22話 シュッパツ
ついに九校戦の会場に向かう日が来た、トイレに行けるのはいつになるか分からないので先に校舎内で済ませていた董夜が会場行きのバスに戻ると達也がバスの入り口で立っていた。
「あれ、達也どした?」
「七草会長が家の事情で遅れてるらしくてな、出欠確認の為にこうして待っている」
「なるほどね………………あぁそうだ、昨日の事忘れてないよな?」
「あぁ、もしもの時は深雪を任せたぞ」
そう達也の返事を聞いた董夜はバスに乗り込みながら昨日の事を思い出していた。
前日ーーー司波家ーー
「先日、母さんから九校戦の会場の近くで【
「あぁ、俺も風間少佐から連絡を受けた」
今日董夜がわざわざ深雪の留守を見計らって達也を訪ねて来たのは他でもない【
もともと達也と董夜の敵ではないが、もしもの事が起きて達也の正体が露見するわけにはいかない。
「今回の九校戦に奴らが手を出してくるのはもう、確定だろう」
「そう、それで明日の会場に向かう途中に厄介ごとが起きないとも限らない」
【
「それで、もし明日の移動中に何かが起きた場合は俺が対処するから達也には大人しくしていて欲しいんだ」
「理由を聞いてもいいか?」
「いつもだったら達也に任せるんだけど、今回は真由美さんに克人さんまで居るからね」
董夜side
「ーーーーーやさん!董夜さん!!」
「んっ!あぁごめん、考え事してた」
バスに入ると何やらほのかと雫が必死な形相で詰め寄って来た。
すごいな2人とも。そんな顔見た事ないよ。
「私たちにはもう無理です!深雪をお願いします!」
「ん?深雪?」
ほのか達の言葉を聞いてバスの奥を見ると深雪が何やら暗いオーラを放ちつつブツブツ何かを呟いていた。
バスの前の方に座っている克人さんと摩利さんを見ると「やれやれ」といった顔をしていた。
「どした深雪、なんかあった?」
「あっ!董夜さん!それがですねーーーー」
俺が深雪の隣に座って話しかけると一瞬嬉しそうな顔をした後にまた暗いオーラを出し始めた。
どうやら家の事情で遅れている真由美さんを待つために達也が炎天下の中バスの外で待機しているのが気に入らないらしい。
このまま暗いオーラを浴び続けるのも嫌だから携帯電話を取り出し。
「しょうがないなーーーーーーあ、もしもし真由美さん?後どれぐらいで着きますか?、、、、はい、、、はい、、了解です、気をつけてくださいね」ピッ
「董夜さん?誰に電話を掛けたんですか?」
「ん、真由美さんに掛けたんだよ。よかったな後5分ぐらいで着くってさ」
ふぅ、これで深雪の機嫌も少しは良くなってくれる事だろう。
ドヤ顔でほのかと雫の方を見ると何かに怯えるような顔を向けてきた。
ん?あれ?後ろから殺気が。
「ヘェ〜そうですか。いつの間に会長のプライベートナンバーを登録していたんですか?」
その後会長がバスに到着して発車してからも数十分は深雪の機嫌が直ることはなかった。
「危ない!」
そんな声にボーッとしていた俺の意識は強制的に現実へと引き戻された。
他の人達に倣い窓の外を覗くとそこには空中を舞いながらこちらに向かって突っ込んで来る車だった。
(マジかよ、ホントに厄介ごとが起きちゃったよ)
ふと周りを見ると何人もの生徒が魔法を発動しようとしていた。
そして摩利さんが大声で全員に魔法をキャンセルするよう叫んでいた。
(エリートといっても学生だね、非常事態には弱いのか)
「深雪は火を消して。克人さん!障壁で車を止めてください!」
そう言いながら俺は直ぐに全員の魔法式を吹き飛ばした。
そのあとは深雪と克人さんが冷静に対処してくれたおかげで車がバスに激突することはなかった。
【観察者の眼】で達也を見ると魔法を使った形跡がなく、どうやら俺を信頼して任せてくれたようだった。
「みんな大丈夫?」
真由美さんの声に混乱していた生徒達はハッと我を取り戻したようだ。
