皐月「…………またか」
突然視界が見えた。夢や幻想ではない。さっきまでいたであろう警視庁だ。俺は右手で自分の頬をつねった。うん、痛い。間違いなく生身だ。となると俺は
なので、本来なら俺は殺人鬼に首を斬られた時点で死んで、こうして
皐月「今の時間は………ちっ、俺が倒れてから12時間経ってんじゃねぇか」
奴との戦闘が大体15分くらいだったはずだからそれに+12時間ってことはつまり今は2時30分ちかいな。立派な夜だ。という事はもう奴はここにはいない。恐らく自分の隠れ家に帰ったんだろうな。
皐月「ふん、まぁ俺には関係ないな」
俺は重い腰を上げ、空高く飛び上がった。体の節々が悲鳴を上げたが今はそんなことはどうでもいい。一刻も早くあの殺人鬼を始末しないとまずいことになる。誰かが息の根を止めないと次の犯行に及ぶ。そうなる前に叩いておかねぇと|あの場で死んでいった人たちに申し訳が立たねぇ《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。俺は日本上空から西日本を中心に捜索を始めた。半日前は東日本を捜索していた。その時点で東日本には殺人鬼はいなかった。という事は本拠地は西日本しかありえない。俺は目をつむりさっきまで相対していた気配を探知し始めた。残念ながら俺の眼は万能じゃない。「何かが違う」程度にしか分からないのだ。ただし一度見ればその気配は探知できる。音と電波、そして自然界では必須の「野生」の総合的な気配探知で見つけることが出来る。
皐月「…………滋賀県か?なんでまたこんなところに…まぁいいか」
探知が完了すればあとは飛んでいくだけ。さぁ、最終決戦と行こうじゃねぇか。
―――――――――――――――――――――――
俺が降り立ったのは滋賀県にある余呉湖。各地に散らばる「羽衣伝説」の一つに数えられる場所。なぜこんなところに陣取っていたのかは謎だが恐らくここが山と湖に囲まれてて見つからないだろう程度の認識だろうな。ココが決戦の地になるとは……なるべく血を流さずに終わらせよう。なんか穢したら祟られそうだし。
皐月「………こっちか」
俺は「野生」の導くがままに進んだ。その先に必ず奴がいると信じて。すると一つの小屋を見つけた。ガッツリ生活感があったので一発でここだと察した。俺は思った。コイツ馬鹿だろ、と。こんなに生活感出してたら一発でばれるっての。斧、薪、風呂用に使うであろうドラム缶、そして小屋!うん、馬鹿だ。何処の木こりですかぁ?って感じ。まぁ身を潜めるのにはうってつけだから馬鹿だとも言い切れないんだけどな。
俺は右ポケットにあるコインを取りだし、そして打ち出した。
雷の閃光、それについて行くように鳴る轟音。威力は警視庁で撃ったものの1.5倍。距離を詰めた分威力を増強したのだ。ここは山。コイツ以外此処で暮らしている人はいない。ならば遠慮など無用。ただ殺すために能力を発動するのみ。
皐月「……よく避けられたな、あの一瞬で」
小屋は全壊していたがそこから数メートル先にそれはいた。どうやら奇襲は失敗していたらしい。成る程、こいつもそんなに馬鹿ではないらしい。この時間帯に警戒してるやつなんざそうそういない。殺気が漏れてたか。
瞬「……はぁ……はぁ……なんで…………」
まるで幽霊でも見たかのような表情を浮かべる殺人鬼。
瞬「なんで生きてるの……。僕は確かに君の首を刎ねた!確かに僕は君を殺したんだ!!なのに……なんで…」
いまだに理解が追い付いていないのだろう。顔が歪んでいる。あぁ、そうか。
皐月「わりぃな。俺の能力は何も雷を操るだけじゃねぇんだ」
瞬「……え?」
俺は一呼吸おいて言葉をつづけた。
皐月「俺の能力は[自然を操る能力]。この地球上、宇宙中に自然にある物質、現象、そしてその概念をすっ飛ばした超自然を操る事が出来る正真正銘の
目に見える事象は操れてもその考え方は操れない、と捕捉した。
瞬「……そう、死なないんだ」
化け物を見るような眼をしていた殺人鬼の雰囲気が変わった。絶望すぎて諦めたのか?
