皐月「来ねぇ……もう日が昇ってんぞ」
おっさん刑事「ま、まぁ……こういう事もたまにある」
若手刑事「いや、あったらダメでしょ……」
夜7時ごろに北茨城市に張り込み、12時間経過した。予感はあった。張り込んで5時間の時点で予感していた。でもまさかその予感が本当にあたるとはな。このおっさんマジで使えねぇわ。呆れていると横からprrrrと携帯が鳴った。どうやら若手刑事のスマホが鳴ったらしい。
若手刑事「はい、もしもし。はい…はい………分かりました、すぐに先輩ともどります。はい、失礼します」
おっさん刑事「どうした?」
おっさんが若手刑事に聞いた。まぁ十中八九戻れって事だろうけど口は挟まないでおこう。
若手刑事「……千葉の鴨川で遺体を発見したそうです。すぐに会議を開くので至急戻れと」
青ざめながらそう語る若手刑事。まぁ無理もないだろうな。こんなことしてる間に人が自分たちが追ってるであろう犯人に殺されたのだから。にしても……まずいな。これじゃ完全に手詰まりだ。
おっさん刑事「なぁ、その遺体を見つけたのはいつだ」
おっさんが聞いた。何のために聞いたのかは……まぁ何となく分かる。わかりたくないけど。
若手刑事「え、えっと、10分ほど前だそうです」
おっさん刑事「よし、皐月。お前サイコメトリーして事件の全容を視てこい」
皐月「言うと思ったわクソが。まぁ行くけど……その前にあんたらを本部に連れて行くから掴まってろ」
若手刑事「え?それってどういう……」
俺は聞く前に
若手刑事「彼……ヤバいっすね」
おっさん刑事「だろ?だからこそこの事件にはあいつの力が必要なんだよ。おら、さっさと本部に入るぞ」
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時間にして10分。俺は鴨川に着いた。そこには本部の警部がいた。俺はその人に一礼して、そのまま遺体のあるブルーシートへと向かった。
警部「すまんね、君の力を借りて」
皐月「別にいいよそういうの。今集中すっから黙ってて」
俺はブルーシートを掛けられている遺体に触れ、さっそくサイコメトリーを始めた。俺の見たビジョンは夜中歩いている遺体の女性。街灯も少なく、如何にも田舎という感じの場所を一人で歩いていた。そして突如として後ろから現れた黒い人影。フードを被っていて顔は見えなかったが背丈からして子供、若しくはそれに近い低身長の男という印象を受けた。犯人は後ろに三歩ほど下がって闇に消えた。遺体からの情報はそこで途切れ、サイコメトリーを終わらせた。俺は遺体から手を離し、手を合わせてその場を離れた。
警部「何か分かったかね?」
皐月「……身長は160~165㎝の小柄な男。漆黒のパーカーを着て、フードを深く被ってた。やり口は後ろからのど元を横一線に斬っているところを視たから恐らく例の切り裂きジャックだ」
警部「……他には?逃走手段は?」
皐月「残念ながら斬られた直後に映像が途切れたから分からなかった。でも、辺りは見ての通り街灯が少ない。というか真っ暗だった。あれじゃ辺りを見渡しても分かるわけがない。それに犯人は三歩ほど後ろに下がって闇に消えたんだ。俺の視点じゃどう頑張ってもそこから先は明かりがない限り分からない」
警部は「そうか」と一言いれて俺とともに本部に戻った。現場で撮った写真とともに本部に戻り捜査会議を開くつもりなのだろう。だが俺は分かっている。こんなことに意味などない。情報提供なんてまず来ないだろう。辺りは闇、音もなく人を殺し、跡を残さず消えたのだ。完全犯罪と言っても過言ではないのだから。