「十文字くんありがとう、董夜くんと深雪さんも素晴らしい魔法だったわ」
「光栄です、会長」
「でもここまでスムーズにいったのは鈴音さんがバスに減速魔法をかけてくれたおかげですよ。鈴音さん、ありがとうございました」
そう言ってお辞儀する俺と深雪に周囲は驚愕を露わにするが鈴音さんは平然とした表情のまま会釈をしてーーー
「確かに私はこのバスに減速魔法を行使しましたがそれも董夜くんがみんなの魔法をどうにかしてくれたおかげですよ」
「そうね董夜くん、ホントにありがとね!」
そう言って俺に飛び込んでくる真由美さんを深雪が受け止めてその後一悶着あったが、その場の事情聴取を受けたあとは何も問題なくホテルに着いたのだった。
「それではあれは事故ではなかったのですか?」
ホテルに着いて自分たちの荷物をホテルに運び込む中、俺は深雪と達也と行動を共にしていた。もちろん他の集団から離れた所で。
「あの自動車の飛び方は不自然だったからね。調べてみたら案の定魔法が使われた痕跡があったよ」
「俺もあの時車内から魔法が使われてるのを視た」
「車内から?それはつまり、、、、、、」
深雪が予想を始め、だんだん顔を不快そうに歪めていく。おそらく深雪が今思い描いているので正解だろう。
「魔法が使われたのは三回。最初はタイヤをパンクさせる魔法。二回目が車体をスピンさせる魔法。そして三回目が車体に斜め上方の力を加えて、ガード壁をジャンプ台代わりに跳び上がらせる魔法。何れも車内から放たれている」
「恐らく魔法が使用されたことを隠す為だろうな。現に、達也と深雪も含めて優秀な魔法師がいたのにあの時は誰も気が付かなかった。俺も反射的に【
「では、やはり魔法を使ったのは……」
「犯人の魔法師は運転手。つまり、自爆攻撃だよ」
「卑劣な……!」
深雪は肩を震わせ怒りを発露する。
人間としてはいいことだが、四葉の後継者候補としては一々反応していてはきりがないことだろう。
達也が深雪を慰めるようにポンポンと肩を叩くと俺たちから離れて再び荷物を運び出した。
「四葉の後継者として生きていればあんな輩にたくさん会うと思う、それでも深雪には『卑劣だ』と思う感性を捨てないで欲しいな」
「董夜さん、、、、、!」
あれ?なんか感動してるけど、、、、、俺そんないいこと言ってないような。まぁいいか、四葉家の上層部の中でまだマシな感性を持ってる深雪には余り汚れて欲しくないのは本音だし。
(母さんみたいな腹黒ギツネにはなって欲しくないしね)董夜 side out
その頃、四葉本邸ーーーーーー
「……………っくしょんっ!!」
「奥様、室内の温度を上げましょうか」
「いえ、大丈夫よ葉山さん。もしかしたら誰かが私の噂をしているのかもしれないしね」
「「ハハハハハハ」」
董夜side restart 数時間後ーーーホテル
荷物運びを終えたあと、ホテルのスタッフとして来たエリカ達に会ったが一言二言話して別れた。その後は部屋で仮眠をとっているといつの間にか夕方になりパーティーの時間になっていた。
家の都合上パーティーにはよく参加していたが、猫を被らなくちゃいけないから余り好きじゃない。
「董夜さんパーティー会場まで一緒に行きませんか?」
そんな事を考えているとドアをノックする音が聞こえて深雪が少し後ろめたそうに言って来た。おそらくパーティーでは他の男子から注目の的になるだろうから俺の近くにいてそれを避けたいのだろう。
俺も四葉という苗字のせいで注目されるだろうから深雪が一緒にいてくれるとありがたい。
「パーティー中も一緒にいてくれると俺としては嬉しいかな」
「ほ、ほんとうですか!」
お、おう。そんなに嬉しかったのだろうか。
まぁ俺も人払いの為に深雪を利用するのだから若干後ろめたい気持ちもある。
パーティー会場のドアを開けると思ったよりも音がたってしまい、会場内にいた学生達の注目を浴びてしまった。
