東方新記伝   作:黒鉄球

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 黒鉄球です。最近飼い猫の抜け毛が半端なくて服が猫毛だらけです………。そして家内の一人が円形脱毛症に……。どうでもいいですね、はい。






第三十二話 春節異変第十二話 : 英雄の帰還

 

 

 

 

 

 

 美鈴「え……?」

 

 俺を見てからの第一声がそれだった。うむ、幻想郷には早すぎたか。と言うかこれが普通の反応だよね。だって今の俺の姿完全に怪我人だもん。右頬にガーゼ、額と右腕には包帯を巻いてある。そんな人間が「何だチミはってか?そうです私が変なオジサンです。」なんて言ったらこういう反応が返ってくるよな。ボケた側からしたら辛いけどな。つーか普通に変な人だよな。と、とりあえず何か言わないと。

 

 皐月「よ、よう美鈴。久し振りだな。一週間ぶり………だな。」

 

 ちょい待ちなんで俺少しキョドってんだ。たかだか一週間帰って来なかっただけで、会わなかっただけでなんでこんなキョドってんだ。今までこんなこと無かったろ俺。あ、そっか俺死にかけたからか。あん時は帰ってこれると思わなかったから、だから今こんなんになってんのか。

 

 美鈴「あ………え………?」

 

 目を見開き、俺の顔を凝視していた。突然現れたから頭の整理が追いついていないのだろう。まぁ無理も無い。行方不明者がなんの前触れもなく帰ってきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こういう時俺は何をすればいいのか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何をしてあげられるのかも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから俺は当たり前の言葉を笑顔で彼女に贈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皐月「ただいま………美鈴。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、美鈴は俺に抱きついてきた。別に大した距離があったわけでも勢いがあったわけでもない。だが俺の体には強い衝撃が走った。その分想いが篭っているのだろう。そしてその分俺は嬉しかったのだろう。戦場から帰還し、オレを待っていてくれた人がいた事に。そして………。

 

 美鈴「お帰りなさい………皐月……さん……。」ポロポロ

 

 俺の帰りに涙を流してくれる人がいた事に。自然と右手から彼女の頭に乗っかり、撫でている。そして自然と涙も零れてきた。

 

 皐月「あぁ……、ちゃんと帰ってきたぜ……。」ポロポロ

 

 そして知らぬ間に左手は彼女の腰に回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 最初は理解が追いつかなかった。彼の言葉がではなく、彼が私の目の前に現れた事に。なんの前触れもなく現れた事に。私は狼狽し、何度も瞬きをした。その一回一回に彼は消えては現れ、消えてはまた現れた。間違いなく本物の神条皐月が私の目の前にいた。ガーゼを貼り、包帯を巻いた状態で。

 

 皐月「よ、よう美鈴。久し振りだな。一週間ぶり………だな。」

 

 一週間………そう、一週間も帰って来なかった。だから私は言いたいことがいっぱいあるんです。あるのに………。

 

 

 美鈴「あ………え………?」

 

 言葉が……出なかった。言いたい事、伝えたい事、沢山あるのに言葉が出ない…。そんな中で彼は、皐月さんは私に微笑みながら「ただいま」と口にした。

 そして私はそのまま彼に飛びついた。感覚があって、匂いがあって、そして彼の声がした。紛れもない神条皐月が目の前にいたから。泣き叫びたかった。嬉しくて嬉しくて本当に声を上げて泣きたかった。だけどそれは今じゃない。皐月さんの言葉はそんなもので返してはいけない。だから私は彼の胸の中で答えますよ……。

 

 

 美鈴「お帰りなさい………皐月……さん……。」ポロポロ

 

 結局涙は流れてしまいました……。けれど私の想いを込めたこの言葉は彼の言葉を引き出し、両手をも動かした。右手は頭に、左手は私の腰に回っていた。す、少し恥ずかしいですけど……一週間も待たされたんですからこれくらいは……ね?