瞬「じゃあ、永遠に僕の玩具になるじゃないか!!!」
殺人鬼はナイフを右手に構えた。コイツはどうやらもう一度俺を殺して捕えるつもりのようだな。まぁ、何となく予想がついてたから対して驚かないけど。これほどまでに殺人に染まった奴は殺すことを快楽ととらえてる。「切り裂きジャック」なんて呼ばれてるがこいつはそんな感じでもねぇ。「ゾディアック」の方がお似合いだ。
皐月「悪いがもう傷は負わねぇよ。残念ながらお前の能力の詳細はもう割れてるからな」
瞬「はははっ!死んじゃえ!」
殺人鬼の手元にあったナイフは姿を消した。俺の体内に飛ばそうとしたのだ。瞬間移動で不意をついても俺はそれの尽くを凌駕する事が出来る。それ故の攻撃だろう。しかしそのナイフも
瞬「は……え…?」
皐月「残念だったな殺人鬼。お前の能力はもう俺には届かないんだよ」
殺人鬼の背後からゆっくり、目の前の獲物を刈るように歩く。目の前に居た筈の人間が後ろから現れたことで殺人鬼は混乱したのだろう。一度見せた筈の技でもすぐに対処できなくなる。
皐月「お前の能力は単純なものだ。そこに飛んでくると予測されればそれで瓦解しちまうほど単純で強力なものだった。空間そのものに転移させる能力ってのがお前の本質。触れてないといけないってのがネックだがな」
殺人鬼は勝利を確信していた。もう一度俺の心臓部にナイフを飛ばせば俺は死に、飼えるとでも思っていたのだろう。だがそれももう崩れた。仮にコイツがナイフを取りに飛んでももちろん俺はそれを予測しているわけだから即死は免れない。それはコイツ自身が一番分かっているはずだ。それにこいつがどこに飛んでも俺はそれを感知できることももう知られているだろう。
皐月「チェックメイトだ殺人鬼」
俺はそう言い放ち、雷を殺人鬼に、渦巻瞬に落とした。電撃の影響だろう、体が痙攣を起こしていた。もう、こいつは死んだはずだ。致死量分しか落とせなかったのが不安だが。
皐月「さて、後はコイツを警察に渡せば終わりか。完全に殺っちまったけど……まぁ生死は問わんって上の人言ってたし別にいいか」
俺はそのまま警察に電話した。警部は運のいいことに長崎でおきた事件の方に行ってたから電話くらいつながるだろ。
警部『もしもし少年か!?君は無事か!!?』
電話越しに騒がないでいただきたい。まったく、勘弁してくれ。こっちは疲れてるんだから。
皐月「ああ、一応はな。あんたは?まだ長崎にいるのか?」
警部『そんなわけあるか!30分ほど前にようやく東京に着いたとこだ!そしたら警視庁が血の海になっているときた!私は今混乱状態なのだよ!!』
なるほどな。どうりでうるさいわけだ。それじゃあまぁ説明しますか。
――――――-―少年説明中――――――――
警部『……そうか、よくやってくれた。犠牲は多いが君はよくやってくれた』
今までの経緯を話し、警部は心底落ち込んでいた。無理もないだろう。自分の部下たちがキリストになっていたり見たこともないオブジェになっていたりしていたのだから。
皐月「……これであのおっさんの霊も浮かばれるか?」
俺の中では一番関わりを持っていたおっさんだ。ある意味おっさんの弔い合戦になったわけだ。これくらいの心配はしてもいいだろう。
警部『………ああ、きっと白山刑事も浮かばれる』
あのおっさん「白山」って言うのか、知らなかった。
警部『それで、犯人は?』
ここで一番大事な問題点。俺の足元に転がっている
皐月「つい数分前に俺が倒しました。ピクリとも動かない」
警部『!!………そうか、できれば生け捕りが好ましかったのだが致し方あるまい』
一瞬驚いていたが本当に「致し方ない」と思っているのだろう。さて、あとはコイツを警部の前に運べば終わりだ。