(クソ、目立たないようにしようと思ったのに)
ふと【
「董夜さん、行きましょう!」
なぜだかよくわからないけど深雪がいつもより楽しそうだ。深雪に手を引っ張られながら俺は飲み物を運んでいた人から俺と深雪の分の飲み物を受け取った。
「深雪、人が多いから壁際に行こう…………………あぁ、あそこらへんが空いてる」
四葉のネームバリーューや深雪を連れてることも相まってか周囲からの視線が痛い。深雪の手を引いて壁際に行き談笑してると「自分は名家出身だ」と言うような雰囲気を漂わせた男女に話しかけられたが、何とか猫を被ってやり過ごした。
「四葉、パーティーは楽しんでるか?」
「十文字殿、深雪のおかげで嫌いにはならなそうです」
他の生徒達とは違って落ち着いた雰囲気の克人さんが話しかけて来た。
普段は「克人さん」と呼んでいるが今は周囲の目もある為「十文字殿」と呼んでいる。おそらくそれは克人さんも分かっているのだろう。
「俺も他の生徒のように四葉の次期当主候補とは仲良くなっておきたいからな」
「十文字殿とは仲良くさせていただいてると思っているんですがね、、、それに僕としても十文字殿は勿論のこと十文字家ともこれから先仲良くして行きたいと思っていますよ」
これはまぎれもない本音だ、七草や他の家の当主は嫌味ったらしい人が多いが、十文字家の当主代理である克人さんとは仲良くして行きたい。それは俺が四葉の当主になった後でも。
「そうか、それはありがたい限りだな……………………俺はそろそろ行こう、パーティーを楽しめよ」
もうちょっと何か話すのかと思ったら克人さんは何かを見て直ぐに何処かに行ってしまった、克人さんが見てる方を見るとそれなりに周囲の注目を浴びてる真由美さんが近づいて来た。
「ーーーーチッーー」
あれ?深雪?今舌打ちした?してないよね!?
「こんにちは董夜くん、随分と注目を集めてるようね」
学校で俺と会話するときとは違って猫を被った真由美さんが大人な雰囲気をまとって話しかけて来た。近くにいた男子生徒はそれを見て顔を赤らめているが、俺は何と言うか母さんでもう、慣れてしまっていた。
「苗字の2文字だけで注目されるなんて困ったものですよ」
「そんな!深雪は董夜さんの全てに注目してまs「そんなことより外は星が綺麗よ2人きりで見てこない?2人きりで」人の言葉を遮るなんて失礼じゃありませんか会長?」
この2人はなんでこんなに仲が悪いのだろうか、俺の見る限りでは顔を合わせれば高確率で険悪なムードになっている気がする。
とりあえず面倒ごとには巻き込まれたくないので喧嘩している2人を置いて料理を取って食べていた、もちろん食べている途中もチームメイトや他校の生徒やどこぞの一条家の将輝とかに話しかけられたが、不快な感情を抱かせない程度に対応した。(将輝は昔から交流があったので別)
そろそろ九島烈の挨拶が始まる時間になるに連れて余りは静かになっていた。九島老師には小さい頃に母さんや深夜さん同様に少しだけ魔法を習ったことがある。ここ一年は顔を合わせてないが、会場まで足を運ぶと言うことは元気なのだろう。
(悪戯好きな性格だけは直っていてほしいけどな)
そしてついに九島烈の名前が呼ばれ、会場の全員が息をのんで檀上を見つめる。そんなとき、俺は自分の精神に魔法が干渉しているのに気づいた。少し驚きながら魔法を解析して、解析結果に呆れたようなため息を吐く。それと同時に檀上のスポットライトが金髪の女性を照らし出した。だが、檀上にいるのは女性だけではない。その後ろに一人の老人がたっていた。それこそが九島烈。成る程、確かにかつて最功と呼ばれた魔法師なだけはある。俺の視線に気が付いたのか、九島烈は視線をこちらに向けてニヤリと悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。
(俺は引っかかってないけどな!!)
