熊を倒した俺はさやの家で一泊泊めてもらえることになった。村を救ってくれたと熊鍋まで用意してくれた。まぁその熊は俺が狩ったやつなんですけどね。
さや父「いやぁ本当にありがとう。あなたのお蔭で娘も村も助かった。本当にありがとう」
皐月「別にいいっすよ。あの場面じゃ俺もやられそうだったし、斧の在りかを教えてくれたのはさやだ。こっちこそ助かったんで」
俺そういいながら熊鍋を啜った。うん、旨い。熊って旨かったんだな、知らなかった。
さや「え、えへへ……」
皐月「おいおい、照れてないでちゃんと食えよ?零しそうだぞ?」
俺はさやに目をやりながら熊鍋を啜っているとさやの父親が微笑んだ。
皐月「ん?なんすか?」
さや父「あ、いや、すみません。なんだか兄妹みたいだなって思ってしまって」
あぁそういう……。成る程、兄弟姉妹ってのは
皐月「そういえばこの村ってなんでこんなに女の人少ないんだ?」
そう、この村には女性がいない。いや、女児がいるから少ないであってるのか。現にこの家には女性、さやの母親がいない。それどころか村では殆どが男、若しくは老人しかいない。率直に気になったのだ。なにせ
さや父「……その話は後ほどお願いします。今はちょっと」
どうやら子供には聞かせたくない類の話らしい。本当にマジでヤバそうな話だな。
皐月「嫌なら話さなくてもいい」
さや父「……すみません」
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夜の十時(推定)、さやが寝静まった頃に俺も寝ようかなと思っていた所だった。しかしさや父に「話がある」と言われた。なんのこっちゃと思ったが多分飯時の女性がいないという話だろう。まぁ聞き出そうとしたのは俺だし無下にも出来ない。
皐月「……それで、なにがあったんだ。子供はいるのに女がいないなんて普通じゃない」
さや父「………」
口を開けないさや父。なんだ?そんなにきつい話なのか?なら俺聞かないっつってんのに。……仕方ない。俺の推測で話を進めるか。
皐月「俺の予想では三つくらいある。一つ目は……病気。女性にしかかからない原因不明の病」
さや父「………」
反応がない。ハズレか。なら次だな。
皐月「二つ目は喰われたか。昼の熊の様に村を襲撃して女肉を喰われたか」
さや父「………」
これにも反応は示さなかった。これも違うとなると最後に残したこれか、別件か。まぁ十中八九これなんだけどな。
皐月「三つ目は………奴隷」
さや父「!?」
反応を示した。まぁ俺のこのニュアンスは多少の語弊がある。それは連れ去らわれたという意味。奴隷だろうが寝取られだろうが連れ去らわれたんだろ?という意味で言った。どうやら図星のようだがな。
皐月「正解か。なんでそんなことに?」
さや父「………貴族が珍しくここを訪問したんです」
ようやくさや父の重い口が開いた。その声は苦虫をかみつぶしたような、悲しみと怒りに満ちたりた、そんな雰囲気が見て取れた。
さや父「この村は都に近く、商人はよく赴いてきたんです。しかし、珍しく貴族の方々が来られた。そして………」
話を要約するとどうやら絶倫貴族が女を求めてこの村に来たらしい。そして若い女性を片っ端から連れ去り、自分の側室にしたというものだった。まぁ側室なんてのは建前で実際はただの性奴隷らしい。貴族のくせに品性下劣なクソ野郎共だった。
皐月「その中にあんたの女房がいた、と」
さや父「……ええ」
その表情はとても悲しそうだった。そりゃそうだ。俺は結婚なんてしたことないし彼女も出来たことなんて一度もない。でももし、自分の惚れた女がそんなクソ野郎に連れてかれたら心底むかつくというのは共感できる。しかし相手は貴族。生半可じゃ連れ戻せないからこういう形で帰りを待つしかないのか。
皐月「………奥さん、帰ってくるといいな」
さや父「……ええ。私はいつでも信じてますよ。彼女が帰ってくるのを」
この言葉は俺にある一つの決心をさせた。親に忌み嫌われ、兄弟からも、親戚からも、近所の人からも、教師からも嫌われた俺だけどこの人たちはいい人たちだ。利点がないと動かないが、恩がある。なら俺は………。
皐月「それじゃあまずは休息からだな」
次回まで待て!