皐月「…………ここじゃねぇな」
私こと神条皐月は只今北海道上空を飛行中である。というのも450万円もの大金を積まれた(出させた)為、日本全土を上空から監視して片っ端から能力持ち、ひいては突然視認できなくなった人物を追跡することとなった。かなりの力技だしあまりやりたくない方法ではあるのだがこれ以外の方法はない。なにせ自分の視界に入れないと発見できないからな。畜生め、こんなことなら500万ださせりゃよかったぜ。今までに東日本のほとんどを視てきたが誰一人として反応が遠くに移動していない。能力もちにはあったが犯人の特徴とは違ったためスル―。時間だけが過ぎていった。
皐月「そんじゃ次は西日本だな……ん?」
西に向かおうとしたところであるものを見つけた、と同時に携帯が鳴った。どうやらおっさんからのようだ。なんだよこの人マジタイミングわりぃんだけど。
皐月「なんだよおっさん。今から西行くんだけど……」
おっさん刑事『それどころじゃねぇんだって!』
電話越しで大声で叫ぶおっさん。耳がキーンとなった。鳴ったがすぐに戻り、そしてその時に気づいた。電話越しでもわかるくらい都庁が騒がしい。何かあったのか?
おっさん刑事「長崎で事件発生だ!そっちに急行してくれ!」
おっさんが言うには長崎で同様の事件が発生したらしい。今は昼の二時。今までの傾向だと有り得ない事をしている。いままで犯人は夜から明け方に犯行を行っていた。白昼では殺すまいと刑事たちはたかをくくっていたのだろう。あの慌て様はその所為か。俺は冷静に対処しないとな。
皐月「悪いが俺は長崎にはいけない。というか長崎に行く必要が無い」
おっさん刑事「はぁ!?お前何言ってんだ!仕事を放棄するのか!!」
またしても電話越しで大声を出すおっさん刑事。マジ勘弁してほしい。最後まで話を聞いて欲しいものだと思いながら俺は一呼吸入れて説明をした。
皐月「おっさんたちは白昼堂々と殺人は犯さないとたかをくくっているであろうことは向こうは想定済みなはずだ。今まで夜にしか犯行を行わなかったのはその布石だと仮定すれば今回の事件はただの陽動とも取れる」
おっさん刑事「う、うむ……いや、しかしだな…」
歯切れが悪いな。そんなに俺が信用できないのならとどめの一撃をくれてやる。俺の視界に入っていたあれの事を。
皐月「長崎には奴はいない。奴は今……警視庁にいるからな」
おっさん刑事「………は?お前今なんて言った?」
うむ、俺の思った通りに反応したな。苦しゅうないぞ。なんて言ってる場合じゃなかった。いや、マジで見たんだよな。日本上空を飛行してた俺だからわかることだけど一瞬だけ西から東へと何かが移動したのが見えた。しかもただの移動じゃない。一瞬で移動したのが分かった。間違いなく犯人だ。
皐月「だから今警視庁の前にいるんだって。早く拳銃用意して交戦しないとみんな死ぬぞ」
おっさん刑事「………おいおいおいおいおいおいマジかよ!?ふざけんなよ!お前、マジかよ!」
言葉になってない。いや、なってはいるんだが相当慌ててるな。まぁそりゃそうだ。俺でも慌てるレベルだしな。ま、それよりも移動しないと本当にシャレにならんから行かないとな。
皐月「あーはいはい冗談じゃないから総員拳銃をつかえ。じゃないと死ぬから。俺が向かうまで耐えろよ」
おっさん刑事「え!?あ、ちょ、まっ」
俺は即座に電話を切り、すぐに警視庁に向かった。入念に調べてたから今はすっかり夕方だ。やれやれ大変なことになったな。急いで戻らないと。
―――――――――――――――――――――――
皐月「………なんだこの惨状は。本当に訓練を受けた警官どもなのかこいつら?」
俺が戻った時にはすでに襲撃されていた。ただの警視庁捜査本部が完全に血の池地獄になっていた。鉄の臭いが充満し、赤黒い斑点がパンダさん(パトカー)についてるのも見える。
皐月「……急ぐか」
俺は籠城戦が繰り広げられているであろう建物内に入った。入ったは入ったで鉄のにおいと……何故かキリストみたいに貼り付けられてる人がいた。釘の代わりにナイフで固定しているようだ。何とも悪趣味なオブジェである。
皐月「……手が転がってるな」
奥の方を見たら切断されたであろう人だったものの腕、足、そして首が転がっていた。何か酸っぱいものが上がりそうになったが頭は冷静を保っていたので一応には堪えられた。それにしても見事に切断されてるな。どんだけ切れ味のいいもん使ってんだ?若しくは相当の達人か。
皐月「……上か」
あほなことを考えていたら銃声が聞こえた。どうやら本部で戦闘をしているらしい。クソ面倒くさいが助太刀するか。だが馬鹿正直に階段を駆け上がっていたら時間がかかりすぎる。俺は財布を取りだし、その中からコインを取った。確か音速の三倍だったっけ?某超電磁砲のやってたあれは。
