皐月「……戻ったな」
二度寝を終えた俺は一瞬で確信した。能力が元に戻っていると。つまりいつも通り使えるという事。体の倦怠感も無く、頭もすっきりしていた。二度寝ってやっぱり最高だなと思った今日この頃。
皐月「というか今夕方やん」
どうやら二度寝は完全に睡眠になってしまっていた。8時間ほど寝ていただろう。さやと親父さんにはなんか悪いことをしたような気がする。
さや父「起きましたか?気持ちよさそうに寝てましたね」
部屋の奥から顔を出しながらさやの親父さんが言った。どうやら仕事終わりだったらしい。だとしたらとんだ皮肉だな。
さや「おかえりなさーい!」
その父親に飛びつくさやとそれをしっかりと受け止める親父さん。やっぱりいつみても仲がよさそうだ。俺の環境じゃ絶対ありえないな。
『皐月……お前は俺の子だ。だが、すまない。母さんが、その、な』
思い出したらイラついてきた。味方なんだか違うんだかよく分からん人だったな、俺の父親は。俺より
さや父「………どうしましたか?」
さやの親父さんが心配そうな声色で話しかけてきた。どうやらいつの間にか表情に出ていたらしい。
皐月「なんでもない。ちゃんと親子やってるんだなって思っただけだ」
嘘は言ってない。俺にはなかったが他がそうだったからよく分かる。親子ってのは本来こういう感じなんだなって。だからこそ今の俺は何としてもさやの母親を救出したいんだろうな。俺に無い「愛情」ってのに溢れたこの家族の形を直してやりたいと思ったんだろうな。
さや父「そ、そうですか。……あ、あの」
皐月「なに?」
さやの親父さんは言葉を紡ぎだした。
さや父「あなたさえ良ければ何日でもここにいていいですから」
……何を言っているのだろうか。俺はそんなに深刻そうな顔をしていたのだろうか。そんなに同情される顔をしていたのだろうか。だとしたらこの人は相当お人よしだ。どこぞの輩かもしれない男にここまで肩入れするのはお人よしと言わずになんといえばいいのだろうか。俺が人に向けられた善意は悪意の裏返しだった。俺を利用するかだまそうとしているかのどちらかしかなかった。お人よしなんていなかった。だからだろう……
皐月「……ありがとう」
この人の
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心に固く誓ってから一夜明けた。感覚的には午前4時。誰も起きていない。誰にもばれずに村を出ることが出来る。
皐月「……いってきます」
おれはそう一言と一枚の手紙だけ残して西の都へと飛んだ。力は良好、いつも通りの感覚。完全復活だ。まだ日が昇っていないから誰かに見られる心配もない。容易に都に入れそうだ。
皐月「あの灯りは……?」
飛行してから10分程度で灯りが集中している場所を見つけた。範囲も広いのを鑑みると都で間違いなさそうだった。正門から入るのが普通だが如何せん俺の服装は洋服だ。服を変えてない。怪奇な視線を浴びるのは明白だ。正門から入るわけにはいかない。だから俺は都の灯りの少ない場所に降りた。いくら都と言えどこういう路地裏は存在するらしい。お蔭で侵入が容易だったぞ間抜けめ。
皐月「…まずは絶倫野郎の情報を集めないとな」
俺はこっそりと表へ出た。
村人?「……なんだあんた」
はいさっそく見つかった。なんだコイツタイミングよく出てきやがってぶちのめすぞこの野郎!といつもならやるのだが騒ぎは大きくしたくない。この疑心暗鬼する人を欺かなければ。
皐月「……旅の者だ」
村人?「その着物はなんだ?見たことないが……」
皐月「俺のいたとこじゃそう珍しくないふ……着物だ。俺は北の方にある島から来たんだ」
村人?「北……?なんでそんなとこから…」
皐月「旅だってば。俺はこの都の噂を聞きつけてきたんだ。なんでも伴侶の多い貴族様がいるという話を聞いたからぜひ拝んでみようかと」
村人?「そうかい、あの人も随分有名になったものだねぇ。ま、見れるといいな」
村人はどこかへ行った。そうやら誤魔化せたらしい。いや、大変だった。いつばれるともしれない嘘だからな。普通こんな服したやつこの時代にはいない。実に危なかった。
皐月「……居場所聞き出せなかった」
これだけが心残りだが…………。
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潜入してから三時間が経過した。それまでの間に数名から情報を得たが、どうやら絶倫野郎は藤原家のボンボンらしい。女遊びが多く、妻が10人単位でいて、愛人も同じくらいいるらしい。そして居場所はどうやら一番大きな屋敷にいるらしい。噂程度だがつい最近、また新たに妻を増やしたらしい。恐らくさやのかあちゃんだろう。……数名の情報だけでもう十分すぎるものが得られた。後は下見だな。
この下見にはいくつかの目的がある。一つ、表にいる警備の人数。一つ、屋敷の広さ。一つ、脱出経路の確保。特に最後のは重要だ。俺には瞬間移動なんて腐れチート能力は持ってない。連れて行ける人数も二人までしか運べない。ならいくつかの脱出経路を見つけておかねば後々厄介なことになる。「全員無事に」ってのは不可能になっちまう。そうならないためにも下見はしておかないと。
???「何者だ貴様!」
屋敷周辺に着いた途端白装束の男に話しかけられた。薙刀を持っているところを見ると門番か何かだろう。もしくは巡回兵。その男は刃をこちらに向けていた。どうやら怪しい服装の俺を警戒しているらしい。ま、当然だが。
皐月「何者……旅の者だ。ここの貴族様にお会い出来たら子宝に恵まれると聞いてきたものでね」
俺はまた嘘をついた。その場しのぎのウソにしては上出来だと思う。正直悪い気もしないだろう、自分の主がパワースポットのような働きをしているのだから。
巡回兵「なに?……そんな噂聞いたことないが」
くっ、そう簡単には信じないか。ならこいつも付け加えてやろう。
皐月「私のいたところで聞いたのだ。かなり北に位置する村なのだがここの噂はここから来た商人に聞いたんだ」
巡回兵「商人が?……まぁ商人の中にはそういって商売をする輩もいるか」
どうやら信じてくれたらしい。俺のいた時代じゃ確実にばれる嘘だがここは違う。なにせ確認する手段がない。確かめようにもできないからな。実に簡単な手口だ。俺が詐欺師ならこの時代で大もうけできるな。
皐月「そう、だからここに来たんだ。一目お会いできないかと」
巡回兵「それはできない」
デスヨネー。分かってた。まぁあわよくばとは考えていたがさすがに無理か。なら仕方ない、屋敷外を一周して帰るか。
皐月「そうか、では失礼する……」
少し落胆気味にあとを去る。一応演技は続けないと怪しまれる。さて、外周でもみようかね……。
???「待つぞえ」
後ろから先ほどの巡回兵とは違う声が聞こえた。おいおいまさか……。
巡回兵「み、道行様!?」
声のする方を向くと黒装束を身にまとった人物がいた。見た目で分かる、こいつは間違いなくここの当主、絶倫貴族だ。
道行「良いぞ、この者を中へ入れるぞえ」
……………………マジですか?
次回もよろしくお願いします
ちなみに「藤原道行」という人物はオリジナルです。かの有名な藤原氏にはいない……筈だと思い、作りました。もしいたら勝手に絶倫野郎にしてしまってすみません。
一応妹紅の血縁関係者ということにしてますが絡むことはありません。安心してください。妹紅が親○○○されることはないので。