四葉家の死神   作:The sleeper

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九校戦1日目、2日目と日にちごとに投稿していくので文字数が少ない回があると思いますけどご了承ください。


23話 九校戦二日目

23話 九校戦二日目

 

 

 

 

 

 

 

九校戦編2日目。アイスピラーズブレイクで花音先輩が三回戦進出を決めた試合を観戦した俺達は、その花音先輩に続いて天幕に入った。

中ではスタッフの放つ重苦しい雰囲気が充満しており俺達は思わず眉を潜めた。

 

「何かあったんですか?」

 

全員が思っている事を代表して五十里先輩がスタッフの中で比較的平静を保っている鈴音さんに問いかけた。

 

「男子クラウドボールの結果が思わしくなかったので、ポイントを見直しているんですよ」

 

「思わしくなかった、といいますと……」

 

「一回戦敗退、二回戦敗退、三回戦敗退です。来年のエントリー枠は確保しましたが、計算外でしたね」

 

確かに他の競技に比べて男子クラウドボールでは実力者が不足していた。しかし、それでも優勝は十分に狙えるだけの布陣ではあったはずだ。

なのに一、二、三回戦で敗退するというのは偶然とは言いがたい。もちろん組み合わせのくじ運が悪かったというのが理由なのだろうが、【無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)】がこの九校戦に何らかのコンタクトを取ってくるだろうことを感知している身としては、何か奴らが仕組んだのではないかと疑心暗鬼になってしまう。

そんな事を考えていると計算を終えたのか、作業スタッフが重苦しい表情で話しかけてきた。

 

「新人戦のポイント予測は困難ですが、現時点でのリードを考えれば、女子バトルボード 男子ピラーズブレイク ミラージ・バッド モノリスコードで優勝すれば安全圏と思われます」

 

作戦スタッフの計算が報告されるが、その計算は少し甘いと言わざるをえないものだった。克人さんや真由美さん、摩利さんが優勝することを信じているのだろうが、その三人に何かアクシデントがあった場合、今の作戦はすぐに総崩れになってしまう。

正直いって第一高校の布陣は先程の3人に頼ってしまっている面がある気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間はまだ夕食前、なんとなくホテルの周りの散歩を終えて自分の部屋に戻ると深雪が待っていた。

 

あれ?部屋番号教えてないはずなんだけどな………。

 

「生徒会の権限があれば自分の高校の生徒が何号室に泊まっているか調べるなんてお手の物です」

 

……らしい。というか俺も生徒会だったのを思い出した。

 

「そういえば、ここに戻ってくる前に達也がレオ達と歩いてたけどこんな時間に何処に行くんだ?」

 

そう俺がここに戻ってくる途中ホテルのロビーで達也がレオを含むE組メンバーと一緒に歩いているのを見かけていた。

話しかけようかと思ったけど深雪がいなくて且つE組しかいないことから彼らだけで何かやりたいことでもあるのか、と考えて敢えて声をかけなかったのだ。

 

「お兄様でしたら『レオにCADを見せに行く』と言ってましたけど」

 

「あぁ、なるほどね」

 

達也がレオに見せに行ったCADとは、昨日の摩利さんの試合後に達也が作っていたものだ。あの武装一体型CAD………武装デバイスはレオと相性がいいだろうしな。

 

「それで?深雪は何しに来たんだ」

 

達也の話題が出てすっかり忘れてたけど問題は深雪だ。何故か椅子にではなくベットに靴を脱いで腰をかけている。

 

(これ誰かが入って来たら不味いな)

 

「いえ………その。もしお邪魔でなければ夕食の時間までお話がしたいなぁ〜…………なんて…」

 

何だかすごく後ろめたそうにこっちをチラチラ見てくる。まぁこの後別に用事はなかったし俺も暇だったからいいけどさ。

 

「ん、いいよ。でも別にそんなに面白い話なんて俺にはないけどな」

 

「いえそんな!私は董夜さんと話しているだけで…………!」

 

ん?深雪は何を見てびっくりしているんだ?

あれ!?なんで俺は靴脱いで深雪と同じベッドに登ってんの!?

 

(しまったぁぁぁぁぁ!!中学の時はよく、深雪と部屋で話すときにベッドに座ってたからクセが出タァァァ!!)