皐月「そらよっと」
俺は適当な力加減で電撃を纏ったコインを投げた。閃光とはやや遅れて爆音が鳴り、天井が崩落した。さらに飛行。うむ、我ながら強引過ぎるがこれの方が早いから仕方ない。
?「……面白い人がいるね。まるで[
崩落の直後に聞こえた声は幼い感じの声だった。でもはっきりと男の子が発した声だという事は分かった。声に少しだけ引っ掛かりがあったからだ。今は砂埃で見えないが手元のシルエットが刃物なのはわかった。こいつが犯人か。
皐月「どうも、面白い人です。……そんで?お前は誰だ?」
?「僕?僕は
皐月「……はっ、165㎝もある犯人の声がそんなに高いとは驚きだ。変声期まだなのか?」
俺はまず敵とコミュニケーションを取った。別に意味はないが俺の後ろにいる警官及び刑事を逃がすための時間稼ぎと考えたら意味はあるかもしれん。
瞬「まぁね。僕はまだ14歳なんだ。来てなくてもおかしくないでしょ?」
そこは関係あるのか疑問だがマジで来てなかったのか。下野紘に近い声と言っておこう。え?あの人は変声期を終えてるって?声高いからいいの。因みに俺も14だがすでに声は低いぞ。
皐月「まぁ、そうだな。……んでなんでお前はここに来たんだ?出頭ってわけでもないんだろ?表でかなりの人数殺してるし」
瞬「うん、そりゃあだって出頭したら面白くないでしょ?」
俺はこれほどの恐怖を知らない。一瞬だけ恐怖を覚えてしまった。なぜか?今此奴の浮かべた笑みはものすごく……純真無垢なものだったからだ。純真無垢という事はこいつは純粋に人殺しを楽しんでいるという事。理由は不明、こいつの思いはただ殺したいだけ。それほどまでの笑み。今まで何人もの殺人犯を見てきたがこいつはそれのどれにも該当しない[規格外]だ。
おっさん刑事「おい小僧!今すぐここから離れろ!!」
恐怖の中で聞こえてきたのはいつものおっさんの声。恐らく怪我でも負っているのだろう。いつもの覇気がない。いつもなら「がっはっはっ!」という感じで笑うおっさんが恐怖に染まった声をあげているのだ。お蔭で冷静になれたが。
皐月「逃げるわけないだろ。コイツの能力は[
おっさんの方を向かず、相手の方のみを見て話した。後ろを向いた瞬間に切り裂かれかねないためだ。
瞬「!」
俺の言動のどこかに驚いた表情を浮かべる殺人鬼。手に持っているナイフが少し動いたのも確認した。なんだろうか?
瞬「へぇ……僕の能力はすでに予測済みなんだね」
皐月「まぁな。日本各地で同じ事件を起こせる可能性としては複数人による同時多発か、俺のような
俺は殺人鬼にばれない様にゆっくり電流を瓦礫に流し、投げ飛ばす準備を始めた。敵が来た瞬間にぶつけてやる。
瞬「ふ~ん……ねぇ君さ」
殺人鬼が口を開く。
瞬「僕と手を組まない?」
「「……は?」」
俺とおっさんはポカン、と口を開けて実に情けない声を出した。それに対して殺人鬼はあっけらかんとしていた。当たり前のことを聞いただけだよと言いたげに首をかしげる様に関しても実におかしい。
瞬「え?だって君は僕と同じ能力者なんでしょ?だったらこの日本を壊そうよ。僕たちを蔑んできた日本をさ!」
皐月「日本をぶっ壊す……ねぇ」
何故か俺の中に「蔑んできた日本を壊す」という言葉はストンと、それでいて何の抵抗もなく落ちてきた。俺を蔑んできた奴ら。母、兄、その友人、教師、多分こいつも俺と同じだ。産まれながらの能力所持者。親も、近所のやつらも、その周りのやつらも、全てを憎み、恨んできたのだろう。だからこその殺人。自分の証明。「僕はここにいるぞ、ちゃんとその目に焼き付けろ」という存在の証明。一度は考えた報復。だからこそ俺の中にすんなり入ってきたのだろう。
おっさん刑事「おい!お前、まさか、そっちに付くきか!?」
おっさんが何か叫んでいるがそんなものはどうでもいい。なぜなら俺の答えはとうの昔に決まっているのだから。
皐月「………はっ!笑わせんなよ。俺はてめぇの様に逃げたりはしねぇよ!」
俺の返答に目を見開き、同時に目つきが変わる殺人鬼。どうやらこいつは俺を勧誘してここを壊す予定だったらしいな。だが俺はその勧誘を蹴った。予定が狂うとイラつくタイプ。二手三手先を用意しない
瞬「!!!……そう、ならここで死んでね!!!」
そういって一瞬で俺の目の前に現れた殺人鬼。左から右へとナイフを振り、俺の首を両断する気だろうが……
皐月「吹き飛べ」
瞬「!?」
俺の左側から人1人分ほどの瓦礫が飛んできた。いや、正確には俺が飛ばしたんだが。俺の体にあたるスレスレ距離。だが確実に殺人鬼には命中する位置。腕一本分の距離が開いているのが仇となったな。チェックメイト………にはならないかな?