皐月「それじゃあ今からそっちに運ぶから待っててくれ」
俺はそういって携帯を切り、ふらつきながら空を飛んだ。
――――――――――――――――――――――
俺は一度死んで
皐月「ふう……持ってきたぜ、警部」
俺は抱えていた殺人鬼(死体)を警部の前に出した。黒焦げ、とまではいかないが多少表面が焼けているが顔は間違いなく犯人のものだ。判別はできる。
警部「……ご苦労だった。こんな子供が犯人だったとは」
皐月「いやそれ言ったら俺と同い年なんだけど」
俺は疲れ切った脳でかろうじてツッコミを入れた。早く寝たいのでとっとと帰りたい。
警部「いや、すまない。つい、な。なにせ私の娘と同い年に見えたものでな」
あぁ、そういえばこの人は地方から上京してきた人だっけ。確かこの人の父親は神社の人で娘をそこに預けて自分の仕事を全うするために来たって言ってたっけ。
皐月「……そうは言ってもこいつは道を踏み外した。俺もだが人を殺せば、そいつは子供だろうが大人だろうが「殺人者」となる。一般人か凶悪犯を殺したって違いしかない」
多分俺の場合はおとがめなし……とまではいかないだろうがまぁ逮捕されることはないだろう。
警部「君は我々に協力して仕方なく彼を殺した。こうするしかなかったという証明もできる。だから心配しなくていい」
話を聞く限りだとどうやら俺の戦いの一部、即ち捜査本部での戦いは監視カメラで丸々録画されていたらしい。……ってことは俺の再生シーンもあるって事か?勘弁してくれよ………。
???「ならこのままここから消えちゃえ」
「「!!?」」
声が聞こえた瞬間俺の背中に何かが押し当てられた。まさか………。
瞬「君を
皐月「てめぇ生きて……!!」
警部「神条くん!!体が!!」
俺の体から光の粒子が発生していた。こ、この野郎……時空間ごと飛ばす事も出来たのか!!
瞬「あは、あはははははは!!!!!火事場の馬鹿力なんてよく言ったものだよ!!僕は死ぬ前に次の段階に移行できたんだ!!!!!」
まずい……もう力が…意識がもたねぇ。この野郎………。
瞬「絶望しろ!自分の知らない地で!何もないところで死んで行け!」
これが俺の聞いた最後の言葉となり、意識はここで途切れた。
―――――――――変わって幻想郷―――――――――
皐月「ってのが話なんだけどここまででなんか質問あるか?」
「「「「「「「…………」」」」」」」」
全員が絶句していた。うん、絶対すると思った。だってこの後話そうとしていることの中心人物である輝夜と永琳にも話していない事だからな。俺の生い立ち、中学の時の出来事はまさに地獄。生き地獄というものだったのだから。
紫「……ごめんなさいね、そんな話を話させてしまって」
紫が頭を下げながら謝ってきた。おいちょっと待てよ俺はそんなつもりなかったんだけど!?
皐月「頭をあげろよ紫。いずれは話さなきゃいけなかった事だしそれにまだこの話には続きがあるんだから聞いてろよ」
続き、つまりは俺が時空を超えた物語。おとぎ話でしか知らなかった「かぐや姫」の後日談とも捉えられるあの物語。
輝夜「私たちと初めて会った時の話ね……いいわ、それについても、
輝夜は目を細めてそう言った。申し訳なさそうに、何かに懺悔するように。
皐月「それについても話そう。俺物語の後編ってな」
そして続きを話し出した。俺の次の物語である「続・竹取物語」を。
気長に次をお待ちください。月の民と未来人が交差するとき、物語が始まる!!
あ、ちなみに次からは「永夜異変十ノ一話」になります。
え?なぜ○ノ○話なのかって?だってまだ永夜異変の途中じゃないですか。だからです