四葉家の死神   作:The sleeper

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17話 カイセン

17話 カイセン

 

 

 

 

 

 

深雪side

 

2週間のバカンスも残りあと7日、最近では董夜さんともよく話すようになってきていた。今まで話したことが少なかったから気付かなかったけど私と董夜さんは話しが合うことが多かった。

けれど董夜さんと仲良くなるに連れて胸の痛みは増してきていた。

 

私達が丁度朝食を食べ終えた頃、すべての情報機器から緊急警報が流れた。

情報の発信源は国防軍、つまり外国からの襲撃ということ。私達は食い入るようにテレビを見た。

そこには耳慣れない情報が羅列されてパニックになっていたが、私は1つの単語に引っかかった。

 

「潜水艦ミサイル?」

 

クルージングの最中に襲ってきた潜水艦は、もしかしたら今日の前触れだったのだろうか。

 

「避難しましょう、ここから近い避難所は、、、」

 

穂波さんが携帯端末で避難所の検索を始めた。

さすがの穂波さんも焦っているようだ、私もさっきからパニックで背中に嫌な汗が流れていた。

 

「ーーーーーーーはい、わかりました。ありがとうございます」

 

そんな中董夜さんは部屋の隅で携帯を耳に当てながら誰かと会話をしていた。

 

「深夜さん、軍の基地に避難できるように母様に便宜を図ってもらいました」

 

「そう…ありがとう」

 

このタイミングで電話が終わったということは、董夜さんは緊急警報が鳴ってすぐに電話をかけたことになる。そんな冷静な判断ができるなんて。

 

「今、恩納基地の風間大尉から電話がありました、迎えの車が来るそうです」

 

「よし、それじゃあ準備しようか」

 

外国の軍が攻めて来てもしかしたら命を落とすかもしれない中、何故か董夜さんは楽しそうだった。

それは慢心ではなく、好奇心に私は見えた。

 

 

 

 

 

 

 

予想していた通り、迎えにきたのは絵垣上等兵だった。

 

「達也、待たせたな」

 

「ジョー、わざわざありがとう」

 

「おう!いいってもんよ」

 

絵垣上等兵はすっかり友人に向ける笑顔でお兄様と話し、お兄様も多少遠慮がちだけど親しげな雰囲気だった。

 

「風間大尉の命令により、皆様を迎えに参りました!」

 

「ご苦労様、案内をお願いします」

 

「はっ!」

 

必要以上に張り切った口上で述べた絵垣上等兵に少し辟易とした顔で穂波さんが答えた。

絵垣さんもそれを気にした様子はなかった。本音を言えば少し気にして欲しかったけれど今はそれよりも基地に連れて行ってもらう方が先である。

 

「……………」

 

董夜さんはお母様の後ろで何か考え事をしているようだった、その口が少し歪んだ笑みを作った時、私は董夜さんが何か恐ろしいものに見えた。

 

 

 

 

軍の連絡車輌に乗った私達は、検問に止められることもなく敵の攻撃にさらされることも無く無事基地に到着した。

意外だったのは基地に避難した民間人が私達だけではなかったこと。100人いないにしても、それに近い数の人がいた。

 

私達が案内されたシェルターは【国防軍 恩納基地 第五シェルター】と書かれた部屋だった。

中は殺風景で何も置いていないただの空間だった。大体大きさはテニスコートぐらいだろうか、そこには民間人が5人いてオドオドした様子だった。

 

(もしかしたら私達も、私も戦わなくちゃいけない場合があるのだろうか)

 

私達は魔法師、国では兵器という扱いになっている。もしかしたら緊急時に私もあの、人を殺さなくては自分が殺される場に立たなくてはいけないのだろうか。

お兄様は懐に拳銃型のCADを二丁携えている。もしもの場合でもお兄様の【再成】があれば大丈夫だけど、あれはお兄様にとてつもない負荷をかけてしまう、できれば、、いや絶対に使って欲しくない。

 

董夜さんはCADを持ってはいないけど、どこかいつもの董夜さんと違う感じがした。

 

「大丈夫だよ深雪」

 

ふと董夜さんと目が合ってしまった、そのとたん董夜さんの雰囲気がいつもの調子に戻る。

 

「何があっても深雪が戦うことはない、深雪は俺と達也で守るからね」

 

「は、はい、ありがとうございます」

 

何だか私の不安を読み取ったようなタイミング、いや実際に分かったのだろう。何だか私の不安な心に董夜さんの優しい言葉が染み渡って行った。

 

 

 

 

「達也、気付いた?」

 

あれから数分経ったころ董夜さんがいきなり言葉を発した。一体何に気付いたのだろうか。

 

「ああ、銃声だな、拳銃では無くフルオート型のアサルトライフル」

 

「え!?」

 