 

 皐月「あの……あいつらは……いるか?」

 

 あいつら……霊夢さんたちですね。そうですよね、皐月さんは確か彼女達を逃がす為に冥界に残ったんでしたよね。

 

 美鈴「はい……でも、かなり応えているらしく………直接あってあげてください。その方が多分…。」

 

 皐月「言われるまでもなくそうするつもりだったよ。霊夢と魔理沙には謝らなきゃいけない事もあるしな。」

 

 彼は体制を変えず、そのまま話した。また気付いてない………というか………。

 

 美鈴「あの……そちらの方は?」

 

 私は顔をひょっこりと出し、皐月さんの背後を見た。見たことのない人。身長も高め、桃色の短い髪をし、そして胸が……私よりも大きい……女性が方頬を膨らませて立っていた。

 

 皐月「ん?……あぁ、この人は西行寺幽々子。冥界の管理人で今回の異変を起こした張本人だ。」

 

 え、そんな人がなんでこんな所に……。あ、もしかして……。

 

 美鈴「妖夢さんの言っていた主……ですか?」

 

 幽々子「妖夢!?ここに妖夢がいるの!!?」

 

 い、いきなり豹変しないでくださいよ……。驚くじゃないですか。お金の話を聞いた霊夢さん並に豹変しましたよ。言ったら怒られますけど……。

 

 皐月「そりゃそうだろ。霊夢と一緒に逃がしたんだからここに居てもおかしくないだろ。」

 

 あ、そっか、と納得する妖夢さんの主さん。

 

 皐月「まぁここで話すのもあれだし俺達にも用事があるから中に入れてくれるか?それに………この体勢もちょっと恥ずい。」//////

 

 はっ、と我に返った私はすぐに彼から離れ、門を開ける準備をしました。あぁ、彼と離れるのは少し心苦しいですが……またの機会に。

 

 美鈴「わ、分かりました。あ、一ついいですか?」

 

 一応伝えておかないと。彼女たちの現状を。本当に死んだ魚の目をしてますから、特に霊夢さんは。

 

 皐月「なんぞ?」

 

 美鈴「皆さん本当に目が死んでます。ですから殴られる覚悟だけはしてください。」

 

 皐月「殴られるの俺!?俺けが人だぞ!?」

 

 やっぱり狼狽えましたね。……え?怪我人?というか治ってない?

 

 皐月「いや、言いたい事は分かる。それも含めてみんなの前で話すよ。」

 

 私の言わんとしている事を瞬時に理解してくれた。実は覚なんじゃないかと思ってしまうくらいですよ。まぁそれは置いておきましょう。ひとまずは……レミリアお嬢様のもとへ参りましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 皐月「すぅ………はぁ…………めっちゃ緊張するわ。てかなんでみんなに出くわさなかったんだ俺。どんな確率だよ。」

 

 レミィの部屋の前に辿り着いた。ホントなんで出くわさなかったんだ。かくれんぼ?かくれんぼでもしてたのかあいつらってくらい目にしなかったぞ。

 

 幽々子「入っちゃだめかしら?」

 

 待て待て気が早いっての。なに?お前そんなに待てないの?どんだけ妖夢に会いたいの?もしかして同性愛……。

 

 幽々子「それ以上言ったら殴るわよぉ。」

 

 皐月「言ってないしナチュラルに心を読むな。あとその拳を収めろ。死ぬ、普通に死んじゃうから。」

 

 美鈴「何やってるんですか二人共……。いいですね?開けますよ?」

 

 相槌をうった。むむぅ……レミィになんて言われるのか非常に怖い。あ、待ってまだノックしないで心の準備が………。

 

 美鈴「お嬢様。中に入ってもよろしいでしょうか?」

 

 あ、ノックしちゃったよ。入りなさいとか聞こえてきたよ。まぁもういいやどうにでもなれよ。殴られる覚悟だけはしてくれって言われてたしそれくらいの覚悟はしてきてるからな。

 

 美鈴「……どうやら全員集合してるみたいですね。」

 

 え、みんな中にいるの?てかそういうの分かっちゃうの?だがもう進めた足は止められん。あぁ、殴られる。

 

 霊夢「……なんで私達を呼んだのよ……。これでも忙しいのよ?」

 

 忙しそうには見えんぞ。

 

 魔理沙「庭でぼーっとしてたやつのセリフじゃないぜ……?」

 

あ、思ってたよりは平気そうだ。あいつにも謝らねぇとな。

 

 妖夢「そういう魔理沙だってさっきまでぼーっとしてたじゃないですか。」

 

 そうでもなかったァァァァァァ!!

