人の気配も消えた。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

突如として無人偵察機からの映像が途絶えた侵攻軍司令部は『目』の一つを失ったこととはまた違う意味でパニックになり掛けていた。

それは無人偵察機から最後に送られてきた映像、そこに映っている一人の青年。

粗くなった画像をオペレーターが解析し、鮮明となった画像を見て司令部全体が凍りつく。

 

 

「…………四葉………董夜」

 

 

それの名を呟いたのはオペレーターの誰かか、それとも艦長自身か。その声が司令部に響くと同時に中の雰囲気は一気に重いものへと変わっていった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

達也が柳と合流する頃、最初の戦闘は既に終結しており、柳が負傷者の手当てに立ち会っているところだった。

 

 

「特尉、ちょうどよかった」

 

 

達也が声を掛けるより早く、柳が達也の姿を見つけて呼び寄せる。

柳の前で敬礼をした達也はスーツを脱がされて横たわる負傷者を覗き込んだ。

 

 

「弾は抜いた………後は………頼む」

 

 

ヘルメットを脱いだ柳の顔に表情らしいものは浮かんでいなかったが、彼の声色がその心境を表していた。

 

 

「了解です」

 

 

キッパリとした返事で、柳の罪悪感を不要なものと否定して、達也は左腰から銀色のCADを取り出して魔法(再成)を発動する。

 

負傷した隊員の呻き声が途絶えるのと同時に、閉ざされた達也の口の中から奥歯の軋む微かな音が柳の耳に届き。彼の心を一層暗くした。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「よし、このまま進むぞ」

 

 

 

総指揮官の指示により、魔法協会や海岸沿いに向かった部隊とは別に市街地を侵攻していた部隊は順調に歩を進めていた。隊員たちの表情は司令部とは違い、どこか余裕が見られる。

 

 

しかし、絶望は唐突にやってくる。

 

 

「………っ! 止まれ!」

 

 

まるで最初からそこにいたかのように現れた人影に隊の指揮官が部下に止まるよう指示を出す。

しかし、背後にいるはずの部下からは返事がこない…………それどころかいつのまにか気配すら感じられなくなっている。

 

 

「…………っ!」

 

 

突如として言いようのない不安に駆られた指揮官は目の前に謎の敵がいるにも関わらず、後ろを振り向いた。

 

 

 

「なっ…………!! そ、そんな………バカな」

 

 

指揮官の体全身を震えが襲う。

振り向いた先にあったもの。

それは死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体。

修羅場をいくつもくぐり抜けて来た指揮官ですら見た事がないほど残虐な景色がそこに広がっていた。

 

 

「貴様は……………」

 

 

最早戦意などとても感じられない声と気力で再び振り返る司令官。

そこには先程と変わらぬ場所で立っている死神がいた。

 

 

(カー)…………(リー)………!!」

 

 

謎の敵の正体を呟いた時、指揮官はふと自分の呼吸が荒いことに気づいた。なぜか全身から体温が奪われていき、意識が朦朧とする。

そしてふと自分の足元へ目を移すと……………そのには(おびただ)しい量の血と、切り裂かれた自身の腹部から溢れたであろう臓物が地面に転がっていた。

 

 

「(こ…………作…………は)」

 

 

現在も繋がっているであろう総司令部との無線に司令官は今回の作戦の失敗を伝えようとする。しかし、それを言い終わる前に彼の意識は永遠にこの世から消失した。

 

 

 

 

彼が最後に見たもの。

 

 

 

 

それは、三日月の形に割れた目の前の死神の口だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……………………脆いなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

深雪たちの前に現れた三輌の直立戦車をエリカとレオ達が深雪と力を合わせて処理をし、その残骸から敵の正体を突き止めている頃。

何故かハウスキーパーと電話をしていた雫が真由美に『ヘリがもうそろそろ到着する』旨を伝え、真由美は自分が要請したヘリがまだ到着しないことに苛立ちを感じていた。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

そして侵攻軍の総指揮官は、刻々と悪化する戦況に険しくなる表情を隠そうとすらしていなかった。

敵軍の対応は早いとはいえ、それは予想の範囲内。しかし、民兵の抵抗が彼らの予想を超えていた。

海岸沿いに北上するルートは、既に鶴見から来た部隊に抑えられ、船で脱出する避難民を人質にするのはもはや不可能になっていた。

 

 

 

「クソッ! まさか奴がいるとは!!」

 

 

そして侵攻軍最大の誤算は四葉董夜。戦略級魔法師の今回の戦闘への参戦である。

魔法協会へ向かった隊、そして海岸沿いに北上した隊とは別に市街地へ浅く広く侵攻していた隊の隊員が、先程からありえないスピードで姿を消している。

そして姿を消した隊員の最後の言葉から察するに、隊員を葬っているのは確実に四葉董夜であろう。

 

 

「無人偵察機、全機交信途絶」

 

 

総指揮官は部下の耳を気にせずに舌打ちを漏らした。最後の無人偵察機が撃墜されたようだ。これで、既にわかっている情報の範囲で指揮を執らなければならなくなった。

敵陣の背後に潜伏しながら連絡を寄越そうとしない陳祥山を心の中で罵り、総指揮官は北上する部隊に転進を命じた。

 

 

 

内陸方向へ。

 

ヘリの到着を待つ。駅前の広場の方へ。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

雫が呼んだヘリが雫たちの上空に姿を見せ、着陸しようと高度を落としていた。

しかし、突如として飛来した黒い雲。空気中から湧いて出た、としか言いようが無い唐突な登場を見せたのは、大量の(イナゴ)だった。

 

 

「数が、多い………!!」

 

 

下で雫が【フォノン・メーザー】を使いなんとか全滅に追い込もうとするが、黒い雲のほんの一部しか薙ぎ払えない。そして雫が手こずっている間にも黒沢の運転するヘリへ蝗の群れが迫る。

ほのかもそれに気づいていたが、彼女の魔法はこういう敵の迎撃に向かない。雫の魔法と相克を起こすのを恐れて手が出せないでいた。

蝗の群れがヘリに取り付く、と見えた、その時。

 

 

 

滅びの風が、吹き荒れる。

 

 

 

黒雲を成す大群が、幻のように輪郭を崩し、消え去った。

異変に気付くのが遅れた真由美と鈴音も、同じように空へ目を向ける。そこには黒ずくめの人影が、銀色のCADを構えて立っていた。

 

 

 

 

迦利(カーリー)】と【摩醯首羅(マヘイ・シュバラ)】が別々の場所でその力を振るい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雛子、敵はどこだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やばい。

雛子が『イエス、マスター』しか喋ってない。

董夜の無双シーンが少ない。

場面の切り替わりが多くない?


考えれば考えるほど不安な点が出てきます!



昨日、日間ランキングの8位に入った分プレッシャーが大きいです!

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