東方新記伝   作:黒鉄球

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 どうも一月ぶりの黒鉄球のお時間です。え、ぎりぎりになった理由?fgoとバイトです。勘弁してください。


第五十八話 永夜異変十ノ五話 : 説得

 

 道行「そうかえ、おぬしは北の国からの訪問者かえ。長旅であっただろうに」

 

 皐月「………ソ、ソウデスネ」

 

 黒装束の絶倫貴族の言葉に大した反応が出来ない。なぜなら今俺のいる部屋は……。

 

 「「「「「「「「………」」」」」」」」

 

 側室と思われる女性たちが計8人がいる部屋。つまりは道行の自室だからである。俺の中ではコイツの屋敷内に入った後は見て回るだけだったのだがどういうわけか絶倫貴族本人に案内され、自室へと招かれてしまった。部屋の襖を開けたら女性が八人も並んでいたという事もあり呆気にとられていた、というわけだ。つーか側室(?)多過ぎね?こういう時代の貴族はみんなそうなのだろうか。

 

 道行「ん~?おぬし緊張しているのかえ?気を楽にすると良いぞえ」

 

 平常心ではないと思ったのだろう。すぐ様フォローを入れてきた。正直見た目は完全にハーレム野郎でおまけに駄肉の宝物庫と化している身体。自分の地位に踏ん反り返って好き放題ヤりまくってる俺の嫌いなタイプの人間に見える。だがなんだこの違和感。俺の偏見のせいか?そんなことを考えながら俺は姿勢を崩し、胡坐をかいた。護衛の目が気になったけどまぁその辺はどうでもいいや。さっそく本題に入ろう。

 

 皐月「…心遣い痛み入る。それよりもあなたは「道行(みちゆき)でよい」………道行殿は奥方様が随分と多いようですが一体何をなされたんですか?」

 

 少々核心を突きすぎているがそう時間もかけられない。こうしてる間にも誰かが拉致られて側室(せいどれい)の被害にあう人たちが増えていることだろうからな。

 

 道行「そんなこと決まっているえ。朕の言葉は絶対(・・)。故に朕が妻にすると言えばそれは絶対の命令、従う以外にあるかえ?」

 

 何も悪びれる様子もなくそれが当たり前(・・・・・・・)だとでも言わんばかりの言葉だった。この絶倫野郎は「自分は貴族、故に下々の者が従うのは当たり前。むしろ感謝しろ」と続けた。

 

 正直絶句した。この時代ではそれが当たり前なのかもしれないが、こいつの理論だと「下々の意見?なにそれおいしいの?」と平気で一蹴し、人権などというものは無意味、自分がすべて正しいという自己中かつ傲慢極まりない言葉だった。俺の抱いた違和感の正体は単純だった。コイツの言葉には重みが一切ない。俺への労いも、心遣いも、こいつの自論もすべて当たり前の名のもとに許されてきた行為だった、という事だ。結局は自分の地位に胡坐かいて考えなしの言葉を発するだけ。それ以外にない。

 

 皐月「……人ってのはそんな簡単じゃないだろ」

 

 道行「?何か言ったかえ?」

 

 俺はここへ子宝が恵まれるというパワースポット代わりとしてきたという事になっている。その考えは崩しちゃいけない。だが、「今ここで反論しなければいけない」そう思った。

 

 皐月「自分の家族がいて、考えがあって、想いがあって、それを突然奪われて納得できるほど人間は簡単じゃねぇっていたんだ」

 

 護衛兵A「貴様!ここにいる方をどなたかと知っての狼藉か!」

 

 護衛兵B「言葉を慎め!発言次第で今すぐその首を刎ねるぞ」

 

 出入り口の襖にいた護衛兵の二人が薙刀の刃を俺の首に向けながら言った。距離にして30㎝。ふりきれば俺の首は飛ぶ。頭では分かっていてもそれでも俺は反論をつづけた。

 

 皐月「だってそうだろうが。その人にはその人なりの人生があって、未来があって、幸せがある。たかが貴族にそれを奪う権利はねぇ。神だろうが仏だろうが、それを奪う権利はねぇ。その権利を持っているのは他の誰でもねぇそいつ自身だろうが!」

 

 直後、薙刀の刃が俺の首めがけて振られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし首は飛ばず、刃だけが宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 護衛兵「「!!?」」

 

 事前に首周りに高密度の石を纏わせて防いだ。俺はその瞬間を見逃さず、一人ずつ顎を殴り、意識を刈り取った。視線を絶倫野郎に向けるが何も行動を起こす様子もなくただただこちらを見ていた。

 

 皐月「……あんまり驚かないんだな」

 

 口調がいつも通りに戻ってしまったが今更敬語を使う気もない。取り繕う必要は経った今無くなった、というか自ら捨てた。殴っちゃったし。

 

 道行「おぬしが何をしたのか、朕には分からなかった。何故今ので首が飛ばなかったのか朕には理解できなかった。しかし………」

 