達也さんと董夜さんの言葉に穂波さんが動揺している、当の私も内心パニックになりつつあった、だってここは安全な基地のはず。

 

「2人とも状況はわかりますか?」

 

「いえ、ここからでは…この部屋の壁には魔法を阻害する効果があるようです」

 

「右に同じ」

 

お母様が少しだけ動揺した声でお兄様と董夜さんに問いかけた。

お兄様が【精霊の眼(エレメンタル・サイト)】という先天的異能を持っていることは知っていたけど、やはり董夜さんも持っているのだろうか。

 

「だけど部屋の中で魔法を使う分には問題ないみたいだね」

 

?、一体何で確かめたのだろう。

私がそんなことを考えていると自分の体が浮くような奇妙な浮遊感に襲われた、いや実際に浮いていた。

 

「なっなっなっななな!!」

 

「あははは、大丈夫だよ落とさないから」

 

そして私の体はゆっくりと地面に着地した。

 

「深雪にかかる重力を操作して浮かせたんだよ、楽しかった?」

 

「こ、怖かったです!!何か言ってからにしてください!!」

 

「ごめんごめん、それに緊張解けたみたいだね」

 

「あっ…」

 

最初はこんな時にふざけているのかと思いイラっとしたけど、その真意を知って改めて胸が温かくなる。

 

「君たち、外を見てきたまえ」

 

董夜さんの優しさに浸っていた私の思考になにやら中年声が土足で踏み入れてきた。

 

「理由を尋ねてもよろしいですか?」

 

穂波さんを制して董夜さんが柔らかい口調で答える。口調こそ柔らかいものの董夜さんと付き合いがそれなりにある私たちには彼が心の底では苛立ってるのが分かった。

 

「君たちは魔法師で我々人間の道具なのだ、当たり前だろう」

 

「はぁ、あなた山極運輸の常務理事の長谷川 重政さんですよね」

 

「ふん、その通りだが」

 

やはりこの人も富裕層の人だった、大方権力を使って軍に保護を求めたのだろう。

それよりも私達は董夜さんの次の言葉に驚いた。

 

「いやぁーやっぱり!あっ申し遅れました。僕は山極運輸を束ねる山極グループの株の3割を保有しています四葉董夜と申します」

 

「四葉?董夜?…ま、まさか、そ、そんな、そんな訳が」

 

「長谷川さんの話はよく聞きますよ、例えばーーーーー」

 

そして董夜さんはおじさんに耳打ちをした、声が小さくてとても私たちには聞き取れなかったけれど明らかにおじさんは動揺している。

 

「こ、これはとんだご無礼を、し、失礼します!!」

 

顔から汗を流して動揺しているそのおじさんは元の場所に引っ込んで行った。

 

「はぁ、董夜さんにも困ったものね。達也さん外の様子を見てきなさい」

 

「はい…董夜、深雪を頼むぞ」

 

「ん…りょうかい」

 

お母様は最近お兄様が私を深雪と呼んだり、董夜さんを董夜と呼ぶことに対してなにも言ってこなくなっていた。

そして何故かお兄様が部屋から出ていくのを董夜さんは苦い顔で送っていた。

 

「この選択、悪手じゃありませんかねぇ」

 

いつもの董夜さんとは思えないほど喧嘩腰の口調でお母様に話しかけた、先程といい今日の董夜さんはどこかおかしい気がする。

 

「ええ、私も嫌な予感がするけれど、その時は貴方に…頼ってもいいかしら」

 

「はぁ、わかりましたよ」

 

お母様の少しだけ勝手な物言いに董夜さんは頭を掻きながら同意した。

 

 

 

 

 

 

部屋の外から爆竹の様な音が鳴り響いたのはそれから数分後。もちろん外でお祭りが行われている訳ではなく本物の銃声である。

しかも近づいてきたのは銃声だけでない、人の足音も近づいてきた。

そしてその足音は部屋の前で止まった。

 

「深夜さん、キャストジャミングの感受性強かったですよね?」

 

「え、ええ、まさか」

 

「まだわかりませんけど、嫌な予感がする」

 

董夜さんの言葉にお母様の頰から汗が流れる。

私とお母様は穂波さんの後ろに行き、穂波さんの前では董夜さんが立っている。

その背中からは珍しく緊張感が漏れていた。

 

「失礼します!空挺第ニ中隊の金城一等兵であります!」

 

警戒を持ちつつも少しだけ緊張感が緩んだのが穂波さんの背中から伝わってきた、しかし董夜さんは何故か一層警戒感を強めていた。

開かれたドアの向こうには4人の若い兵士がいた。全員が「レフト・ブラッド」の二世の様だけど、この基地はそういう土地柄なのだろう。

 

「皆様を地下のシェルターにご案内します、ついてきてください」

 

予想通りのセリフだったけれど、私は躊躇わずにはいられなかった。今この部屋を離れればお兄様とはぐれてしまう。

ふと董夜さんを見ると先程よりも苦い顔をしている、そしてそれはお母様も同様だった。

 

「すみません、連れが一人外の様子を見ていまして、先にそちらの方の移動からお願いします」

 

「あ、あぁ頼む」

 

董夜さんの言葉に先程のおじさんは恐縮した様子で頷いた。

そして金城一等兵は長谷川さんたちを連れて部屋から出て行った。

 

「フフフ、貴方でも達也さんを利用するのね」

 

軍人さんたちが出て行った後、お母様が放った言葉に私は驚いた。

董夜さんは本当にお兄様を心配していると思っていたのに!