 

 魔理沙「引き籠もりには言われたくないぜ……。」

 

 お前もかよ!?

 

 パチェ「私一応病人なのだけど……レミィ一体何のよう?」

 

 フラフラしてるよ大丈夫かよこいつ。

 

 こあ「まぁまぁパチュリー様。」

 

 え?それだけかよ。

 

 フラン「咲夜離してよ!逃げたりしないから!」

 

 咲夜「そういってさっき逃げたじゃないですか……。」

 

 逃げたんかい。相変わらずだなこいつも。

 

 レミィ「とりあえず入ってきなさい[三人とも]、ね?」

 

 バレてるよ。俺と幽々子がいることバレてるよ。あ、でもそりゃそうか。ここから門丸見えだもんな。そりゃ分かるよな。うん。腹を括ろう。もうなるようになれっての!

 

 皐月「お前って本当にお見通しなのな。あ、お前ら。ただいま。」

 

 ふっ、完璧だ。完璧な流れで入ってきたぞ。これでこいつらも……。

 

 全員「え?」

 

 なんて思ってた時期が俺にもありました、はい。全員揃いも揃って「え?」って言ったぞ。なんか否定された気分。ちょっと泣いちゃう。男の子だもん。

 

 レミィ「えぇ、お帰りなさい皐月。待っていたわよ。一週間も………ね。」ポロポロ

 

 あ、泣いちゃった。どうやら俺は俺の思っていた以上に愛されていたらしい。俺のために涙を流してくれるなんて本当に嬉しい限りだぜ。

 

 霊夢「え………本当に…………皐月?……夢じゃ……ないのよね?」ポロポロ

 

 皐月「夢じゃねぇよ。正真正銘、どこからどう見ても神条皐月さんだぜ。」

 

 魔理沙「お、お前……へへ、帰ってきたのか………。ホント無茶しやがって。」ズズッ

 

 皐月「悪かったな、嫌な役やらせて。でもお前の判断のお陰でみんな助けられた。あんがとよ。」

 

 俺は先にレミィに声をかけられたがそれよりも俺は霊夢と魔理沙に謝りたかった。霊夢にはきついこと言っちまったし魔理沙には嫌な役をやらせちまった。だから俺は深々と頭を下げる。

 

 皐月「それから霊夢、本当に済まなかった。切羽詰まってたとは言えあんなこと言って。頭下げるだけじゃ足りねぇかもだけど謝らせてくれ。」

 

 突然頭を下げられ、狼狽える霊夢。そして深々と下げられた俺の頭の上には手の感触があった。足元で分かる、これは霊夢の靴だ。はは、まさかもっと下げろとか言わないよな?

 

 霊夢「いいわよもう。あの時の私の体力は限界を越えてた。足手まといだったのは認めてる。だから………私強くなるわ。あんたの隣にいつまでも立てるように……強くなるから。」

 

 懺悔を聞く聖母マリアの様に優しい声で、手つきで頭を撫でる。参ったな、ちょっと泣きそうだわ。

 

 魔理沙「おいおい霊夢。それって告白かぁ?大胆ですなぁ!」

 

 あ、バカ魔理沙。そんなこと言ったら俺の頭にアイアンクローがイデデデデデデデデデデ!!

 

 霊夢「な!?そ、そんなんじゃないわよ馬鹿!あ、アンタも変に受けるな!」///////

 

 皐月「受けてねぇよ!?つーかいてぇよ!俺なんもしてねぇだろ!!?」

 

 俺は霊夢の手首を掴んでアイアンクローから脱出した。その時に見えた霊夢の表情が可愛かったのは口にしない。また喰らいそうだから。

 

 咲夜「皐月さん、おかえりなさい。無理して……お嬢様を泣かせた罪は重いですよ?」

 

 ありゃりゃ、今度は咲夜か。罪ねぇ……。ま、心配かけたのは事実っぽいし償い的な事はしてもいいかな。

 

 皐月「心配かけて悪かったよ。まぁ俺的には咲夜にも心配して欲しかったなぁ、なんて。」

 

 ちょっとおちゃらけてみる。てか今の言動からすると咲夜は心配してなかった風な言い方だったからね。さて反応はどうかな?