 

もうベッドに上がってしまった手前いまさら下りる事も出来ずに結局俺はベッドの上に腰を落ち着かせた。とっさに【観察者の眼(オブザーバー・サイト)】で周囲を見るが廊下には誰も人はいなかった。

 

「それにしても俺が2人部屋に1人でよかったな。もし誰かいたらお前これないだr………ちょいまちメールきた」

 

なんとなく黙ったままも気まずいかと思ってテキトーに話題作って話そうと思ったらポケットに入っていた携帯端末にメールが届いた。

 

「むぅ、誰からか聞いてもいいですか?」

 

「ん?あぁ深雪も知ってる人だよ会ったことはないと思うけど。五輪 澪さんっていえばわかるかな?」

 

「へぇ…………やっぱり女性ですか」

 

あれ?びっくりするかと思ったら呆れられてしまった。ん?呆れられているのか?半眼で睨まれてる気がする。

 

五輪 澪さん……俺と同じ日本に2人しかいない国家公認の戦略級魔法師だ。

海面を陥没させる戦略級魔法【深淵(アビス)】の使い手。大した人数も家の力もない五輪家が十師族でいられるのは澪さんが居るからと言ってもいい。

ちなみに俺の事を弟のように面倒を見てくれて優しい人だ。

 

「それで?どこで澪さんと知り合ったんですか?」

 

「仕事でね、顔を合わせる機会があったんだよ。それからはよく連絡を取る仲だ」

 

仕事。それは四葉の仕事ではない。かといって戦略級魔法師として国防軍に要請されて出征するような任務でもない。

戦略級魔法師には一年の中でそういう仕事がよくある。

そのうちの1つが戦略国防会議。十師族の当主と国防軍のトップ、防衛大臣と内閣総理大臣そして俺たち戦略級魔法師が出席して開かれる会議だ。

この前防衛大臣が俺にケチつけて突っかかってきたからそれを論破してやった時のアイツの顔は傑作だった。ちなみにこの会議に非公式の戦略級魔法師である達也は出席しない。というより召集されない。

 

「それで?その会議が初対面だったと?」

 

「い、いや。この1つ前にあったもう1つの仕事が初対面だ」

 

あれ?なんで俺ベッドに正座して深雪は俺の眼の前で仁王立ちしてんの?位置的にスカートから下着が見えちゃってるんだけど…………………言わないほうがいいな。

 

 

もう1つの仕事は……………あれ?あの会の名前ってなんだっけ。まぁいいや。もう1つの仕事は春と秋に開かれる会だ。

誰と何をするかというと俺と澪さん、つまり戦略級魔法師が天皇皇后両陛下と皇太子ご夫妻と、1日皇居でご飯を食べたり皇居内を散策する会。

最初は緊張したけど、皇族の方々は優しい人ばかりで、最近では全く緊張しなくなった。澪さんは未だに緊張してるけど。

 

「まぁこの会が澪さんとの初対面だよ」

 

「ホントに後ろめたい関係ではないですよね?」

 

「そうだよ…………てかさっきから下着が見えてる」

 

「え………………………」

 

言ってしまった。別に後ろめたいことは何もしてないのに疑われてるからついイラっとして言ってしまった。

おうおう深雪の顔がどんどん赤くなっていく。

 

「董夜さんの………………スケベ!!!」

 

「なんでだよ……って。うおっ!あぶなっ!」

 

顔を真っ赤にさせた深雪が思いっきり蹴りを入れてきた。俺は間一髪で避けられたけど深雪と俺がいるのは不安定なベッドの上。

当然蹴りを入れて体を支えられる足が一本になった深雪は倒れこんできた。

 

 

 

 

 

 

 

結果から言って俺が深雪をベッドに押し倒してるような体制になった。

なんで深雪が上から倒れこんできたのに俺が深雪を押し倒してるんだよ。まるで可笑しいほどtoLOVEるな毎日を過ごしてるどこかの男子高校生のような状況になってしまった

 

「は、はわわわわわ」

 

「いたたたたたた、って深雪。顔赤いけど大丈夫か?…………どれ?」

 

この時の俺はバカだった。なんで深雪を押し倒した状況をどうにかしようとしなかったのか。それか【観察者の眼(オブザーバー・サイト)】で周囲に人がいないか確認しなかったのか。

しかも熱の測り方もそうだ俺は自分と深雪のオデコをつけて熱を測った。

側から見たら完全に俺が深雪をベッドに押し倒してキスをしてるようにしか見えない。

 

「熱はないみたいだな………………どした?深雪」

 

深雪に熱がないのを確認した俺は深雪から顔を離した。しかしこの時の俺は部屋のドアを開けて入ってきていた達也やエリカ達がこちらを見ていることに気づかなかった。

そんな中深雪の顔を見ると何故か目の焦点が合っておらず、惚けていた。

 

「と、董夜さんなら……………私は………いいですよ」

 

(おぉっとぉ!何だかこのまま進むと取り返しがつかないような気がしてきたぞぉ!)

 

なんとか深雪の正気を取り戻そうと思った俺は深雪の頰を叩く。そして段々冷静になってきた俺は部屋の入り口に複数の気配があることにようやく気付いた。

 

「スマン…………邪魔したな」

 

「やっぱり2人ってそういう関係だったんだね」

 

深雪と俺を含めたほぼ全員が固まる中、達也とエリカが最初に声を発した。

その夜、第一高校が宿泊しているホテルの中で十師族の次期当主候補ともあろう者の叫び声が響き渡った。

 

 


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