しかし、董夜さんはお母様を相手に凄い目つきで睨みつけた。

 

「勘違いしないでいただきたい、俺は貴女とは違ってそれを良しとしていない」

 

「ま、まぁまぁ、それより今の状況ですよ」

 

何だかギスギスしてきた2人の空気を察して穂波さんが入った。

すると董夜さんがお母様とは何か別のものに苛立った様子で、

 

「達也には悪いけど、あそこであいつらに付いて行くのは不味い」

 

「そうね、私のカンもそうだったわ」

 

何だかこの2人は気が合うのか合わないのかよくわからない、そんなことを考えながら私は何気なく董夜さんの後ろから出て左に五歩歩いた。

それに特に理由はなく、本当にただ何と無くだった、けれどそれが最悪の選択だった。

 

 

 

「申し訳ありませんがあなた方をここに残しておくことはできません、お連れの方は我々が責任を持って案内しますので」

 

もう一度ドアを開けて入ってきたのは先程の金城一等兵だった、どうするのだろうと董夜さんやお母様の方を見ると同時にまた1人部屋に入って来る影があった。

 

「ディック!!!」

 

突然のことだった、部屋に入ってきた絵垣上等兵に向かって金城一等兵が発砲したのだ。

そして軍人の1人が何か石の様なものを手に握って前に突き出した。

 

「させるかよ!!」

 

とっさのことに反応できなかった私や穂波さんと違って董夜さんはすぐに右手を前に突き出し、魔法を発動する。

するとアンティナイトを持っていた兵士が地面に倒れる。

 

「チィッ!クソガァ!!」

 

それで激昂したのか金城一等兵が懐から銃を取り出して銃を乱射し始めた。

 

「ヒステリーかよ……っ!!??」

 

董夜さんや穂波さんやお母様に向かって行く弾丸は全て董夜さんが弾き落とした。

しかしここで董夜さんは初めて私が董夜さんの背中から離れていることに気づいたみたいだ。

 

「なんでそんなところにっ!!」

 

私の視界は不思議とスローモーションの様になっていた、董夜さんは急いで金城一等兵を撃退する。

でも私は見てしまった、金城一等兵が倒れる前、彼の銃口が私に向かっていることに。

私は死を覚悟して目を閉じた。

 

(ああ、こんなことならもっとお兄様と旅行を満喫すればよかった)

 

(あぁ……董夜さんとも……)

 

 

 

 

ダァン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声がして少ししてから私はまだ自分に意識があることに気づいた、どうやら銃弾は外れた様だ。

ゆっくりと目を開くとそこには。

 

「何やってんだよ、離れたら…守れないだろ」

 

董夜さんの笑顔があった。

 

「董夜さん……」

 

(ああ、数日前から私の胸にある痛み、その正体がようやくわかった………)

 

 

 

 

 

(これは…………恋だ…)

 

 

 

私の、胸の痛みは消えさり、それは高鳴りへと変わっていた。

私はその高鳴りを抑えきれずに董夜さんに抱きつく。

 

ああ、これが恋なんだ。

 

 

 

だけどおかしい、何で董夜さんは喋らないのだろう、そして何だろうか董夜さんの背中に回した私の手にこべりついた……この……赤い………ドロっとしたような……。

 

 

 

「深雪に怪我が無いのなら…よかっ……た……」

 

 

そう言って董夜さんは床に倒れた、背中から大量の血を流しながら。

 

 

「キャアアアアアアアア!」

 

そんな!やっとこの気持ちに気づけたのに!これからもっと仲良くしていきたいのに!そんな!そんな!

 

思考がままならない私はいつの間にかあの人の名前を叫んでいた、使わせてはいけないと思っていた魔法の為に。

ありとあらゆる事象を改変するあの神の如き魔法の為に、、、、。

 

 

 

「おにいさまぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく深雪を守ってくれた、この恩は忘れないぞ董夜」

 

 

声がした方を見上げる、そこにいたのは左手に握った拳銃型CADを董夜さんに向けいつも通りのポーカーフェイスで、けれど少し悲しそうな顔をしたお兄様だった。

 

 

深雪 side out

 

 

 

 

 

 


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