 

 咲夜「してましたよ?でも……必ず戻ってくると信じておりましたから。」

 

 そうきたか。咲夜は結構本気でそう思ってそうだから反応に困る。

 

 皐月「そうか……。ありがとう咲夜。………ぐはっ!」

 

 そう言い終えた直後2つの衝撃が俺の体に走った。片方は固く、もう片方は柔らかかった。あ、分かったわ。フランとパチェだこれ。

 

 フラン「おがえりなざいお兄様ぁぁぁぁ!!!うえぇぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

 皐月「フ、フラン………。悪かったよ心配かけて。約束…守れそうだから泣き止めよ、な?」ナデナデ

 

 突如の号泣。そして首が痛い。約束守れずに死んじゃうよ?

 

 フラン「ウン………おかえりなさいお兄様……。また……遊ぼ?」

 

 それに答えるかのように頭を撫で、フランはパタパタと羽を鳴らしながら離れた。さて、あとは……こいつか。

 

 パチェ「……………。」グスッ

 

 皐月「ただいま………ってぇ!?」

 

 めちゃくちゃ力入れられた。腹と背中がめちゃくちゃ痛い。あ、でも腹は胸のお陰でむしろ天国。どっちにしろ天国が見えそうだけど。

 

 皐月「ど、どうした?そんなにち、力を入れると俺死んじゃうよ?」

 

 パチェ「………死んじゃったかと思ったじゃない、バカ……。」

 

 か細くもその声には芯があり、俺の耳にちゃんと聞こえた。本当に心配かけてばかりだな俺は。少し自重した方がとか思っちゃうけど敵が強いのならそうも言ってられないんですよ姫?ま、少しは反省しないと。

 

 皐月「……悪かったなパチェ。………!?」

 

 謝った直後パチェが起き上がり、俺の首に腕を回し、唇に何かの感覚があった。所謂接吻、口づけ、KISSである。

 

 全員「!!!?」

 

 いや驚きてぇのはこっちだよ。いきなりこんな、女の子にキスされて動揺しないわけがない。それもこんな美少女にだ。俺の心臓の鼓動が今までにないくらいの速さで動いてる。

 パチェから口を離し、頬を紅く染めてまた抱きついてきた。

 

 パチェ「死んじゃったかと思ったんだから………。でもちゃんと帰ってきた。だから……私からのプレゼント……ね。」///////

 

 皐月「!?」///////

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。ここにみんながいなけりゃ押し倒してる自信がある。それくらいの破壊力があったぞ今のは……。

 

 霊夢「ちょ、ちょっと!何デレデレしてんのよあんたは!!」

 

 皐月「な!し、してねぇよ!?そりゃたしかに嬉しかったけど……えぇ……。」

 

 もうダメだ何言っていいかわからん。思考が定まらない。つーか外の世界じゃこんなの考えられなかったぞ。憎悪や嫌悪ならともかく好意なんて受けたことない。

 

 美鈴「パ、パチュリー様ズルいです!私もしたいのに……。」ボソッ

 

 皐月「何て!?」

 

 フラン「お兄様!私もしたい!」

 

 皐月「何言ってんの!!?」

 

 咲夜「賑やかになりましたね♪」

 

 レミィ「そうね。やっぱり皐月がいないとね♪」

 

 幽々子「皐月、わたしもぉ……。」

 

 妖夢「幽々子様!?」

 

 皐月「誰かこの状況をなんとかしてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 紫「呼んだ?」

 

 皐月「呼んでねぇよ!?」

 

 魔理沙「あっははははははは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後俺は四方八方から色々言われたが……俺何もしてなくね!?

 

 

 

 

 

 

 




 皐月「ようやく帰ってこれたわ。」
 紫「あなた今までどこにいたの?」
 皐月「山の中。」


 次回 : 第三十三話 春節異変最終話 : 真実と宴


 作者「いよいよあの秘密が明らかに!そして次回も長いです。」




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