 目の前にいる絶倫男は一呼吸おいて、信じられない言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道行「おぬしの言葉、確かに聞き届いたぞえ」

 

 

 

 

 

 

 

 皐月「……は?」

 

 理解が出来た?届いた?いや、こっちは全く理解できてないし、追いついてないんですけど。

 

 道行「……朕は何も見ていない。おぬしの言葉について考えていた故、首の事は頭にはなかった、といった方がいいえ」

 

 皐月「どういうことだ。あんたは自分の性欲のために女性を片っ端から攫ったじゃねぇか。それが当たり前だと思ってたから今までそうやって側室を増やしてたんじゃねぇのか?」

 

 道行「確かに今まではそうだったえ。でも気づかされたんだえ。自分の考えの視野が狭かったことに。そして、こんなことをしても、心の隙間は埋まらないという事を」

 

 俺の思っていた絶倫男と何かが違った。情報に間違いでもあったのだろうか。こいつはいったい何のために女性を集め、こんなことをしたのか。性奴隷を集めたのではないのか?

 

 皐月「どういうことだ、訳を話せ。内容次第じゃ暴れる予定を変更することになるからよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 どうにも急展開すぎて頭がついて行かない。いったいなんなんだ。こいつは何の目的で集めたんだ。

 

 道行「……語るとしようかえ。かぐや姫(・・・・)の話を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女性A「本当に……ありがとうございました…」

 

 皐月「気にすんな、あんたらが解放されたのはついでだ。感謝なら解放したあの絶倫貴族にいえ」

 

 道行「おぬし、聞こえておるぞえ」

 

 結論から言うと藤原道行は心の隙間を埋めたかった、とのことだった。道行の先々代から村から麗しい女性を側室にするという話はそう珍しくなかったそうだ。そして父親も同じことをして居た為、道行にとってそれが「当たり前」と化していたのだそうだ。

 

 そういう事もあり、前々から側室がいたという話だがある日、西の都に麗しい姫様が現れたと噂が流れたそうだ。その噂を確かめるべく道行は都に足を運んだ。あわよくば自分の妻としようとしたのだそうだ。実際噂の姫様は存在したらしいが、幾人もの求婚を蹴り、無理難題を突き付けたのだそうだ。

 

 道行も求婚をしようと考えたのだがある日の満月の夜に月の使者と名乗る者たちが姫様を月に連れ帰ったそうだ。行動を起こす前に道行の思惑散り、は心には穴が空き、それを埋める様に自分の都周辺の髪の長い美しい女性(・・・・・・・・・)を自分の側室とし、今日まで過ごしていたとのことだった。

 

 道行の話は自分勝手な思惑も交じっていたが、どこか可哀想な生い立ちだなとも思った。「父の背中を見て子は育つ」というが見るものを間違えるとこうも最低な者に成り下がるのかと軽く同情をした。

 

 こんなことをしてかぐや姫の影を追っても意味ないと分かっていても自分は当たり前の行為をした、自分は正しいと言い聞かせるしかなかったのだという。

 

 この話を聞いても俺は俺の意見は曲げず、いいから返してやれと言った。駄々を捏ねられるかと思ったが信じられないくらいあっさり解放してくれた。物わかりが良くて助かったがどこか腑に落ちん。だったら最初っから拉致ってんじゃねぇよ超絶絶倫クソお下劣野郎が。

 

 皐月「まぁ、落ち着けよ絶リン。かぐや姫が実在したことには驚いたが恋なんてまたすりゃいいじゃん。人間頑張れば80年くらい生きられるんだから、その間に新しい刺激的な恋をすればいい」

 

 道行「絶倫などと呼ぶなえ!……毎夜5人しか抱いてないえ

 

 皐月「おいこら絶リン今とんでもねぇ自殺発言したからな?最低行為やったからな?別に側室取るなとか言わないからよ、せめて話をしろ話を。無理やりとか男としてどうかと思うから、本当に」

 

 などとおかしな会話をしている間にあの村から連れ去らわれた女性たち全員の準備が整った様だ。これでここからおさらば出来そうだ。

 

 道行「しかし本当に大丈夫かえ?馬車を使わず歩いて(・・・)なんて正気とは思えないえ」

 

 そう、俺は歩きで帰ろうとしていた。まぁ実際は森に入ったら能力で木を成長させて村まで移動するつもりなのだがまぁ……教えてやる筋合もないし彼女らにも口止めはする。別に変な意味ではなく。

 

 皐月「俺専用の安全かつ最短の道があんだよ。だからまぁ大丈夫だ。じゃ、さいなら」

 

 俺は何も告げず、女性たちを先導して村へ続く門へ歩き出した。彼女らを、きちんと家へ帰すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 皐月「それにしてもまさか実在していたとは……かぐや姫、か」

 

 

 

 

 

 

 のちに彼女らと出会う事の等、この時の俺は想像もしていなかった

 

 

 

 

 

 

 




 次回をお楽しみに。二月中にはあげますんで

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