九島烈が女性に囁き、女性がスッと脇に退くとライトが九島烈を照らし出した。同時に大きなどよめきが沸き起こる。
その後は長ったらしい挨拶が続いて、それがやっと終わった頃に部屋に戻って惰眠を貪ろうかと考えているとホテルのスタッフが話しかけて来た。
「四葉様、最上階のVIPルームで九島様がお待ちです」
(呼び出されたァァァァ!!行きたくねえ!!!)
しかしここでサボると多分部屋まで押しかけてくる可能性がある。夜な夜な老人に部屋を訪ねられるよりかは今行った方がマシだろう。
懇親会も終わりそれぞれが好きに行動をする中、俺はホテルの最上階にあるVIPルームに足を運んでいた。普通なら学生がこの階に入った時点で止められるのだが、俺は何の問題もなく目的地に到着した。恐らくはこれから会う人物が手を回しておいたのだろう。目的の部屋の扉の前で一つ息を整えるとインターホンのチャイムを鳴らす。数秒の沈黙の後、インターホンから90歳の老人とは思えない若々しい声が発せられた。
「入りたまえ」
「失礼します」
中に入ると景色がいい窓辺に2つのイスとそれに挟まれるように配置された机があり、この部屋の主人はその片方に腰を下ろしていた。
「久しぶりだな、董夜。まぁかけたまえ」
「失礼します。ご無沙汰しております九島閣下」
俺が腰を下ろすと老師は挨拶の時の厳しめの顔から、すこし和らいだような顔になった。
この人は母さんと深夜さんの魔法技術の親のような人だからな、もしかしたら俺は孫だと思われてるのかもしれない。
「実はな君をここに呼んだ理由は特にないのだよ」
「そんなことだろうと思いましたよ。昔と変わってませんね」
「今回の九校戦、君が全力の何%で挑むのかは知らないが手は抜かないでもらいたいものだ」
「母からは『全力で良い』と言われております」
俺がそう言うと老師はすこしだけ眉を上げた後直ぐに戻して少しだけ楽しそうに口角を上げた。90にもなって本当に元気なものだ。
「全力を出すのは構わんが、会場を壊したら失格だぞ」
「そこまで暴君になったつもりはありませんよ」
その後は本当に談笑だけをして俺は部屋に戻るためにエレベーターに乗り込んだ。
最初は面倒臭かったが意外と充実した会話ができていた。
「ふぁぁぁぁ…………さっさと寝よ……………ん?」
俺の部屋があるフロアに着き、あくびをしながら廊下を歩いていると男子部屋しかないはずのフロアから女性の声が聞こえて来た。
「まさか……………………はぁ〜、、嘘だろ」
猛烈に嫌な予感がして部屋の中を視てみると案の定顔見知りが部屋にいた。
幸い俺は部屋が一人だったから良かったものの勘弁してほしいものだ。
ドアを開けて今自分が出し得る最高に気だるそうな声で言い放った。
「ほぉんとにぃ、今から寝るんで勘弁してくれませんかねぇぇぇ〜〜」
なにか言い争いをしていたのか知らないが二人は俺が入って来たのに気づくと完全にハモった状態で言った。
「「あ!董夜さん(くん)!私今日ここで寝ます(寝るからね)!!」
「あは?」
さっき会場で二人に『部屋にだけは来るな』と言わなかったことを全力で後悔することになるまで残り0,5秒。