瞬「ハァ…ハァ………なんだ今の……」
どうやら当たる直前にテレポートしたらしい。お蔭で不発だったが不意打ちにしては上出来じゃないかな?俺の予想ではそう簡単には懐に飛び込んでくるという事はなくなったはずだ。さっきの隕石擬きを警戒してな。
皐月「さぁなんだと思う?自分で考えてみろよ。瓦礫の様に歪な形をしたてめぇの脳みそでな」
挑発交じりに話す。お蔭で青筋がうっすら見える。どうやら完全に頭にきているらしい。冷静さを失えば勝てるもんも勝てねぇってのにな。
瞬「調子に乗るな!」
今度は撹乱するように一瞬だけ姿を現しては消えていた。
瞬「どうだ!!僕の動きが読めないだろ!!見えないだろ!」
ドラ○ンボールを彷彿させる動きだな。でも……
皐月「
それに合わせるように高速移動する。殺人鬼は驚愕の表情をあげたが……その顔はすぐに歪んだ。
皐月「
瞬「うっああぁぁぁ………」
皐月「………他愛ねぇ。本当に信念を持って向かってきていたのなら勝てたかもしれないのにな」
俺はそう一言だけ残しておっさんのもとへ向かった。見た感じ大した怪我もなさそうだった。頭から多少の血を流しているくらいだ。なんだ、心配して損した。
皐月「まぁ…なんだ、大丈夫か?」
おっさん刑事「うるさい!小僧に心配されるほど落ちぶれちゃいねぇ!!」
このおっさんは……ならこっちからも言ってやろう。
皐月「こっちこそおっさんに逃がされるほど落ちたつもりはねぇよ」
おっさん刑事「なんだと!?」
いつものおっさんとの会話。戦いが終わった直後にこんな会話が出来てる時点で俺は多分……。
おっさん刑事「そういえば小僧」
皐月「ん?なに?」
おっさん刑事「お前、なんで向こうにつかなかったんだ?お前も人を恨み、蔑んでいたのに」
皐月「はぁ?なんだそりゃ。そりゃ裏切った方がよかったって意味か?」
俺の言葉に慌てて訂正を入れるおっさん。どうやら俺が殺人鬼側についても不思議ではなかったらしい。ふむ……何故ときたか。それなら。
皐月「俺が恨んでるのは庇ってくれなかった親戚一同、守るべき生徒を守らなかった教師だけだ。その他にゃ興味のかけらもねぇよ」
おっさん刑事「なーんでい、つまんねぇの」
皐月「でも………あんたらは俺を必要とし、信用し、利用してる。俺もあんたらを利用してる。ビジネスパートナーとしては信用してるつもりだぜ」
おっさん刑事「………」
ありゃ?黙っちゃった。まぁ俺が「信用」なんて言葉を使ったんだ。驚くよな。
おっさん刑事「……そうか。何年もお前を見てきたが、そういってくれたのは初めてだな。嬉しいぞ」
皐月「……うるせぇよ」
とっさにそっぽを向く。おっさんが照れてんのかコノヤローとか煽ってくるのはもうどうでもいい。なんか恥ずかしくなった。そしてあることに気が付く。それに気が付いた瞬間。
???「うるさいよ、
振り返った瞬間、おっさんの首が宙を舞っていた。
―――――――皐月が飛ばされるまであと13時間――――――――
次回もお楽しみに!あぁ、もう受験も終盤なので月二くらいで投稿できるようになると思います。