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捜査本部では今までの事件についての記録と今回の鴨川の事件を照らし合わせ、俺の提供した情報を元に目撃者を洗い出そうとしているらしい。はっきり言おう、無駄である。なぜなら犯人は迅速的に犯行を遂行し、撤退している。人がいない時間帯を選び、人に目撃されたなどという話も一切聞いていない。考えればすぐわかる事である。でも何かしていないとやってられないのかもしれない。それほどまでに切羽詰まっているのだろう。周りの刑事たちは各自で話し合っている。そんな中なぜかおっさんだけはホワイトボートをじっと見ていた。視線の先には俺の情報。むぅっと考えていた。
皐月「おっさん。何をそんなにじっと見てんだ。俺のサイコメトリーに何か疑問でもあんのか?」
おっさん刑事「あぁ。少し違和感を覚えてな」
皐月「……とりあえず言ってみろよ」
おっさん刑事「いや、お前さ。視たのに思わなかったのか?犯人が車を使わないでどうやってここまで来たのかって」
皐月「!!」
おっさんは移動手段を指摘した。普通あれだけの事件を各地で起こしておいて車で移動していないのはどう考えてもおかしい。いやそれ以前に、なんで目撃者がいないのだろうか。車ならばその時間帯に近くを走ってるやつがいてもおかしくない。言っても一、二台だろうが。それに俺は車を見ていない。いくら暗くても車が見えないなんてことはあり得るのだろうか。実際俺が視た景色は街灯の
警部「何事だ!今会議中だぞ!」
警官「も、申し訳ございません!しかし、皆様のお耳に入れてもらいたい案件があります!」
刑事1「なんだそれ」
刑事2「この事件と関係があるのか」
警官「そ、それが……今回と同様の事件がもう三件同時に起きていたことが判明しました!!!!」
「「「!?」」」
内容は鴨川殺人と同様の事件がもう三件同時刻にあったというものだ。場所は北海道下川町、岩手県上北市、そして兵庫県洲本市の三件だ。その内岩手と北海道は一家が惨殺されていたというもの、兵庫は若い男性が一人首を横一線に斬られ、死亡していたというもの。死亡推定時刻も鴨川の事件と一致。そして目撃者も無しという最悪な報告だった。
「「「…………」」」
その場にいた全員が落胆し、また苛立ちを見せる者もいた。無理もないこうもあっさりと人を殺し、姿を眩ませ、次のターゲットに向けて準備を進めているのだから。正直俺も参っている。こんな神出鬼没な相手にどうしろって言うのだろうか。
刑事3「……今回の事件は複数人って分かっただけいいじゃないですか」
刑事の一人がそう呟いた。これだけの人数を同時に、そして同じ殺害方法でとなったため複数人での犯行と思ったのだろう。ちらほらと同じような声が上がっている。おっさんもその一人だった。だが俺は何か腑に落ちない。同時に、それも同じ方法で人を殺した。そこは複数人で犯した犯行ってことでいい。いいのだが目的が解らない。そしてどうして今になって同時に人を殺す必要があったのかが分からない。捜査を撹乱させるためにわざと同じタイミングで殺めたのか?なら移動手段は?確か北海道の下川町って車でなきゃ移動できないような田舎で近くの町に行くのにもかなりの距離がある。車での移動か?そしたら町の人は誰か来訪者を見た?エンジン音は?カーライトは?いやそれ以前に
皐月「そうか…………そういう事か」
おっさん刑事「は?どうしたんだ急に」
皐月「いや、犯人がどういう人物なのかが分かったってだけだ」
「「「「…………ええええぇ!?」」」」
俺の一言でその場にいる全員が群がってきた。おい待てこの野郎。そんなに詰め寄るんじゃねぇよキモいから。あと暑苦しい。
警部「どういうことか説明してくれぬか?」
皐月「もちろん。とは言ってもこれはあくまで俺の仮説だってことは頭に入れておいてくれ」
そういって俺は語りだした。俺の思う犯人像を。
―――――――――皐月が飛ばされるまであと24時間―――――――――
次回も気長にお楽しみにしててください